後日ファミ通文庫様からもご報告があると思いますが、
7月より発売予定でした「追加戦士になりたくない黒騎士くん」第2巻の発売日が諸事情により8月に延期することになりました。
どうかよろしくお願いいたします<(_ _)>
そして四日目、四話目の更新となります。
今回は第九位、フィンガ視点でお送りいたします。
アルファとオメガの辿る運命なんてものは大抵悲劇に終わるもんだ。
少なくともアルファ、アイシャはそんな運命を辿る不幸な星の元にあった。
俺が生まれ育った星は、ゴミのような場所だった。
常に戦いが起こっている上に、治安も最悪。
善人が常に損を被り、悪人が栄える、どうしようのない星だ。
FI・57・65
それが区画と番号を割り振られた俺の名前。
俺は生まれたその日から兵士として育てられ、捨て駒のように死地へと送り続けられるような、いついなくなってもいいゴミ同然の存在だった。
名前なんてただの記号。
まともに呼ばれるときがあるとすれば、それは死んだ奴が名簿に記録される時くらいにしか名前を持つ意味がなかった。
『戦え』
戦って、殺して、奪って、また戦う。
気に入らねぇ誰かの手足として、星という舞台でひたすらに身内同士で殺し合う蟲毒を行う。
そこに誰が仕組んだとか、思惑なんてあったもんじゃない。
それが当たり前だから、それ以外を知らなかったから。
『
俺は肉体的にも、精神的にも戦士として完成されていた。
生まれながらに持つ他の同胞が持ちえない特異な体質に、恵まれた肉体。
食わずとも、鍛えずとも勝手に最高峰の肉体を持ち得てしまった俺の前には敵はいなかった。
だが、それでも反逆とかそういうことは考えつかなかった。
それをしたとして、その後俺自身の立場が良くなるわけでも悪くなるわけでもない。
自分より弱い敵を打ち倒すことに興味がなくなり、いつしか求めていた強者との戦いにも望みがなくなってしまった。
———残ったことは、奪うことだけだ。
奪えるから奪う。
誰かに奪われる前に奪う。
他者への期待も、強者故の孤独などという傲慢な思考も削ぎ落され、ただ奪うことがいつしか俺の普通となった。
『善人は必要だ。彼らがいなければ、誰が我らを悪人と定義する?』
善人が食いものにされ絶滅に瀕したその時、故郷の星は悪人が占める地獄と化した。
善人がいなくなってしまえば、悪人を悪と定義する者がいなくなり、それが普通になってしまう。
いつしか、人と獣の境界すら曖昧になり、星の終わりすら見えてきた時になったとしても、俺は傍観のままただ奪うことを続けていた。
『
星の終わりが近づいていることなどお構いなしに、見せかけの知性を振り回すクズな上官が指令を下す。
ある女の排除。
これまでとは明らかに毛色が違う命令だな、と感じた。
『この女は爆弾だ。存在するだけで不幸が生じる化け物。我々はコレに対して一刻も早い対処が最善だと判断した』
曰く、この女と行動を共にしたものは確実に死ぬ。
殺そうとしても殺せない。
この女を捕らえた組織の者は、その体質を利用し別組織に甚大な被害をもたらしている。
事実かどうかは分からない。
ハニートラップの類かでやっているのだろう。
似顔絵は、美人だからな。
『どうせ、こいつも俺を含めた他の奴らと同類だろうな』
そう判断して、俺はいつものように拳を握り、動き出した。
気が進まないという気持ちこそあるが、それでも命令されたからにはそれに従う。
迫りくる敵をなぎ倒し、燃やし尽くしながらの正面突破で突撃をかました先。
ターゲットと遭遇した俺は、ベッドの上で怯える女性に胸を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
ほどけるような金色の髪。
こちらに向けられる潤いを帯びた瞳。
脳を酩酊させるような色のある声。
汚れを知らない繊細な肌。
すらりと伸びた脚。
戦いばかりで教養のないはずの俺の脳内で突如として並べられる賛美の言葉。
『えぇと……聞いて、いますか?』
心を奪われるということはこういうことを言うのだろう。
俺は、これから殺さなくてはいけない敵組織の女に魅了されてしまった。
しかし俺は命令に従う無敵の兵士。
一度たりとも失敗を経験したことのない俺にかかれば、この程度で動揺なんぞ———、
『私を、殺しにきたのですか?』
あれ!? 俺ってなんのために戦ってたっけ!!?
彼女の声を聞いただけで、なんかもう命令とか戦いとか全てがどうでもよくなった。
催眠とか、魅了とかそういうもんじゃねぇ。
俺が、俺自身が、戦いや命令全てがクソだと思えるほどの、初めて夢中になれる存在に出会えた。
破壊した壁の外からは、戦争のように銃弾が飛び交い、爆発が鳴り響いているが、それに構わず俺は床に膝をついた。
『好きだ』
『え?』
不自然な軌道を描いてこちらに飛んできたロケット弾を弾き飛ばす。
『俺と一緒に生きてほしい』
『……え?』
倒壊し、崩壊しながらこちらに倒れる隣の塔を拳でぶっ飛ばす。
『君を幸せにする!!』
『あ、え……』
戦場で飛び交った銃弾全てが跳弾し、一斉に俺目掛けて迫る。
その全てを拳で叩き落とし、一気に振り返って彼女の反応を見る。
『私……なんかと、私は、不幸を呼ぶ女で……誰かと一緒にだなんて……』
『俺には君しか見えていない!! 君に夢中だ!!』
『……っ』
『幸せにする!! 不幸だなんて思わせない!!』
前触れもなく落ちてきた隕石を見上げ、飛び上がる。
明らかな異常事態。
落ちれば星を滅ぼす破滅が迫る。
これまでの俺だったなら、絶対に太刀打ちすらできない。
近づくだけでその余波で燃えて、粉々になっていたことだろう。
『告白の邪魔だ!! どけぇ!!』
だが、今の俺にとってはこの程度のこと脅威でもなんでもない。
俺は、今初めて生きているって実感している。
初めて感情で動いている。
強者としての孤独も、理解も、共感も、全て些細で稚拙な悩みだとすら思えるほどに俺はまだ名前も知らない彼女に焦がれてしまっていたんだ。
『無理なら、まずは!!』
これまで伽藍洞だった心に熱く、燃えるような輝きが灯される。
力が溢れ、目の前の脅威を確実に排除できる確信と自信が沸き上がる。
『まずは友達からお願いしまぁぁす!!』
己の溢れ出る感情と情熱を引き出し、火山のように燃え上がった拳を振るう。
突き出された拳は空間を震わし、星を滅ぼさんと降り注いだ隕石を打ち砕き———綺麗な花火を咲かせた。
自身の行いを意に介さず、また部屋に舞い戻った俺は呆然と空を見上げた彼女に声をかける。
『返事は!?』
『あ、え、えーと……その……』
我に返った彼女は、顔を真っ赤にさせる。
ここで断られたら、彼女を自由の身にしてから彼女の迷惑にならないところで死のう。
そう覚悟して、固唾を呑んで返答を待った。
『よ、よろしくお願いします。私は、アイシャです』
『!! ……こちらこそよろしくおねがいします……!! あ、アイシャ……さん』
ものすごく柄にもなく照れてしまった俺の言葉に、彼女は笑みを零した。
『アイシャでいいです。貴方の名前も教えてください』
それが俺と彼女、アイシャとの出会いであり、俺が彼女に『フィンガ』という名前をもらった運命の日。
後に知ったオメガとアルファの運命なぞ、関係ねぇ。
俺はアルファだからアイシャに惚れたわけじゃなく、好きになった女がアルファだっただけだ。
俺の情熱に、不純物は一切存在しない。
あるのはこの身を常に動かし続ける彼女への愛のみだ。
「ダーリン、どうしたの?」
愛しい声に我に返る。
隣には、美しい金色の髪を風で靡かせたアイシャの姿。
え、女神!? と一瞬、驚きながら俺は目の前の———月夜に照らされた海を眺める。
今日も一緒に色々なものを見て、買って、楽しんだな。
「昔を思い出してた」
「昔?」
「君と初めて会った時のこと」
「……ふふ」
今思ってもいきなり告白はやりすぎたなぁって思っている。
だが恥ずかしくは思っていても後悔はしていない。
あの時の行動があるからこそ、今があるからな。
「あの時の私は、ただ不幸を巻き散らす能力を利用されるだけだった。ずっとこのまま誰にも愛されない。そんな人生が続くと思って絶望していた時に、フィンガ、貴方が見つけてくれたのよ?」
「お互い様だぜ。君と出会ったから俺は心を持った」
その前は人生に意味を見いだせず戦うことしか考えてねぇ機械だったからな。
腑抜けた、と当時の俺を知る者は嘲るかもしれないが、断言する。
俺はあの時の“俺”よりも何百、いや何千倍も強いってな。
「私、今幸せよ?」
「俺もだ」
月明かりに照らされた海を前で、肩を抱き寄せる。
「今度はどこに行く?」
「んー、京都ってところはどう? 金色のおてらってものが見れるらしいわ」
「見応えがありそうだ」
いずれは戦う運命にあるだろうが、俺にとっては黒騎士もジャスティスクルセイダーとの戦いは二の次に過ぎない。
最優先するのはアイシャのみ。
彼女に比べたら、絶対無敵を体現したルイン様すらも遠く及ばない。
「フィンガ……」
「ああ、分かってる」
砂浜から立ち上がり、背後を振り向く。
俺達しかいなかったはずの海岸の砂浜に地球人ではない、異形がそこにいた。
「こんな月夜に、無粋な輩だな?」
怪人の数は、そこそこいるな?
戦闘の一際やれそうな二体は……一体は複数の鋭利な腕を持つ甲殻型の怪人。
もう一体は……全身銀色のまっさらな人型って見た目だから、なんの怪人か分かりづれぇな。
それ以外は甲殻型のやつの劣化版みたいなやつばかり……見たところ、分裂かその類っぽいな。
「噂の怪人ってやつか。お前らが用があるのは俺達ではないはずだが」
「宇宙人ダナ? 序列9イ。その力、利用させてモラウ」
ずけずけと失礼なやつらだな。
話し合う余地すらないし、面倒すぎる。
「礼儀っつーもんを知らねぇのか? 善良な地球人から“おもてなしのこころ”ってやつを学んできたらどうだ?」
俺は見た目で差別とかする性質じゃあないが、こいつらとは仲良くはなれねぇな。
なんつーか、生まれ故郷の星にいた奴らと近い匂いがする。
蹂躙を当たり前に思い、生まれたその瞬間から悪に染まったどす黒い悪意を持つ化け物。
「我が主ノ命令だ。お前の協力を取り付けル。そのためならその女も人質にトル」
「あら?」
多腕野郎の言葉にアイシャがほんわかと驚く。
アイシャを人質にとる、か。
怪人の主ってやつは全く知らねぇし、興味もねぇが……そいつは余程の馬鹿らしいな。
「……くっ、はは」
分かってねぇなぁ。
怒る価値すらねぇ。
———人質に取るっつー選択肢がある時点で、お前らの主はこいつらが俺に勝てると思ってねぇってことだろ。
笑みを堪える俺に、敵意を強める怪人共。
「フィンガ」
「ああ、分かってる。この不運も背負ってやるぜ」
それに、ここの景色も気に入ったしなにより観光も楽しかった。
こいつらを相手取る理由の一つとしては十分すぎる。
腕を広げた彼女を横抱きにし、持ち上げる。
膝と背中に腕を回し支え、アイシャが俺の首に手を回したことを確認し、怪人共に足を振って挑発する。
「いいぞ、かかってきな」
「フザケテイルノカ?」
「おいおい、俺が愛する妻から離れて戦うはずがねぇだろ? 四の五のいいからかかってこいよ、オラ」
「行ケ!! ズタボロにシテヤレ!!」
多腕野郎の背後から怪人共が一斉に飛びかかってくる。
「我が名ハ複製怪人!! 我がいる限り兵が尽きるコトはナ――」
瞬時に跳躍し、先頭の一体の頭を蹴り砕く。
動きの出だしすらも反応できなかった一体は、砂浜に叩きつけられ虫のように四肢を痙攣させる。
「星将序列。その強さの指標ってのを知っているか?」
冷静に語りながら、かぎ爪で切りつけようとする一体を回し蹴りで両断。
回し蹴りの勢いで、さらに後ろ回し蹴りで背後の二体をまとめて処理。
さらに迫る一体を頭突きで、頭部ごと爆散させる。
「下位序列は、星をどれだけ侵略したか、滅ぼしたかで上がると勘違いしているが。んな方法で上がったところでどこかで行き詰まる」
つまりは、と口にし、残った一体を踏みつぶす。
「我らが頂点が独断と偏見で認めた戦闘力で決められるんだよ」
「身も蓋もないわよね」
つまり純粋に強いか弱いかで上位順位が定まっていく。
もちろん能力の相性云々はあるけどな。
「嘗メルナ!!」
複製怪人の身体から、溢れ出すようにさっきと同じ怪人が量産されていく。
木っ端とはいえど、あのレベルの怪人をこの速さで複製か!! 対処がしやすい部類とはいえとんでもない性能だな!!
「足手纏イを抱エテ何時まデ戦える!!」
「俺の愛が足手まといィ!? そりゃあ間違っているぜ!! 大間違いだ!!」
俺がアイシャを抱えているのは別にテメェを嘗めているわけじゃない。
両手を塞がれようが、動きが阻害されようが、どんなデメリットを抱えようが———、
「こっちの方が強いからに決まってるだろうが!!」
「意味不明なコトを!」
「なら、テメェにも分かるように教えてやる!! どんな理論、法則、常識を超越した絶対の答えを!!」
振るわれる爪を蹴り砕きながら叫ぶ。
「子を守る母親然り!! 帰りを待つ家族がいる者然り!! 生という荒波に揉まれながらも懸命に生きる者然り!!」
「フィンガ!!」
アイシャの不幸を司る能力により引き寄せられ、前触れもなくこちらに落下する極小の隕石。
俺に
「オラァ!!」
「なッ!?」
一切の勢いを衰えることなく、突き進んだ燃え上がる炎の礫は雑魚を巻き込み、複製怪人の胴体に直撃し大穴を開ける。
その威力は衰えることなく奴の背後の海に突き進み、巨大な飛沫を上げる。
「守るもんがあった方が強いに決まってんだろ?」
「がっ、ァ!?」
巻き上げられた飛沫が雨のように降り注ぐ中、大穴を開けた複製怪人が膝をつき、紫の血を吐き出す。
その隙を逃さず、息の根を止めようと追撃の蹴りを放つが———その一撃はさっきから動かずにいた全身銀色の怪人の両腕によって防がれる。
「さあ、熱くなってきた!! お前もそうだろ!!」
「……!!」
オメガとしての特性を発現。
頭髪が逆立つように赤く燃え上がり、むき出しになった肌が赤みを帯び、竜を思わせる鱗模様が浮かび上がる。
「
オメガとしての片鱗。
暴走を我がものにした力と、腕の中の最愛で最強の幸運の女神と共に俺はギアを上げていく。
降りかかる不幸を物理的に跳ね返す男、フィンガでした。
今回登場した怪人の一体は外伝にてレッド達の初陣で戦った複製怪人のコピー個体ですね。
今回の更新は以上となります。