追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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たくさんの感想ありがとうございます。
いつも、楽しく読ませていただいておりますm(__)m

今回はレッド視点となります。
あえて、タイトルにはつけませんでした。



力を束ねて、戦いの決着

 大きな閃光が、ベガとアクスへと襲い掛かる。

 しかし、その拳は彼らへと到達する寸前に暴発し、直撃することなく彼らを吹き飛ばしただけだったけれど、それでも彼らの恐怖を煽るのに十分なほどの不意打ちであった。

 

「い、いきなり何を!?」

「まさかとは思ったけど、こっちにも完全適合!? 洗脳はどうしたの!?」

「……いきなりだから調子が掴めねぇ。……プロトスーツとは勝手が違う」

 

 異星人の変身アイテムをその身に受け、それでもしっかりとした自我を保っていたカツミ君は、警戒するベガとアクスを一瞥した後に捕まっていた少女へと歩み寄り、光り輝く縄を素手で引きちぎる。

 

「アルファ、逃げろ」

「カ、カツミ……」

「逃げろ!! 約束を忘れたのか!!」

「……ッい、いやだよ! 一緒にいるっていったじゃないか!! だから、私、ずっと近くに――」

「行け!!」

 

 アルファ、と呼ばれた彼女はカツミ君の剣幕に叱られた子供のように目を瞑った後に、その場から駆け出し一瞬でその姿を消してしまう。

 彼女の姿を見送ったカツミ君は、前を向き直ると拳を鳴らしながらベガたちへと向かって行く。

 

「随分と変な格好にさせてくれたなァ、この野郎……!」

「な、なぜ……! ありえん!! 洗脳されていないだと!? 下等種族の人間ごときに破られるものではないのだぞ!!」

 

 カツミ君には、洗脳が効かなかったのか?

 その事実に驚愕するベガではあったが、すぐに余裕を取り戻す。

 

「だが、変身したところでこちらで解除してしまえば意味はない。アクス」

「りょ、了解……」

 

 腕の端末を操作するアクス。

 さっきと同じように変身を強制的に解除させるつもりだ……!?

 

「……ッ!? 解除できない!?」

「どういうことだ!?」

「ダストスーツのエネルギー出力が書き換えられたんですよ!! ベルトそのものが私達の干渉を拒絶した!?」

 

 解除、されていない?

 慌てふためくアクスに、ベガも動揺を隠しきれないようだ。

 

「コアに意思が残っているとでもいうのか!? そのような理屈――」

「話は終わったか?」

 

 傍目に分かるほどの怒気を放つ白い戦士。

 周囲の空間を捻じ曲げているように見えるほどの錯覚を見せる、彼の怒気にベガとアクスは顔を青ざめさせる。

 

「なら、そろそろ攻撃してもいいんだよな?」

 

 地面が爆ぜ、とてつもない勢いでベガへと襲い掛かる。

 彼の怒りを目の当たりにした男と科学者らしき女は、即座にチェンジャーを起動させ、戦士の姿へと変わる。

 私達が戦った戦士達とは異なる、銀と金の戦士。

 アクスが変身した金の戦士は、その掌をカツミ君へと向け何かを作りだそうとする。

 

「じゅ、重力空間でこのサルを―――」

「うるせぇ!!」

「ぐおっぷぇ!?」

 

 しかし、目にも止まらぬ速さで蹴り飛ばし、彼は銀色のスーツと鎧を身に着けたベガへと殴りかかった。

 その速さはプロトスーツを遥かに超えており、パワーそのものも格段にアップしているように見えた。

 

「テメェ、勝手に地球にきて何するつもりだったんだァ!?」

「舐めるな! 人間風情が!! この私専用に強化された星級装備を超えられると思うな!! 強化(アップグレード)!!」

 

 戦いながらベガのスーツに装甲が追加され、さらに武器も装備されていく。

 

「お前のは所詮古代兵装(アンティーク)!! 時代遅れの鉄くずごと―――」

「ごたごたうっせぇんだよ!!」

 

 彼は追加された装甲ごとベガの頭を殴りつける。

 いくら装甲を増やしたとしても、彼のパワーを前に言葉を失うベガ。

 

「つまらねぇ御託を並べやがって!! 口だけ野郎が!!」

「がっ、ぐ、おべっ!?」

「無駄に頑丈なのも腹が立つ!!」

 

 理不尽すぎる言葉と共にベガの肩のアーマーをシールドごと引きちぎり、さらに追加されていく前に彼に攻撃を加えていく。

 その姿は黒騎士として怪人を一方的に倒してきた彼の姿となんら変わりはなかった。

 

「や、やめっ……」

「なぁにがゲームだ! プレイヤーだ!! 出遅れてやってきた癖してなにイキがってんだこの野郎が!!」

「が、ぼが!?」

「前々からテメェらには、言いたいことが沢山あったが!!」

 

 腕を掴み上げ、そのまま何度も地面へ叩きつける。

 バウンドするように身体を跳ねさせたベガはその衝撃と激痛に、つい数分前の様子からは考えられないほどの絶叫を吐き出した。

 

「が、ああああああ!? うわああああああ!?」

「だが、それも!!」

 

 部品と青い血をまき散らすベガを空中へと放り投げ、彼は大きく拳を振りかぶり―――、

 

「忘れたから、殴りながら思い出すことにする!!」

「げばっ!?」

 

 ———力の限りに、殴り飛ばした。

 地面を削りながら、数十メートル吹き飛んだベガ。

 

「あ、圧倒的すぎるよ……」

「あれ宇宙人の装備だから……じゃないよね?」

「多分……」

 

 私もきららも葵もぽかーんと口を開けて、傷ついた体を押さえながらその場で見ていることしかない。

 続けて彼が追撃しようとすると、なぜか足を止めた彼が額を押さえる。

 なんだ? まさか、またなにかしらの攻撃を彼に……!?

 

「……ッ、随分親切なベルトだなぁ! 頭に直接使い方を教えてくれたようだ……!」

「バカな……!? そ、そのような機能は――」

「教えてくれたなら、使うしかないよな……!」

 

 カツミ君がバックルに手を伸ばし、側面のスライドを一度引っ張った。

 すると、バックルへと変えられたオオカミのような何かが歓喜の叫び声を挙げるかのように咆哮を響き渡らせた。

 

 FLARE RED!! →OK?』

 

 まるでその回答を押すように、さらにバックルの上部分のボタンを軽快に叩いた。

 

『CHANGE!! →TYPE RED!!』

 

 無駄にテンションの高い電子音声の後に、胸部の三色のプレート全てが赤に染まり、その部分を中心に伸びる黒いラインに赤色のエネルギーが流れ、全身に満ち溢れる。

 炎の力を身に着けた彼は、拳を鳴らしながら身体を機械で修復させているベガへと歩くように近づく。

 

「食らえ!!」

 

 放たれたのは肩部のショルダーキャノンと両腕に取り付けられたビームのようなもの。

 射線上にあるものを全て融解、消滅させながら突き進んだ攻撃は、全てカツミ君に直撃するが―――、

 

「こ、攻撃が効かない……!? ふざけたレベルのバリアを……!!」

 

 ———その攻撃は、彼の歩みを邪魔することさえできず空しく弾かれてしまうだけであった。

 攻撃を食らいながらも無視し、そのままベガの前にまで接近する。

 カツミ君は大ぶりに振り回した腕を彼の首に叩きつけ、力の限りに地面へと叩きつけた。

 

「フンッ!!」

「ガッ、アアァ!?」

 

 クレーターができるほどの威力を食らったベガは故障したように全身にスパークが走り出す。 

 三度バックルを叩いた彼がその掌をベガへと向ける。

 

「地球へようこそ!! 歓迎してやるよォ!!」

『DEADLY!! TYPE RED!!』

 

「そ、そんな! やめろ!! いや―――」

 

『FLARE EXPLOSION!!』

 

 すると、彼を中心に炎を形どったエネルギーが集まり、凝縮された後に空へと昇るほどの爆発を引き起こした。

 周囲に爆発はまき散らさず、むしろなんらかの力で相手の周囲にのみ熱と衝撃を凝縮させた一撃。

 

「わ、私の色しゅごい……なにこれぇ……?」

「なんだか、やりたい放題だねぇ」

「アカネ、きらら、衝撃のあまりキャラが迷走しちゃってる……」

 

 痛む身体を引きずりながら見ていることしかできなかった私は、ただただ唖然とすることしかできなかった。

 それほどまでに白い戦士、いや、白騎士へと変わった彼の力は私達の想像を遥かに超えていたのだ。

 

「こっちに来なさい!」

「ッな!?」

 

 不意に肩を掴まれ、こめかみに何か硬いものが着きつけられる。

 

「……ッ、この化物!! 今すぐ、変身を解除しなさい!! さもなきゃ、こいつが死ぬわよ!!」

「駄目、カツミ君! 言うこと、聞いちゃ……」

 

 先ほどカツミ君に殴られたあっち側のブルーだと気付くが、それ以上に自分が人質になってしまったことに絶望を抱く。

 このままでは彼の邪魔をしてしまう。

 なら、私の命を投げ出してでも―――、

 

「今、そいつを離せば命だけは助けてやる」

「は? あんた嘗めてんの? 人質がいるこっちが優利に決まってんでしょ?」

「……」

「……ッ、こ、この、ふざけやがって!!」

 

 冷静極まりないカツミ君の言葉に、私のこめかみに当てられた銃がカツミ君へと向けられる。

 あらゆるものを溶解させる銃。

 それを目の当たりにした上で、彼は捕まっている私から視線を逸らさない。 

 

「心配するな。お前も、きららにも、葵にも怪我はさせない」

「あ、あああああ!!」

『CHANGE!! →TYPE BLUE!!』

 

 恐怖のあまり青い戦士が放ったエネルギー弾はカツミ君へと直撃するが、それらは彼の身体を通り過ぎるように後方へと消えていく。

 まるで水のように青く透明な姿になった彼はそのまま実体に戻ると、再度バックルを操作し黄色の力を纏う。

 

『CHANGE!! →TYPE YELLOW!!』

 

 一瞬の閃光。

 ただそれだけで私はカツミ君に抱きかかえられていた。

 状況が分からず、先ほどまで自分がいた場所を見ると、そこには心臓にあたる部分に穴を空けた青い戦士が、既にこと切れていた。

 

「心配かけた。ごめん」

「カツミ君、だよね?」

「ああ、なんだか分からんが洗脳されてもないし、命も吸われてないぞ」

 

 良かった……けど、やっぱり君は規格外すぎるなぁ。

 抱きかかえられた私は、きららと葵の近くに下ろしてもらう。

 

「さて、後は……」

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

「……しつこいな、まだ生きていたのか」

 

 彼が振り向いた先には、半壊状態の姿となったベガがクレーターから這いずり出ていた。

 息を乱し、ほぼ半分死んでいるような状態に見えるが、それでも奴の目にはとてつもない憎悪が宿っていた。

 

「後悔するなよォ……! サルがァ……!」

「ありがとよ。こんないいスーツくれて」

「……ッッ!!!」

 

 ビキビキと部品をまき散らしながら彼は残った腕に残されたチェンジャーに顔を近づける。

 

「ッ、俺を船に転送させろォ!! 宇宙船でこいつを殺す!!」

「やれるもんなら、やってみろよ!!」

 

 勢いのまま彼がバックルのスライドを四度引っ張る。

 ッ、赤、青、黄と続いて四番目!? この次にどういう強化が待っているの!?

 

『THE ALMIGHTY!! →OK?』

「……」

 

 他とは異なる重なった声による認証に、彼はバックルを叩く手に躊躇を見せる。

 不自然なほどの静けさが訪れる。

 数秒ほどの、短い沈黙の後に、彼は肩から力を抜いた。

 

「この力は、お前達にもらったものだ」

「え?」

「俺は、ようやく前に進める。ただ戦うだけの黒騎士だった俺は……お前達に、人間にしてもらったんだ。ありがとう……本当に、それしか言葉が思い浮かばない」

 

 ちょっと待って。

 どうして、今なの?

 突然、静かに言葉にする彼に、私もきららも葵も異変に気付く。

 

「なんで今そんな……こと言うの? やめてよ……」

「今しか言えないからな」

「……だ、駄目!!」

 

『CHANGE!! →TYPE…』

 

「後は頼んだぞ、アカネ」

 

『UNIVERSE!!』

 

 こちらを振り向かずにそう言葉にした彼はそのままバックルを叩き、黄金色の光を纏いながら光に呑み込まれるベガへと向かって行った。

 カツミ君が光の柱に包まれて、遠い場所に立っているロボットの胸部へと吸い込まれていく。

 

「帰ってきてから、伝えてよ……! なんで、最後の別れみたいに言うの……!!」

 

 彼が消えたその場で泣き崩れる。

 彼はベガと共に宇宙船へと乗り込んだ。

 そこで、今度は大勢の敵と戦っている。

 

「アカネ、見て……」

「!」

 

 葵が指さした方を見れば、都市に立つロボットに異変が生じているのが見えた。

 まるで内側から爆発するように胸部の一部が破壊され、そのまま露出した内装から見える金色の光が、続けて爆発を引き起こしている。

 

『———ッ ———ッ!!』

 

 彼の声が聞こえる。

 この星を救うために、死力を尽くしている彼の声が。

 その直後、胸部の中心で大爆発が起こりロボットの身体から力が抜け、その前の空間に大きな亀裂が生じる。

 それが、奴らがここにやってくる際に利用したワームホールのようなものと気付く。

 ロボットは機能を失い、倒れ伏すように―――そのままワームホールの中へと消えていった。

 

 

 ———彼は、帰ってはこなかった。

 残ったのは、彼が用いていた『プロトチェンジャー』と彼が今日まで住んでいた多くの物で溢れた独房しか、残されてはいなかった。

 

 


 

「ねえ、ちょっと、なんなのさ。引っ張るのはやめてよ……」

『ガオ!』

 

 なんで私、こんなことになっているんだろうなー。

 仕事を辞め、世界が終わる前に放浪の旅でも出ようかなーっと思った矢先に、変な生物に見つかり、今は白衣の裾を引っ張られながら、どこかの雑木林へと連れられている。

 

「てか、君なんの生き物なの? あの宇宙船の残骸かなにかなの? 勘弁してよぉ、私、そっちには関わってないから分からないの。修理とか、知識ないから専門外なんだよー」

 

 もう、勘弁してよ。

 私の正体も危うくなってきたし、彼が行方不明になって空気に耐え切れず職場辞めてきたのに、また関わらせるの?

 てか、この生物なんなんだよ。

 手乗りオオカミとは言うけど、モロ機械だし力も私程度じゃ抗えないくらいに強いんだけど。

 それともこの世界にこういうロボットがいるの?

 

「はぁ……」

 

 彼、死んじゃったのかな。

 思ったよりも自分は彼のことを気に入っていた事実に、地味に打ちひしがれながらもこれ以上にない大きなため息を吐く。

 この気持ち、多分、これから一生引きずりそう。

 そう確信しながら歩いていると、不意に白衣を引っ張る力が弱まる。

 

『クゥーン……』

「はぁ、ようやく止まってくれたよ……。……ッなんだ、これは!?」

 

 目の前の雑木林は、残骸へと変わり果てていた。

 まるで空からなにかが勢いよく落下したかのように、へし折られ、折り重なりながら異様な光景を作り出していたのだ。

 な、なにがあったんだここで……?

 凄まじい光景に唖然としていると、私の白衣から口を離し、ぴょんぴょん跳ねながらどこかに辿り着いたオオカミが、なにかに声を投げかけていることに気付く。

 その声は、弱々しく、誰かを心配しているようにも思えた。

 

「て、おいおいおい!!」

 

 誰か、人が倒れている。

 そんな状況に陥る人間なんて一人しか知らない私は、柄にもなく焦りながら急いで木を上り―――その顔を目にする。

 

「……スゥ……スゥ……」

「なにやってんの、かっつん……?」

 

 見つけたのは林の中でなぎ倒された木を背にしながら呑気に眠っている彼であった。

 服には血が滲み、傷だらけの彼を目にして、私は一瞬どうしていいか分からずその場で立ち尽くすことしかできなかった。

 




アルファもジャスティスクルセイダーもみんな曇らせて第一部終了。
なお、第二部からもっと曇ることになる模様。

赤はパワー
黄はスピード
青はゲル化

……バランスは取れているなッ!
全ては宇宙由来の超技術と適正高すぎのカツミ君が悪い。

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