明日、8月30日(金)より「追加戦士になりたくない黒騎士くん2ー白騎士編ー」が発売!!
こちらもよろしくお願いいたします!
そして、四日目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをご覧ください。
引き続きアカネ視点でお送りいたします。
奇妙な空間ではあった。
観光地にある和カフェ、その店内に私とカツミ君と———昨日戦ったばかりの星将序列九位のカップルが、テーブルを挟んでスイーツに舌鼓を打っている。
いかにカツミ君がまだ戦闘はしないといっても、私は内心の警戒をせずにはいられなかった。
「ふぅ、美味かったな。抹茶特有の風味、そして苦みを損なわず逆にそれを生かすアイス。そして計算されつくした白玉を筆頭にした盛り合わせ、そして極めつけはこのあんみつ、こいつにはさすがの俺もド肝を抜かれたぜ」
なんかめっちゃ食レポしてる。
宇宙人がものすっごい感動しながら食レポして感想を手帳にメモってる。
「甘すぎず、かといって他の甘味に負けない存在感……。そしてこいつぁ、アイス、白玉、あんこ、そのどれに合わせても別の顔を見せてきやがる……!」
「フィンガ、あーん」
「あーん。……うまーい!!」
迫真の顔で食レポしていたフィンガの顔は、抹茶プリンをスプーンに乗せたアイシャにより一瞬でだらしなく破顔する。
なんでこいつら普段からこんなだだ甘い空気作り出してんの?
こんなバカップルがいるだけで、地球がどんどん熱くなっている気がするのは気のせい?
「カツミ君、これは私達も対抗すべきでは?」
「え? ……対抗? ……なにを?」
衝動的に口に出してから「私なにやってんの!?」と理性が戻る。
困惑するカツミ君の手元の白玉ぜんざいはすでに食べ終え、私のパフェも残り一層だけ。
こんなパフェの最下層をあーん、するなんて論外だし、言ったからにはここでやめる方が空気おかしくなるし———混乱した頭のまま、私は手元にあるソレをカツミ君の前に差し出す。
「はい、湯飲み。あーん」
「湯飲みあーん!!?」
まだ温かい湯飲みを差し出す。
それに驚愕するカツミ君だが「え、こ、これが普通なのか???」と小さく呟く。
「はっ!?」
瞬間、脳内で光速で思考がよぎる。
脳内セーフティが作動し、ギリギリで理性が復活した私は咄嗟に湯飲みを下げる。
「やっぱり、やめとこっか!」
「……追加の白玉ぜんざい頼むか?」
「っっ……ううん、ダイジョブ」
察せられた察せられた察せられたぁ!!
横目でイチャイチャしてる九位を見たカツミ君が一気に優しい目になった瞬間を私は見逃さなかった。
こんなのアレじゃん!! 保護者目線じゃん!! 私は、近くの人をマネしたい年頃の子供か!?
「微笑ましいわねぇ」
「面白い関係じゃねぇか」
と、カツミ君に対して私の恥ずかしいやり取りをいつの間にか見ていたフィンガとアイシャもまた微笑ましいといった視線を向けてくる。
なんだかもういたたまれなくなった私は顔を真っ赤にしながらテーブルに突っ伏すしかなかった。
私が恥を晒した後、九位の二人が食事を終えたところで私たちはそのまま甘味処を出た。
そして、まだ準備中の露店がたくさん並ぶ人の動きが多い通りを進んでいく。
「今日、お祭りなんだってよ」
開店の準備をしている露店を横目に見ながら、カツミ君がそう呟いた。
「夜になると、海の方から花火が上がるし、ここもたくさんの露店が並んで人で賑わうらしい」
「知ってるぜ。ガイドブックに載ってたからな」
「ええ、私達も楽しみにしているの」
楽しんでいるなぁ、地球観光。
でも、お祭りかぁ。季節がちょっとズレている気もするけど、最近はこれくらいの時期にやるものなのかな?
小さい頃、行って以来馴染みがなかったなぁ。
「———お前らに会おうと思った理由は結構単純だよ。お前らと話をしてみたかった、それだけだ」
私の隣を歩くカツミ君が、後ろをついてくる二人に不意に話しかけた。
「なるほど、家族面談というやつか? 俺達の息子になるための?」
「違う」
「ふふふ、まさかこんなにカワイイ彼女さんまで連れてくるとは思いもしなかったわ」
「やめろ、アカネに迷惑だろ」
「カツミ君、気にしないで。私は全然、まったく、これっぽちも気にしてないから」
「そ、そうなの……?」
全然迷惑じゃないんですけどね?
思わずにこにこしながらそう言うと、何かを察したアイシャが後ずさる。
「まさかもう結婚してるの!?」
「してねぇよ!?」
「してます!!」
「お前も乗らなくていいよ!? 今日、どうした!? 大丈夫か!?」
なんだか色々とタガが外れてきているような気がする。
人間、恥を一つ越えてしまえばなんでもできてしまうんだね。
……今日の夜あたりに一人ベッドで羞恥でもんどりうつことになるだろうけど、その時はその時だ。
「……はぁ。お前らルインに言われて俺と戦おうとしてるだろ」
「おおまかな命令はそうだな。だがここにいるのは俺達の意思だ」
「地球は楽しいところだしねっ」
フィンガとアイシャの言葉にカツミ君は大きなため息をつく。
またあのストーカーの差し向けた刺客だったんだ。
当の本人たちは観光に勤しんでいるのがアレだけど。
「話がしたいってことは、俺達のことを知りてぇってことだよな?」
「まあ、話したくないなら別にいいぞ」
「構わねぇさ。別に隠すほどのもんでもねぇしな」
すっきりとそう言い切ったフィンガは、彼とアイシャのことについて語りだした。
戦闘ばかりが引き起こされる惑星で出会った二人の物語。
まるで、創作のファンタジーラブコメを聞かされているような心境になりながら、話を耳にしてしまっていると、不意に隣のカツミの君の表情が気になった。
「カツミ君?」
「……」
フィンガの話に、感動しているわけでも笑っているわけでもない。
ただ、なにかに思い悩む難しい顔をしていた。
「そして、お前らはハネムーンを地球で満喫してるってわけか」
「その通りだ。息子よ」
「だから息子じゃねぇって……」
重いため息をついたカツミ君が額に手を当てる。
数秒ほどそのままでいた彼は、額から手を離し———言葉を発する。
「お前ら、散々俺のことを息子にしようとしてくるが、俺じゃなくてもいいだろ」
「そんなことねぇな。お前くらいだよ、息子にしてぇのは」
「悪い。真面目に答えてくれ」
カツミ君のその言葉にフィンガが僅かに動揺する。
アイシャを見て、言い淀む彼に変わって彼女が口を開いた。
「私とフィンガは子供を育てられないのよ」
アイシャの発言に、私は思わず反応してしまう。
「……え、それって、どういう……」
「私って、不幸を呼んじゃうから」
私の言葉に、アイシャが苦笑いしながらそう答えた。
よく考えれば予想できる事実に私は自分の言動の迂闊さを後悔する。
「ごめんなさい、無神経だった」
「いいのよ。私達だって昨日、貴女達と戦っちゃったしお相子よ」
……さすがに私が誰かはバレちゃってるよね。
でも、今はそんなことどうでもいいくらいに気分が重い。
「私の能力って近くにいる人に不幸をもたらすけれど、私が大切だと思う存在により強く能力が発動しちゃうみたいなの」
「……それって」
「ええ、私の大事なものが増えるってことは、不幸にする対象が増えちゃうってことなの」
それから、彼女は自身の胸に手を当てる。
笑っているように見えるその表情は、私にはどこか泣いているようにも見えた。
「不幸を寄せ付けてしまう私が、子供なんて持てるはずがないでしょ? そんなの、生まれてくる子がかわいそうよ」
「……」
仮に子供がいたとしても、アイシャにとって身近な存在ならその不幸の矛先は最も大切な子供へ向けられてしまう。
全員がフィンガのように強くないから、彼女は子供を持つことを諦めてしまっている。
「だから俺を息子にしようってか?」
「もちろん、心のどっかで打算的なモンはあったのかもな。だが、お前と俺達は、似たようなモンが欠けているって感じたんだよ」
「……」
「そこで無言になるっつーことはお前も心当たりがあるんだな」
カツミ君に、欠けているもの。
彼は黒騎士になったその日から戦いに明け暮れていた。
簡単に国を滅ぼせるような敵と戦って、彼がなにを思っていたかだなんて多分本人もよく分かっていない。
分かっているのは、自分がいつ死んでもいいと思っていたことだけ。
「戦いしか知らなかったんだろ」
「そう、だな。そういう意味では俺とお前は似てるのかもしれねぇな」
軽くため息をついた後にカツミ君は言葉を続ける。
「今は違う。もう命を捨てるために戦っていた頃の俺じゃない」
「ほう?」
「俺は世間知らず……いや、自分のスーツに閉じこもって外の世界を知ろうとしていなかった。でも、お節介な奴らがスーツを引き剥がしてでも俺を助けようとしてくれてよ。それでようやく俺は黒騎士から、人間になれてきているんだよ」
カツミ君……。
そうだ、彼も孤独に戦っていたころの彼じゃない。
彼も今は頑張ってたくさんのことを知ろうとしてくれているんだ。
「俺はお前らの息子になることはできない。それは、絶対にありえない話だってことをまず分かってほしい」
「……そう、なのね」
はっきり、と言葉にしたカツミ君にアイシャが残念そうな顔をする。
「だけどまあ……」
そんな反応をする彼女に振り向かずに彼は続けて言葉を口にする。
「お前らと家族になれたやつは幸せなんだろうな」
彼は呟くようにそんな言葉を口にした。
さっき、九位の二人は子供を持つことができないと言ったはずなのに、彼の言葉はどこか遠い未来のことを想像してのものに思えてしまった。
「……カツミ、お前は」
「ついたぞ」
少し呆然としたフィンガが声をかけると同時に、カツミ君が立ち止まる。
到着したのは昨日とはまた別の砂浜。
不自然に人がいないその場所に、私たちは足を踏み入れる。
「人払いはもう済ませてる。ここなら、思う存分にやれるだろ」
「おいおい、ここでやんのか?」
「あんたも元よりそのつもりだろ」
カツミ君の言葉に「ハッ」と笑みを零すフィンガ。
「アカネ、一応変身して周りに被害が出ないように見ていてほしい」
「うん、分かった」
砂浜で向かい合う九位とカツミ君から離れながら変身する。
それと同時に、指令室と通信が繋がる。
『レッド、状況はこちらで把握している』
「私は戦闘の余波が広がらないように対処します」
『うむ、イエロー達にもいざという時のために控えてもらっている。……お前、なにかしたか? やけにピリついていたが』
「いえ、まったく心当たりがありません」
本当になー心当たりないなー。
しかし、帰ったら戦いは避けられないな、これは。
司令からの音声のみを有効にし、こちらの通信を切った私はカツミ君とフィンガを見る。
「準備はできてるか?」
「ああ、お前は俺達にとって避けられねぇ不運でもあるからな。だが、やるからには勝つぜ? ———やるぜ、アイシャ」
「ええ、フィンガ」
アイシャの身体が青く、半透明に変質し、フィンガの首に腕を回す。
同時に、彼の身体に青い炎が走り、その肉体の一部を竜のものへと変えていく。
「俺に死をもたらすお前を乗り越えてこそ、俺達は未来へ進めるってもんだ!!」
私達と戦った青の炎の姿。
戦闘態勢へと移ったフィンガにカツミ君は両手を掲げ、彼の懐から飛び出した白と黒の一対のオオカミ型のデバイスを手にする。
「やるぞ。プロト、シロ」
同時に彼の腰に現れたベルトのバックルに、デバイスを装填し彼の変身が始まる。
白と黒、そしてXの模様が各所に刻まれた戦士へと変身を完了する。
身体から溢れだしたオーラを手で払った彼は、フィンガと相対する。
「強いな。弱体化したと聞いたが、本当にしたのか?」
「どんな姿になっても、俺はできることをするだけだ」
「ハッ、そりゃそうか。……いいぜ? いつでもかかってきな」
カツミ君を挑発するように手招きするフィンガ。
奴への攻撃はアルファであるアイシャの不幸の力で強制的に急所に向かわされる。
それを理解していながらカツミ君は、拳を軽く握った。
「そうか。じゃあ、お構いなく」
地面が爆ぜる勢いで彼が加速する。
瞬時にフィンガに肉薄した彼がその拳を突き出した———瞬間、ガラスが弾けるような音が響く。
「……ぐおっっ!!」
『えっ、フィンガ!?』
吹き飛ばされたのはカウンターを狙ったフィンガ。
その表情を驚愕に染めた彼は、腹部を押さえながら拳を振り切ったカツミ君を見た。
「まず一言」
———
繰り出されたカツミ君の拳は、急所に誘導する不幸をぶち壊した。
ぐるんっ!! と腕を回したカツミ君が声を発する。
「誰が不幸をもたらす存在だァ? お前、人のこと散々不幸だとか、死をもたらすとか好き勝手に言ってきたが———」
カツミ君は自身を親指を向ける。
「それを選ぶのは俺に決まってんだろうが!! 人を勝手に死神扱いしやがって俺をなんだと思ってんだこの野郎!!」
それはそう。
キレながら真っ当な正論を口にするカツミ君に思わず同意してしまう。
「なぁにが、死を乗り越えるだァ!? お前がまず初めにやることは俺と戦わねぇように交渉することだろうが!! 不幸ならなんでも受け入れてんじゃねぇよ!!」
「お、おう」
「そんなに話が通じねぇやつだと思われてんのか俺はァ!?」
あまりのキレ具合にフィンガ側もちょっと引きながら頷いてしまっている。
多分、言われてカツミ君を死神扱いしていたことをちょっと申し訳なく想っているのかもしれない。
一遍に不満を吐き出せたのか、軽く深呼吸を繰り返した彼は顔を上げる。
「ふぅぅぅぅ……まあ、この戦いの場は俺が用意したわけだから後半の文句はお門違いなんだがな」
「えぇ……カツミ。お前言ってること滅茶苦茶だぞ?」
「滅茶苦茶ではねぇよ。俺にも、お前と戦わなきゃならねぇ目的があるからな」
目的?
彼の言葉にフィンガも引っかかったのか、立ち上がりながら笑みを浮かべる。
「そりゃなんだ?」
「戦いから抜け出せねぇのはお前の方だろ」
「———っ!」
「だから、それを自覚させるために———」
彼が再び、拳を構える。
「やろうぜ。テメェの不運に頼らねぇ殴り合い。正々堂々、真正面からぶっ倒してやるよ」
これまでの侵略者や怪人を倒すのとはまるで違う。
殺意でも闘争心ではなく、まるでなにかを伝えるような彼の声に対して、受けて立つようにフィンガも拳を構えた。
「湯飲みあーん」という普通の「あーん」より絵面がえげつない技。
そして死神扱いされて地味にショックを受けていたカツミでした。
今回の更新は以上となります。