追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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6日目 6話目の更新となります。

今回はハイル視点後編となります。


此花灰瑠の変わってしまった日常 後編

 遊園地に遊ぶのは何気に久しぶりだったりする。

 前に来たのは小学生の頃、お父さんとお母さんと……ううん、このことは考えるのはやめよう。

 小さい頃はあまり激しめのアトラクションとか乗らなかったけれど、いざジェットコースターとか乗ってみると———、

 

「死ぬかと思った……」

「そこそこね」

 

 ジェットコースター滅茶苦茶怖くてびっくり。

 傍から見るとそんなに怖くなさそうなのに……。

 遊園地内のベンチに座ってグロッキーになりながら、隣で平気そうな顔をしているレアムに話しかける。

 

「レアムは逆につまんないって言うと思ってた」

「自分の制御下にないから、独特のスリルがある感じねー」

 

 電撃のエネルギー生命体っていうくらいだから、雷の速度で動けたりできるレアムからすれば退屈極まりないかなと思ってた。

 

「実際、それほど嫌いじゃないのよ。この星の生活」

「そうなの?」

「ハイルって多分、私のこと戦闘狂だと思っていると思うけどさぁ。本当は退屈してるのよ」

 

 それは普段の自堕落さを見ていてすごいよく分かる。

 でも、レアムが言いたいことってそんな単純なことじゃなさそう。

 

「生身をなくしてから私はずーっと退屈してたの。エネルギー体だから生きている実感もないし、楽しいこともなにもない。暇つぶしにいろいろな勢力に喧嘩を売ったりして退屈を凌いでいたけれど……」

「それでも退屈だった?」

「そ」

 

 短くそう返したレアムは、口の端を吊り上げ空を見上げる。

 

「でもこの星に来てからは楽しいわ。他の宇宙の文化にはないゲームとか、漫画とか無茶苦茶娯楽がたくさんあるし———なにより、私を楽しませてくれる黒騎士もいる」

「……」

「まあ、だからここでの生活は悪くないわ。ジェムがぐちぐち言ってくるのがうっざいけど」

 

 吐き捨てるようにそう口にしたレアムが立ち上がる。

 

「さ、もう十分休んだしなにか食べに行きましょ」

「ん。そうだね」

 

 私もそろそろ楽になってきたし、お腹もすいてきた。

 休憩していた椅子から移動した私たちは、そのまま遊園地内のフードコートへ向かって歩き出す。

 

「にしても人が多いわねぇ。いやになっちゃうわ」

「私はいいと思うけど。なんというか……活気がある遊園地ってワクワクするし」

「ええー、そう?」

 

 人も少なくて寂れていたら、楽しむとかそういう気分になれないんだよなぁ。

 なんというか、人がたくさんいることも含めて遊園地を楽しんでいるって気分にもなれるし。

 そんなことを考えていると、ふと甘い匂いが香ってくる。

 

「あ、いい匂い。なんだろ」

「あれじゃない?」

 

 レアムの視線の先にはキッチンカーがあり、そこにはキャラクターの形をした小さなカステラのようなお菓子が売られている。

 甘い香りに、そういえばお腹が空いたな、と思いながらレアムに振り向く。

 

「美味しそうだね。買う?」

「いいんじゃないの? あれば食べるわよ」

「そう言って全部食べるじゃん……」

 

 結構食い意地張っているくせに……。

 まあいっかと思い、そのままキッチンカーの前の列に並ぶ。

 

『ほら、こうた。カステラ』

『ありがと、お兄ちゃん』

 

 先頭に並んでいた家族と思わしき三人が子供と思われる男の子に、紙袋にいれられたカステラを渡して、食べさせている。

 なんともなしにその様子を列の後ろから見てほっこりし———ん? なんかあの家族の父親と母親、どっちもものすごく若くない?

 

『——らら、次は何に乗りたい』

『んー、どうしよ。こうたはどう?』

『メリーゴーランドがいい』

『じゃあ、それを乗りに行くか』

 

「? ……!!???」

 

 隣にいたレアムが跳ねた猫のような驚きをしながら、そのまますれ違った家族連れを四度見くらいする。

 

「はっ、え、なんで? ……うそでしょ?」

 

 目を見開いて、信じられないものを見た彼女の反応に私もびっくりする。

 私からはよく顔が見えなかったけれど、誰か知っている人だったのかな? レアムの知り合いってことは、宇宙人?

 

「レ、レアム!? どうしたの!?」

「……な、なんでもないわ。さっさとお菓子を買いなさい」

「? あっちに気になるものでも……」

「い、いえ」

 

 一瞬、レアムが視線を向けた方向を見ようとして、止められる。

 いつも自由すぎる彼女にしてはらしくなく、少し焦ったように見える反応に不思議に思って構わず見てみると———さっきと変わらず三人組の家族と思わしき後姿が見える。

 後ろ姿でしか分からないけれど若そうな家族連れで、父親と母親と男の子の三人みたいだ。

 

「あの三人がどうかしたの?」

「どうもしないわよ? むしろハイルの方が気にしすぎなんじゃないの? は? やんのか?」

「なんで喧嘩腰……」

 

 いったいなにがどうしたんだろう、この子。

 気にはなるけれど、ちょうど並んだ列の先頭が私たちになったので、手早く店員さんに注文してお菓子を受け取る。

 

「まずいまずいまずいまずい……なんでここに? このまま会わせたら私のゲームと課金がぁぁ……」

 

 本当にどうしたんだろう。

 今まで見たことがないくらいに狼狽したレアムに私もなにかが起こっていることをなんとなく察するけれど、それが何なのかは教えてくれなかった。

 

 

 

 

「———ハイル、そろそろ帰りましょうか」

「まだ食べてるのに!?」

 

 昼時ということでそこそこ混んでいるフードコート。

 ハンバーガーセットを頼み、それをつまみながら向かい合うように座っている私に、レアムは深刻な様子でそう切り出してきた。

 

「なにか起こっているのは察しているけど、なんで? も、ももももしかしてここが今から戦場になるとか……?」

「……戦場、にはならないわ。ただ……」

「ただ?」

 

 怪訝になる私を見て、なぜか痛々しいものを見るように目を背けられる。

 

「……」

「……いや言ってよ!? え、私!? 私になんらかの被害を被るの!?」

「今日はいい天気ね、ハイル」

「露骨に話題を逸らそうとしないで!?」

 

 なんで会話もへたくそになるんだ。

 どうして、この傍若無人を絵にかいた自己中美少女がこんなにも気遣うようなことを言ってくるの? そんなに深刻なことが私の知らないところで進行しているってこと!?

 

「とにかく、遊園地はまずいわ。帰りに別のところで遊びましょう。ゲーセンでもいいわ」

「・・・・・・うーん、分かった。言うとおりにするよ」

 

 これだけレアムが言うんだから大変なことが起きてるんだろう。

 抵抗しても別にいいこともないし、この食べ終えたハンバーガーの包みを捨てたら遊園地から出よっか。

 

「じゃ、捨てにいくから」

「頼むわ。———っ、ちょ、ハイル!!」

 

 ん? と思いながらトレーに包みを合わせてゴミ箱がある方へ振り向き――、

 

「———え」

 

「こうた、残念だったね。まさか点検中だったなんて」

「ううん。全然へいき」

「我慢できて偉いな。きらら、飯はここらへんで済ませるか?」

「うん、カツキくん」

 

 一つにまとめた三つ編みを前に回した茶髪の女の人。

 帽子と眼鏡をつけた男の人。

 そして、その二人と手を繋いで歩いている茶髪の女の人とどこか顔立ちが似た男の子。

 

「はぇ?」

 

 一見してただの家族。

 だが私には分かる。分かってしまった。

 というより、帽子と伊達メガネかぶっただけで変装といっていいのか分からないけれど、学校にいたとき隣の席で見てきた彼のことが分からないわけがない。

 

「ぇ……カツミ、君?」

 

 私の人生に大きな影響を与えた同級生。

 今は会わないように避けなければならない彼が、今私の目の前にいた。

 そして私の呟きと視線に彼も気づき、その目を大きく見開いた。

 

(この)・・・・・・(はな)?」

 

 私の名前を知って、呼んだ時点でもう本人だ。

 だって私の名前は皆忘れちゃっているから……呼べてしまうということはこの人は———間違いなくカツミ君だ。

 でも、なんで?

 

 なんで子供連れ?

 

 隣の人は誰?

 

 え、実は子持ちだったの?

 

 でもカツミ君同い年だよね!?

 

結婚したのか 私以外の奴と

浮気!?いや、付き合ってないだろ

あばばばばばば

頭が頭が痛い

七歳くらい? え、七歳?

 

 いや、待てまだ慌てる時間じゃない。

 冷静にクールに、カツミ君の隣にいる———白の縦セーターにこれでもかと母性の象徴を強調させている女性を見る。

 今のレアムと似た黒よりの茶髪を長い三つ編みにして前に回すような髪にしている……なぜかちょっと見覚えのある美人。

 お、同い年か? だとしても並外れたものをお持ちで……!?

 動揺のあまり胸をガン見しながら下品なことを考えそうなところを理性で抑えた私は、これ以上なく震えた声でカツミ君の隣にいる人に声をかける。

 

「え、そ、そそそそちらの方は……」

「ひ、ひさしぶりぃハイルぅ……あの・・・・・・きららです。こっちは弟のこうたです……」

 

 ものすごく挙動不審になりながら答えると手を繋いでいた男の子がぺこりと頭を下げてくる。

 

「こんにちは。こうたです」

「あ、こんにちは・・・・・・」

 

 礼儀正しい男の子に思わず挨拶を返し……って、きららァ!?

 最近になってジャスティスクルセイダーのイエローって発覚し、同級生の友達だった彼女と再会してしまった私は、今日何度目か分からない衝撃を受ける。

 

 ジャスティスクルセイダーだし、同じ組織に所属していうカツミ君と一緒にいるのはまだ分かる。

 

 一緒にいる男の子も弟って聞いて、そういえばきららに妹と弟がいるって話を聞いたことがあるので納得する。

 

 それに、身分明かされているし変装しているのも分かる。

 

 でも、その変装の仕方はなんらかの思惑があるでしょうが……!!

 

「なんできらら、そんな若妻みたいな服装してんの!?」

「誰が若妻!? ……え、えへへ、でもそんなぁ妻って……」

「———ッ」

「ハイル、落ち着きなさい!? ね? ね? 周りが見てるから!? ———なんでこの私が抑え役なんてしなきゃならないのよ!?」

 

 満更でもないように両手を頬に当てて照れるきららに、無言で手刀を構える私を押さえるレアム。

 ふぅー、ふぅー、と呼吸を整えた私は今更ながらレアムがなにを気遣っていたのかを理解した。

 

「久し……ぶりだな。此花」

「……っ」

 

 カツミ君がどこか探り探りに話しかけてくる。

 多分、私が彼の記憶を思い出しているかどうか、判断できていないから……なんだろうね。

 私は、アルファって子に記憶を封印されていたから。

 

「此花。会うのは———」

「本当の君と会うのは、あの夜以来……だと思う」

「……そうか」

 

 それから気まずい沈黙が続く。

 周りでは他のお客さんが食事をしたり、歩いていたり騒がしくはあるのだけれど、それでも私には痛いくらいの静寂に感じるくらいに静かに思えてしまう。

 だけど、こんな形とはいえようやく会えたんだ。

 限られた時間かもしれないけれど、ちゃんとカツミ君と話したい。

 あの夜、怪人から助けてくれたお礼を言いたいし、私の記憶からカツミ君の記憶を消したことも怒りたい。

 

「ね、ねえカツミく———」

「っ!!」

 

 話しかけた瞬間、彼と隣にいたきららが同時に空を見上げる。

 にらみつけ、険しさすら感じるその目に狼狽えてしまっていると、そばにいたレアムも同様に空を睨みつけていることに気づく。

 同時、私の持っているバッグから橙色の機械仕掛けの鳥———ヴァルゴが飛び出し、一般人の前に姿を晒してしまう。

 

『ハイル』

「ヴァ、ヴァルゴ! ここには人がいるから出てきちゃダメだよ!?」

『……いや、そうは言ってられねぇみたいだぜ』

 

 さすがに気づかないはずもなく、周りの視線を集めながらもヴァルゴは依然として空を睨みつけるカツミ君へ話しかける。

 

『カツミ、気づいたか?』

「ヴァルゴか。此花の護衛だな? サニーはいるか?」

『あのオカマはここにはいねぇ。オレともう一人だけだ』

「そうか。———来るぞ」

 

 彼の言葉と同時に、雲一つない青い空にいくつもの黒い巨大な渦が現れる。

 それらは現れて数秒してすぐに消えるけれど、そこにはとてつもない大きさの宇宙船のようなものが存在していた。

 

「———最っ悪。五位だわ」

 

 隣のレアムの吐き捨てるようなセリフの後に同じ黒い渦がいくつも現れ、最初に現れたものよりも小柄な船がいくつも現れる。

 ———宇宙人の侵略。

 昔の映画とかで見たようなテンプレな光景に声も出せずにいられると、空を睨みつけていたカツミ君が帽子と眼鏡をはずし、整っていた髪を崩す。

 

「きらら、お前はこうたを連れてここにいる人たちを避難させてくれ」

「分かった。……ここに来そうだね」

「ああ、また巻き込んじまった……クソ」

 

 私の記憶の中で見慣れた鋭い顔つきへと変わった彼は次にこちらを見る。

 数秒ほど視線を交わした後に目を瞑った彼は、なにかを察知するように背後を振り向く。

 瞬間———遥か空高く、雲よりずっと上を飛ぶ宇宙船から真っ赤な光の柱が降り注ぐ。

 

「———お前が黒騎士か」

 

 光が消え、現れたのはボロボロに傷んだ軍服を着た人型の宇宙人。

 顔は見えないけれど、その手に海賊とかが持つような……カトラス? に似た片刃の剣を流すように持っている。

 幅広の帽子を被ったそいつは低く構えると同時に———一瞬でその姿を消し、私の目の前にいるカツミ君へと剣を叩きつけていた。

 瞬間、白煙が舞い、なにも見えなくなってしまう。

 

「ハイル、ジッとしていなさい!」

「カツミ君!!」

『心配ねぇ。あいつは防いでいる』

 

 守るように立ってくれているレアムの後ろで彼の名を呼ぶ私の耳に、冷静なヴァルゴの声が聞こえる。

 その声に一度彼の方を見ると、そこには宇宙人が振り下ろした剣を、変身した姿で受け止めるカツミ君の姿がそこにあった。

 拘束具のようなベルトが巻き付けられた白と黒の混じった姿の彼は刃を受けた赤い剣を跳ね返しながら、目で追えないくらいの速さの攻撃を余裕をもって弾いていく。

 

「良いな。良い、戦士だ」

「時と場所を弁えられねぇのか? 誰なんだよ、てめーは」

 

 再び、嵐のような風が吹き荒れる。

 それがカツミ君と、彼と戦っている宇宙人の戦いの余波と認識した時には、彼の姿はもう遠く、私には届かない場所に行ってしまっていた。

 




脳を破壊されかけるハイル。
そして、五位の襲撃でした。

次回は、キララが遊園地に向かう一週間前のお話となります。
明日の更新は18時を予定しております。
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