今回はイリステラ視点でお送りいたします。
星将序列二位。
正直に言うと、私にはだいそれた地位だと思う。
だって私、生まれてこの方戦ったことなんて一度もないし、喧嘩なんてそれ以前の話だ。
いや、でもイリステオ達との口喧嘩なら何千回もしたことあるけど。
そんな私が地球の人たちに害する気なんて全くなく、それどころか普通に溶け込んで暮らしていこうとすら考えている中、どうやっても避けられない存在が穂村克己———カツミさんとジャスティスクルセイダーであった。
あのすごく怖い人……ルイン様に命じられたから、ということもあるけれど体面的には宇宙人という立場の私が地球の守護者である彼らに正体を隠して動くのはあまりにも自殺行為すぎるから。
「あ、あのぉ……どうでしょうか……」
そして今日はまた新しく作り直した漫画のネームをカツミさんのいる喫茶店サーサナスに持ち込んで見てもらっていた。
でも、今日はカツミさんに加えて、なぜかジャスティスクルセイダーのブルーこと日向葵さんもいて、前以上に生きた心地がしない。
「今回は学校ものなのか?」
「アッ、ハイ……」
「うーん……」
……え、な、ななななに!? 学校の話ですけどなんですか!?
それだけ聞いて眉間に皺を寄せたカツミさんが、紙を捲る。
そして、別のネームを日向さんが伊達眼鏡をしきりにクイッっと動かしながら読む。
じ、地獄のような時間だ……。
ページをめくる音が拷問にすら思えてきたその時、コーヒーを飲んで一息ついた日向さんがこちらを見る。
「イリス殿」
「ど、どの?」
「絵、うまいね。ものすごく上手い」
「あ、ありがとうございましゅ」
そう言ってもらえてとても嬉しいけど、ちょっと喋り方おかしくない?
疑問に思う私に彼女は続けて話しかけてくる。
「
「は、はぁ」
「そんな私からの評価として、青髪寡黙系ヒロインを増やせばもっといいと私は思う」
「へ? それって貴女の願望では?」
「むむっ、なにかな?」
あ、圧迫面接だ……怖い。
眼鏡をクイッとさせている日向さんに心底ビビっていると、カツミさんもネームを読み終えたのかこちらへ話しかけてくれる。
「……イリスさん」
「は、はい」
「今から結構言うけど大丈夫か?」
申し訳なさそうにするカツミさんに私は勢いよく首を縦に振る。
「だ、大丈夫ですっ。もうボロクソにいってもかまいません!!」
「……そうか。そこまでの覚悟なら俺も応える。でも素人意見だから、深く真に受けないようにな?」
か、覚悟を決めろ私っ。
心を強く以て、私はカツミさんの言葉に耳を傾ける。
「まず下見が足りないというのが一つ」
「うぐっ」
「まず学園らぶこめ……まあ、なんというか学校での恋愛模様みたいな話なのは分かるけれど、とりあえず最初から登場キャラを出しすぎだな」
「へぐ」
「このネームだけでも主人公を除いてメインキャラが五人はいる。少なくとも短編の情報量じゃないから、最低でも二人か三人に留めた方が分かりやすい」
「ひぅ」
「前の反省を生かすのはいいけれど、逆にキャラが薄味になってる」
「おごぉ」
「あと主要人物に常識に反した行動をさせるのはやめたほうがいいと思う。そういう演出も大事だとは思うけれど、こういうのって……多分すごく扱いが難しいものだと思う」
「ミィィ……」
「基本、最初の印象が大事だからインパクト重視って理由だけでやるってのは間違ってはいない……が、その扱いを間違えれば読んでいる側はいい気持ちはしないし、最悪そのキャラクターの印象がどれだけ良くなる展開があったとしても見直さない人もいるってこともありえる」
怒涛の指摘にボコボコにされた私はテーブルを通り越して地面に沈んで死にかけのセミみたいになってしまう。
じ、事実すぎるのでなにも言えない。
指摘されて気づかされて、確かにその通りだとしか言えない。
「だけど新しい試みをしようって書いたのは分かる。そういうのってすげぇことだと思う」
「えっ」
「それに、前に読んだ時よりもコマ割りとセリフが読みやすくなって、表現もグッと上手くなっていると思う」
「え、えへへ……」
「今回はちゃんとやりたいことをやったって感じもよく伝わってくるしな」
「ふへっ、いや、それほどでも……」
「内容的にも色々と口を出しちまった手前言うのもアレだが、こういう明るい作品は俺は好きだ」
そこで一旦区切った彼は、照れながら復活した私に微笑みかける。
「これは俺個人の感想になっちまうけど、前のネームよりも今みたいな明るく楽しめる作風の方がイリスさんらしいなって思った」
色々と批評されてしまったけど、まだまだ頑張れる気がしてきた。
単純に漫画の内容を罵倒されているだけじゃこんな気持ちにならない。
間違っているところを遠慮なく口に出してくれて、それでちゃんと読んでくれているってことが分かるから。
「カツミん、今度私とハルちゃんの動画の批評もお願いしてもいい?」
「なんだかんだで最後に悪が成敗されるのはいいな」
「ねえ、悪って私のこと? え? ヘイ、カツミん?」
この人はちゃんと駄目なところは駄目って言ってくれた上で、もっとよくなるように助言してくれているんだ。
私も、カツミさんの期待に応えられるようにしなくちゃならない。
「あ、あのっ……ストーリーとか私一人じゃ限界があるので、その、お題とかを出してもらっても……いいでしょうか?」
なので頑張って自分から切り出してみる。
たどたどしくも吐き出された私の声に、カツミさんと日向さんは悩まし気な顔になる。
「お題か……咄嗟に出すとなると難しいな」
「カツミくんの話とか?」
「俺の話じゃねーか。んなもん書かせてイリスさんが楽しいわけねーだろ」
どうしよう、ちょっと書きたいって思ったかも。
「それで、描いてみます」
「は? いや、無理しなくてもいいぞ?」
「いえっ、描きたいんですっ!!」
「お、おう」
なんだか創作意欲とでもいうのか。
ふつふつと湧き上がるそれに自分でも驚くくらいにやる気が出てくる。
「でも俺がモデルの主人公だと恥ずかしいので、主人公はアカネあたりにしといてくれ」
「カツミん、18禁になるけど大丈夫?」
「お前はアカネのことをなんだと思ってんだ」
レッドさんのことはよく知らないけれど、ネットではとんでもない人だということは知ってる。
妖怪とか怪奇現象みたいな扱いをされてたのを最近見かけた。
「……あっ」
そういえば、私、この後すぐに帰らないってことを思い出す。
今日はここでカツミさん達に漫画を診てもらった後に、サニーが引き合わせてくれるという人と会う約束をしていたんだった。
……ちょうどいいし、相談してみようかな。
「あの、相談したいことがあるんですけど……大丈夫でしょうか?」
「ん? 別に構わないぞ」
私にとって唯一相談できる相手でもあるし、意を決して話そう。
「実は私、今日サニーに紹介されて人に会う約束をしているんです」
「へぇ、サニーが」
親切にしてくれたサニーの紹介だということに不安はないけれど、初対面の人に会うことが怖い。
ましてや護衛についてくるという序列持ちなんて、いきなり二位になってしまった私をよく思っていない可能性があるから、より恐ろしい。
「あ、ああああの、私、友達がいなく……て」
なにを言っているんだ私は。
こんなことを言ってもカツミさんを困らせるだけだ。
理性では分かっているので、それに反して私の口は勝手に動いてしまう。
「だから、私その人と会って普通に話せるか不安で」
「……」
「もし嫌われたらどうしようって……」
ものすごい面倒くさいことを口にして、顔から血の気が引く。
痛いくらいの沈黙の後に、カツミさんがため息をついた。
「違うだろ」
「……え」
「もう漫画見せあう仲なんだから友達みてぇなもんだろ。俺達」
予想もしていなかった言葉に呆気にとられる。
会ってまだ二回目なのに、こんな口下手で面倒くさい私を友達って……。
「いんですか、私なんかが……」
「なんかとか言うんじゃない」
自分を卑下する私に彼が手元の、私が描いた漫画のネームを見せてくる。
時間をかけて、自分なりに描いたソレに視線を落とした彼は、私と真っすぐに視線を合わし口を開いた。
「こんな立派なもんを描けるんだ。それってすげぇことだろ」
「カツミさん……」
「だから、自分なんかだとか……そんな悲しいこと言うなよ。お前は凄いことができるんだから、もっと自信を持っていいんだ」
「っ、ありがとう、ございます」
カツミさんの言葉に形容しがたい想いが胸を占める。
今まで、そんなこと言ってくれた人なんていなかったから、どんな風にしたらいいか分からなくなってしまう。
「ぐるる……」
「お前はなんで威嚇してんだ」
「カツミ君が私達を友達認定するのに私たちの青春を投資したのに」
「いや、重いしこえーよ……」
いきなり可愛く唸りだした日向さんに引いた様子のカツミさん。
「会って二度目で友達認定とか理不尽じゃない?」
「俺がこんなことを言えんのは、そんな風にお前らが変えてくれたからだろ」
「きゅん」
「ときめき音は禁止だって言ったよな?」
そんなやり取りの後に彼は思案するように腕を組んだ。
「しかし、サニーが紹介する、か」
「カツミ君? どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ。……イリスさん」
突然名前を呼ばれてびっくりする。
「は、はい?」
「その友達ってのは今日この後に会いに行くのか?」
「そ、そうですね」
「じゃあ、手持無沙汰で行くのもアレだからなにかしら持って行った方がいいだろ。……マスター!」
カツミさんが名前を呼ぶとカウンターにマスターが怪訝な様子で出てくる。
「どうした?」
「いくつか菓子を包んでもらってもいいか? 代金は俺のバイト代から引いていいから」
え? カツミさん?
目を丸くする私に構わず話は進んでいく。
「常連になってくれるかもしれねぇ客のためだ。今後の先行投資としてサービスにしてやるよ」
「ありがとう。……ってことでちょっと待っててくれ」
我に返った私はすぐに手を横に振る。
もう今の時点でよくしてもらっているのにお菓子までもらってしまうのは申し訳なさすぎる。
「え、で、でも悪いですよ!」
「気にすんな。あながち無関係な話でもないからな」
無関係じゃない?
え、ど、どういうこと?
彼の言葉に呆気にとられていると、席から離れた彼は店の外へ行こうとしている。
「カツミ君、どこに?」
「近くのコンビニ。すぐに戻ってくる」
「じゃあポテチとコーラを所望する」
「喫茶店でんなもん食おうとするな」
日向さんの軽口に呆れたようにそう返したカツミさんはそのまま出て行ってしまう。
「さて、カツミ君はすぐに戻ってくるとして……イリス」
やけに迫力を出して話しかけてきた日向さんに背筋が伸びる。
「今日私がここにいるのは貴女が危険な存在じゃないか見極めるため」
「……はい、分かっています」
カツミさんやゴールディが危険はないと判断してもジャスティスクルセイダーが同じだとは限らない。
それを理解した上で頷く。
「私も今日貴女と関わった感じ中々に興味深い子だと思った。染め甲斐がある」
「え?」
「んんっ、なんでもない。まあとりあえず、私から見て君は無害だよ」
「っ、ありがとうございます」
実際なにかをしでかすつもりなんてなかったし、日向さんにこう言ってもらえてよかった。
「時にイリス殿」
「また殿……? な、なんでしょうか?」
「私、貴女の漫画制作を手伝えると思いまして」
「あ、アシスタントですか!?」
い、いや、でも私はまだまだペーペーですし、誰かの助けを借りて漫画を描くにはあまりにも未熟すぎる!
「アシスタントまだ早い。私が手伝うのは、地球のオタク文化を伝授すること」
「聞いたことがあります……!!」
なんか漫画以外にもアニメとかそういうのですよね!
漫画制作の参考にもなるしものすごく興味があるのでまさに渡りに船だ。
「ゆくゆくは私とかつみんのカップリング同人誌を書かせてぐふふ……」
「日向さん?」
「ゴホンッ、とりあえず連絡先を交換しよう」
「はいっ」
喜びながらスマホを取り出し———、
「すみません、交換の仕方が……」
「心配するなブラザー。この私に任せな」
「日向さん……」
「アオイちゃん、でいいぜ? イリス」
「アオイちゃん……!」
……この人、すごくいい人だ!
感動に打ち震えていると、お店の扉が開いて袋を手に持ったカツミさんが戻ってきた。
「悪い待たせちまったな」
「ううん、私もさっき来たところ」
「さっきからいただろお前」
カツミさんが手持ちの袋をカウンターに置いたところで奥からマスターさんが出てくる。
どうやらお菓子をまとめてくれたようで、それらを手提げ袋にいれてくれている。
「マスター、これもいれておいてくれ」
「ん? これをか? なんでだ?」
「一応な」
「……まー、分かった」
手提げ袋にお菓子とかを詰め終え、それを手にしたカツミさんがこちらに戻ってくる。
「ほら」
「あ、ありがとうございます!」
「……君がこれから会う人はいい奴だから心配ない。自信を持っていい」
「は、はい……」
今から会う人はカツミさんにとって知り合いなんだろうか。
それでも、まだ二回しか顔を合わせていない私にここまでしてくれるなんて……。
「かつみんかつみん」
「かつみん言うな。なんだ?」
「私、イリスと連絡先交換したから、カツミ君もどう?」
「……」
「私が代わりにやってあげる?」
「……頼む」
取り出したスマホを見て硬直したカツミさんに、察したのか手を差し出すアオイちゃん。
その様子に親近感を抱きながら、私もまた大人しくスマホを差し出すとあっさりと連絡先を登録してくれる。
「ありがとな。俺も早く使い方覚えねぇと……」
「別に無理して覚えなくてもいいよ。私も苦労って思ってないし」
「いや、でも」
「君の交友関係は私が管理できるから」
「ッスー……早く使い方覚えねぇとな……」
い、今、真顔でとんでもないことを言い放たなかった?
ちょっと……いや、かなり引いた様子のカツミさんが、なにかを思い出したのか私の方を見る。
「そうだ。イリスさん、ツムッターやってるか?」
「え、やってないですけど……ど、どうしてですか?」
「いや、俺も最近ようやく始めたから」
絵描きならやった方がいいとは聞いたけれど、どうなんだろう?
迷っていると、今度はアオイちゃんが話しかけてくる。
「やったほうがいいよ」
「え、そ、そうでしょうか?」
「うん。絵とかって人に見てもらった方が上達するらしいし」
アオイちゃんの言葉に確かにと納得する。
私も、カツミさんに初めて自分の書いた漫画を見てもらって頑張って書こうって思えたから、やっぱり人に見てもらうのってモチベーション的に結構重要なのかもしれない。
「分かり、ました。アカウント、頑張って作ってみます」
「自己紹介と合わせてイラストとか合わせて挙げてみるのもいいかもね」
それだったら今日まで練習用にたくさん書いたやつを挙げていけばいいかなぁ。
自分の絵がどんな風に見られるのか不安だけど、ここは勇気を出すしかない。
「その時は連絡してくれ。俺もフォローとかいいねってやつをしてみるから」
「あ、ありがとうございましゅ……」
作ろう。
今日、諸々の用事が終わったらすぐに作ろう。
内心で息巻いていると、アオイちゃんがカツミさんを見てちょっと困った素振りを見せた。
「待って、カツミ君のアカウントでそれをやると……」
「ん?」
「……いや待て、この絵の巧さだと漫画以外にも……うむうむ」
アオイちゃんが私と手元の漫画を見て、意味深に頷く。
私とカツミさんが不思議に思っていると、不意に彼女が私の肩に手を置く。
「イリス、君は私の母になってくれる女性かもしれない、な」
「? ……???」
「その時はよろしく頼む」
……。
……、どういうことですか???
数秒間をおいても全くなんで私がお母さんになるのか理解できなかった。
存在すら知らないし、いないかもしれない私にお母さん?
「あー、葵は時々……時々ではないか。まあ、訳が分からないことを言うんだ。あまり気にしないでやってくれ」
「は、はい?」
「カツミん? 最近私の扱い雑になってきてない?」
時折、私でも理解が追い付かない話が出てくるけれど、楽しい。
孤独じゃない、誰かと言葉を交わして、共通の話ができることってこんなに嬉しいことなんだって思える。
でも、そんな幸せな時間にも終わりが訪れてしまう。
「本当に、ありがとうございます……また、来ます」
話を終えて、画材の入った手提げを抱えるように持ってお辞儀をするとカツミさんとアオイちゃんは笑みを浮かべてくれる。
「おう。漫画を描くのも大事だけど、あまり無理すんなよ」
「あとで面白そうな漫画とかアニメ教えたげる」
「はいっ」
改めて深く頭を下げてお礼を口にした私は、名残惜しい気持ちを胸に抱きながら店を後にする。
これから誰に会うかとても不安だったけれど、カツミさんが大丈夫だっていうなら、この不安もちょっとは平気に思えるのだった。
カツミのツムッタ—アカウント
:普段、業務連絡以外全く呟かないし、身内しかフォローしない怪物インフルエンサー(なお本人は全く影響力を理解していない)
次回の更新は明日の18時を予定しております。