今回もきらら視点です。
怪人勢力に個人情報をバラされ自分だけじゃなく家族の身の安全も危険にさらされている現在、私の家族はジャスティスクルセイダー第二本部に住んでいる。
そこのなにがすごいって社長の先見性の高さ。
いずれこうなるという事態を想定していたらしく、第二本部建設時には既にある程度の人数が住むことのできる居住区画を用意していたとのこと。
『無駄になるならそれでヨシ!! 無駄になってもスタッフの仮住まいスペースとして利用できるのでヨシ!! 結論無駄ではなぁい!!』
居住区画内で家族みんなが住んでいる部屋は、マンションのちょっと高めの家賃の一室って感じ。
私達家族でも余裕に住めるくらいの広さがあるので、現状弟妹たちの不満もなく安心して暮らしてもらっている。
仕事とかに関しても……私も詳しくは分からないけれど、今はリモート会議とかで仕事場に行かなくても仕事はできるらしく、加えて第二本部内の仕事を手伝えばちゃんと給料も出るとのこと。
……。学校に行けない妹のななかと弟のこうたに関しても、まさかの本部内のスタッフに教員免許持ちがいるので、その部分も全く問題ないし、むしろなんならないのかってくらいに、ないものが見つからない。
というより、社長が採用した人員の層が厚すぎるってのもある。
『やあ、新坂さん』
『おお、おはようございます。天塚さん、日向さんも』
『お早う……』
そして、そんな生活の中でちょっと面白いのが私、アカネ、葵の家族がお隣さんみたいになっていること。
毎朝のゴミ出しに顔を合わせる度に、三者特有の挨拶を交わす父親三人の姿はちょっと面白い。
……。
……、……。
「貴女って子は、いつまで現実逃避をしているのかしらねぇ」
「ウッ」
現実逃避気味に今の生活について考えている中、お母さんの呆れた声で我に返る。
場所はリビング、テーブルを挟んで座る私はついさっきお母さんに、カツミ君を遊びに誘えないという悩みを打ち明けていたことを思い出す。
……冷静に考えてみると、母親にこんなことを相談するのはどうなんだろう?
「カツミ君は断らないでしょう?」
「ううん。断らないのは分かってる」
「え、じゃあ、そんなに悩んでるの?」
そう、別に普通に誘ってもカツミ君は頷いてくれるのは分かっているのだ。
問題なのが———、
「アカネと葵みたいに我を忘れて醜態を晒さないか怖いの」
「貴方達って本当に友達……?」
葵は日和り、アカネはテンション振り切って無敵になって黒歴史を作りまくった。
「自己評価はできてるから分かる。私は確実になにかやらかす。きっとカツミ君をドン引きさせちゃう」
「なんでこの子はこんな変な方向にネガティブになっちゃったのかしら……」
最早これは確信だ。
きっと私はデート中にド緊張して何かしらやらかしてしまうんだ。
「醜態なんてもう数えきれないくらい見せているのに……いったいなにを言っているのかしら?」
「酷くない……?」
母親にあるまじき辛辣さに、唖然とする。
「その奥手さと、考えすぎなところとかいったい誰に似たのかしらねぇ」
「……お父さんじゃないの?」
私の言葉にお母さんは首を横に振る。
「パパは全然奥手じゃなかったわ。むしろ若い時は情熱的な人で……私もこんな様じゃなかったし」
「今、娘のことこんな様っていった?」
「それじゃあ、キララって誰に似たのかしら? あら~?」
「母親が疑問に思わないでよ!?」
そこで疑問に思われちゃうのが一番ダメージ来るんだけど!!
確かに、うちの家族は私以外ぶっ飛んでいるところがある!! ななかもこうたも年不相応に肝っ玉が凄いし!!
「大丈夫、安心してきらら。貴女は性格は似なかったけれど身体つきはちゃんと遺伝したから」
「慰め方が下品すぎる!! やだよぉ、そんな遺伝!!」
「……おっと、その太ももは突然変異ね」
「太くないよ!!」
テーブルの下の私の脚を指さしながら、いい年こいて、てへっ、と口に母親にテーブルに突っ伏す。
つ、ツッコミ疲れた。
こうなった時のお母さんと話すのは、怪人や侵略者と戦う時よりもずっと疲れる。
「でもまあ、もういいんじゃない? カツミ君さえ息子になってくれたらこの際、複数でもいいわ」
「あんた本当に母親……!?」
「カツミ君いい子だし、あまり貴女のせいで悩むところも見たくないし……」
「娘の扱いがあんまりすぎる……!!」
私よりカツミ君なのかい。
しかし、正論ではある。
正論であるが故に反論できないのが腹立たしい。
「みんないい子だから、義理の娘もセットで増えると思えば全然アリね」
「倫理観ないんか?」
怒涛のボケに思わず関西弁になってしまう。
言ってることがモンスターすぎてドン引きだよ、この母親!!
しかも口ぶりからしてアカネと葵も娘にしようとしてる!? 正気!?
「ああ、もうどうしよ~」
色々話してまた頭を抱える。
するとそこでリビングに妹のななか、と弟のこうたがやってくる。
「あら、ななか、こうた。お出かけ?」
「うん」
わんぱくながらしっかりした妹のななかが、手提げを肩にかけながら私達に声をかけてくる。
「うん」
「こうたと一緒にカツミ兄のところに遊びにいってくる」
へぇ、カツミ君のところに遊びに行くんだ。
……ん?
「は?」
え、い、いつ、約束したの?
遊びに誘えない私を他所に、室内とはいえ遊びの約束を取り付け日常感覚で向かおうとしている妹に戦慄する。
そんな私を知ってか知らずか、お母さんは頬に手を当てながら時計を見上げる。
「そういえば遊ぶ約束をしたって言っていたわねぇ。あ、そうだ、これから私、食堂のお手伝いに行くからこの子も連れて言って上げて」
「ねえ、お母さん。私もうすぐ19歳」
なんでそんな子守をさせるみたいな言い方? 私は中学生以下とでも言いたいのか。
しかも12歳のななかに任されるとか、どれだけ情けないと思われているのだろう。
「なら、ちょうどいいかな。……それなら、お姉ちゃんも行こ! 沢山の方がカツミ兄も喜ぶし、ねっ、こーた!」
「うん」
妹に手を引かれながら呆然と頷く。
予定になかったけれど、カツミ君のところに行くことになってしまった私は、そのまま弟妹達に手を引かれながら彼のいる部屋へと向うことになった。
思えば、カツミ君がこの第二本部で生活するようになってから、部屋に物が増えたような気がする。
以前、彼が独房にいた頃は私たちが物とか持ち込んでいたけれど、今の彼も似たようなもので、私達やスタッフさん達が差し出したものなどが綺麗に飾られたりしている。
棚の方にも、恐らく社長やスタッフの面々が貸し出した映画のパッケージや漫画、小説などが綺麗に並べられているから、彼が順調に“普通”になってきているのがよく分かる。
「ぎゅうどんも元気そうだね……」
部屋に置かれた金魚鉢型の水槽にいれられた一匹の金魚。
赤色よりの橙色の体に四つにわかれた綺麗な尾びれが特徴的なその金魚の名は“ぎゅうどん”。
カツミ君に掬い上げられ、連れ帰られたこの子はとても大事に育てられているのが眺めているだけでよくわかる。
『むむむ……』
『グルル……』
「なーんで君たちは睨みつけてるの?」
傍で金魚を睨みつけるプロトとシロに苦笑いしながら声をかけてみる。
『上下関係を分からせてる』
「金魚相手に嫉妬するのはさすがにだめだと思うけれど」
『グルル……』
嫉妬心すご。
それに対してぎゅうどんはプロトとシロの威嚇をものともせずに優雅に水槽の中を泳いでいる。
なんというか、飼い主によく似ている金魚というか……。
「……」
そして、カツミ君はというと。
金魚のいる棚からカツミ君と妹と弟の座るソファーへと振り返ってみる。
「こうた、ダイヤってどこにあるんだ?」
「えーとね、深いところを掘るとあるよ」
彼は今、ななかとこうたと一緒にゲームしている。
私はその様子を見ているだけだけど……正直、見ているだけでも中々に微笑ましくはある。
「カツミ君はたまにななかとこうたと一緒に遊んであげてるの?」
「違うよ、お姉ちゃん。私たちがカツミ兄と遊んであげてるの」
遊んであげてるってあんた……。
私の質問に自信ありげにそう言うななかに胡乱な目を向けていると、傍にいるカツミ君が苦笑いする。
「ねっ」
「そうだな。いつも遊んでもらってるな」
「ほらっ」
その言葉にななかもこうたも嬉しそうにする。
優しいなぁ、と思いながら私はカツミ君の座るソファーに近づき、声を潜めて話しかける。
「甘やかさなくてもいいのに」
「部屋にいても暇だからな。それに、賑やかなのは嫌いじゃない」
「……そっか」
最初にあった頃のカツミ君を知っている身からすると、時々出てくる彼の変化が嬉しくなってしまう。
その嬉しさができるだけ顔に出ないように努めていると、いつの間にかカツミ君と私のいるソファーにまで近づいてきていたななかが身を乗り出してきた。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「これー」
ななかの手からなにかが差し出される。
……紙切れ? ううん、なにかのチケット?
それを受け取ったカツミ君が、不思議そうにチケットを見る。
「遊園地の無料券?」
「え、遊園地?」
なんでそんなチケットをななかが?
隣に寄って覗き込んでみると、結構見覚えのある遊園地の絵が目に映る。
「ここって俺が記憶喪失の時にバイトしていたところだな」
「カツミ君がクロロくんの着ぐるみを着ていたときのだよね」
あの時はカツミ君がバイト中に怪人が現れるハプニングがあったけれど、倒した後は合法的にカツミ君に抱き着いたりできて美味し……いろいろとコラボとかさせてもらって楽しい思いをしたんだよね。
「どうしたんだ? これ」
「パパが前にチケットを貰ってたんだって。本当は家族みんなで行こうって話をしていたらしいんだけれど……色々と大変なことになっちゃって行けなくなっちゃったんだ」
「あー、そうか……」
怪人に私達のことがバラされたせいで、妹と弟に無理を強いてしまっていた。
自覚していたけれど、そのことを今一度認識させられて沈痛な思いに駆られる。
でも、一番気になるのが……どうして私にその話が共有されてないん?
地味にそこらへんが気になっていると、ななかは表情を暗くさせる。
「こうたも私も行きたかったんだけれど……」
「……今はお前たちでさえで外に出るのも危ないからな」
「うん、だからカツミ兄と一緒ならもしかしてかもって思って……」
———姉だから分かる。
この妹は演技をしている、と。
沈痛な面持ちで、そう語るななかにカツミ君は考え込むように、腕を組む。
「……お父さんとお母さんの許可はちゃんともらってるか?」
「うん」
え、いや、それも私はまったく知らないんですけど……?
私の知らないところでカツミ君と一緒に遊園地に行く許可を両親からもらってたの!?
ななかの提案にカツミ君が納得したように頷き、次に静かに話を見守っていたこうたに優しく話しかけた。
「こうた、遊園地に行きたいか?」
「……うん」
「そうか」
こくり、と物静かに頷くこうたの頭に手を置いた彼はゲーム機を置いて立ち上がる。
「分かった。今、レイマに許可をもらってくる」
「ありがとうカツミ兄! あ、それとなんだけれど……」
立ち上がるカツミ君をななかが呼び止める。
振り返った彼に、ななかが私の方を指さす。
「お姉ちゃんも一緒に行ってもいい?」
「……へ?」
あー、ななかもこうたも一緒に遊園地行くんだー、いいなー、私も小学生だったらなー……なんて邪なことを考えていたところに、ななかが不意打ち気味そんなお願いを口にしたので吹き出しそうになる。
「な、ななか?」
「黙って」
一瞬、家族に向ける言葉遣いになったななかにそういわれ、口を閉ざす。
なにも言えなくなってしまう私をよそに、また考え込むそぶりをみせたカツミ君が私を見て頷く。
「……そうだな。俺一人より、きららもいてくれた方が安心だな。きららも大丈夫か?」
「……」
「お姉ちゃん、返事」
「エッ!? ア、うん! 全然問題ないよぉ!!」
妹に促され、テンパりながらも返事をする。
「そうか」と返したカツミ君は、連絡をするために居間から出て行ってしまう。
怒涛の展開にフリーズしてしまった私は力なくソファーに腰掛け、ようやく自分が今度カツミ君と遊園地に行くという事実を認識する。
———え、これもしかして遊園地デート?
———妹と弟もいるけれど、もしかしなくてもそうだよね!?
未だに混乱の渦に取り残されたままだ……!!
思考がまとまらないまま、呆然と座る私の隣に一仕事終えたようなため息を零したななかが隣に腰掛ける。
「お姉ちゃん、私は当日仮病つかって留守番してるから」
「……え? なんで? だって遊園地に行きたいんじゃないの?」
「おバカ」
ななかから提案したのに……?
びっくりしてそう言うと妹は呆れた目で私を見上げ、大きなため息をつく。
「こうたはともかく、私は別に遊園地に行きたいって年頃じゃないよ」
「いや、でもあんた十二歳……」
「分かんないかなー」
ぽす、と肘で胸を小突かれる。
「仕方なくお姉ちゃんのために約束を取り付けてあげたの。お姉ちゃん、ずっと日和ってんだから」
「ウッ、それは……ごめん」
「チケットも昨日、パパからもらったやつってだけだから」
ということは、すべて妹の計画したこと……?
やれやれと、肩を竦める妹になにも言えなくなる。
もう姉の威厳とかそういうのは今後ないのかもしれない。
「あとどうせカツミ兄と二人きりにしてもテンパるのが目に見えてるから、こうたも一緒ね」
「ハイ……」
「こうたも楽しんできてね?」
「うん、ありがとう。お姉ちゃん」
まさかこうたも一つ嚙んでた口なの……?
どこまでが作戦かどうかすら分からない。
でも、テンパるのは本当にありえそうなので、本当になにも言えない。
無事に約束を取り付けられたからか「んー」と背伸びをしたななかが、脱力するようにソファーの背もたれに背中を預ける。
「はー、これでカツミ兄と一緒に遊びに行けるね。うまくやってよねー、お姉ちゃん」
「なんだか泣きそうになってきた」
「……なんで?」
妹にこんなに想われて本当に嬉しいけれど、十二歳の妹にデートの約束を取り付けてもらうとか滅茶苦茶情けなさすぎるでしょ、私ぃ……!!
私の恋愛力が小学生以下という事実……!!
というより、私もしかしてアカネと葵以上に情けないデートの誘い方をしてしまったのでは!?
すべて妹にお膳立てされていたきららでした。
今回の更新は以上となります。
九日間もの間、連続更新にお付き合いいただきありがとうございました。