今回も風浦さん視点です。
性能テストを終えた後、一緒に変身したヒラルダに異変が起こっているか確認するために検査をするというので彼女を預けることになった。
その後、カツミ君とアカネちゃんと共に第二本部にワームホールで通じる都市内の喫茶店『サーサナス』にはじめて足を運んだ。
喫茶店に辿り着くなり、カツミ君は一階で普通に開店している喫茶店の手伝いに行ってしまったので、二階にいるのは私とアカネちゃん、そして学校終わりに合流したアオイちゃんとキララちゃんだけだ。
「え、なにそれフィクサービーム? いくらでも暴れられるね」
「そういうわけじゃないやろ」
アオイちゃんとキララちゃんにテストで判明したことを報告すると、そんな感想が帰ってきた。
というより、フィクサービームって私も思ったけど本当に口に出して言わないで欲しい。
「でも桃子さん自身は大丈夫なんだよね?」
「そこは大丈夫。ヒラルダが定期的に星界エナジーを調整してくれているし、今もこのブレスレットで抑制できているからね」
そのおかげで一時的とはいえ、ここにいられるわけだ。
でもそれもこの場にアカネちゃんとカツミ君がいるからなので、喫茶店の外にはまだ出られない。
「桃子さん、不安なことがあったらなんでもいってくれていいんですよ?」
きららちゃんが私を気遣うようにそう尋ねてくれる。
普段は怪人や侵略者を相手に戦っている彼女達だけど、蓋を開けてみれば普通の……うん、ちょっと普通とは異なるけど、心優しい女の子たちだ。
逆を言えば、年下の彼女達に気遣われてしまっていることに情けなく思う。
「不安はある、けれど……ぶっちゃけるとちょっと役得だと思ってるところもあるかも」
「役得?」
「こう、非日常的な状況に……なんて言うのかな。一般人だった私がジャスティスクルセイダーっていうストーリーの中核の組織に関わったことに、特別感みたいなことを抱いている感じ」
「「「あー」」」
ちょっと不謹慎かなと思ったけど、アカネちゃん達もちょっと同意するように頷いた。
「ちょっと、分からなくもないですね」
「さすがにね」
「私は最初からそのスタンスですけど?」
「あんたは最初から非常識な行動しまくってたでしょ」
「非常識マ?」
「自覚なしだったことが今判明して一番の恐怖を抱いてる……」
こうやって話してみるまで、こんなに身近な距離感で話せる存在だと思っていなかった。
元一般人だった私にとってはこの子たちは雲の上の人だったからなー。
「……えーと、例えるならほら、私の状況ってアメコミとか特撮の導入とかでありそうだなーって」
「平凡な大学生風浦桃子はある日、邪悪な侵略者ヒラルダに身体を乗っ取られた影響で、不思議な力に目覚めてしまった……的な?」
「的な感じ」
アオイちゃんの言葉に頷く。
どこから取り出した伊達メガネをなぜかかけた彼女は、眼鏡のブリッジをくいッと持ち上げながら笑みを浮かべる。
「桃子パイセン、こっち側の人間ですかな?」
「ううん、君ほどじゃないと思いたい」
「急にハシゴ外して来るじゃん。おもしれー女」
なんだこの子。
なんなんだこの子。
ネットで見た以上にすごい言動してるんですけど。
伊達メガネをしまいながら、ニヒルな笑みへ切り替えるアオイちゃんに普通に困惑する。
「お前ら、飲み物持ってきたぞ」
「私も来たよー」
と、ここで下の階から喫茶店のエプロン姿のカツミ君と、制服を着た女の子が上がってくる。
カツミ君は分かるけど、関係者しか入れないここに入ってきた女の子は誰だろうか? 顔立ちはアオイちゃんに似てるけど……。
私と視線が合ったのか、目の前まで歩み寄ってきた女の子はにこりと笑みを浮かべる。
「はじめまして! 私、そこにいる言動が変な人の妹、日向晴です!」
「あ、うん。私は風浦桃子。保護された……元一般人?」
「ねえ、ハルちゃん、姉に向かって言動が変というのは酷くない? ハルちゃん? お姉ちゃん病んじゃうぞ?」
妹なんだー。
うーん、可愛い子だ。
アオイちゃんもかわいいけど変な言動のせいでそっちに気がいっちゃうけど、やっぱり姉妹だし似るもんなんだね。
……んん? ということは……。
「アオイちゃんの妹ってことはもしかして」
「はい! KANEZAKIコーポレーション公式Vtuver、蒼花ナオとして活動させていただいております!!」
「———」
ごめんだけど、今日一番驚いたかもしれない。
自分の能力が分かったこと以上に、現在学生からの人気をこれでもかと集めるVtuverの一人である蒼花ナオ……!!
なにを隠そう私自身もリスナーである。
私自身もリスナーである。
しかも古参勢でメンバーである。
だがしかし、私は自我を出さないタイプの後方古参面リスナーなのでこのことを彼女に明かすつもりはない。
「いつも配信、楽しませていただいております……!!」
「わぁ、ありがとうございます!! あっ、でも私の方が年下ですから敬語じゃなくていいですよっ」
なにがすごいって蒼花ナオちゃんのアバターと今目の前にいる日向晴ちゃんの容姿がほぼ瓜二つということだ。
3次元を2次元に最大限にまで落とし込んだ社長の技術が凄すぎる。
「私のことはハルで構いませんよ。私も桃子さんって呼んでも?」
「うん、構わないよ」
推しに認識される喜びを表に出さずに笑みを浮かべる。
「打ち解けているようで安心しました」
挨拶を交わし、ハルちゃんが私達がいる丸テーブルの一つの椅子に腰かけたのを確認したカツミ君が、持ってきてくれた飲み物を置いてくれる。
「まあ、こいつらお節介の達人なんで、むしろ距離を取ろうとするくらいがちょうどいいくらいですよ」
「距離をとろうとするのはカツミ君くらいだったでしょ」
「初期かつみんホントハリネズミだったね」
「今と比べると本当素直じゃなかったもんね」
「うるせー聞こえねー」
口々に返してくるアカネちゃん達に適当に返したカツミ君がトレーを持って戻ろうとする。
しかし、そこでアカネちゃんが彼を呼び止める。
「カツミ君もちょっと話していったら?」
「……あー、まあ、少しだけな。相談してぇこともあるし」
相談したいこと?
一旦トレイをテーブルに置いて、空いている席に座る。
「相談って、どうしたの?」
「まずは事情から説明するか」
そのままカツミ君が口を開き、事情を説明し始める。
簡単にまとめると諸事情あって変身が不安定な彼は、検査と調整が終わるまでは変身して出動することができないらしい。
緊急時の変身は一応許されているらしいけれど、それでも私からしてみれば黒騎士という最強の戦士が前線に出ることができないということに驚いた。
「それで、一時は戦いから遠ざかるからその一環でレイマから趣味とかなにか見つけたらって勧められたんだ」
「へー、カツミ君に趣味かー」
「見つかったの?」
「それが、分からねぇんだ」
なんだかすごい深刻そうに頭を抱えているんだけど……!?
趣味がないってそんなに悩むこと……?
「よく考えてみたらさぁ、俺って特に趣味とかねーんだなって……強いて言うなら夜スーツで街を徘徊したり、怪人ぶっ飛ばしたりするのがそれに当たってたみたいでさ」
「「「あー」」」
今日二度目の納得の声の三人。
でも、カツミ君が趣味かぁ。
なんというか一般人で黒騎士君を知っていた身からすると、悩みがものすごく一般人じみてて一周回って不思議に思えてくる。
「カツミ君、料理とかは?」
「料理は……なんか趣味とかちょっと違うな。ハクアに食べさせていた時は、美味そうに食う姿を見て満足していたけど、それを趣味と思うのはちょっと気持ち悪いだろ」
なんだろう、ちょっとアカネちゃん達三人の纏う気配が一瞬張り詰めたような気が。
「じゃあ、運動は? いつもしてるよね?」
「それは趣味じゃなくて習慣だろ。スポーツとかじゃなくて筋トレとランニングだしな」
「確かに、じゃあ読書がいいんじゃないの?」
「……読書か。独房にいた時は差し入れてくれた本とか読んでたしアリだな」
キララちゃんの提案に、彼もやや乗り気な様子で腕を組む。
「カツミさんっ、whotubeとか見てますか? あれって動画とか流し見するのも趣味ですよ?」
「そうなのか?」
「はい! 私の動画とか―――」
「蒼花ナオの配信あーかいぶを見るようにしてるけど、それはそれで趣味になってんのか……」
「————」
まさかのカツミ君もリスナーだった。
突然の告白にハルちゃんの身体が時間が止まったように固まる。
「ミテイタンデスカ」
「ああ。いや、前みたいにコメント送ると迷惑かかりそうだから黙って見てたけど、昨日とか凄かったな」
「キノウ……キノウ……キノウ……アッ」
昨日の配信と聞いて私も思い出す。
死にゲー攻略配信系で、初見プレイのせいかナオちゃんが無茶苦茶荒ぶってた放送だった。
『今日は初見プレイでクリアを目指したいと思います』
『うーん、強い』
『今の攻撃ディレイ利き過ぎでは???』
『……』
『今から貴様を姉と同一の撃破対象とする!!』
『くたばれぇ!! 落ちろォォ!!』
『ッアッ、ワッ、アァ遠いHPゲージが遠いぃぃ苦しいぃぃ』
『ッシャオラァ!!』
これで土下座配信後で復帰直後なのはすごいと思った。
古参勢からすれば見慣れたものだが、驚くのも無理はないね、うん。
「ゲームに熱中するとあんな声出すんだなーって驚いたな。なんのゲームか知らなかったが見ていて面白かった」
「あ、あわわわ……」
「でもその前の雑談系も話とかうまいなぁって見てたぞ。俺もそこまで口が達者じゃないからすげぇって思った」
「ブゥンッ」
「え?」
「ハルちゃーん!?」
「ア、アカーン!?」
見えない何かに吹き飛ばされたように椅子から転げ落ちるハルちゃん。
慌てて隣のキララちゃんが支えると、彼女は目元をおさえながら堪えきれない笑みを浮かべる。
「ハルちゃんっ、しっかり! 傷は浅いよ!!」
「推しに推されるって、これってもう結婚と同義では?」
「ごめん。重症だった」
「やっぱり葵の妹だ……」
やっぱりアオイちゃんの妹なんだなって。
配信でも片鱗を見せるけど、なんというか……すごいなぁ。
「お、おい、大丈夫かハル……」
「フッ、おいおい、カツミ君。この私を忘れてもらっちゃぁ困るぜ」
「どうした突然」
と、ここでさらに何故かドヤ顔のアオイちゃんが名乗りをあげてくる。
腕を組み、謎のふてぶてしさを見せた彼女は自身を親指で示す。
「この私、日向葵はオタクだ。最近じゃ変人なんつーレッテルを貼られている」
「事実じゃん」
「事実やね」
「事実でしょ」
「ほらね。レッテル貼り」
総ツッコミに肩を竦めた彼女は、私から見てもイラっとする顔をする。
「映画鑑賞、動画鑑賞、読書、それは紛れもなく趣味とも言えるものだよ」
「おお」
「だが、それらは媒体がなければ話にならない!」
「!!? 確かに!」
すごい、言ってることは至極正しいのに傍から見ると詐欺師にしか見えない。
そしてなんとなく思っていたけど、もしかして平時のカツミ君って純粋すぎるところがある……?
「この私にかかれば君の求めるジャンルを見つけ出すことなんて、ナメクジ怪人にナマコと思い込ませるくらいに楽勝なのです」
それはどれくらい凄いのか分からない。
だけど、妙な凄みにカツミ君は期待の視線を向けてしまっている。
「なので今度の休みに、近くのモールに遊びにいかない?」
「ん? いいぞ」
「「「!!?」」」
あまりにも自然な誘いと、流れるような了承にこの場にいる誰もが反応できなかった。
あ、遊びの約束?! 今の流れで!?
「え、あ、うん。い、いいんだ……」
誘った本人もまさかうまくいくと思いもしなくてビックリしちゃってる!?
ブルー(ボケ)とイエロー(ツッコミ)がいると明らかに会話のテンポがよくなってくれる……。
今回の更新は以上となります。