今回はきらら視点。
前話から一週間程前の時系列となります。
【一週間前】
桃子さんが“ジャスティスピンク”として姿を現してから、怪人の出現パターンに大きな変化が起こった。
それは出現する怪人の数。
怪人固有の能力を省いた個体———戦闘員のような木っ端怪人、そしてそれらを統率する能力持ち怪人が現れるようになったのだ。
そして一番厄介なのがその怪人たちに流れる紫の体液が、自然や人工物を汚染するものになっていること。
この体液は人体に対してすごく有害で、社長がサンプルを調べたところ、その正体は細菌に近いものらしい。あくまで細菌に近いだけで、その実は極限まで極小化された群体型の“怪人”なんていうものだから、いよいよ怪人とはなんだってツッコミたくなった。
「キィィァ!!」
「ジィィ!!」
「鬱陶しいなぁこいつら!!」
都市から離れた郊外。
民家がちらほらと並ぶ地区に出現した群体怪人を相手に私は電撃を纏わせた斧を薙ぎ払い、その身体を蒸発させる。
「黒騎士くん! 統率してる怪人は!!」
『……。どうやら、お前のところが当たりのようだ。アルファ、他のところは?』
『まだ戦闘中。苦戦はしていないようだけど、数だけは多いみたいだね』
司令する立場にいるカツミ君とモニターをしてくれているアルファちゃんの声に私も頷く。
『きらら、他の奴らもまだ援護に向かえそうにない。———行けるか?』
「もちろん!!」
一番面倒くさいのはこの群体怪人、どこにでも現れること。
戦闘力も低い代わりに各地に同時出現し、否応にもこちらも戦力を分散して対処に当たらなければならない。
眼前の汚染された地面ごと電撃で焼き尽くした私は、嫌な気配のする方向へ歩き出す。
「ここは都会とは随分違うんやね」
田園風景とでもいうのだろうか? ちょっと古い民家がちらほらと見え、家よりも背の高い木々が目立っている田舎っていう感じの場所だ。
比較的都会に住んでいた私には中々に縁遠いなぁ、と考えながら進んでいくと、ごぅん、と地響きのような音が近づいてくるのを耳にする。
「……図体がデカいタイプか」
もしかしてロボの出番?
巨大化怪人と戦う展開を予想して排除から足止めへと思考を切り替えようとしていると、一際大きな地響きの後に林をなぎ倒しながら、地響きの元凶らしき巨体が突っ込んでくる。
『きらら!! 来るぞ!!』
「!!」
両手で持った斧を強く握りしめ、大振りに構えたそれで目の前の空間に叩きつけるように振るう。
「グバァァァ!!」
林をなぎ倒しながら突っ込んで来たのは、丸々としたカエルの怪物。
紫の涎を巻き散らしながら姿を現したそれは、確かな憎悪と殺意を滾らせながら私目掛けての体当たりを仕掛け———その胴体にフルスイングの斧をめり込ませる。
「———!」
「グァバァァ!!?」
———柔らかなゴムを殴りつけたような感覚。
ぐにぃぃぃぃ、と見た目以上の柔らかさを伴って斧の斬撃を、表皮で受け止めたカエルの化け物はゴムが弾けるように、その身体をバウンドさせ吹き飛ばした。
「……手ごたえはなし。黒騎士くん、相手は衝撃を吸収するタイプの怪人みたい」
『呼び名は蝦蟇怪人ってところか? 普通の怪人以上の巨体に、きららの攻撃を跳ね返す柔軟な表皮……防御に特化してる上に、こんな人の少ねぇところで現れたってことは、なにかを蓄えて後々巨大化するタイプだろ』
……まだ衝撃を吸収して大きいってことしか情報はないのに、そこまで分かるんだ。
なんかもうカツミ君本人は嫌がるけれど、怪人以上に怪人の生態を理解しているかも。
『つーことは、早めに止めを刺せばいい』
「なら、思いっきりやればいいってことやね」
『ああ、お前ならできる』
無条件の信頼がこそばゆく、そしてどんどん勇気が湧いてくる。
最初はカツミ君が指令の役割をするって聞いて不安もあった。
でも、常に後ろに彼の存在を感じ取れるってのは、正直すごく安心感がある。
「グバッ、グババババ!!!」
紫の粘液を巻き散らし、どすん、四股を踏むように後ろ脚で地面を踏みつける蝦蟇怪人。
「私、カエル苦手なんよ」
見た目がぬるぬるしているし。
しかもこいつに至ってはカエルの可愛らしい面影なんてほとんどなく、皺まみれの顔にあるはずのない牙が生えたりと、悍ましい造形をしてる。
「グゥゥゥ……!」
「あん?」
空気を大きく吸い込んだ蝦蟇怪人がお腹を膨らませ「バァァァ!!」という、雄叫びと共に紫の粘液を濁流のように吐き出してきた。
「汚いなぁ、もう!!」
斧を薙ぎ払い一気に粘液を蹴散らし、私自身も電撃を纏いながら突撃を仕掛ける。
———今、この場所は人工物も人も少ない田舎!! ここなら、街中にいる時以上に周りを気にせずに動ける!!
「ハァァァ!!」
使い慣れた両刃の斧を力任せに振るい、身の丈を遥かに超える両生類じみた怪人へと叩きつける。
背の雷神の太鼓を思わせる“ジャスティビット”からけたたましい音と共に電撃が放出され、斧が激突した部位から焼き焦がす。
「ギィィィ!!」
「もういっちょ!!」
力任せに腕を振り切り、大型バスほどの巨躯を吹き飛ばす。
地面をバウンドするように吹き飛んで行った怪人は地面に紫の血液を巻き散らしていき、その血の染みが広がり地面を、周囲を汚染していく。
「一丁前なのは図体だけかァ!! あぁん!!」
さらに蝦蟇怪人へ距離を詰め、全力の振り上げを叩き込む。
「でかいの食らっとけや!!」
「ゲゲェェェェ!!?」
空高く打ちあがる巨体。
それに合わせ、背中から電撃を放出させる。
稲妻のように轟き、輝き、地面に紫電が跳ねる。
———私の強化形態はパワーに特化させたもの。
電撃はあくまで余剰エネルギーを放電しているに過ぎず、もし私が街中で本気で攻撃を繰り出そうものなら、無差別に周りに被害を及ぼしてしまうくらいに危険な力。
でも、それに指向性を持たせて放てば!!
「遠距離なら、こっちにだって!!」
人差し指と中指を打ち上げられた蝦蟇怪人へ向け、纏っている電撃を一点に集中し放つ。
「ゲゲェェ!!」
空に打ち上げられながら、その体躯を大きく膨らませた蝦蟇怪人が毒々しい色の体液をビームのように吐き出す。
でも、私が放たれた電撃は空を切り裂く龍のような軌道を描きながらその攻撃を瞬く間に蒸発させ———蝦蟇怪人に直撃、その内外を焼き焦がす。
稲妻に打たれたように昼間に関わらず空が明滅し、蝦蟇怪人の汚らしい悲鳴が響き渡る。
「切り裂けぇぇ!!」
人差し指と中指を構えた腕を大きく薙ぎ払う。
鞭のようにしならせた電撃が、反動をつけるように蝦蟇怪人の体を両断させた。
最早、断末魔すらもなく体を半ばから断ち切られ、追い打ちをかけるように残留した電撃がその跡形の存在を許さないとばかりに、肉片すらも焼き焦がしていく。
「……ふぅ、こういう場所でしか使えないね。この技」
葵に「こんな風に電撃を使ったら強そうじゃね?」と言われ、試したら思っていたよりも使えてびっくりした。
多分、なにかしらの元ネタはあるんだろうけれど……まあ、それは聞かないでおこう。
真っ黒な煤となって空に散っていく蝦蟇怪人の残骸を見届けた後、手に纏わりつく電気を振り払いながらカツミ君へ連絡を繋ぐ。
「倒したよ」
『見てたぞ。よくやったな、キララ』
「……えへ」
———いや、まだ口角を緩めるな私。
今はまだ現場。
怪人がまだまだ潜んでいるかもしれないのに油断しちゃだめだ。
「他のみんなは?」
『粗方掃討し終えているな。本命の怪人がいたのはお前のところだけだったみたいだ』
「今回の貧乏くじは私ってことやね」
別に特別強いってわけでもなかったけれど、強化状態の私の攻撃を防ぐあたりなかなかに面倒な怪人ではあったとは思う。
『今、そっちに風浦さんが向かっている。きららは引き続きその場に待機、風浦さんが到着次第護衛を頼む』
「りょーかい」
桃子さんも大変だよなぁ。
ここだけじゃなく各地に出没している汚染の対処をしなきゃならないなんて。
……社長が桃子さんのエネルギーを利用した……確か『浄化装備』? だっけか? それを完成させれば、桃子さんの負担も減るのだろうけど。
「ねえ、カツミくん、最近の怪人の出現だけれど」
『お前も疑問に思ってたか』
「そういうことはカツミ君も?」
私の質問に彼が「ああ」と答える。
今回だけじゃなくここ最近の怪人の出現を考えてみると、どうにも違和感がある。
「これってどう考えてもこっちの戦力を分散しようとしているよね」
『なにか他に目論見があってこっちの目を誤魔化してぇのか、はたまた風浦さんを引っ張りだしてぇのか……どちらにせよ、これに能力持ちも潜ませているあたりやり口が狡猾だ』
私たちは三人で集まらなくちゃ怪人と戦えなかった頃とは違う。
死線を潜り抜け、スーツも強化し、たくさんの戦闘経験を積み、単体でも怪人に対処できるようになった。
そんな私達に、戦力を分散させて各個撃破……なんてことが今更通じるはずがない。
「……まあ、今はできることだけをしていくしかない、よね」
『面倒くさいことにな』
ここで焦ってもどうにもならないし。
戦うことしかできない私たちは、今やれる最善を尽くすしかない。
そう自分に言い聞かせ、戦闘の後の高揚を落ち着け———て、不意……じゃなく、最近ずっと頭に浮かんでいた考えがよぎる。
「ね、ねえ、カツミ君?」
『どうした? なにかあったか?』
「……い、いやぁ、な、なんでもない、かなぁ?」
『?』
……また日和ってしまった……!!
これをいったい何回繰り返せばいいんだ天塚きらら!!
葵でさえ、不意の一回で誘えているのにぃぃ!!
「ちょっと自分の情けなさが悲しくなっただけ、気にしないで」
『いや、気にするんだが……?』
カツミ君を遊びに誘いたい。
アカネもアオイもハルちゃんも一緒に遊びに行ってズルい。
でも、いざ誘うとなるとどうやって誘っていいか分からない……!!
誰か、誰か助けて……!!
『きらら、後で時間でも取るか? 悩みかなんかあれば聞くぞ?』
「えっ、アッ、おっふ……」
「おっふ?」
じょ、女子にあるまじき声が漏れてしまった。
ていうか、こんなことでなに心配させとんねん私!! そしてそんな優しさににやけんな私ぃ!!
誘え誘え誘え、天塚きららッ!!
すると脳内の天使と悪魔がカツミ君を遊びに誘おうと葛藤している私に囁いてくる。
| 『普通に断られたら立ち直れないよ』 |
| 『そうそう、今のままで十分だぜ』 |
| 『どうせ、後で泣くことになる』 |
| 『ヘタレでいいじゃねーか』 |
| 『私は私のままでいいんやない?』 |
| 『これ以上恥をさらすつもりか?』 |
私の脳内はネガティブな天使と悪魔しかおらんのか!?
なんで私の唯一の味方であるはずの私が、私に甘いようで堕落させようとしているの!?
『きらら?』
「ダイジョブ、デス……うん」
いったいどうやってカツミ君を遊びに誘うか。
怪人を倒す以上に困難なミッションに私はもう今の時点でグロッキーになりかけていた。
怪人退治以上に難しいミッションに苦しめられるきららでした。
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