アルファ視点の閑話です。
認識改編の能力がなくなった。
……いや、なくなった、という言い方は間違っていて、正確には打ち消されているというのが正しいかもしれない。
星将序列6位のアズという、私の母親かもしれない女。
そいつは私と同じ認識改編を持っていて、その能力を使って私の認識改編の能力を打ち消し無効化させた。その間、微小の認識改編をすることは可能だけれど、たくさんの人の認識を歪めることはできなくなってしまった。
認識改編という力をほぼ使えなくなった私は、まずは自分のできることを探すことにした。
アカネ達はジャスティスクルセイダーの活動。
コスモは喫茶店の手伝い。
ハクアはカウンセラーとして復職している。
考えてから、あれ? 認識改編のない私ってただの役立たず? という嫌な考えが頭によぎった。
もちろん、カツミはそんなことを思うことなんてないし、これは私の勝手な思い込みだということも自覚している。
でも、私だっていつまでもこのままでいいわけがない。
今でも思い出す。
カツミが記憶喪失になる切っ掛けになった事件。
変身を解除させられた彼が、私の目の前でいたぶられた時のことを。
認識改編の力なんていう大それた力を持っていても、私は無力だ。
愛する人を守ることも、助けることもできない。
だからこそ、私は今の自分にできるカツミを助けられることをしたい。
私はまずはジャスティスクルセイダーのスタッフとしての勉強を始めた。
元より人間じゃないし学習能力も常人以上なので知識的な面では苦労することはなかったけれど、身に着けた知識を出力することは中々難しい。
「———ただいまより、模擬戦闘訓練06を開始いたします」
第二本部内に造られた訓練場。
地下の広大な空間に造られたその場所を上方から確認できる部屋で、私はこれから訓練を行うカツミをモニターで確認しながらアナウンスを行っていた。
「背景投影、特殊エネミー配置」
真っ白な訓練場の壁面に映像が浮かび上がり、都市の街並みのような景色が広がる。
そしてその景色の中にホログラムで外見を怪人に形作ったエネミー型のロボが現れ、順々に配置されていく。
カツミはそれらを運動着に身を包んだ腕を組んで見守っていた。
「設定完了、変身を行ってください」
『おう。プロト、シロ』
『『ガァゥ!!』』
全身にXの模様があしらわれた黒と白の戦士。
これまでの無法とも言えた姿から一変して弱体化してしまった姿———ではあるけれど、確かに数値上は大幅に弱体化しているけれどその分、各フォームが一つにまとめられていることからより多彩な戦いを行うことを可能にしている。
『アルファ、いいぞ』
「……はい。では、はじめてください」
思わず、いつもの調子に「うん!!」と答えそうになるのを我慢し、戦闘訓練の開始の合図を出す。
起動と同時にそれぞれの訓練エネミーが動き出し、変身したカツミへと襲い掛かっていく。
それに対して彼は虚空に手をかざすと、虚空から現れた赤色の片刃の剣を掴み取る。
「まずは肩慣らしだ」
変身したアカネを連想させるように軽く、撫でるように剣が振るわれる。
赤熱した刃により描かれた赤い軌跡は、殺到する訓練エネミーをすれ違い様に両断させる。
『
数舜の沈黙の後に火花を散らし爆発したエネミーに視線を向けることなく、剣を放り投げるように手放したカツミがその両手に青色の拳銃を取り出し、連続で撃ち出す。
嵐のように放たれた青色のエネルギー弾。
それらは集団で固まった訓練エネミーを次々と貫き、その機能を停止させていき———、
『
とどめとばかりに振り回された稲光を放つ黄色の斧による雷撃が、訓練エネミーを飲み込んだ。
出現させた訓練エネミーを30秒と経たずに破壊。
カツミならその位できたっておかしくないので、私は特に驚きもしないまま次のエネミーを出現させるようにコンソールを操作する。
「次、大型エネミー。出現させます」
アナウンスと共にパネルを押し、これまでの訓練エネミーとは二回り以上に巨大な大型のエネミーを出現させる。
その姿は多脚型のクモに似たロボットというもの。
『ピピギピギィィィ!!』
電子音を生物の声のように響かせたエネミーの多脚による攻撃がカツミへと迫る。
「ふんっ!!」
でもカツミの対応は単純。
振り下ろされた足を殴り砕き、迫った大柄な胴体に蹴りを叩き込み逆に吹き飛ばすこと。
ひっくり返った虫のように暴れる大型エネミー。
それを眺めるわけでもなく、彼はまた新たな武器をその手に出現させる。
『使ってみるか』
『
それは、ハクアが変身した時に使っていた細剣型の武装。
剣を軽く握りしめた彼は、大型エネミーへその刀身を向ける。
『
『
『
柄の部分のルーレットのような機能がひとりでに回転を初め、赤→黄→青、とめまぐるしく変化。
その刀身に三色の光が渦巻き始める。
もうテンション極まったような音声にツッコミをしながら放った一撃は、三色が渦巻く光の奔流となり大型エネミーを飲み込む。
『ギィィピイィィ!!』
計器がとんでもない跳ね上がりを見せ、その記録に意識を割きながらもモニターからは目をそらさない。
光の奔流が徐々に勢いを失い、残滓を残しながら消えていった後———そこには僅かな残骸しか残っていなかった。。
『……こんなもんか』
「明らかにハクアが変身した時の一撃よりも強化されているね……」
というより、他の武器にも同じことが言える。
切断力や電撃、火炎に至るまでルプスの最終形態であるトゥルースモードを除いた形態のいずれも上回っている。
……あのスーツに武器を強化する機能が秘められているのかな?
いや、そもそもあれはトゥルースモードを弱体化させた姿でもあるから、異常なことでもないの……?
「でもまあ、プロトゼロの時点でカツミの拳をまともに防いだ怪人はほとんどいなかったんだよね……」
結局のところ彼の力をメタった場合や、防御特化の怪人でもなければ、大抵の怪人は一撃ともたずに爆散させられるのが普通だった。
そして、そんなプロトゼロの強化形態であるプロト1の力は怪人に対してはあまりにも過剰すぎた。
それが別に悪いというわけではないのだけど、極論余程の強さの敵じゃなければプロトゼロでも事足りてしまう。
その事実を改めて認識しながら、私は訓練の終わりを伝えるべくカツミへ通信を繋げる。
「訓練終了です。お疲れさまでした」
『……あのさ』
「? なんでしょうか?」
釈然としなさそうに変身を解いたカツミに質問を投げかけると、彼は複雑そうな表情で私のいるモニター室を見上げた。
『なんかアルファの敬語って慣れないな』
「……私だって柄じゃないのは自覚してるよ」
『……無理しなくてもいいんだぞ?』
「ううん。大丈夫」
無理はしていない。
でも焦ってはいるのは自覚していた。
前まではカツミの傍にいることで、彼の心を守って、孤独にさせないようにしていた。
でも、今は……彼は孤独じゃないし、私が心を守らなくてもいいくらいに強くなった。
そこで私は考えた。
今の私がカツミのためにできることってなんなんだろう?
考えても結局、明確な答えは出てこなかった。
「私のアイデンティティがなくなっている……!!」
「姉さん、自分の個性が能力だけって悲しくならない?」
カツミの訓練をモニターした後のお昼休み。
第二本部内の食堂で、私はハクアを相手に愚痴を吐き出していた。
「だって、私ってカツミになにもしてあげれてないしぃぃ……うぅぅ」
「うわ、この姉面倒くさ……あざと……妹として恥ずかしい」
「酷くない……?」
嘆く私を、ハクアがものすごく面倒くさそうに見てくる。
最近になってようやく距離が近くなって姉妹に近い関係性になってきたわけだけれど、歯に衣着せぬ言動が普通に飛んできたのは素直にどうかと思う。
「最初はさ、認識改編がなくなって気が軽くなったーって思ってたの」
「まあ、姉さんのは私と違って便利そうだけれど……」
実際、認識改編は便利だ。
私が望むだけで誰もが私を見えなくできるし、その認識も自由に弄ることができてしまう。
「実際、そんな能力を持っていると……不思議と周りがつまらなく見えてきちゃうんだよね」
「え、どうして?」
「なんでも自分の思い通りにできちゃうから。そうなると、不思議とつまんないんだよね」
私の言葉にまだ意味が分からないと首を捻るハクア。
うーん、これはちょっと分かりにくいかもなぁ。
そう感じているのは私だけだし……ちょっと分かりやすいように例えにしてみようかな?
「もし私の認識改編を超人気ソシャゲでガチャが100%当たる能力に置き換えて例えてみると」
「一気にしょぼくなった……でもどういうこと?」
「欲しいものが100%当たるってつまらなくない? ガチャの意味ないし、多分そのゲームも楽しめなくなる」
その過程に置ける達成感もない。
目標もない。
認識改編を持っていた私にとっては、それが日常的なものだった。
「うーん、言いたいことは分かるような、分からないような……。でもさ、それじゃあ姉さんは認識改編があった時の退屈だった自分に戻りたいってわけ?」
「そうなんだよねー……」
カツミがジャスティスクルセイダーに捕まってから、能力を制限している間も私の中では“いざという時、認識改編を使える”って考えがあった。
でもそれがない今、私は自分の存在意義を見失うくらいには自信を失いかけている。
「このままじゃ私、カツミに見損なわれちゃうのかな」
「かっつんは、そんなことしないよ」
「分かってる。……でも、私達、結構呆れられてるし」
「それは事実だけれど、さらっと私と巻き込むのはやめてね……?」
同居していた時、ダメダメなところを見せすぎたせいでそこらへんはもう覆すことができない。
「うぅぅぅ……思い返すと、私って結構痛い子だったかも……認識改編持ってる万能感でテンションおかしかったしぃぃ」
カツミとの思い出に悪いものなんて一つもないけれど、恥ずかしいものがないなんて言えない。
思い返せば思い返す程、私は結構な痛い子だった……!!
もうテーブルに突っ伏して震えていると、不意に私のトンッ、と手刀のようなものが軽く落とされる。
痛さは全然ないけれど、ハクアがやったと思われるソレにちょっとだけムッとしながら顔を上げ———、
「見損なうってよりは、呆れてはいたな」
「ひぅッ!?」
手を手刀の形にして、私を見下ろしているカツミがそこにいた。
というより、私の背後にあった椅子から立ち上がったところを見た感じ、まさかずっと後ろで聞かれてた……!?
「か、かかかか、カツミ、聞いてたの!?」
「わ、私も全然気づかなかった……」
「隠れるのはお前だけの専売特許じゃねーってことだよ」
それくらい参っていたって事なのかな……。
しかもさっきまでの話が聞かれててものすごく恥ずかしいし、なにより———、
「私がカツミの接近を察知できないなんて……」
「まるで常に察知できるような言い方だな」
「うん」
「え?」
意識すればなんとなく場所が分かるのは本当。
でも、繋がりが薄い時———カツミが記憶喪失になった時とか、別の世界に行っちゃったときはその感覚が曖昧になってしまう。
私の返答に一瞬だけ不安そうな顔になったカツミは、こほん、と咳ばらいをしてから後ろのテーブルから定食の乗ったトレイを持って、私とハクアの席にまで移動してくる。
「なんとなく、お前が悩んでるのは分かってた」
「……うん、アピールしてた」
「性質悪いなオイ……!!」
カツミなら気づいてくれるかな……って。
私自身、自分が面倒くさくて痛い女なのは自覚してる。
「はぁぁ……まあいい」
大きなため息をついたカツミは、私と視線を合わせ口を開いた。
「まず一つ。認識改編が使えなくなったって、お前はそんなに変わらねぇだろ」
「……でも、私カツミの役に立てなくて」
「役に立つとか、立たないとかの話じゃねーだろ」
それじゃあどういう話なんだろう。
私は、カツミと初めて会った時からずっと、彼の役に立てるように行動してた。
彼が望むなら能力で姿を隠していた。
孤独に一人暮らす彼と一緒にいてあげた。
悪夢に苦しんでいた彼に寄り添った。
「つーか、お前から見た俺ってそんなに認識改編を当てにしてたか……? むしろ緊急以外は積極的に使わせないようにしてた気がするんだけど」
「……あ」
「大体、お前って結構好き勝手していたから大変だったんだぞ。目を離したらすぐに迷子になっていたし」
「うっ……」
「姉さん……」
だって、カツミが学校に通っていた時は暇だったし、勉強の邪魔をしちゃうのも悪いかなって……。
「それに、お前がうちに押しかけて来たばっかりの頃、学校の授業中に此花……隣の席の子の弁当パクッてその場でつまみ食いし始めた時は、マジで肝が冷えたんだぞ」
「うっ、懐かしいね」
あの後、ものすごく怒られて普通に泣いちゃった覚えがある。
思えば、あの時初めて怒られたんだったね。
父親も母親も知らなかった私を叱ってくれる存在に、私はより一層に信頼するようになったなぁ。
「後は自動販売機が使えなくて半ギレしてたり、部屋のクーラー壊れて暑さのあまり幼児退行して駄々をこね始めたり……」
「ストップストップストォォップ!!」
晒される!! 食堂で私の恥ずかしい過去が!!
「まあ、つまり……今更、お前を見損なうとか、見限るとかするわけねぇってことだよ。何度、お前のやらかしを見せられてると思ってんだ」
「……うん」
確かに、私はさんざん無知が理由で何度もカツミの前で無様を晒したこともあったね。
……いい話風だけれど……いや実際いい話だけれど……なんだろう、この釈然としない気持ち。
私はカツミに見損なわれることはないその事実を改めて再認識できたことに安堵していると、彼の視線は隣に無言でいたハクアへと向けられる。
「そういえばハクアは……まあ、最初のアルファよりかはまだ常識的だったな」
「そ、そうだよね……せいぜい記憶喪失のかっつんを弟にしていただけだし?」
「……そうだよ。最初の時点でお前が一番やべーことやってんじゃねーか……無意識的に気づかなかった」
「ひぃん……」
なぜかハクアが自分で墓穴掘ってる……。
でも、改めて考えなくても私も数えきれないくらいにカツミにみっともないところを見られてきたんだ。
能力を使えないくらいで見損なわれるなんて……確かに、私の考えすぎだったみたいだね。
改めてそう思い安堵の笑みをこぼした私は、気持ちを切り替えてカツミとハクアの会話に混ざりにいくのだった。
即座に爆弾解除されたアルファでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。