追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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四日目 四話目の更新となります。

今回も閑話 新しい登場人物の視点でお送りいたします。


閑話 嘲る者

———いつからだろうか

 

 停滞を望んだのは。

 

———いつからだろうか

 

 未知を未知のままで良しとしたのは。

 

———いつからだろうか

 

 敗北を恐れるようになったのは。

 

———いつからだろうか

 

 反逆をやめたのは。

 

 

 星将序列なぞ、意味がない。

 一位も、二位も、三位も、五位も、なにもかも所詮は戯れにつけられたものにすぎない。

 前任の支配者であり敗北者“ザイン”

 奴の時代は、まだマシだった。

 闘争に溢れた宇宙。

 戦いと略奪と支配、それらをひたすらに繰り返した弱肉強食に満ち溢れた世界だった。

 

 だが、その時代も終わりを迎えた。

 

 超越者ルインの誕生と、ザインの落日。

 幼子であったはずのルインにザインは敗れ、あっけなくその命を落とした。

 支配者は入れ替わった。

 そして、組織の在り方も。

 

「反吐が出る」

 

 暗闇が広がる大宇宙の彼方。

 ルインが姿を現す限られた“船”であるその場所。

 不自然に塵芥すら存在しない宙域に存在する巨大な船の中。

 その場所にルインからの召集をかけられた矢先に、俺は序列10位(・・・・)を名乗るカスの挑戦を受けていた。

 

「そんな、どうして……」

「上位序列に生じた欠番の穴埋めなんぞ、必要がない。貴様のような繰り上がっただけのカスが湧く」

 

 眼前に無様に這いつくばるのは、幾何学模様の入れ墨を全身に施した女。

 名は既に忘れた。

 能力はその身に刻み込んだ入れ墨を生物問わずに物体に移し、模様の形に応じた現象を対象の力量を問わず(・・・・・・)に発動させるもの。

 

「能力に依存したアルファほど、か弱いものはない」

 

 戦いの最中、こいつが触れた剣が炎に包まれた。

 燃えるはずのないものを燃やす。

 おおかた、対象に現象を押し付ける類の技だろう。

 

「ね、ねぇ、助けて」

「……」

「あんたに絡んだのは悪かったよ……!! ほ、ほら、オレも十位になって舞い上がっていたんだ!」

 

 ようやく実力差に気づき、媚び始める女を見下ろす。

 

「あんたの部下になるよ! それになんでもしてあげる!! オレの能力だって役に立つしそれに———」

 

 抜き放った銃でその頭を打ち抜く。

 脳漿をまき散らし、媚びへつらう不愉快な顔のまま地面に倒れ伏す死体を見下ろし蔑視する。

 

「耳が腐る」

 

 有象無象が序列持ちを名乗り、身の程知らずに、自身が挑戦する立場と驕り無意味な戦いを仕掛ける。

 それが敵と認められるならばいいだろう。

 覚悟を以て挑めば、俺も敵と認めるだろう。

 しかし、しかし、しかし。

 この無知蒙昧なカスは彼我の実力差も理解できないまま、この俺に挑んだ。

 覚悟のない者に、かける情けなど存在しない。

 

「なぜ、容易く己を捨てる者を、俺の部下にしなくてはならない」

 

 我が身可愛さに命乞いをする輩など信用に値しない。

 

「お前には価値がない」

 

 引き金を引く。

 

「戦士としての価値もない」

 

 引き金を引く。

 

「序列である必要ですらない」

 

 身の程を知らぬ愚か者には、尊厳も、死後の安寧もありはしない。

 その亡骸を形を保てぬほどまで辱めるため、また引き金に指をかけ———、

 

「イディルガ・ハティ」

 

 名を呼ばれ、指を止める。

 

「———何の用だ。ヴァース」

 

 背後に立つ序列一位に不快感を抱きながら返す。

 

「それ以上はよせ。序列上位のお前が格下を相手にしてどうする」

「覚悟のないままに俺に挑んだ。自らの死すらも想像できん有象無象にかける慈悲はない」

 

 構わず足を振り下ろし、死体を踏みつける。

 

「ルイン様より、招集がかけられているだろう?」

どうでもいい(・・・・・・)

「……なに?」

 

 ここまで足を運んできたが、この出来損ないの十位を始末して考えが変わった。

 奴にとっては序列など最早どうでもいいのだ。

 大方、今の奴に執心している地球の男に対する障害として俺達をぶつけようとしているのだろう。

 

「反吐が出る。ああ、反吐が出るなぁ」

 

 戦うのならばそれでいい。

 軽視されているのならば、それでもいい。

 だが、奴にとって我々がどうでもいいものとなっているのならば話が別だ。

 

「———俺は好きにやらせてもらう。ルインなぞクソ食らえだ」

「聞かれているぞ」

「だからなんだと? 腑抜けになった色狂いには相応しいだろう。アレがいくら埒外の力を持とうと、最早どうでもいい」

 

 以前までだったなら、まだ我慢できていた。

 だが、地球人の一人の人間の男に執心し、年頃の女のように感情に振り回されるような振る舞いをする。

 そのような者に敬意など払う必要はない。

 

「お前は、あの方が弱くなったと、そう思うのか?」

「曖昧な感情に容易く心を揺り動かされるような超越者が、完全と言えるのか? 技とは心によって成り立つもの、とそう俺にご高説を垂れたのは貴様だろう」

 

 超越者は完全でなくてはならない。

 絶対的な強者は、絶対でなくてはならない。

 

「なぜ、わざわざ己を殺しうる者を育てる? 同じ視座の者を求めるためか? その者を育て切ったとして、どうする? 仲間にするのか? 殺されるのか? それとも殺すのか? ———その後はどうするつもりだ?」

「……」

 

 自分を殺すための人間を育てて、殺されたらどうする?

 逆にその人間を殺してしまったらどうなる? 

 確かに言えることは、どの結果に向かっても何一つ利になることなどないということだ。

 

「貴様もだ、ヴァース」

「ほう?」

「かつての貴様は尊敬に値する戦士だった」

 

 星を斬り、次元を斬り、あらゆるものにその刃を届かせた絶技の剣士。

 その強さを求め続ける姿勢に、この俺も羨望の眼差しを向け、俺自身もその強さに追いすがるべく研鑽を続けていた。

 だが、ヴァースは変わった。

 今とは異なる時代の地球の侵略に向かった時に、変わったのだ。

 

「その背の鉄くずを手にしてから貴様は弱くなった」

 

 奴の背に特殊な鞘に後生大事に収められている薄汚い刃。

 武器としての役割すらも果たせないように見えるソレを指さし、次にヴァースへ向ける。

 

「一位の名に驕り、支配者を気取る小娘に付き従い、挙句の果てに娘などを育て———まさか、まともになったつもりか?」

「……」

 

 返答はない。

 ただ目を伏し、腕を組むだけ。

 ヴァースはそれを認めたわけでも、この俺の挑発になにも返せない訳でもないのは理解している。

 ああ、反吐が出る。

 反吐が出るなぁ。

 

「お前さんが勝手をするんなら、それで構わない。私からルイン様に便宜を図ろう」

「……なんのつもりだ」

 

 ヴァースの言葉に目を細め、敵意を向ける。

 だが、それが奴の温情ではないことは俺自身も理解している。

 そう提案する不可解さの意味を知りたかった。

 

「俺個人の考えとしては———」

 

 背中のカタナの柄に手を添え、目を瞑る。

 静かで、微塵の隙を見せない老爺は、次に目を開いた瞬間には———、

 

「お前さんの考え方もそれほど嫌いじゃない」

 

 鋭く、針で全身を蝕まれると錯覚するほどの殺気を滾らせる戦士が、そこに在った。

 

「くれぐれも、地球の戦士を侮らないように、な」

 

 刃物のような気を張り巡らせた一位は、そのまま背を向けるとこの場から去っていく。

 

「反吐が出る」

 

 ヴァースが去った跡を見届け、吐き捨てる。

 

「その気になれば元の切れ味を取り戻せるとでもいいたいのか?」

 

 ああ、ああ、そうだろうな。

 貴様ならば、この俺を無造作に斬り殺せるだろうよ、一位。

 本当に———反吐が出る。

 


 

 ルインの招集を無視し、暗闇に包まれた通路を進む。

 軍靴が静かな足音を立てる中、俺は呟くように“名”を口にする。

 

「“S(エス)”」

「———」

 

 唱えるように名を口にした直後に、空間の暗がりから一つの影が水音と共に溢れ出る。

 つま先から頭までを黒衣のように見える闇で覆った者。

 

「どいつも、こいつも」

「———」

「ああ、ルインも、サニーも全て唾棄すべき汚物だ。いくら力を持とうとも、あれでは意味がない」

 

 九位の愛などと嘯く盲目さも。

 八位の無知も。

 七位の刹那的な死生観も。

 サニーの甘ったれた善性も。

 二位のカスに劣る精神性も。

 一位の錆びつき、鈍らと化した老害も。

 ただ力を持つだけの小娘と化したルインも、反吐が出る。

 

「十位と六位はまだ好い。奴らの在り方は認めるに値する」

 

 手段を選ばず敵対者には一切の容赦のない十位。

 ルインに対して底なしの憎悪をぶつける六位。

 どちらも不純物がなく、純粋だ。

 

「十位が地球の戦士に殺されてしまったことが惜しい。……だが、それもまた奴の定めだったのだろう」

 

 どのような末路を辿ったにせよ、その在り方には敬意を払わねばならない。

 

「エス。我が理解者であり、義兄弟よ」

 

 再度、名を呼ぶ。

 俺の声に暗がりが揺らめき、その反応を見て続けて言葉を繋ぐ。

 

「俺は地球を攻める」

「———」

「艦隊を集め侵略を開始する」

 

 狙いは地球の戦士達が生息する二ホンという地点。

 これから行う侵略には、細心の注意が必要となる。

 あの小娘の逆鱗の寸前を避け、こちらの本領を発揮するであろう戦いへ持ち込む。

 だが……それでも尚、俺が迎える結末は変わらない。

 

「俺は死ぬ。この戦いに勝利しても敗北しても、俺の命はない」

「———」

「場合によれば、戦いを始める以前にルインに滅ぼされるかもしれん」

 

 最早、星将序列に価値なし。

 侵略することをやめ序列の昇降に囚われる、無計画で醜い侵略と破壊に形作られた中身のない伽藍洞の組織などに未練はない。

 

「戦いか、安寧か、選べ」

 

 しかし、それはこの生涯の全てを戦いに費やした俺自身の終わりでもあった。

 だからこそ、唯一の友にこの問いかけをする。

 

「———」

 

 エスは、暗がりに蠢く者は声なき声で答える。

 “戦い”と。

 嘲笑にも聞こえるその囁き、しかし俺にはそれに込められた感情を理解できた。

 

「この問いかけすらお前にとっては無駄だったな」

 

 頼もしき友の答え。

 俺の言葉にその姿を暗闇へ消し去った友の姿を見届け、俺は歩を進める。

 ルインの領域ともいえる船を出て、己の船団へと転移。

 すれ違う乗組員に一切の視線を向けずに、俺自身の定められた位置へと向かう。

 

「ジャスティスクルセイダー。そして黒騎士。お前たちは戦士だ」

 

 ルインの思惑はあれど、その乗り越えた戦いは紛れもないもの。

 序列上位を蹴散らした実力も決して侮っていいものではない。

 

「なればこそルインの意思も関係なく、侵略をしよう」

 

 たどり着いたのは、広大な宇宙を映し出すブリッジ。

 無造作にかけられた帽子を被り、艦長席へと腰掛け脱力するように背を預ける。

 

「それが……古き時代を生きた侵略者(オレ)の流儀だ」

 

 戦い、侵略、奪い、滅ぼす。

 俺達はそう生きることしか選べなかった荒くれ共の成れの果て。

 そこに悲観はない。

 後悔もない。

 所詮は時代に取り残され、いずれ応報の末路を辿る敗残の群れだ。

 

「さあ、出航だ」

 

 

星将序列 第五位

『星 を 墜 と す 者』

イディルガ・ハティ

 




口癖が「反吐が出る」な第五位の登場回でした。

次回からは第七部開始となります。
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