追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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感想欄にしてご指摘がありましたので【星将序列】一位から十位までのキャラクター紹介を作成し、前話にて更新いたしました。
なるべく楽しく読めるように作りましたので、興味のある方はどうぞご覧になってください。

五日目、五話目の更新。
そして第七部開始です。

今回はハイル視点でお送りいたします。


第七部
此花灰瑠の変わってしまった日常 前編


 私の周りの環境が一変してから本当に色々なことがあった。

 私の家族も友達も、みんなの中から私の記憶が消えて、

 アズという怖い女の人に狙われて、

 サニーさんというものすごくキャラが濃すぎる人に助けられて、

 それから私以外が全員宇宙人の人たちに匿われて……。

 本当の本当に色々なことがありすぎた。

 

 そして、最近になってまたひと騒ぎ。

 それが先日サニーさんの伝手で会った女の子、ステラちゃんについて。

 目元を前髪で隠した大人しそうで、とてもかわいいし礼儀正しい女の子。

 

 それが、なんでカツミ君のツムートに君が挙げられてる???

 

 本気で頭が真っ白になった。

 会ったほぼ翌日になんでそんなことになっているの?

 そして、その翌日の生放送では、会った時とは全然違う性格でVtubrの蒼花ナオちゃんと一緒に配信に共演していたし、どんなシンデレラストーリーだ。

 この騒動でステラちゃんは普通にもらい事故を食らったようなものだってことも分かっちゃうのもアレだ。

 

 でも……よく考えなくても分かることなんだ。

 高校生でスマホすら持っていなかったカツミ君がSNSを完璧に使いこなせるわけがないことは。

 

 カツミ君……きっと友達想いの君のことだ。

 その行動に深い意味はなく、仲良くなった友達を応援したいから呟いちゃったんだよね。

 ただ、それだけなんだって分かってしまうから私はより悶々と気持ちを抱えてしまう。

 

「はぁぁぁ」

 

 居候をしているマンションの一室。

 みんながたむろするリビングのテーブルに肘をついて座った私は、何度目か分からない大きなため息を吐いた。

 

「ハイル~、暇~」

 

 でもそんな私のアンニュイな気分に構わず無遠慮に声をかけてくる小柄なツインテール美少女。

 だぼだぼのシャツを着ただらしないの権化を私はジト目で睨みつける。

 

「レアム、私今人生の理不尽さに悩んでるから構わないで」

「ハイル~、暇~」

「さては、私の話を聞く気ないな」

 

 テーブルで頭を抱えている私にダルがらみしてくる金のツインテールがトレードマークの美少女、レアム。

 見た目は絶世の美少女でも性格はそこそこ終わっている彼女に重いため息をついてしまう。

 

「暇ならゲームでもしたらいいじゃん」

「課金のし過ぎでジェムにカード止められた」

「お、終わってる……」

 

 ジェムさん……弟の稼いだお金を躊躇もなく使い込む姉の姿に絶句する。

 私に弟がいたら絶対にそんな無慈悲なことはしなかったことだろう。

 

「ハイル」

「……なんですか。イレーネさん」

「歌っていいか」

 

 ソファーの上で体育座りをしている背の高いカッコいい系の異国風の女性、イレーネさんが眠たげな眼でそう尋ねてくる。

 

「歌えばいいじゃないですか」

「前にハイルがうるさいって言ったから」

 

 そう、この人はものすごく歌が上手い。

 この人の故郷の言葉で歌ってしまえば、ものすごく恐ろしいことが起きるらしいけれど……こういう言い方は慣れないけれど、この地球の言語での歌なら普通に歌えてしまう。

 

『ハイル、地球の歌はいいな。言語が同じじゃないから、いろんな色と形がある』

 

 イレーネさんが地球のことを好きになるのは全然大歓迎だ。

 でも、それに影響されてずっと歌い続けるのは勘弁してほしい。

 

「私はイレーネさんの歌が嫌なわけじゃないんです。むしろあんなに綺麗に歌は聞いたことないです」

「そうだろう?」

「でも半日近く歌い続ければ私だって怒りたくなりますよ……!!」

 

 最初はただでこんな綺麗な歌声を聞けるなんて役得だなぁ……なんて思っていたけど、それが六時間も続くとアレ!? って思ってきちゃうことを初めて知った。

 宇宙人だからといってどれだけ強靭な声帯を持っているんだこの人は。

 

「なら、分かった」

「……え、どこに行くつもりですか?」

「公園」

 

 私は全力でイレーネさんに飛びつき、彼女の外出を妨害しにかかる。

 

「ハイル、私のことを姉のように思っているのは分かるけど、動きにくい」

「公園をコンサート会場にしないように必死に止めてるんです! もう、ここで歌っていいですから外で歌わないでください!!」

 

 情報化社会嘗めんな!! 貴女みたいな美女が数時間単位で歌い続けたら確実にバズっちゃうでしょうが!!

 公園の歌姫って話題になったらどうするんですか!!

 「しょうがないなぁ」と言わんばかりの表情で元いたソファーに戻ったイレーネさんは上機嫌にヘッドホンをして歌い始める。

 そして、その一方でレアムはパンツ丸出しになるのを構わずに、寝っ転がって漫画を読み始めている。

 

「う、うぼぁー」

 

 女の子らしからぬ声を漏らしても許されるでしょ、これ。

 なんで普通に暮らしているだけでこんな心労を溜めなきゃならないの……?

 

『苦労しているな、ハイル』

 

 テーブルに突っ伏している私に、橙色の機械仕掛けの鳥———ヴァルゴが羽ばたいてくる。

 男っぽい口調のまま可愛い声で話しかけてくるヴァルゴに視線だけ向けて弱音を吐く。

 

「そう思うなら少しぐらいあの人たちの面倒を見てくれていいんじゃないの?」

『嫌だよ。面倒くさいのはあの変態だけで十分だ』

「……サニーさんは?」

『出掛けてんな』

 

 サニーさんは意外とここに戻ってくることは少ない。

 なにかやるべきことがあるのか、基本的にここにいることはないけれど……比較的常識人な彼が留守なのは地味にキツイものがある。

 

「ヴァルゴ、どうしたらいい?」

『ひとまず、ジェムに物申したらいいんじゃねーか? あいつ一応家主だろ』

「……それもそうだね」

 

 というより、イレーネさんはともかく姉のことくらい弟のジェムさんがしっかりしてほしい。

 そんな思いで私はリビングから早歩きで、ジェムさんが閉じこもっている部屋の扉を叩く。

 

「———どうした?」

 

 訝し気な様子で扉が開かれる。

 緑を基調とした蛍光色のぼさぼさの髪が特徴的な男、ジェムさんが顔を出す。

 

「ジェムさん、本当にあの人たちなんとかしてください……! 私って守られている立場の人間ですよね? なんでこんなメンタルを削られ続けなくちゃならないんですか? 私、常に大人サイズの赤ちゃん二人の面倒を見ているようなもんなんですけど……!!」

 

 私の切実な訴えにジェムさんは気まずそうに視線を斜めに落とす。

 

「此花灰瑠。君は傍若無人の擬人化である姉と自由人の極みであるイレーネ様と唯一まともなコミュニケーションを取れる希少な存在だ。———引き続き、励むように」

「押し付けようとしているだけじゃないですか!!」

「俺は忙しい」

「株にド嵌りしてるだけじゃん!!」

「俺は忙しい!! おっと、これからデジタル株主総会の時間だ!!」

「そんな株主総会あるか!! オイ閉めるなぁ!!」

 

 敬語をかなぐり捨てる私に、ガチャリと扉が占められてしまう。

 こ、この家主アンドロイド……!! 居候の立場の私に厄介ごとを押し付けて閉じこもるとは……!!

 

『あー、ドンマイ』

「慰めないで、もっと惨めになるから……」

 

 ヴァルゴに慰められ肩を落としていると、背後で玄関が開く音が聞こえる。

 その音に振り返った先にいたのは、ここに住んでいるもう一人の住人、アンドロイド兼メイドのMEIさんであった。

 外出しているのでいつものメイド服ではなく、落ち着いた服装に身を包んだ彼女の帰還に私は感極まってしまう。

 

「ME、MEIさぁ~ん!」

「いかがなされましたか?」

 

 この家の良心、アンドロイドのMEIさんが帰ってきた。

 ジェムさんにより作られたという意思を持つアンドロイドである彼女だけれど、ここにいる誰よりも優しい。

 そのまま流れで、私の鬱憤、というか愚痴を口にするとMEIさんは頭痛を堪えるように額に手を置いた。

 

「まったく、ご主人様は。ハイル様は匿っている一般人ですのに……」

『いや、序列一桁とまともなコミュニケーションとれるやつはもう一般人じゃねーよ』

「おい」

「……確かに」

「MEIさん!?」

 

 納得しないで!?

 コミュニケーションがうまくいっただけだから!

 そこまですごいことしてないから!!

 

「ですが、確かにここしばらくの間、ハイル様には心苦しい思いをさせているのは理解しております。なにか息抜きができるような機会があれば……あっ」

 

 なにかに気づいたのか、MEIさんが右手の買い物鞄から何かを取り出す。

 

「でしたら、レアム様、ハイル様。こちら、先ほどショッピングモールの福引きで手に入れたものですが……」

「これは?」

 

 見た目は高価そうな装飾が施された封筒だけれど。

 なにかのチケット?

 

「遊園地の入園券です。当てました」

「当てました?」

「私のボディには透視機能も保有しておりますので。本来は三等の高性能掃除機を狙っていたのですが、誤って二等の方を引き当ててしまいました」

「このアンドロイドやばすぎ……」

 

 普通に不正してるじゃん……。

 試しに開けてみると……あっ、この遊園地そこそこ大きくて有名なところじゃん。

 結構新しめだし、マスコットキャラクターも結構かわいいんだよね。

 

「え、でも行っていいの? 私って迂闊に出られないんじゃ……」

「もちろん護衛は必要ですが、許可はいただけるでしょう」

「護衛って……MEIさん?」

 

 少しだけ希望を抱いて尋ねてみると、首を横に振られてしまう。

 

「序列二桁程度の戦闘力しか有していない私では、貴方様の護衛をするには適していません。護衛をするなら———」

「めーい、頼んだアイス買ってきてくれたー?」

 

 レアムが、ぐでーっとフローリングをイモムシのように這って顔を出してくる。

 彼女のあんまりな挙動に頭を押さえていると、軽いため息を零したMEIさんが私に視線を戻す。

 

「あらゆる武力も歯牙にかけない戦闘力の持ち主……くらいしか適した者はいないでしょう」

「……デスヨネー」

「……なによ?」

 

 思わず白目になりかける私に、暢気に首を傾げるレアム。

 いや、別に遊園地に率先していきたいわけじゃないし、気分転換になるといってもなにが悲しくて自堕落ゲーマーと一緒に遊びに行くな———、

 

「因みにですが、この遊園地は以前、ジャスティスクルセイダーとコラボしたところらしいですよ」

「へー」

「加えて、確定した情報でありませんが、この遊園地の着ぐるみを穂村克己が被りバイトをしていたそうです」

「……」

 

 ……。

 


 

 

「結局遊びに来てしまった」

 

 日曜、家族連れやカップルなどで多く見える遊園地に私とレアムはいた。

 

「はぁぁ……私って実はちょろい女なのでは……?」

 

 カツミ君はここにはいない。

 そんなことは分かりきっているのに来てしまった自分が嫌になってくる。

 

「へぇ、ここが遊園地ねぇー。人が多くて気持ち悪いわね」

 

 隣で辛辣なことを口にしているレアムを見てまたため息をつく。

 見た目が見た目なので目立つツインテールはおさげに変え、縁の太い伊達眼鏡に地味目の服装を着ていても尚、隠せない美少女さに世界の理不尽を感じてしまう。

 

「なによ、ため息なんてついて。あたしが護衛じゃ不満なの?」

「うん」

「殺すわよ?」

 

 正直に言うと、にこやかに脅されてしまった。

 でもまあ、これも軽口なのは分かっているので受け流す。

 

「ハイル、そんなに心配ないけど、私から離れないようにね」

「いや、レアムがすぐにどっか行きそうなんだけれど」

「そうなったら悪いのは貴女よ」

「普通にあんたが悪いわ」

 

 私の護衛なのに勝手に離れるのは駄目でしょうが。

 

「でもよく考えたら、レアムにしては大人しいね」

「にしてはってどういうことよ。……貴女を放っておいたらジェムがクレカとゲーム全部破壊するって脅したから。まったく、弟の癖に私を脅すとか……はぁ、生意気すぎるわ」

「ゲームと私を天秤にかけないで」

 

 またため息をついてから、気分を切り替えて手元のチケットに視線を落とす。

 

「折角、許可を貰ったんだし遊ぼっか。ついでに美味しいものも食べよ?」

「つまんなかったらぶっ壊してやるんだから」

「もういいから、悪役台詞」

 

 テンション上がると物騒なこと言う癖あるよね君……。

 せっかく外で自由に遊びべる日。

 最近は色々と悩むことばっかり多かったから、この日くらいは楽しんだって許されるでしょ。

 

『オレもいるのを忘れんなよ』

「分かってる分かってるって」

『ホントかよ』

 

 レアム以外の護衛としてついてきてくれたヴァルゴが肩にかけたバックから顔を出して不満げにしているのを見て、苦笑する。

 

「本当に変わっちゃったなぁ……」

 

 ほんの数か月前は普通の女子高校生だったのに、今や物騒なひとたちから狙われる変な立場にいる。

 お父さんもお母さんも友達も、誰も私のことを覚えていない。

 正直、辛いところもあるけれど———彼らが、カツミ君がまだ地球のために頑張って戦ってくれているから、それでもまだ大丈夫だって思える。

 




序列一桁のやべーやつらの子守をまかされていたハイルでした。
長くなってしまったので前編後編に分けました。


次回、脳破壊されかけるハイル。
明日の更新は18時を予定しております。
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