追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

前半がフィンガ視点、
後半から別視点でお送りいたします。



本当の幸運

 黒騎士。

 地球に現れた最強の戦士であり、守護者。

 魑魅魍魎の怪人共を相手に戦い抜き、あのルイン様が目をかけるほどの傑物。

 そんな彼が繰り出した一撃はオメガとしての力を開放した俺でさえ悶絶するほどの威力だが、なにより驚愕に値するのが急所に誘われるはずのアイシャの不幸の力を無視し、攻撃を当ててきたことだ。

 

(オーラ)!!」

 

 強敵、それもとびっきりのやべぇやつだ。

 これを相手にして燃えないわけがねぇ。

 全身から青炎を滾らせながら、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。

 

「不幸を招く」

 

 アイシャの不幸が発動し、頭上から降り注ぐ隕石を黒騎士目掛けて殴り飛ばす。

 光速で打ち出された礫に対し、黒騎士はその拳を軽く振るうだけで砕き割る。

 迎撃は想定内。

 その間に接近しながら、炎を纏わせた回し蹴りを繰り出す。

 

「……!」

 

 回し蹴りも片腕で受け止め、流すように払われる。

 黒騎士に関しての事前情報は予習済みだ。

 有無を言わせない一撃必殺の拳による究極の撃破能力。

 多種多様な武器と属性を操る万能性。

 しかし、今の黒騎士は明らかに手加減をしている。

 

「手加減してくれてんのか? お優しいなァオイ!!」

「殺さねぇように気を遣ってんだよ!! 感謝しろ!!」

「ありがとよォ!!」

 

 こんぐらいはっきり言われる方がいっそのこと清々しいな!!

 弱体化した黒騎士と言えども必殺技を発動してしまえば、最初の一撃で死んでいてもおかしくはなかった。

 侮られている、なんて思い上がったことを思わねぇ。

 黒騎士は、自身の必殺を捨てて拳という形で俺と対話しようとしてくれている……!!

 

「ならよ!!」

 

 退屈させるわけにはいかねぇよなぁ!!

 戦闘スタイルを変え、大振りな動きから刻むように拳を繰り出す。

 

「!」

 

 間断なく撃ちこまれる拳。

 それに対して黒騎士は拳を緩く握りしめ、その両手で突きを捌いていく。

 

———堅牢だな……!!

 

 防御が崩せない。

 それも当然だ。反撃すらも許さない速度で動ける奴の動体視力が生半可なわけがねぇ。

 俺と比べ体格に遥かに劣る黒騎士にまともに攻撃が通せない。

 その事実は、黒騎士が一撃必殺一辺倒の戦士ではないことを証明していた。

 

「武術も齧ってんのか!」

「んな高尚なもんじゃねぇよ」

 

 確かに、どちらかというと型に嵌ったものでもねぇ。

 むしろ、本能と理性を併せ持った動き―――実戦という状況で最適化された動きだ。

 

「考え事をしている暇があんのか?」

 

 黒騎士が硬く握りしめた拳を構える姿が視界に映りこむ。

 

「おおっと!?」

「ふんっ!!」

 

 そう認識した瞬間には、彼の拳は俺の胴体に叩き込まれる。

 かろうじて両腕で防御はしたものの、受けた腕自体が痺れるほどの威力だ。

 

「アイシャ!」

「ええ!!」

 

 アイシャの能力が発動する。

 引き寄せられたのは、道路側から突っ込んで来た五台ほどの無人のバイク。

 エンジンを暴走させ、火を噴きながらこちらへ殺到するバイクを一瞥し、先頭の一台を掴み取り黒騎士へと叩きつける。

 

「持ち主が困るだろうがァ!!」

「お前も壊しているじゃねーか!!」

 

 拳の一撃であっさりとバイクを粉々に打ち砕きながら、殺到する別のバイクも蹴りで薙ぎ払われる。

 部品で視界が狭まるところを狙い、炎を噴き出し加速をかけながら接近戦を仕掛けていく。

 

「オラァ!!」

「……っ!!」

 

 跳躍と同時に鎌のように振り下ろされる蹴り。

 まるで当然のように急所に誘導される不幸を無視した一撃を、両腕で防ぐ———と同時にまたガラスが割れるような音が鳴り響いた。

 

「っ、やっぱり誘導されてねぇなぁこりゃ!」

「そんな、能力は発動してるのに……」

 

 アイシャの能力は発動しているはずなのに、俺に対する攻撃が急所に誘導されてねぇ。

 いったいどういうことだ? 黒騎士限定で能力を無効化されている?

 能力を使っていることは確かだ。

 事実、黒騎士の一撃をもらうたびに何かが砕けるような音が聞こえている。

 

「炎には炎か」

CHANGE(チェンジ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

 

 黒騎士の半身が灼熱に包まれる。

 そのまま放たれた炎に包まれた拳に対して、こちらも炎で対応する。

 

「!」

 

 黒騎士の半身から溢れだした灼熱色の炎と、青色の炎と激突し頭上へと舞い上がり渦を成す。

 

「こりゃあ、お前の能力か!」

「あぁ!?」

「不幸の力が通用しねぇのはよ!!」

 

 互いに攻撃を繰り出しながら、声を張り上げる。

 この現象は間違いなく黒騎士が仕掛けているものだ。

 危険な攻撃が普通のものに戻っただけで、こちらとしては大して実害はないが、それでも聞かずにはいられなかった。

 

そっち(・・・)に能力は使ってねぇ」

 

 しかし、黒騎士の答えはシンプルなもの。

 能力を使っていない、という答えに呆気にとられた俺に、そのまま後ろへ下がった黒騎士が拳を掲げる。

 

「お前に死をもたらす一撃が誘導されるっつーんなら、どの部位に当たっても関係ねぇ攻撃を食らわせりゃいいだけじゃねーか」

「……は?」

「分かりやすくやってやるよ」

 

 その言葉と同時に、ぞくり、と眼前に立つ黒騎士の圧力が増す。

 濃密な死の予感。

 それを認識し、咄嗟に急所への攻撃に備えようとした———が、黒騎士が放った一撃は誘導されることなく、胴体へと吸い込まれ———寸前で減速し軽い打撃へと変わる。

 

「……ッ、おいおい、んなバカなことがあるかぁ!?」

 

 口で言うだけならそりゃ簡単だろ!!

 それじゃあアレか!? さっきからお前は俺を殺す気で殴り掛かって当たる瞬間に手加減してるってんのか!? 器用とかそういう次元じゃねぇだろ!?

 アイシャの能力は一種の運命操作……!!

 言うなれば、こいつは“死をもたらす一撃”という定められた運命を技術のみで欺いているようなもの。

 単純なフェイントで誤魔化せるような芸当じゃねぇ。

 

「そして、それが難しいなら!! これに加えて!!」

 

 再度、強烈な踏み込みと共に肉薄した黒騎士。

 鞭のようにしならせた右拳がこちらに迫り———迎え撃とうとしたと同時に空気が爆発するような音と共に俺の身体を衝撃が襲い掛かる。

 

「うぐぉ!?」

「触れなきゃいいだけだ」

 

 ———寸止めかッ!!

 直前で拳を引き、空気を破裂させてその衝撃を俺に当てた!!

 

「確かに、放たなきゃ攻撃を誘導されるはずもねぇな……!」

 

 発動条件が自身へ向けられた攻撃なら誘導はされるが、寸止めに生じた衝撃波は指向性を持たない。

 大したダメージにはならないが、確実に俺に攻撃を与えられる有効な技だ。

 

「こっちの種は分かったな。じゃあ、再開だ」

「っ!!」

 

 肉薄と同時に拳を突き出すが、腕で受け流される。

 距離を詰められないように膝蹴りを繰り出し、僅かに後ろに下がられ空ぶる。

 

———楽しいなぁ!! オイ!!

 

 いつぶりの緊張感か。

 ルイン様が目の前に現れた時か。

 一位の爺さんと直接顔を合わせた時か。

 はたまた、アイシャが四位と五位———傍迷惑な艦隊を引き寄せた時か!!

 否、今抱いているこの焦燥は!!

 俺の命を明確に脅かす危機感は、いずれの脅威をも上回る!!

 

「この窮地、燃えなきゃ損だぜ!! やるぜ、アイシャ!!」

「やっちゃって、フィンガ!!」

 

 この期に及んで出し惜しみはしねぇ!!

 全身に力を籠め、俺の中のオメガの力とアイシャのアルファの力を同時に最大限にまで高め、その純度を高めていく。

 

臨界(オーバー)!! 情熱変異(サラマンダー)ァァ!!」

 

 この身に滾る炎が燃え上がり、熱量は純度を増しその色を純白へと染め上げる。

 白い炎が装いのように俺の身体を覆いながら、光り輝きながら燃え上がっていく。

 

「『純白炎(タキシード)!!』」

 

 俺達の変化を目の当たりにした黒騎士は、受けて立つと言わんばかりにその身に溢れだしていた炎を消し去る。

 

「ハッ、いいぜ。乗ってやるよ!!」

 

CHANGE(チェンジ)!! GRAVITY(グラビティ) BLACK(ブラック)!!』

 

 彼はバックルの側面を叩く。

 真っ黒な引力が黒騎士の周囲を取り囲み、その姿を漆黒へと変化させる。

 

「オラァ!!」

「ふんっ!!」

 

 互いの拳が激突し、白炎と重力が放たれる。

 ———俺を殺さないように手加減されていることは理解している。

 だが、それ以外の戦闘においての駆け引きは、紛れもない黒騎士———カツミの本気のものだ。

 

「さあ、来いよ!!」

 

DEADRY(デッドリィ)!!』

 

 軽快にバックルを叩く。

 重厚な音声が鳴り響かせたバックルからエネルギーが溢れ出す。

 

「オオ!!」

 

 こちらも炎を噴出させながら拳を掲げ、突撃する。

 そのまま互いに攻撃を放つ———かと思われたが、黒騎士が繰り出したのは必殺の拳ではなく、俺が技のタメに踏み出した右足への蹴り。

 払うように放たれた下段蹴りは的確に重心の隙間を穿ち、態勢が崩れる。

 

———ッ、こいつはイエローの技!?

 

 繰り出した渾身の一撃は踏み込んだ黒騎士に避けられ、同時に掴み取られる。

 視界が上下逆転し———投げられたと認識した瞬間、バックルを叩き、こちらに指を弾くような構えを見せた黒騎士の姿が映りこむ。

 

PLOT-0(プルート)LUPUS(ルプス)

 

 ———なにか、赤と金の入り混じった力が黒騎士のひび割れた指先から溢れだす。

 だが、その力からなにも感じない。

 脅威も、恐怖も。

 

■■■■■■(ジェミニ)■■■■■■(ジェミニ)

 

「頼むぞ、プロト」

 

 指が弾かれ、衝撃が全身を襲う。

 存在が揺るがされるような一撃が、全身を貫通し通り過ぎる。

 

「うごぉ!?」

 

 そのまま尋常じゃない衝撃に俺の身体は吹き飛ばされ、宙を舞いながら混乱する。

 

「っ!? なんだ!?」

 

 衝撃はあった。

 だが、痛みはない。

 不自然なほどに衝撃以外の痛みが伝われないことに困惑しながら、空中で体勢を整えながら着地しようとして———、

 

「きゃぁ!?」

「っアイシャ!?」

 

 突然、俺の首に腕を回していたアイシャの能力が解除されてしまった。

 実体化し、空中に投げ出されたアイシャをすぐさま抱えると、彼女は自身の両手を呆然と見ている。

 

「アイシャ、無事か!?」

「え、ええ……ど、どういうこと?」

 

 怪我があるようには見えない。

 だが、彼女の様子がおかしい。

 両手を見つめて、彼女は声を震わせながら途切れ途切れに言葉を口にする。

 

「能力が、なくなった……?」

「なんだって……?」

 

 ……アイシャの不幸を招く力がなくなった……?

 困惑した彼女はこちらを無言で伺っている黒騎士に声を投げかける。

 

「カツミ、貴方、いったい私になにを……」

「……あんたの能力を壊した。成功したようでなによりだ」

 

 黒騎士は赤黒いオーラに包まれた拳を軽く払う。

 ひび割れた指先が修復されていくごとに漏れ出したオーラは消え、元に戻っていく。

 

「同じ類のアルファの能力を持つからこそ、できる芸当……らしいな。悪い言い方になるが、今後あんたの力は戻ることは絶対にない」

 

 アイシャの不幸を招く能力が壊れた。

 それはつまりアイシャが普通に生きられることを意味する。

 

「……ぁ、え……」

 

 まだ現実味がないのか、アイシャも困惑したままだ。

 当然だろう。

 不幸を司る能力はアイシャにとって生まれた時から常に傍にあったもの。

 俺にしてみても、困惑しているのは同じだ。

 まさか、こんな形でアイシャの抱える苦悩がなくなるなんて思いもしなかった。

 

「私、な、なんて言葉にしたらいいか分からなくて……もう大切な人を不幸にしなくてもいいの?」

「能力がなくなった今、これからの幸不幸を決めるのは、他ならない貴女自身だ」

 

 その言葉に、アイシャはその瞳に涙を浮かべ両手を顔を覆ってしまった。

 泣きじゃくる彼女を気遣う俺に、黒騎士は未だ変身を解かないまま俺へと問いかける。

 

「どうする? 終わりにするか?」

「アイシャを救ってもらったんだ、これ以上戦う理由もないだろう」

「……そうか」

 

 

 違和感

 

 

 もう戦う必要がないのに変身をしたままの黒騎士に、俺は足を止めてしまう。

 

「……」

 

 なぜ、黒騎士は最初からアイシャの能力を壊せることを口にしなかった?

 彼の性格上、わざわざ戦おうとしなくてもアイシャを助けてくれてもおかしくない。

 黒騎士が変身を解いていない。

 まだこの戦いは終わっていない。

 なぜ、こんな回りくどいやり方で?

 まさか、まだ別の目的があって?

 

「———俺、か」

 

 彼の意図に気づく。

 気づいて、この期に及んでバカだった自分に呆れてしまう。

 

「黒騎士。いや……カツミ、少し待っていてくれないか?」

「おう」

「ありがとな」

 

 彼に背を向けて、俺は遠巻きにいるレッドの方へアイシャを抱えて移動する。

 

「アイシャ、すまない」

「どうして、謝るの? それに、どうしてまだ変身しているの?」

 

 そのまま彼女に静かに語り掛ける。

 俺は、今の今まで自分に言い訳をして気づかないフリをしていた。

 

「俺は、君が大事だ。一番愛している」

「……うん」

「だけどな、それでも俺は戦いが好きだ。君の次に好きなんだ」

 

 一番がアイシャなのは本当だ。

 なにより優先されるし、彼女を悲しませるようなマネは絶対にしたくない。

 俺は、自身の胸を指さす。

 

「生まれた時からずっと戦士だった俺は、まだここにいるんだ」

「……知ってたわ。だって、戦っている貴方ずっと楽しそうなんだもの」

 

 俺は結局戦士として倒されていない。

 戦士のまま愛を知ってしまって、中途半端なまま戦いに惹かれてしまっている。

 

「あの子は、それが分かっていたんでしょうね」

 

 無言で待ってくれている黒騎士を一瞥して、アイシャがそう呟く。

 

「俺以上に、彼は俺のことを理解していたからな。本当に、息子にできないことが残念だ」

 

 未だに戦いに囚われていたのは俺自身だった。

 心のどこかで、降りかかる不幸によってもたらされる強者との戦いを望んでいた。

 改めてその事実を認めた俺は、横抱きに抱えた彼女をレッドの隣に下ろす。

 

「彼女を頼めるか?」

「……うん。守るよ」

「悪いな」

 

 本当に情けねぇ。

 愛した女に無理をさせて、敵として戦ったレッドに助けてもらって。

 挙句の果てに息子と呼びたかった男に、逆に気を遣ってもらっていただなんて———、

 

「幸運だよな。ああ、俺には勿体ないほどだ」

 

 そう呟き、自然と笑みを浮かべながら俺はまた黒騎士と相対する。

 

「それじゃ。続き、やるか?」

「ああ。……悪いな。お節介を焼かせちまって」

「気にすんな」

 

 全然気にした素振りもなく黒騎士は組んでいた腕を解き、その視線をアイシャの隣にいるレッドへと向ける。

 

「俺も同じことをされたからな。なら、あいつらにしてもらったことと同じことを、あんたにしてやるだけだよ」

 

 人間になる、か。

 ああ、俺はまだ戦いから抜け出せていなかった。

 だからこそ、これから俺は愛のために戦う男ではなく、かつて戦いに飢えていた戦士として戦う。

 

「これで、最後だ」

 

 いつまでも戦士ではいられないから、俺は今度こそ戦士としての自分を殺すために今一度、黒騎士へと挑んだ。

 

 


 

 実際に会って話して、その上でフィンガの過去を聞いて分かったことがある。

 “こいつは、まだ戦いに囚われたままだ”と。

 アイシャへの愛は本物だ。

 だが、それを踏まえてもフィンガの心は依然として戦いに惹かれ、それを放っておけばいつか彼自身を破滅させてしまう。

 

 どうして、敵にここまでするのか? と聞かれれば我ながら返答に困ってしまう。

 大きな理由の一つとしては、フィンガがかつての俺と似ていたからというものがある。

 怪人と戦い、いつか死ぬことを望んでいた自分を見ているようでイラっとしたし、だからこそなんとかしてやりたいと思ってしまった。

 

「———俺の勝ちだ」

 

 突き出した拳を引き、砂浜に大の字で倒れ伏すフィンガに言い放つ。

 小細工無しの殴り合い。

 殴って殴ってぶん殴って、最後に俺が殴り勝ってぶっとばしてやったわけだが……。

 

「まだ満足してねぇなら何時間だって付き合ってやってもいいぞ?」

「いや降参。これ以上やったら流石に死ぬ」

「……ナメクジ怪人は夜明けまで耐えてたんだがな……」

「それは、夜明けまで殴り続けるお前がえげつねぇのか、夜明けまで耐えた怪人のどっちがやべぇんだ……?」

 

 ナメクジ野郎は無駄にしぶとかっただけだけどな。

 とりあえず、フィンガに手を差し伸べて起こさせる。

 

「まったく、遠慮なくボコボコにしやがって……ありがとな!!」

 

 怒ってんのか礼が言いたいのかどっちだ。

 俺の手を取って立ち上がった彼の顔つきはどこか清々しいものだった。

 

「もう大丈夫みたいだな」

「……あぁ。ちゃんと俺は戦士として敗北……いや、ようやく死ねた」

「殺してねぇよ。ちゃんと生きてんだろ」

「比喩だよ、比喩」

「フィンガ!!」

 

 砂を払ったフィンガの元にアイシャが駆け寄る。

 勢いのまま、フィンガはアイシャを抱擁するように受け止めた。

 

「もう俺は戦士として戦うことはない。俺の力は、愛する君のために使う」

「フィンガ……!」

 

 はぁぁぁ、これで一件落着か。

 まあ、こいつらも別に悪いやつらでもねぇし、アルファの能力で周囲に被害が出ないようにできただけで十分なんだよな。

 フィンガに関しては俺のお節介みてぇなもんだし。

 一息ついて肩の力を抜いている俺の元に、やや遅れて変身を解除したアカネも俺の隣に移動してくる。

 

「いつきららの技を教わったの?」

「ん? 見様見真似だよ」

「えぇ……?」

 

 きららの技と比べたら全然だったろ。

 なぜか引いた様子のアカネに不思議に思っていると、ひとしきりアイシャと抱き合っていたフィンガがこちらを振り向く。

 

「カツミ、俺は決めたぜ」

「ん? なにを?」

 

 なんだか嫌な予感がするんだけど。

 

「いつか、俺とアイシャに子供ができたらお前に名付け親になってもらおうってな」

 

 ……は?

 

「いやいや何言ってんだお前!?」

「まあ、それはいい考えね!!」

 

 しかもなぜかアイシャまでもが同意してしまう。

 

「全然よくねぇだろ!! 大事な子供の名前を他人に任せんな!!」

「他人じゃねぇだろ兄弟」

「兄弟でもねぇだろ!?」

「貴方は私達の生まれてくる子のお兄ちゃんであり恩人……そして、叔父みたいなものじゃない?」

「あらゆる事実が捏造されてる!!」

 

 今度は息子じゃなくて兄弟にされた上、叔父にされようとしてる……!!

 クソ!! 家族問題を解決して息子認定を回避しようとしていたのに!!

 

「カツミ君、私の名前と君の名前を合わせて、アツネとかどうかな?」

「頼む、アカネ! お前までおかしくならないでくれ……!」

「いや、未来で必要になるかもしれないし」

「未来で必要になる!?」

 

 どうしてここでさらに混乱させるようなことを!?

 自然に名前を考え出すアカネにびっくりしながら、バカなことを考えているフィンガとアイシャを説得しにかかる。

 

「なあ、聞こえてるか!? 子供の名前とか大事なことを人に任せようとすんな!!」

「断るなら、名前はお前の名前になるぞ」

「女の子だったらどうすんだ!?」

 

 とんでもねぇ脅迫をされたんだが!

 名付け親を拒否されたら子供の名前が俺になるとかやばすぎるだろ。

 

「まあ、この話はまた後にするとして」

「後にしなくていい」

「俺はお前に負けた。正直、殴られまくって全身が痛いので帰らせてもらいたいところだが……お前らの組織に捕まった方がいいか?」

 

 捕まえるか、このまま逃がすか。

 正直、俺としては別に逃がしてもいいとは思ったが、ここはレイマの判断に委ねよう。

 プロトにレイマに繋ぐように頼む。

 

『状況は確認していた。戦闘ご苦労、カツミ君』

「ああ。それでレイマ。どうする?」

『うむ。彼らに関しては監視はつくと思うが、放置しても問題ないだろう。どちらにしても序列一桁を完全に閉じ込める装置も時間も我々にはないからな。ならば、ある程度の融通を聞かせた方がいい』

「分かった」

 

 レイマの言葉をそのままフィンガとアイシャに伝える。

 

「だろうな。元より好き勝手はするが、地球を害するつもりはなかったからな。監視は大人しく受け入れる」

「そう、か」

「それと、悪いが俺達がお前たちの戦力に加わることはできねぇ」

「そこまで言うほど図々しくねぇよ。いらねぇ気を回してないで奥さんだけ守ってろ」

 

 戦士としての側面を捨てることができたフィンガに、協力して戦えって頼むわけないだろうが。

 なんのために俺があれこれやったと思ってんだ。

 はっきり言ってやった俺に、フィンガが目を丸くして驚いた後に、大口を開けて笑い出した。

 

「がははは!! あー、そうだな! お前はそういうやつだよなぁ兄弟!!」

「だから兄弟じゃねぇ」

 

 もう完全に兄弟扱いされてんのどうなんだよコレ……。

 げんなりしてしまう俺をよそにひとしきり笑ったフィンガは、さっきの戦闘でぶん殴られた腹を押さえて痛がりながら、顔を上げる。

 

「ははは、あー、笑いすぎていてぇ……いや、本当に泣きそうなくらいに全身痛くて休みたい……」

「フフ、そうね。今日はもう帰りましょう」

 

 なんだか戦闘以外のところですっげぇ疲れる。

 アイシャに肩を貸されながら、宿のある方へと歩き出したフィンガがこちらへ振り返る。

 

「また会おうぜ、カツミ。そしてレッド」

「本当にありがとう。息子になりたかったら、いつでも言ってね?」

 

 さらっとまだ息子にすることを諦めていない事実に少し震えながら、俺とアカネは二人を見送る。

 

「……終わったね」

「ああ。疲れた。本当に」

 

 その姿が見えなくなったあたりで、ため息をついた俺は砂浜へと座り込む。

 気づけば空は赤らんできており、砂浜から離れた街の方からは祭りに集まった人の賑わう声が聞こえてくる。

 

「お祭りが始まるね……どうする? このまま帰る」

 

 お祭り、か。

 疲れたのは本当だし、このまま帰っても別にいいだろう。

 でも、折角の外出だしお祭りだもんなぁ。

 ……よし。

 

「皆を呼ぼうぜ。こういうのは人が多い方が楽しいんだろ?」

 

 見上げてそう言葉にした俺に、アカネは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ。そうだね、そうしよっか」

「おう。変装してくるの忘れんなって言っておかないとな」

 

 本部で待機している皆に連絡を繋げるアカネを横目で確認しつつ、徐々に暗く染まっていく海を眺める。

 ———不幸を当たり前に受け入れていたアルファに、戦いを忘れられなかったオメガ、か。

 

「あいつらはもう大丈夫だろうな」

 

 そのどちらの抱える問題も解消した今、本当の意味であいつらを止められる者はいないだろう。

 ある意味で俺に対して無敵みたいなことになっているのはかなり困りものではあるけどな。




息子から兄弟にされた上にそのうち兄と叔父にされるかもしれないカツミでした。


今回の更新は以上となります。
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