今回もきらら視点でお送りいたします。
妹にすべてお膳立てしてもらってデートをすることになった。
ノリでデートの約束を取り付けた葵と棚ぼたで遊びに出かけることになったアカネよりも、ずっと情けなさすぎる方法で遊園地に行くことになった私は、その後は自分の情けなさに打ちひしがれていた。
でもデートに行くことは決定しているので頑張って気力を振り絞って立ち上がり、その日に着ていく服を真剣に選んだ。
それでも不安なので、選んだ服をお母さんとななかに見てもらおうと思い、二人のいるリビングへ見せに行ったけれど———、
「お姉ちゃん。さすがにそれは無い」
「貴女、ダメよ。ダメダメ。そんな着重ねた服でなにをしに行くの?」
「え、遊園地だけど……」
「登山の間違いでしょう?」
「そこまで着込んでないよ!?」
ものすっごい不評だった。
てか、そんな重装備してないじゃん!
抗議する私にお母さんが、嘆くように額に手を押さえる。
「貴女、遊園地でそんなひらひらの服着てどうするのよ? いかに貴女のパワーが人間離れしていても行先に適したファッションってものがあるでしょ?」
「人を人外みたいに言うな! 力も普通の人間だよぉっ!? ……それに、別にこの服でもおかしくないと思うんだけど……」
これでも雑誌を読み込んで季節に合わせた服にしているんだ。
確かに動きにくいっちゃ動きにくいけど……。
ちょっと不貞腐れると、お母さんが額を押さえて遠くを見るように嘆き始める。
「あー目に浮かぶわー! 初デートで気合をいれて着た服が歩き回るのに適してなくて、それでカツミ君に迷惑をかけて、ベンチに座ってからまわった自分が恥ずかしくなって後からでもいいのにその場で反省してさらに気を遣われて、終わった後もその後一か月くらい引きずる娘の姿が思い浮かぶわー!!」
「アッ、ワッ、ワァ……」
「お姉ちゃん泣いちゃった」
生々しすぎる想像を口にするのやめてよぉ!!
それもう予知じゃん!! もうそうなる予感しかしなくなっちゃったじゃん!!
全然普通に想像できて、というより今この時点で情けなさすぎる自分に泣きそうになる。
「きらら。安心して。ここは私とななかに任せなさい」
「今どきのファッションとか分かるの?」
「思春期を戦いに明け暮れた悲しきモンスターと一緒にしないでほしいわね」
「あんた本当に母親?」
娘を悲しきモンスター呼ばわりするのってこの人が初なのでは?
そしてコーディネートされた結果———凝りすぎた服装じゃない、シンプルなセーターにデニムといった動きやすい装いに落ち着いた。
悔しいことに、青春のほとんどを戦いに明け暮れていた私以上にお母さんと妹が今のファッション事情に打ちひしがれていると―――、
「お姉ちゃんは皆の生活を守ってくれてる。だから私はお姉ちゃんのやりたいことを応援するって決めてるんだ」
そう言ってくれる妹にさらに泣きそうになった。
なんだかんだぶっ飛んでいるところが多い家族だけれど、私にとってはもったいないくらいにいい家族だ。
そして、出かける当日。
選んでもらった服を着てこうたと一緒にカツミ君と合流しようとした時に、アカネと葵が見送りにきてくれた。
こうたとやってきた私に、葵はなぜかバッグを肩にかけている私の胸を見て、恐怖に震えて指差してくる。
アカネに至ってはなぜかちょっと引いている。
「……きらら。その怪人も殺せそうなパイスラはなんだ? なにかしらの法に触れてるよ、それ」
「なんか普通に可愛いくて似合ってるのに、きららが着ると未亡人感が凄いの頭がバグる……」
「失礼すぎない?」
開口一番なんてこと言うんだ。
隣にこうたもいるから、あまり汚い言葉を口にしないでほしい。
「きらら、はみ出したら処す。これ本気のやつだから」
「あんたは今度はなにに影響されたの?」
はみ出すってなんだ。
まあ、友人たちのありがたい助言はすべて無視はすることに決めた私は、そのまま二人と別れて待ち合わせの場所であるサーサナスの二階へと本部のワームホールを用いて移動する。
「ん? 来たか」
カツミ君は先に到着していたのか、いつも皆で座るテーブルに座っている。
服装は変装重視なのか、フード付きのパーカーにジーンズとシンプルな服装で、頭には帽子と伊達メガネをつけている。
「お待たせ、カツミ君」
「いや、俺も今来たところだ」
「おっふ」
「……前から気になってけど、その鳴き声って流行ってるのか?」
意図せずテンプレカップル常套句が出せてしまった……!!
「あれ? ななかはどうした? 今日は4人で行く予定だっただろ?」
「お姉ちゃんは今日は具合が悪くなっちゃったって」
私が答える前に、こうたが彼に伝える。
本当は私に気を遣って仮病なんだけれど、彼からしてみれば心配するようなそぶりを見せてくれる。
「え、そうなのか? それじゃあ、別の日にするか?」
「ううん。お姉ちゃんが、楽しんできてって」
「そうか……。それじゃあ、お土産たくさん買って帰ろうな?」
「うん」
こうたの頭に手を置いて優しく撫でたカツミ君は今度は私を見る。
「それじゃ、揃ったことだし行こうぜ」
「うん。場所は分かるよね?」
「もちろん。一時はバイトしたところだしな」
立ち上がった彼と共にサーサナスの一階へと移動する。
まだ開店前なので一階にはまだお客さんはおらず、マスターが一人で材料のコーヒー豆の確認をしていた。
「おはようございます。マスター」
「おーう。ん? なんか身なりが違うな? 遊びにでも行くのか?」
「ええ、きららと彼女の弟と一緒に遊園地に……ほら、前に常連の人が紹介してくれたバイトのところ」
「あー、あそこか」
コーヒー豆の入った瓶を置いたマスターはカツミ君から私を見て、その表情を微笑ましいものへと変える。
「まあ、楽しんでこいよ。特にお前の場合はあまりそういう機会はなかったんだからな」
「マスターって、おじさん臭いこと言いますよね」
「うるせー」
「はは、ありがとうございます。それじゃ、いってきます」
「おーう」と手をひらひらと振って送り出すマスター。
その反応に苦笑したカツミ君と、一緒に外に出ると―――不意に、そばにいたこうたがカツミ君の服の裾を軽く引っ張る。
「ん? どうしたこうた?」
振り向く彼にこうたが手のひらを差し出す。
「……手、つなご?」
「おう、いいぞ」
快くこうたの右手に左手を差し出し、そのまま手を繋ぐ。
すると、こうたは今度はこっちにもう片方の左手を差し出してくる。
「お姉ちゃん」
「エウ……」
「繋がないの?」
純粋な視線を向けられ、手を繋ぐ。
弟と手を繋ぐことは別に全然おかしくない。
おかしくないのだけれど、こうたを挟んで私とカツミ君が手を繋ぐというシチュエーションは少しばかり、いやかなりアレなのでは……!?
「よし、このまま駅まで行くか」
「えッ、このまま!?」
「……確かにこっ恥ずかしいな。やめとくか……」
途端に周りを見て、少しだけ照れた様子を見せるカツミ君。
しまった藪蛇だった!!
思わず出てしまった自分の常識人さに嫌気がさしてしまっていると、カツミ君と手を繋いでいるこうたが首を横振り、握る手に力を籠める。
「一緒がいい」
「こうた。……そうだな、このまま一緒にいこう。きらら、恥ずかしいかもしれんが―――」
「恥ずかしくないよ全然。全く、ノープロブレム。オフコース」
「お、おう?」
食い気味に答える私に引き気味になるカツミ君。
こうたのおかげでこのままで行けるけれど……ねえ、こうた?
これは意図してやってるの? どっちなの? これ見ようによってはふ、ふふふふ夫婦みたいに見られてもおかしくないのでは……!?
内心大混乱のまま、手を繋いで街中を歩いていく。
多分、今の様子は遠隔で社長と―――アカネと葵たちも見ているだろうけど、こればっかりはもう後々問い詰められても仕方ないとさえ思えた。
自意識過剰なのかなんだか周りからの視線すらも感じるようになった。
ちゃんと変装できてるからバレたわけじゃないけど……なんか、こう微笑ましいものを見るような視線ががが
「そ、そういえばカツミ君っ!」
「ん? なんだ?」
さらに恥ずかしくなってしまった私は、顔の火照りを誤魔化すためにカツミ君に質問を投げかけることにした。
「今から行く遊園地に行くのは初めて?」
「いや、一回行ったことがあるぞ」
「誰と?」
思わず声がワントーン下がってしまった。
しかし、カツミ君が一人で遊園地に行くとは思えないのでどうにも気になってしまう。
「アルファとだな。バイトの時の手伝いで着ぐるみ着た時があっただろ?」
「あ、あぁ、ナ、ナルホドネー」
そういえばそうだった。
緊張しすぎてド忘れしてもうからまわった。
「あの時はかなり暑い日だったけど、シロが着ぐるみの中に入って冷房機能を発揮してくれたこともあって、案外楽々にバイトをこなせて……いたわけだが、結局その日は遊園地に侵略者がやってきて滅茶苦茶になったんだよなぁ」
「懐かしいね」
正直、カツミ君inクロロ君に普段できないスキンシップができたことが役得だった。
こんなこと本人の前で絶対言えないけど。
「じゃあ、それ以前にも行ったことは?」
「……あー」
気軽にそう質問してみると、カツミ君が歯切れが悪そうな反応を返されてしまう。
なにかマズった質問だったか? と思わず彼の方を見てしまうと、頭を押さえ少しだけ葛藤した素振りを見せてから彼は口を開いた。
「小さい頃に両親とな。つっても、今行ったことがあったってことだけ思いだしただけ」
「カツミ君のお父さんとお母さん……」
無神経な質問をしたと内心で後悔しながら、彼の言葉に引っ掛かりを覚える。
思い出しただけ、つまりは聞かれるまでお父さんとお母さんと一緒に遊園地に行った思い出を思い出せないでいたってこと。
「気にすんな……ってのは無理か。はぁぁ、前から考えていたが、いい加減いちいち昔のことを思い出すのやめるわ」
「やめようって……どうして?」
私の疑問の声に、カツミ君が手を横に振る。
「もう終わったことだ。なにより俺がこうやって家族のことを思い出す度に、周りの人たちに不安まき散らしてなにがしてーんだって話だよ。今もそうだけど、どんだけ女々しいんだよ俺はよぉ」
どんより、と珍しく落ち込んだ様子を見せるカツミ君。
でもカツミ君は別に同情されたいだとか不幸自慢をしているわけじゃないのが分かるから、別に気にしてないんだけど。
そもそも、今の一連の会話は私から振ったから別にカツミ君が悪いわけじゃないしね。
「私は別に気にしないよ?」
「俺が気にするんだよ。現に、お前にそんな顔をさせちまってんのも俺だ」
思わず自分の頬に手を当ててしまう。
確かに、今私はカツミ君に同情して、彼の過去を想って沈痛な思いに駆られていた。
「こんなこと面と向かって言うのは恥ずかしいけど、お前らには笑ってもらっていた方がずっといい」
「私は君に笑ってもらってほしいけど」
「ははっ、じゃあお互い様だな」
何度も思うけれど、カツミ君はいい方向に変わってくれている。
別に過去のことを思い出すことをやめてほしい訳じゃないけれど、その分彼が未来を向いて生きていられるならそっちの方がずっといい。
「別に過去が不幸でも、今が良けりゃそれでいい。現に今、お前らと遊園地に行く思い出をこれから作ろうってわけだからな」
「なら、忘れられない楽しい思い出にしようね」
悲しい思い出に変わってしまった記憶を、今日塗り替えてしまえばいいんだ。
———と、そこまで考えて、私は再度思考する。
このタイミングならいけるのではないか?
いける。
やれ、きらら。
ここで勝負を仕掛けるんだ。
内心の欲望に従い、私は笑顔のままカツミ君へ震えた声をかける。
「な、なんならさァ」
「ん?」
「今日は私のことを奥さんって思ってくれてもいいから!?」
「!? お姉ちゃん……!?」
無口なこうたが私を見上げて目を見開いた。
当の私も勢いに任せた発言を口に出してから溶岩に飛び込みたいほどの後悔に苛まれていると、驚いた顔をしたカツミ君の手を、こうたが引っ張る。
ジッとカツミ君を見つめるこうたの顔を見た彼は少し考え込むような沈黙のあとに、明るく笑った。
「はは、まあ傍から見ればそう見えてもおかしくないか。じゃあ、俺はこうたの父親役でお前の旦那役ってところか」
「———」
「……。カツミ兄、お父さんって呼ぶ?」
「お前のお父さんに悪いから、無理して呼ばなくてもいいぞ。……ん? きらら、どうした? 大丈夫か?」
わが人生に一片の悔いなし。
ようやく私もアカネと葵と同じステージに上がることができた。
そして遠隔で監視しているであろう二人の殺気を感じながら、私はただただこの現実を咀嚼し受け入れることに脳のリソースを継ぎこむのであった。
デートサポーターこうた、姉の突然の暴走に驚くも即座に軌道修正に成功。
今回の更新は以上となります。