今回もフィンガ視点でお送りいたします。
オメガの能力はその身を異形に変えるものが多い。
魂の根底にある本能を形にすることで、自らの肉体を変容・強化する。
能力の発動が感情をトリガーとすることから、大抵のオメガが自身の力を扱えずに“オメガの怪物”として暴走する。
そして、その暴走したオメガの行きつく先が序列100位代の“
鎖で縛られ、理性を失い、自由を失った哀れな存在。
俺がアイシャに出会わなかったら、きっと俺はそうなっていただろう。
だが、彼女という愛に出会ったその時、俺の運命は変わった。
「オラァ!!」
深紅の炎と鱗に包まれていく身体。
感情の昂ぶりにより出力を増していく戦闘形態への変態を完了した俺は、蹴りを両腕で防いだ全身銀色の怪人を力任せにぶっ飛ばし、足場の砂浜を蹴る。
爆発するように砂が舞い上げながら追撃を叩き込んでやろうとすると、空中に投げ出された銀色野郎の身体がぐにゃりと変形する。
「む!」
槍のように突き出したつま先が直撃するが、柔らかな感触と共に受け流される。
だが、それだけでは終わらないようで直撃された箇所から銀色の身体が俺の脚を飲み込む。
「フィンガ!」
「心配無用だぜ。……しかし、流体金属ってやつか」
打撃を受け流し俺の一撃を受ける程度の耐久力もありその上、変幻自在!
そしてこの感覚からして強力な溶解能力も有していると見た!
「なるほど、地球産の怪人っつーのは厄介な奴が多いようだ」
俺の脚にとりつき、溶かして取り込もうとしている銀色野郎を目にして笑う。
普通なら足を飲み込まれた時点で、片足は覚悟しなきゃならねぇだろうが。
「お前も硬さには自信があるようだが、俺には及ばない」
「———ッ、———ッ」
不思議なこともなにもない。
別に元から硬かったとかそういうわけじゃなく、アイシャと生きるために、彼女の笑顔を損なわないように、曇らせないように、俺自身が強くあろうと努力した。
「フンッッッ!!」
足に力を籠め、銀色野郎を気合で吹き飛ばす。
離れた銀色の流体金属が人の形を取り、その両腕を鋭利な刃物にさせたところで、さっき致命傷を負わせた多腕野郎が無傷の状態で戻ってくる。
「ヨクモ、ヨクモヨクモ!!」
「———」
状況をゼロに戻されたか。
あの多腕野郎、再生したわけじゃねぇな。
本体を入れ替えた? 雑魚を増やす能力からして、そいつらのどれかが本体に成りうる感じか?
あってほしくねぇのが本体が死んだ瞬間に雑魚のどれかが本体になるかってことだが————最悪全部ぶっ飛ばしちまえばいいだけの話だ。
問題はない。
「アイシャ、いけるか?」
「いつでもいいわよ?」
腕の中に彼女の確かな存在と温もりを確かめ、笑う。
ああ、いつだって俺は彼女のために笑っていなけりゃならない。
どんな不幸が振りかかろうとも、どんな不運に見舞われようとも、俺にしてみりゃ彼女の力によってもたされた幸運に他ならねぇからな。
「始末スル!」
「———」
愛すらも知らねぇ異形の怪人共が迫る。
「———さあ、確変だ」
「
アイシャの不幸のアルファとしての能力。
普段は彼女が意図して発動することはないが、彼女が自らの意思で能力を発動したその時、真の恐ろしさが発揮される。
「死ィィッガァァ!?」
目の前にまで近づいた多腕野郎のかぎ爪を後ろに下がって避けたその瞬間、運転手のいない大型トラックが常軌を逸した加速と共に多腕野郎に激突しぶっ飛ぶ。
目と鼻の先にいた共闘相手が成す術もなくトラックにぶっ飛ばされたことで、銀色野郎のないはずの顔が驚愕するように歪められる。
「———!?」
「俺の傍で立ち止まると大変だぞ」
隙を見せた銀色野郎を蹴り上げる。
放物線を描きながら落下する銀色野郎だが、次の瞬間には月の明かりを隠す雲から発せられた落雷が奴を貫通する。
「ちょうどいい避雷針だな」
「~~~ッ!?」
感電しながらも空中で変形し、その身体から鋭利な針を撃ちだしてくる。
普通なら俺の全身目掛けて迫る攻撃だが、運悪くそれらは不自然な軌道を描いて俺の致命傷となる頭と心臓目掛けて向かっていく。
「———!?」
「運がいいぜ」
確定急所、されど向かってくる先が分かる攻撃ほど対処しやすいものはない。
迫る針を蹴りで一気に薙ぎ払う。
さらなる変形を遂げながら着地しようとする銀色野郎———だが、不運はまだまだ終わらない。
降り注ぐ雷の余波でへし折れた道路標識が、俺を串刺しにする勢いで吹っ飛んでくる。
「またもや幸運!!」
それを足で弾き、ぐるん! と標識がその場で数回転したところで鱗と炎のオーラを纏った足で蹴り飛ばす。
一瞬にして炎に包まれた標識は乱回転しながら、銀色野郎のその脇腹に直撃し
ああ、なんてことだ! 今度は敵がこっちに突っ込んできやがったなァ!!
「やっちゃえ! フィンガ!!」
「おうよ!!
どっしりと足を開き右足に力を籠める。
炎に包まれた右足に竜の脚を思わせるオーラが形成され、それを———吹っ飛んできた銀色野郎の胴体に回し蹴りという形で叩き込む。
「———!!?」
「ハァァ!!」
防御の形態をとった銀色野郎の身体が赤く赤熱し、ボコボコと膨れ上がる。
勢いに任せて蹴り抜き、背中を向ける。
「歯応えのねぇやつだ……」
静かな決め台詞の後に、膨れがあった金属の身体を持つ怪人は内側からの爆発を引き起こし粉々に弾け飛んだ。
爆発を背景にかっこよく決めた俺を見上げるアイシャの潤んだ瞳。
「かっこいい……」
「ダンディでいい」
「ダンディ……」
惚れ直すどころか、惚れ重ねたんじゃないかコレ!?
内心のテンションの振り切りを表に出さず、クールに振り返った俺は次は残った多腕野郎を相手にするため奴の姿を探す。
砂浜に見事に埋まったトラックを軽く見てみるが、そこには既に奴の姿はない。
「逃げちゃったのかしら?」
「……いいや、ありゃそういう簡単な輩じゃないな」
アレは屈辱を感じるようなことがあれば、それを感じさせたら相手に執着するタイプだろう。
俺には学はない。
実際バカだということは自覚している。
そもそも生まれたその時から兵士をやっていた脳筋だからな。
だがしかし!!
アイシャを傍に感じた俺の知能は通常の5千倍(自称)にまで跳ね上がる!!
そこから導き出される答え。
心理学的見解から導き出される奴の行動を未来予知に等しい精度で導き出す。
仲間の怪人が始末されるまで奴は加勢にすら出なかった。
逃げた? 否、残虐性が非常に高く、自尊心も高い奴が逃げ出すとは考えにくい。
「ならば、次の手は!!」
そう言葉にし、俺はその場を跳躍する。
瞬間、俺が立っていた周囲の砂浜が盛り上がり、大量の鋭利な爪を持つ木っ端怪人共が現れ、先ほどまで俺とアイシャのいた場所に殺到した。
「ナゼ!! キヅカレタ!!?」
「仲間が始末されるまでの間で作れるだけの手駒を作り、砂の中から俺達を取り囲み油断したところを不意打つ———だろう?」
「ダンディ……」
仲間意識もねぇ。
大人しく引けねぇくらいの無駄な自尊心もある。
自身の強力な能力にかまけた奴にできることなんぞ、たかが知れている。
「そろそろやめておいた方がいいんじゃねぇか? 逃げても追わねぇぜ? 俺達は」
「フザケルナ……! 貴様ハ殺す、殺してヤル!!」
「……はぁ」
もう駄目だな、あいつは。
なにせ、
今宵引き寄せられた不運の中で最も厄い奴ら。
「死ねェェェ!!」
それに気づかず、腕をさらに増やして飛びかかろうとした多腕野郎と、奴の作り出した木っ端怪人の頭上から———青色の光線が雨のように降り注ぎ、その全員の四肢と頭を貫いた。
一瞬で致命傷を負わされた奴はなにが起きているか分からずこちらを見るが、そんな奴の頭上から黄色い死神が落下する。
「随分と懐かしい怪人やなぁ」
「パェ?」
「もう終わりやけどな」
振り下ろされたのは雷。
夥しい電撃を巻き散らしながら振り下ろされた戦斧は、動けない多腕野郎とその部下を破壊———瞬時に蒸発させる。
「フィンガ、あれって……」
「ああ」
蒸発した怪人によって発生した白煙と砂煙の中から現れた斧を肩に担いだ黄色の戦士、イエローの登場。
紛れもない強者。
本来なら真っ先に警戒しなければならない相手だが、今は———音もなく俺の背後に着地したレッドが俺の首目掛けて振るう刀を防ぐことを優先する。
「!!」
首に引き寄せられるように迫る刃を下から繰り出した蹴りで弾く。
自身の手元を見て一瞬だけ訝し気にするレッドだが、こっちは中々に肝を冷やした。
「っぶねぇ……!!」
「……?」
予備動作を極限まで省いた
意識の狭間を縫うような必殺の斬撃を対処する。
カィィン、と快音を響かせ弾かれる刀を一瞥しながら、レッドは殺気を強める。
「……できる」
できるじゃねぇよ、いつの時代の人間だ。
お前それ間違いなくこの時代の地球の言動じゃねぇと思うぞ。
「!!」
レッドは振るった刀が弾かれると即座に回転、同時に身に纏う浮遊する刃を足に展開させながら正確にこちらの首目掛けて叩きつけようとする。
それに合わせて、こちらもオーラを纏った蹴りを合わせ激突させる。
ギィィン!! と甲高い音を鳴り響かせながら拮抗し、体重差で弾かれたレッドはイエローの隣に着地しながら刀を構えた。
「まだ倒しにかからないって話じゃなかった?」
「直前までそうだったけど、攻撃する瞬間に首に引き寄せられるように動かされた」
「もしかして首狩りしたいあまり心と身体が別の動きをし始めた?」
「いや、ないから」
強い。
さっきの交戦でこいつらがどれだけの修羅場を潜ってきたのがよく分かる。
常に不利で、死と隣り合わせの戦いを潜り抜け、勝ち残ってきた戦士達。
さっきの能力だけの怪人共なんて目じゃねぇぜ、こいつらは。
「気遣ってくれたようだな」
「……なんの話」
俺の言葉にレッドはしらばっくれるが、さっきの会話からしてひとまず無力化しようとしたのは丸わかりだ。
アイシャの能力のせいで足の腱を狙った刀は首に向かってしまったが……恐らく、話が絶対に通じない怪人は即座に潰し、アイシャという一見して無力で美しい妻を抱えた俺を戦闘不能に……ってところだろうな。
「黒騎士から共有されているだろうが、俺達は星将序列、第九位“情熱のフィンガ”」
「アイシャよ」
自らを幸運と口にしないアイシャ。
彼女の繊細な心情を慮った俺は、彼女を抱きしめる腕に力を籠める。
「俺の幸運の女神だ」
「フィンガ、恥ずかしいわ……」
カワイイ!!
赤面する彼女にキメ顔のまま内心シャウトする。
「なにこの胸の痛み? これがココロ?」
「え、なにみせられとんの私ら?」
「リ、リア充……!!」
なぜかジャスティスクルセイダーの三人が動揺している。
「おっと、悪い。こんな時に少し惚気て悪いな」
「す、少し? ……ゴホン……お前たちはどうしてここで戦っていた?」
「どうしてもなにも、俺はアイシャと観光していただけだ」
特に隠す理由もないので正直に言う。
どうせ、街を調べれば隠す気ゼロで観光しまくっている俺達のことが分かるからな。
「砂浜で愛を語り合っていたところで、さっきの奴らが不躾に襲ってきたもんだから仕方なく対処しただけなんだよ」
「愛を語り合う!?」
「ひわぁ~」
「?!」
またもや三人が狼狽える。
歴戦の戦士のような殺気を向けてくると思ったが、そのあたりは年相応なのか。
「———むッ」
———待て、俺は事前情報なしで地球に遊びにきたわけだが、黒騎士とジャスティスクルセイダー関連はサニーにちょっと聞いている。
その時は話だけ聞いて特に思うところもなかったが、こいつらは見たところ十代ほどの年齢。
そしてホムラ・カツミも同年代。
そしてさらに、前回遭遇した時点でブルーと思わしき少女と行動を共にしていた。
そしてそしてそのさらに、なぜか閉じ込められた空間にレッドもイエローもいた。
俺の10000倍に跳ね上がった知力が導き出した答えは———、
「フッ、黒騎士も罪な男だぜ」
「さすが私達の息子ね」
「黒騎士くんは私のお兄ちゃんですけど?」
「何言ってんのこいつら」
「張り合うな。そしてレッド、アンタが言うな」
だがあれは難敵だぜ。
一目見ただけで、心の中に重いもんを抱えているのが分かった。
あれを落とすには俺ぐらいのストレートさがなけりゃ無理だろうな。
「と、とりあえず。そっちが巻き込まれたのは分かった。……その上で聞くけど、お前たちは私たちの敵?」
……そりゃそうだよなぁ。
こいつらは地球を守る戦士だ。
黒騎士も、地球という星とそこに住む人々を守るために戦ってきた。
そんな奴らからすれば、俺らのような存在は見過ごせねぇよなぁ。
「敵だぜ。なにせ、俺は黒騎士と戦う運命にあるからな」
アイシャと共にいるために、俺が俺でいるために黒騎士という
レッド達が臨戦態勢に入るのを感じながら、俺も笑みを深める。
「さて、立場がしっかり確認できたところで、もう攻撃していいんだぜ?」
「……その人を抱えたまま?」
レッドが睨みながらそう口にする。
怪人共を相手にした時とは全く状況が違う。
俺がアイシャを抱えて戦うと、こいつらも本来の力を出すことができないだろう。
———それは、ちょっと面白くねぇよなぁ。
「アイシャ」
「ええ、フィンガ」
腕に抱えたアイシャと見つめ合う。
言葉にしなくとも何をしたいのか分かりあってしまう。
それがどれだけ幸せで、幸運なことかを噛みしめる。
「俺とアイシャは生きる時も死ぬ時も一緒だ」
「ええ、フィンガ。私たちは一心同体」
「え? ねえ、これもう攻撃しちゃダメ?」
「え、なにこれきっつい……見ているだけで胸が苦しくなってきた……」
「圧倒的幸せオーラ……」
彼女が瞼を閉じる。
その瞬間、彼女から青い光が溢れ出す。
アルファとオメガ。
多くが悲劇で終わるその関係性の中で、幸運を掴み取った彼女が進んだ先。
「! 女の人が半透明に……!?」
『アルファの力の根底は、纏うこと。それは貴女達が良く知る彼、黒騎士くんの変身がそうでしょう?』
青い炎のように半透明に揺らめいたアイシャ。
重さも感じさせないように浮き上がった彼女は、包み込むように俺の首に手を回す。
まるで俺の首を巻きつくマフラーのように大きく揺らめいた彼女の青いオーラは、俺の全身の炎を青く染める。
「
静かに燃え上がる碧炎。
燃え上がる情熱の姿がレッドフレア。
そして、俺とアイシャの力が合わさった静かな炎の姿がブルーフレア。
『
黒騎士と戦う前に、一度や二度の死線を潜るのも悪くない。
———どこで終わろうとも愛する女の傍で死ねるってんなら、それ以上の幸せはないからな!!
確定急所を戦闘IQとフィジカルで利点にする九位でした。
今回の更新は以上となります。