追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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フォント職人さん、すごい……。
使わせていただきます……!



白川伯阿と映画

 基本的な俺の一日のサイクルは決まってる。

 午前中は運動、勉強、そして午後にはほぼローテーションでやってくるジャスティス共との関わり。

 その合間の時間に俺はレイマやスタッフさんに勧められた映画や海外ドラマを見ているのだが……今日ばかりは少し違っていた。

 

「なあ、白川」

「んー?」

「なんでお前ここにいんだよ」

 

 なぜか俺の担当医である白川がここにいるのだ。

 俺から一人分の間隔を空けてソファーに座った彼女は、その白い髪を後ろに一纏めにくくりながら独房に備え付けられたプレイヤーを起動させようとしている。

 

「そりゃあ、暇だからに決まっているじゃないか」

「えぇ……」

「私のするべきことは社員の精神的なケア……なんだが、この時間帯は皆働いていてね。暇だから来てしまったよ」

「帰れ、クビにされるぞ」

「なにかあっても君のメンタルケアをしていたで、説明がつくよ。ねー、ちゃんとお菓子持って来たんだからいいじゃないかー」

 

 お菓子で俺を釣れると思うなよ?

 スタッフさんからはご厚意でいただいているだけなんだぞ?

 

「しかし、君も愛されてるねぇ」

「なんでだ?」

 

 なにやらスマホを手にとり何かを見ていた白川が楽しそうに話しかけてくる。

 愛されているとは?

 

「ツムッターと呼ばれるアプリさ。彼女たちが呟くのは君のことばかりだ。ほら」

 

レッド@ 戦隊ヒーロー活動中 

#黒騎士くん

今日も黒騎士くん、元気でした!

 

2344 49877 ♡100025 

イエロー@戦隊ヒーロー活動中やで

#黒騎士くん

#勉強会

勉強教えるはずが

逆に教えられてびっくりしたわぁ。

私も頑張らなきゃ

 

2322 37754 ♡77543 

ブルー@戦隊ヒーロー活動中

#黒騎士くん

#犬騎士くん

今日の黒騎士くんU・ω・U

【画像】

 

4498 68855 ♡111999 

 

 レッド、イエロー、ブルー、と順番に見せられ思わずため息を吐く。

 

「俺の観察日記かよ……」

「まあ、一般人が求めているものだから。ある意味彼女達のおかげで一定の情報が提供されているんだろうね。しかし、この犬の画像……ふふ、似てる」

 

 レッドとイエローはまだしも、なんで犬の画像が張られてんの?

 白と黒の毛並みの……なに? このむすっとした可愛げのない顔。

 こいつの飼ってる犬かなにかか?

 

「……まあ、いいか」

「おや、いいのかい?」

「お前の言った通り、これはジャスティスクルセイダーとしての情報提供らしいからな。レイマに推奨されてるなら、あいつらはそれに従わなきゃならないだろ。俺も、そこまで目くじら立てて怒るほどのものでもないし」

「……鈍いなぁ。まあ、君の場合、しょうがないけどね」

 

 しかし、ツムッターとやらはそこまで楽しいものなのか?

 俺はスマホなんてものは持ったこともないし、ツムッターのことも小耳に聞いて知っているだけではあるが。

 

「それより、なにか映画でも見るのかい? 私は君の生活サイクルを知っているから、この時間に遊びに来たわけなんだけど」

「確信犯かよ……」

 

 ……しょうがないか。

 ため息をつきながら、どれを見ようか選んでみる。

 昨日、レイマとスタッフさんから渡されたのは三枚の映画だ。

 ……いつも通り、映画を一言で紹介する付箋が張られているな。

 

 どれにする?

1,戦う凄腕会計士!!『ザ・コンサルタント』

 2,戦闘! 戦闘! 戦闘!『ドラゴンボール超 ブロリー』

 3,心温まるラブストーリー 『デッドプール』

 

 基本、紹介された映画に外れはないからな。

 一つ目がレイマのおすすめで、他のはスタッフさんからか。

 彼のは基本、外れがないからちょっと冒険してみたいな。

 

 どれにする?

 1,戦う凄腕会計士!!『ザ・コンサルタント』

2,戦闘! 戦闘! 戦闘!『ドラゴンボール超 ブロリー』

 3,心温まるラブストーリー 『デッドプール』

 

 アニメにしてみよう。

 ドラゴンボールは微妙に知ってるし。

 あれだろ、かめはめ波とかで有名なやつだろ?

 

「ん? 中身が違うぞ?」

 

 パッケージを開いてみると、中身が違う。

 なんだこれ『アイランド』……?

 ああ、間違って入れてしまったんだな……。

 

「まあ、これでいいか」

 

 二つ目のやつを選び、再生させる。

 そのままソファーに戻りテレビを見る。

 普段、それ以外にしか用がない画面に光が映り込み、映画が始まる。

 

「なにかけたのー?」

「アイランドってやつ」

 

 どういう映画かは分からない。

 結構前の映画だが、おすすめしてくれたなら内容の心配はしなくてもいいだろう。

 

「それじゃ、私は隣っと」

 


 

「ねえ、かっつん。もし自分の分身とかいたらどう思う?」

 

 映画も佳境に入った頃だろうか、不意に白川がそんなことを訊いてきた。

 

「なんだよ、藪から棒に」

「いや、そういう映画を見てるんだし」

「……」

 

 たしかに、映画はクローンという題材を用いたものであった。

 多少のアクションはあるけど、その内容に色々と考えさせられるものもあることから、白川がそんな質問をしてきた気持ちもよく分かる。

 

「別に、俺の分身なら俺の立場にとって代わろうだなんてバカなこと考えないだろ」

「ははは、まさしくその通りだ」

 

 俺に成り代わろうとするなんて、こっちから全力で止める。

 記憶も持っていないなら猶更だ。

 

「もしかしてこれ、メンタルチェックの一環かなにかか?」

「いいや、そんなつもりはないよ」

 

 白川はどこか感慨深そうな目で映画を見ている。

 こちらに視線は向いていない。

 

「私も同じ立場だったら絶対にごめんって思うよ。てか、実際そうだったし」

「白川お前、クローンとかそういう類のやつだったの!?」

「言葉の綾だよ……?」

 

 な、なんだ言葉の綾か。

 たく、危うく勘違いするところだったわ。

 

「……」

「……」

「私には姉がいるらしいんだ」

 

 突然、彼女はそう呟く。

 思わず白川を見ると、彼女はなんの感情も感じさせない無機質な目を前へと向けている。

 

「義理の姉みたいなものだけどね。でも……ものすごく、出来が良すぎた姉らしい」

「お前も俺達と同年代で医者やってんだから、十分にすごいと思うんだが」

「私、年齢誤魔化してるよ」

「エ!?」

「これ、秘密にしておいてね」

 

 にしし、と人懐っこい笑みを浮かべた彼女は口元に人差し指を当てる。

 まさか、年齢を誤魔化しているってことは、この幼さで俺達よりも年上ってことなのか?

 びっくらこいた……。

 

「で、私は姉とは全然見た目も違うし、姉と比べれば持ってる能力も劣化に劣化を重ねたもの……なんだ。だから、親にはがっかりされちゃって」

「……。あまり、その、姉と顔を会わせたこともないのか……?」

「……ふふ、生まれてこのかた顔を会わせたこともないよ。今も見つけられていないし、多分私からじゃ顔を会わせることもできないんじゃない?」

 

 複雑な家庭環境……!?

 

「それは、なんというか……」

「気遣わなくてもいいよ。あっちも私の存在なんて知らないし、その方がいい。家族にも色々な形があるんだ」

「……そう、だな。その通りだ」

 

 思えば、白川のことはあまりよく知らないな。

 初対面の時から、いきなりかっつん呼びをする無礼な奴ではあったが、なんだかんだで世話になっている身だ。

 せめて話し相手になれればいいが……。

 

「私は姉には会ったこともないし、顔も見てない。会おうとは思ったことはあるけど、結局願いは叶わなかったよ」

「……会えると、いいな」

「そうかな? もし会っていたら、何をするか分からないかもしれないよ?」

「お前は、そんなことしないだろ」

 

 俺の言葉に、どういうことか白川は笑う。

 嘲りとかそういうものではない、純粋におかしそうに笑ってる。

 

「あ、あはははっ! あぁ、もう、なんでこんなに喋っちゃうんだろうなぁ。この映画のせいかな? あぁ、おかしいなぁ……」

「白川……?」

 

 瞳に浮かんだ涙を拭い、ひとしきり笑った白川は脱力するようにソファーに背を預ける。

 

「知ってるかな? 私、君がここに捕まった時と同じくらいのタイミングでここに入ったんだ」

「え、そうなのか? てっきりずっと前からいたもんだと思ってた」

「思ったよりも新顔なんだよー、私?」

 

 にしてはレッド達も親しそうな様子だったな。

 初対面からあだ名で呼んでくるあたり、俺とは違って人との距離の詰め方が巧いのだろう。

 すると、映画が終わったのかエンドロールが流れ始める。

 

「終わったようだね。……ちょっと怖い映画だった。本物と偽物、どちらが正しいのかを考えさせられたよ」

「戻るのか?」

「ああ、少し休憩しすぎた。怒られる前に戻るよ」

 

 立ち上がった白川が扉へと向かっていく。

 

「正直、ここに入ってどうなるかと思っていた。私には生きる目的もなにもなかったわけだしね」

「白川……」

「そんな顔をしないでよ、かっつん。私はね、君のことは気に入っているんだ。またね、姉さん

「ッ!? 君は……」

 最後の言葉は、唇だけは動いて声は聞こえなかった。

 思わず首を傾げてしまうと、そのまま笑みを零した白川は、独房から出ていく。

 部屋に残っていたのは、エンドロールと共に流れる音楽だけであった。

 




※作中の選択肢については、演出のようなものです。

Q、それぞれ映画を選んだらどうなっていたか?
1、普通に楽しんで見る。
2、黒騎士君がちょっとだけ影響される
3、前半は気まずくなったりするが、納得して楽しめる。

特殊選択肢
『アイランド』:白川が自身の秘密の一部を明かす。

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