今回は三日に分けて三話ほど更新する予定です。
最初はアズ視点。
後半はサニー視点でお送りいたします。
環境汚染型怪人。
これまでになかったアプローチとして試しに
「ステアスピリチアねぇ」
地上から遠く離れた地下深く。
怪人を作り出す場所で私は膝にニューを乗せて、その頭を撫でながら先の襲撃について考えを巡らせていた。
「……すっごい面倒だなぁ」
星界人のみが持つ星界エナジーを作り出す生命体。
その特異性は言うまでもなく、その存在も希少中の希少。
一応、過去の宇宙にも存在していたようだけれど、どの個体も生成されるエネルギーも微々たるもので、結局は自らの身体に星界エナジーが適応せずに死亡したという。
「ま、それはあいつらが無理にステアスピリチアを作り出そうとしていたからだけど」
星界エナジーを食う寄生虫共は、それなりの知能があるのに本能を優先させる傾向にあるから物事を無理やりに進めようとする。
そのせいで、奴らはようやく姿を見せたステアスピリチア……風浦桃子に禄に考えもせずに雑魚を寄越して返り討ちにされた。
「まさか、汚染を直しちゃうだなんてそこは予想外だったね。カネザキ・レイマの実力も確認できたことだし、こっち側の成果としては上々ではあるけど……はぁぁ……」
本当の本当の本当にスタバーズが勝手に動き出したのが余計だった。
あのやらかしでカネザキ・レイマが対策をしてくることが確定した。
あの変態宇宙人は、元星将60位代の科学者。
しかし、その序列も自身の科学力のみで短期間で二桁代まで成り上がったという証に他ならない。
認めるのは非常に癪だけれど、アレはまさしく天才だ。
「予想するに次元の干渉を察知するシステムかなぁ」
スタバーズが不用意にぽんぽんぽんぽん次元に干渉しやがったおかげで、今後の奴らの奇襲は絶対に成功しない。
堪えていてさえくれれば、こっちがステアスピリチアを狙いやすいようにお膳立てできたはずなのに……。
「はぁー、もうまったくバカ。本能でしか考えられないのが本当に嫌だなー」
あいつら、私がどうしてこんな回りくどい手で怪人を襲撃させているのか分からないのだろうか?
今のジャスティスクルセイダー相手に強力な怪人をぶつけただけでは相手にすらならないからだ。
黒騎士は論外。
「ステアスピリチアは私も欲しいけれど、彼らから攫うリスクはあまりにも高すぎるんだよねぇ」
土俵に上がるとしても幹部級怪人を数十体は揃えないと無理だろう。
それ以前に黒騎士を相手にするには数なんて意味を為さないなんてことさえありえる。
なにせ、能力使用する前に撲殺されるから。
「……はぁ」
だけどまあ、強くなっていることには別にいい。
いいのだけれど……もう一つ誤算だったことがある。
「あの子が司令官かぁ……後方じゃんやったぜ! と思ったら全然こっちの魂胆見透かしてくるし流石だ……」
まさかのカツミが司令官として指示を出していたとか完全に予想外の采配だ。
最初は「あれ? 黒騎士出ない? これならやりやすいね」と高をくくっていったのだけど、気づけば未来を予知していたかのように環境汚染を最小限に留める動きを見せ、挙句の果てに自爆戦術まで完全に対応されてしまったときはドン引きした。
“怪人の天敵”
表に出たやつも人知れず出現した怪人も一切合切をその拳で粉砕してきた彼の戦闘経験は尋常じゃないってことを再認識させられた。
「そのことも考えて怪人けしかけなきゃなぁ」
もう一度ため息をつく。
腕の中にいるニューが不思議そうにこちらを見上げ、その視線に私は苦笑いを返した後に自身の頬を叩く。
「よしっ、切り替えよ」
まあ、対策はされるだろうがこちらもそれを予想して動けばいいだけのこと。
ステアスピリチアはこの際、オマケ程度に考えて今後はどうしてもアレが出張らなければならない環境汚染型怪人の量産とその母体の強化に勤しもう。
全ては、ルインを殺すため。
今一度、狂気に陥りかけた自身を憎悪で保ちながら私はこれからの動きについて思考を巡らせるのだった。
最近、私って働ぎすぎじゃないって思うの。
アズが色々と面倒な暗躍をしたりしているのを見張ったりとか、九位のバカップルの日本珍道中に付き合ったりとかもう色々!
そして、ハイルちゃんがアズに見つからないようにあの手この手であれこれ色々こそこそやったり、もう頭上の太陽に取って代わって隠居したいくらい!! ……そうなったら太陽系乱れて大変なことになっちゃうけどね!! てかその前にルインちゃんに消されちゃう!!
「ふぅ……マスターのコーヒーが飲みたい……」
なんの変哲のない森の中を歩きながらぽつりと愚痴を呟いてしまう。
私が普段やっていることもそれなりに面倒で大変だけれども、ついこの前———あの羨ましいくらいにイチャイチャバカップルを迎えた後に、また別の案件を任されてしまった。
「まさかよねぇ」
はじまりは突然ルインちゃんからの招集命令が出たことから。
普段、ルインちゃんから招集されるなんてことは少なく、それこそ少し前のカツミ君が並行世界に移動した時くらいだった。
その時のことを今思い出すだけでも驚愕ものだったわ。
「来たか、サニー」
「いきなりどうしたのかしら? ルインちゃん 招集命令なんて」
いつもの星空に満ちた静謐な空間の中心にある玉座に無造作に腰掛けるルインちゃん。
そんな彼女に私はいつもの調子に話しかける。
……機嫌は、悪くないわね? これは……ちょっと機嫌がいい感じ?
「お前は地球を拠点にしているだろう? 七位と八位、そして五十位と共に」
「ルインちゃんにかかればお見通しね」
彼女の言葉に肩を竦めて笑みを返す。
ま、当然把握しているわよねぇ。
それであの子達を処分するなんてことをしないのは分かっているし、そもそもルインちゃんはあのノンデリナルシ暗黒オヤジと違う。
見下すことと無関心には大きな違いがあるしね。
「面倒見が良いお前に一つ任せたいことがあるんだ」
「任せたいこと……? それはいいけれど、珍しいわね」
ルインちゃんが他者になにかを任せることなんてなかったはず。
他者に任せなくとも、彼女自身がそれを可能にしているから。
それこそ異常事態といってもいい状況に冷や汗を流していると、こちらの内心を理解した上で無邪気な笑みを浮かべたルインちゃんが目を閉じた。
「ほう。多重次元断層帯から自力で帰ったか。やるな」
「?」
なんだ? と思った直後にルインちゃんが指を鳴らす。
「きゃっ!?」
瞬間、彼女と私の間の空間にワームホールが開き、その穴から可愛らしい悲鳴と共に誰かが落ちてきた。
まず目を引いたのは輝くような銀髪に緑のメッシュという印象深い髪型と、オシャレの欠片すらない利便性のみを求めたスウェット姿。
「えっ、えっ」
「真っ暗い空間に飛ばされて自力で部屋に戻ったのにまたここに!?」
「なんでぇ!?」
「もうおしまいだぁ……」
「私死ぬんだァ……」
「ヒグッ、ウゥ……オエッ……」
なんだかすごい感情豊かなまま負のオーラを発した女の子は絶望のあまり女の子が出しちゃいけないタイプのえづきをしている。
そのあまりの場違いさにさすがの私も呆気にとられてルインちゃんを見る。
「……えぇと、ルインちゃん?」
「そいつの名はイリステラ。新たな序列二位だ」
……。
「は? 前の二位は?」
「つまらん奴だったからな。こいつに変えた」
「そんな簡単に変えられるの!?」
たしか前の二位の名前はイリステオ……だったはず。
この子の名前もほぼ同じだけれど、雰囲気……いえ、存在は似ているけれど、性格の悪いアレとは全く違うように見える。
「こいつをお前に任せる」
「「え?」」
ある意味で予想できた彼女の言葉に私もイリステラと呼ばれた女の子も呆気にとられた声を零してしまうのだった。
イリステラ……自らをステラと呼ぶように願った少女の正体は、次元を自由自在に操り、あらゆる次元に遍在する不死身の傍観者———イリステオの中に生まれた上位個体。
あの二位と同じ存在だということもあって、最初はちょっと警戒しちゃっていたけれど、話してみると全ッッ然違くてびっくりしちゃった。
そして、ステラちゃんのこれまでどのように生きてきたか聞いてしまったら、この人情派と言われた漢女が黙っちゃいるわけにはいかないわけ。
『私が地球の暮らし方について教えてあげるわ!!』
『あ、あああ、ありがとうふぉざいまふ……』
噛み噛みどころかふみゃふみゃな滑舌で返事をするステラちゃんに、ドンと胸を張って頷く。
まあ、思っていたより行動力があって既に地球で住むところを見つけていたし、ルインちゃんに命令された通りカツミちゃんにも顔合わせしていたので、私はちょっとアドバイスしただけで済んだけれど。
「さてと」
実際に顔を合わせちゃうとゴールディに警戒されて、ステラちゃんが行動しににくなっちゃうので特製のスマホを取り出して連絡しましょうか。
「あ、もしもしステラちゃん?」
『は、はい、まひまひ!!』
「それはお魚ね」
スマホの扱い方を分かっていないというより、人と話すことそのものが不得手なのよねぇ。
まあ、それもしょうがないとも言えるけれど。
「まだ数日だけれどうまくやれてる?」
『はいっ』
「うんうん、それはよかった。漫画の方も頑張ってる?」
『頑張ってます……!! 今3徹目です!! 目がギラギラです!!』
あー、どうりでテンションが高いと思ったわー……。
「えぇ、分かったわ。この電話が終わったらいますぐ寝なさい」
『えっ、でも』
「私の子守唄、聞きたい?」
『寝ます……』
よし。
……なんか、あのイリステオと比べると本当に……本当に純粋で助けてあげたくなっちゃうのよねぇ。
「でもそれだけ頑張れるってことは楽しいってことなのね」
『……はい』
あの出歯亀芋野郎……じゃなかったイリステオは生まれて間もないステラちゃんを色のない死した宇宙に閉じ込めた。
色彩のない白黒の世界で他の世界を覗き見ることでしか自由はなかった彼女にとって、今はきっと……文字通りの人生を始められているということなんだろう。
「今はどういう漫画を描いているのかしら?」
『学園恋愛ラブコメものです!!』
「いきなりハードル高すぎじゃない……?」
結構言っちゃうけれど、貴女人生経験少ないんだからもっと大人しめのやつがいいのに。
「例えば、喫茶店のマスターに雨の中助けられた異星人の漢女ってのはどう?」
『乙女ですか? た、確かに面白そうな題材です……勉強になります……!!』
なんか漢女のニュアンスが違うような気がしたが気のせいだろう。
と、ここまで話して私はふとあることを思いついた。
「……そうだ。貴女に紹介したい子がいるのだけど、構わないかしら?」
『え、あ、え、その、いきなり人と会うのは……その、怖くて……』
こう言っているけど、潜在能力は私を上回っているのよねぇ。
そのちぐはぐさもまた味とも言えるけれど……ううん、この子は今のままでも十分魅力的だから無理に変わる必要はないわね。
「心配ないわ、いい子だから。あっ、でも他の序列持ちを護衛につけるからその子にも会うことにもなるかもね」
『ほ、他の序列持ち……こ、怖い……』
「二位が何言ってるのよ……。このことについてはあとで連絡するわね」
『はい……』
既に緊張しているステラちゃんに苦笑しながら通話を切り、軽く一息ついてまた歩き出す。
「ステラちゃんの人生経験的にも友人は必要だし、ハイルちゃんにも息抜きは必要なのよねぇ」
ハイルちゃんは表面上は平気な顔をしているけれど両親や友人たちからも忘れられ、私達人外に囲まれ隠れる生活を余儀なくされている。
平気なはずがない。
少し前だってカツミちゃんが行方不明になって不安がっていたし、ここは彼に会わせるまではいかなくても他者との交流が必要だわ。
「さて、と」
思考を切り替え、足を止める。
場所は木々に囲まれた森の中、なんの変哲のない落ち葉が占めるそこを見下ろした私は、地面に手を置く。
「やっぱり、アズはここにいないわね。……地下にいるのは確定しているけれど、怪人の能力で隠しているのかしら?」
怪人の恐ろしいところってこういうところよねぇ、本当。
この私の感覚すらも欺く異様さは戦闘力云々では測れないものがある。
「……貴女の宿痾をなんとかしてあげたいけれど」
だけれど、貴女がそうしなきゃ正気を保てないのも分かっている。
だからこそ悔しい。
今ほど運命に苛まれる前の貴女を知っているからこそ、友人としてなにもできていないことがもどかしく感じてしまう。
多重次元断層帯(造語):ものすごくやべー閉鎖空間……だが、イリステラは泣きべそかきながら普通に帰宅した。
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