カツミ、外出回となります。
今回はほのぼのですね!!
それは、ある意味で勇気を出した決断とも言えた。
「え、カツミくん、外出許可に応じてくれるの!?」
「声がでかい。……あー、まあ、白川に言われてな。俺も外に出るべきだなって……考え直した」
あまり外に出ることに気乗りはしなかった。
だが、そろそろ俺も自分の過去と折り合いをつけて、前を向いていかなければならない。
「こ、こりゃ一大事だよ! 急いできららと葵に伝えなくちゃ!」
「んな大袈裟な……ただ外に出るだけだろ」
「一大事だよ! 怪人が出た時以上に一大事なの!!」
「お前、それ悪口だからな?」
もう赤ん坊が初めて歩いたくらいの勢いでイエローとブルーに連絡を取ろうとするレッド。
「……あ」
自分が自然と笑みを浮かべていることに気付き、思わず頬に手を当てる。
楽しみ、だと思ったのか?
自分でもよく分からない。
外出許可が出た当日。
俺は、ジャスティスクルセイダーの三人に連れられ本部の外へと出ていた。
レイマの許可が出るのは分かっていたが、政府からもすんなり許されるとは思いもしていなかった。事実上俺は犯罪者ではなくなってしまったが、個人としての脅威は見過ごせないはずだ。
……まあ、あまり考えないようにしよう。
俺が深く考えても意味がないだろうからな。
「しかし……」
「「「……」」」
前にレッドが歩き、後ろからブルーとイエローが二人並んで歩いている。
俺を三角形にするように囲む彼女達に、周りの怪しむような視線が集まっている。
……。
「ちょっとお前ら、そこの路地裏」
「え、どうしたの?」
「なにかあったん?」
「うん?」
恥ずかしさのあまりにパーカーのフードを被った俺は、とりあえず近くの路地裏に移動した後に、先ほどからずっと思っていたことを口にする。
「護衛対象かッ!!」
三人で囲むとか意味わからんって!
多少、常識に疎い俺でも分かるよ!?
だって悪目立ちしてるもん!!
「逆に目立つからやめろよ! そういうの!! 別に逃げないって!!」
「い、いやぁ、だって何があるか分からないし……も、ももし怪人が現れたら? 君、チェンジャー持ってないし」
「まさかのお前らも普通に遊んでなかった疑惑……!?」
そういえばこいつらも怪人との戦いの時も忙しかったし、俺が捕まった後も俺のところに入り浸りだったから、こいつらほとんど……!
「かわいそう……!」
「なんでだろう。こういう形で同情されると納得いかないんやけど」
「私達の青春を君に投資したんだよ?」
ブルーがめっちゃ重いことを言っている……。
彼女の言葉を聞き流しつつ、俺は照れくさい気持ちになりながら頬を掻く。
「あー、お前ら見張るのはいいけど、今日はそういうの忘れてくれよ。怪人は……いないんだからな」
そう、もう怪人はいないのだ。
そう自分に言い聞かせた俺は、自分の腕に『プロトチェンジャー』がないことを確認する。
黒騎士としての俺は、必要ない。
今日は普通の一般人として過ごしたっていいじゃないか。
「……遊ぶなら遊ぼうぜ。俺、そういうどこかに行くの久しぶりだから教えてくれよ」
ぎこちなく笑いながらそう言うとレッド達は顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。
「「「うん!」」」
あまり外で遊ぶということはしてこなかった。
少なくとも七歳以降は、誰かと遊ぼうだなんて気分には絶対にならなかった。
俺を引き取った親戚と名乗った人たちは、俺を徹底的に邪魔者扱いしていたから、遊ぶおこづかいも、玩具もなにも与えられていなかった。
『愛想のない子。気持ち悪いわ』
『表には出さないようにしろよ』
自分の子供達に近づけさせないようにし、中学生になると追い出すように一人暮らしをさせた。
俺としてもその方が気が楽だった。
遺産もなにもかも奪われても、ろくな食事を与えられないとしても、それでも一人の方がよかったんだ。
『助 け て カツミ』
『苦 し い……』
もう家族なんてごめんだった。
『な ん で、助 け が こ な い の……』
『もう 駄目 だ が、あ……』
家族なんていらなかった。
『見 て な い で 助 け な さ い よ!!』
『お前 だ け が、クソ、げほっ、がぁ !!!』
救出される直前にこと切れた両親は、その死の間際まで自身の死に恐怖し、錯乱し生きている俺に怨嗟の言葉を吐き続けた。
目と鼻の先だった。
ベルトとシートに身体を挟められ、微塵も身動きができない俺の、小さな手が届きそうな位置に、父さんと母さんがいたんだ。
例え、目を背けたとしてもその息遣いが、声が、吐き出される血の飛沫が、いやというほど現実を叩きつけてきた。
眠ることを許してくれなかった。
愛されてはいたのだろう。
だが、そんなものは死の間際になればどこまでも薄っぺらく仮初のものだった。
「——だけど」
それはもう過去の話、なんだよな。
「カツミ君、あの映画だよ!」
「……なにが?」
我に返ると、レッドがどこかを指さす。
すると映画館と呼ばれる建物の上に、何らかの映画のポスターが張られている。
「これ面白いって話題の映画。君が好きかなって」
「おう、なんだ? 個別の部屋で見るのか? こういうのって」
人の多い通りを歩きながら映画館へと足を運びながら、そう口にするとイエローが苦笑しながら俺の肩を叩く。
「違うよ。大きなスクリーンで見るのが映画や」
「そうなのか……」
想像ができないが凄いんだな。
……なんか世間知らず過ぎて逆に恥ずかしくなってきたぞ。
後でこういう方向のことも知識だけでも覚えておくべきだな。
「お金は大丈夫なのか?」
「うん。今回は社長が持ってくれるって」
レイマ、太っ腹だな……。
どうやらすぐに映画が始まるのか、チケットを買った俺達は上映されるという映画を見ることになった。
イエローの言う通り、大きなスクリーンで見た映画は迫力が段違いであった。
内容は、俺に合わせてくれたのかSFアクションものであった。
主人公が戦い、囚われのヒロインを助ける。
そんなありきたりなストーリーであったが、それでも戦闘シーンの多彩さと二転三転するストーリーは、見ている俺達を飽きさせることなく、進んでいった。
「面白かったねー」
あっという間の二時間を映画館で過ごした後、俺達は近くのカフェに移動し、軽い昼食を食べていた。
「なんか注文する時、生温かい視線を向けられたけど、なんだったんだ?」
「あ、あはは、なんでだろうかなー」
「私にも分からんなぁ」
「知らぬ存ぜぬ」
ブルーだけ黙秘って言ってない?
気のせい?
なんかレッド達三人を見た後、俺の方を見てにっこりされたんだけど。
「それよりもさ、これからどうするん?」
「カツミ君が行ったことない場所でしょ? なら、ゲームセンターとか?」
「それいいね。あと、本屋とかは?」
「バッティングセンター!」
「ボウリング!」
各々で俺を連れて行こうとする場所を考えてくれる三人。
手元の冷たいお茶のいれられたコップに触れる。
指先に感じる冷たい感覚は、今目の前の光景を幻ではないと言ってくれている。
「あの、ありがとな」
「……ど、どうしたの? 突然、お礼なんて……」
「な、なんや、いきなりむず痒いな……」
思わず口に出た感謝の言葉に自分でも驚き、すぐに納得する。
もっと早く言うべきだったのかもしれないな。
俺は変われた。
スーツを盗んだあの日から、ずっと黒騎士として生きてきた。
他の生き方なんて考えもしなかったし、俺が負ける日は死ぬ日とも考えていた。
だが、それをこいつらが止めてくれた。
「アカネ」
「!!? い、いいいい今、私の名前を……!?」
驚きろれつが回らなくなったレッド、アカネに笑みを零してから、もう二人へと視線を向ける。
「きららに、葵だったな」
「な、ななな、なにゃ……」
「よ、呼ばれた……!?」
……驚きすぎだろ。
きららと葵の驚き様に素に戻りかけながらも、視線をやや斜めに逸らしながら続きの言葉を口にする。
「今日までありがとな」
「カツミ君……」
今、生きているからこそこう思える。
考えていられる。
「お前達がいてくれるなら、俺も前を向いて生きていられそうだ」
「……君が望むなら、私達はいつだって支えるよ」
「うん。私達、もう仲間やし」
「頼まれなくても、お節介焼いてきたし。これからも焼くつもりだよ」
ああ、そうだな。
お前らはずっと俺に対してお節介ばっか焼いてきたんだよな。
「今なら、お前らの仲間に……追加戦士になってもいい、そう思えるんだ……」
煩わしいと思っていたそれは、少しずつ俺の中の何かを変えてきた。
それが何かは俺自身も理解できなかった。
今でも分からない。
だけど、その変化はきっといいもののはずだ。
「良ければだけど、俺と友達に――」
それから先の言葉を口にしようとしたその時、不意に何かが唸るような音が空から響き渡ってきた。
俺も含めてアカネたちが立ち上がり、空を見上げる。
“何かが来る”
俺達の戦士としての勘が警鐘を鳴らしている。
『地球人諸君に告げる』
正体不明の声が響き渡ると共に、空に大きな亀裂が走る。
『地球人諸君に告げる』
徐々に日本語へと変化していく。
それに伴い、ソレが空間を裂きながら姿を現す。
『地球人諸君に告げる』
はっきりと、そう日本語で言い放たれる声。
雲を突き破り降りてきた全長300メートルを優に超える宇宙船。
幾重にも重なる声に、この都市にいた全ての人々の視線を集めているだろうソレは、大きく変形する。
『我々は、星を渡る正義の使徒、セイヴァーズ』
構造上、不可能にも思える変形。
船体の前面は上半身に、スラスターと思える部分は下半身へと変化。
『
十数秒かけて巨大なロボットへと変形した宇宙船は、勢いよく地上へと降り立った。
『邪悪は既に滅び、我々の栄誉は消え失せた』
足元の建物を踏みつぶして着地したロボットはその存在を、脅威を知らしめるように両腕を大きく掲げる。
悲鳴を上げる者、恐怖のあまり動けない者。
恐慌した人々が走り出す。
『まったく、嘆かわしい』
変形が終わっても尚、声は響き続ける。
見下しと嘲りを籠めた声の主は、生物的だった。
『この
『だが、心配するな』
『我々が管理してやる』
『隷属せよ』
俺達のいるカフェから見える場所に光の柱が落ちる。
光り輝く柱の中から、五人の男女が姿を現す。
機械的な鎧を纏ったそいつらは、皆、手首にチェンジャーのようなものを巻いていた。
「ふむ、さてアレはどこかな?」
「近くにはいるようだねぇ。でも、データ通り酷い星。空気も汚いし、文明レベルも下の下の下。こんなところが私達の対戦相手を滅ぼしただなんて信じられなぁい」
真ん中の長身の男の隣にいる淡い光を放つ髪の女性が、何かを話している。
男は一度、凄惨な笑みを浮かべると周囲にいる人間を見回した。
「ならば、適当に殺せば出てくるだろう。ボルク、スピ、マルカ、変身しろ」
この距離ではなにを言っているかは聞こえない。
だが、嫌な予感がする。
顔の半分が機械に覆われている男が、下劣な笑みを浮かべ長身の男に声をかける。
「クッ、いいのか? こんなさっさと暴れて」
「我々が正義。ならば、邪悪にとってかわった奴らも、まさしく邪悪だ」
前に出た二人の男と一人の女が、腕を前に突き出し構えを取る。
それはまるでジャスティスクルセイダーの変身と似ていた。
「
『INVASION START!!』
鳴り響く音声。
その音と共に、三人の異星人は光へと包まれた。
さらっと過去明かし。
カツミの両親は救助する寸前まで生きていました。
そして、ついにやってきた宇宙からの正義の使者。
勝手に正義名乗っているだけで、やってることは侵略者と変わりません。
むしろもっと性質が悪いかもしれません。
アルファはトロフィー。
敵はこれくらい身勝手で理不尽な理由の方がいいかなと思い、このような設定にしました。
これから先を書くのが楽しみ……。