前半が五位
後半からレイマ視点でお送りいたします。
優れた戦士だった。
黒騎士、穂村克己。
スーツの性能に依存しているのではなく、装着者本人の技量と戦闘勘により裏付けられた実力はこの俺を容易く上回ってくれた。
スーツそのものが恐るべき性能だったことも確かだろうが、それだけならばこちらが押されるような状況にはならなかった。
「ああ……」
素晴らしい戦いだった。
混じりけのない怒り、しかしどこまでも冷徹。
蹂躙されるだけの存在ではない、まさしく戦士としての本質を体現した黒騎士との戦いに俺は一種の感動すらも覚えていた。
「惜しむらくは、この身の至らなさ、か」
しかし、それでも戦ってみたかった。
純然たる殺意のまま人知を上回る魑魅魍魎の怪人勢力と戦い抜いた戦士と。
……反吐が出るな。
これも自己保身の言い訳に過ぎない。
『……』
「エス。あれがお前の相手だ」
傍らで無言で佇む友に高揚を滲ませながらそう語りかける。
今回、俺が戦うこと自体が無意味なものだった。
そもそも黒騎士の相手を務めるのは、エスであったからだ。
「久方ぶりに全力の闘争に興じることができるだろう」
『……』
「だがまあ、お前たちの戦闘の余波で地球が幾分か壊れるかもしれんが……それは些末な問題だろう」
地球という小さな星そのものの価値はそれほど高くはない。
資源もなにもかもありふれたものではあるが、黒騎士を筆頭とした戦士たちの質は異様の一言に尽きる。
ルインの介入があればそれまでだ。
「……ハァ」
いや、ルインだけではないな。
先に地球に来ていた有象無象の侵略者どもの中に一人、面倒な奴がいたことを思い出す。
辟易としたため息を吐き、背後を振り向きながら俺は———暗闇に包まれた通路の先へと吐き捨てるように言葉を発する。
「出てこい」
「あら、バレちゃった」
船内の影から、ぬるぅぅ……と出てきたのは図体のデカい男。
奇抜な橙色の衣服を纏った奴———サニーは、相も変わらない余裕な面持ちで俺たちの前に姿を現した。
「潜り込んだネズミにしては随分と大層な奴が来たな」
「あら失礼ね? いきなり地球にカチこんできたおバカさんよりはマシなつもりよ」
星将序列3位。
その面倒な性格からして関わることすら億劫になるサニーの侵入に俺は悪態を隠さずに睨みつける。
「何の用だ」
「それはこちらの台詞よ。こんな滅茶苦茶な侵略をしてきて、なんのつもりよ?」
「侵略だ。それ以外になにもない」
俺の答えにサニーは呆れたようにため息をつく。
わざとらしい仕草に内心の苛立ちを感じ、それを隠さずに言葉にする。
「邪魔をするな。引っ込んでろ」
「貴方が普通の侵略をするってんのなら大人しくしていたけど、これはちょぉぉっとやりすぎじゃない?」
「あの色狂いの匙加減で侵略を行えと? 俺たちは侵略者だ。他を踏みにじり、蹂躙することを目的とした群れ。飼い犬になった覚えはない」
「……まあ、そうよねぇ。貴方の言い分も分からなくはないわ」
黒騎士の成長のために戦力を出し惜しみ、その結果数多くの序列持ちが死んだ。
そのことについてはどうでもいい。
どうでもいいが、俺はそのくだらない目的のために動くことはない。
「ルインちゃんにとって、もう私達星将序列はどうでもよくなったのかもしれないわね。いえ、元からそうだったのかもしれないわ」
父から引き継いだ軍団を戯れに率いているだけの超越者。
隔絶した力を持っているからこそ、生まれたその日からすべてを手に入れているからこそ、奴の中に欲望という感情は存在しないはずだった。
「恋を知っちゃったから、ね」
「不愉快だ」
こいつの言動は常に意味不明だが、今は殊更に不可解だ。
愛など恋など、それらはあくまで感情から抽出されるものに過ぎない。
「奴が変わったかどうかなぞ関係ない。俺は、俺たちは侵略を行う」
「はぁぁ、本当戦闘狂って言っても聞かないんだから……。いえ、貴方の場合はそれ以前の話だったわね」
肩を竦め、呆れるサニーに引き抜いたサーベルの切っ先を向ける。
「あら、私を相手取るつもり? 疲れてるんじゃないの?」
「だからどうした。その程度で俺たちが臆すると思っていたのか?」
必要とあらば太陽すらも超えていく。
殺意を高めるこちらを目にしたサニーは———高く振り上げた足を床に打ち付けた。
床が陥没し、罅を刻み船体が傾かんばかりの衝撃を響かせた奴は、軽く掲げた右手で自身の燃えるような橙色の髪をかき上げ、様変わりした貌を向けてくる。
『おいたが過ぎるとお仕置きしちゃうわよ?』
サニーを中心にし空間が歪む。
太陽を司る熱量が空気を焼き焦がし、船内を融解させていく光景を目にする。
奴が己の力を見せつけると同時に、傍らにいるエスが奴の領域に足を踏み入れる。
太陽の化身。
星系を焼き尽くし、吞み込んだ恐るべき恒星存在が顕現しようとしている。
『グゥゥ……!!』
『あら、一発ド突かれたいようね?』
このまま続けても一向に構わない。
地球の戦士たちを相手にするのも面白いが、道化を引き剝がした三位と殺しあうのもそれはそれで面白いからだ。
エスの動きを補助するべく、こちらも武器を転送させる。
「はぁぁぁぁぁ……」
エスも俺も戦意をむき出しにしていると、不意にサニーがため息のように炎を吐き出し、その身に纏う熱を消し去る。
怪訝な顔をする俺に奴は肩を竦める。
「やっぱり、やめましょっか」
「どういうつもりだ?」
「あまりにも不毛なんですもの。そもそも力で従えるのも無理なのは分かりきっていたしねぇ」
それに、と俺からエスへと視線を変えたサニーはその目を細める。
「ここで私がマジで戦ったら地球に影響を与えすぎるわ。……その子の相手は私でも骨が折れそうだしね」
エスを指さしそう答えるサニーに悪態をつく。
……化け物が。
「相変わらずつまらん指針で動いているようだな」
「人の価値観を勝手に決めつけるのは貴方の悪癖よ?」
前髪を乱した奴はそのままこちらに背を向ける。
「私はこのまま様子見に徹するわ。まあ、さすがにやりすぎれば出張るからそこんところよろしくねー」
「くたばれ」
相も変わらずこちらを苛立たせながら、奴はその姿を消した。
サーベルを構えたまま奴が消えた空間を暫し警戒し、完全に気配がないことを確認したところで俺は懐から端末を取り出す。
「状況は?」
『充填完了。いつでも放てます』
「やれ」
地球外からの特定個所に限定した一斉砲撃。
即座に砲撃を許可し、艦首から地球を見下ろす。
「さあ、これをどうする?」
帰還用の燃料・エネルギーは残さん。
元より、この星を死地と定めているならば余力など残す意味などないだろう。
『———発射』
全艦から一斉に砲撃が放たれ、さながら雨のように地球へと降り注いでいく。
ルインの邪魔は入らない。
地球に関してはそれほど奴も興味がないのか?
砲撃を目にしながら、ルインがどの程度干渉してくるか思考していると―――突然、都市部上空に星のようなきらめきが広がっていることに気付く。
「む?」
それらは生き物のように動き、都市部上空を覆うほどの巨大な黄金色の網目のような形を形成し降り注いでいく砲撃を受け止め、防いでいく。
網目をすり抜けた砲撃は、また新たに形成された六角形の盾が複数展開され、個別に対応する。
続いて連続して爆音が引き起こされるも、地上への被害は皆無。
あれは……明らかに地球人が用意した防衛機構でないな。
「ナノマシンか? 形状変化による防衛システムか。やってくれる」
元序列持ちのゴールディの仕業だろうな。
どうやら時間稼ぎをしているのは俺たちだけではなかったようだ。
「……面白い。あぁ、いいな。地球の戦士達は」
その状況でやれることを行い、成果を勝ち取る能力と運を持ち合わせている。
「ならば、次の手札を切るとしよう」
一斉砲撃による爆撃を凌がれたとなれば、次の戦法は単純だ。
引き抜いたサーベルを地球に向け、宣言する。
「
ここは我らにとっての死地。
長く、数をすり減らしながらこの俺についてきた同胞は死すらも恐れることはない。
さあ、原始的に、派手に、侵略者らしく攻め入ろうじゃないか。
対地球外侵略兵器防衛機構“G:NDM”
正式名称はtypeGold:Nanotechnology earth Defense Mode。
そのシステムは地球外からの害意が迫った状況において、ナノマシンによって地上を守るためのものである。
いざという時のために準備していた対策の一つで、まさか想定していた通りの状況で効果を発揮するだなんて逆に想定外だった。
使用ナノマシンは私がゴールドとして用いるプロトナノマシンをさらにデチューンしたもの。
このナノマシンの量産体制は確立しており、レッド達の用いる高性能なものと比べればその性能は十分の一以下にまで落ちるが、そのコストの安さにより雑に使える汎用性に優れている。
しかし、性能が低い分、細やかな形成などはできず、実戦で扱えるほどの威力のある武装にはできない———が、それらを遠隔で操り砲弾などを防ぐ防衛用の盾として扱うことは可能だ。
上空の宇宙戦艦が攻撃態勢に入っていることを確認次第、即座にゴールドスーツに身を包んだ私は専用ビークルである円盤型の船“ゴールド6”に乗り込んだ。
そのまま第二本部とシステムを繋げ、ゴールド6を通じてナノマシンの操作を開始させた私はそのまま空から降り注ぐ砲弾とエネルギー弾の対処を開始させ———今に至る。
「タリア、状況報告及び弾道予測。ナノマシン誘導補助。位置の調整はこちらで全てやる」
『敵戦艦からの砲撃依然として継続中。システム予測によれば、この砲撃は70時間以上続くという計算結果が導き出されました』
「70時間ゥゥ!? 長い! え、長くない!? そんなエネルギーと弾薬どこから……いや、元より死ぬ気か! この地球侵攻に全ての武装を投げ入れるつもりか!! 厄介な連中だな!!」
帰還用の物資もエネルギーも不要というわけか!
地球からエネルギーを奪えればいい……というわけではないだろうな!! 地球はいいものがたくさんある素晴らしい星だが、資源的にはそこまで優れた部分がないのはまた事実!!
つまりは、奴らはそもそも勝って帰る気もない!! まさしく捨て身でこの戦いを楽しもうとしている愚か者どもというわけだ!!
「フフフ、70時間程度の徹夜なぞ私にとっては日常茶飯事!! 嘗めるなよぉこの天才を!!」
「この騒動が終わり次第、本腰をいれてマスターの体調管理を徹底させていただきます」
しまった迂闊なことを言ってしまった!!
まだテンションが壊れていないうちに待機している大森君とレッド達に指示を出しておかねばならんな!!
恐らく、こちらの対応に当たっている限り私は使い物にならん!!
「ガルダ! このまま作戦室にいるレッド達とスタッフに通信を繋いでくれ!!」
『分かった』
タリア以外のAI人格、ガルダに通信を繋いでもらう。
数秒もしないうちに作戦室に通信が繋ぎ、モニターに慌ただしく動くスタッフたちとレッドとブルーの姿が映り込む。
まだカツミ君とイエローはまだ戻ってきていないか。
まずそれを確認していると、慌てた様子の大森君がインカムを取る。
「司令、そっちは大丈夫ですか!!」
「問題だらけなので手が離せん!! 口は動かせるがな!! まずお前たちはカツミ君の帰還まで待機!! それと大森くんは風浦氏とグリーンを作戦室に呼んでおけ!!」
「了解しました!」
今の状況では風浦氏の力とグリーンの特殊な目が活躍するだろう。
風浦氏を極力巻き込みたくはないが、五位の侵略は地球すべてにとっての脅威に等しいので彼女の助けが必要だ。
そのまま砲撃の対応を行いながらスタッフ達に指示を飛ばしていく。
「……。でもたくさんのナノマシンはいったいどこに隠していたんだろう……?」
「街の中だ!!」
最中、ブルーがふと口にした疑問だったのだろうが勢いで答える。
私の声に驚いたレッド達がモニターに映っているであろうこちらを見てきたので、続けて説明する。
「私が買い取った土地に用意させた!!」
「……あんな金ぴかが街にあったらすぐばれるのでは?」
「発想が安直すぎるぞぉ! その程度のことが分からないこの天才ではあるはずがなぁい!!」
木を隠すなら森の中という諺があるだろう!!
この場にいる面々への説明を兼ねて、勢いのまま言葉を発する。
「ナノマシンをビルの形状に形成させ、他の建築物とそん色のない見た目にさせていたのだ!! そして、秘密裏に各地の要所に同じものを用意し、今日の事態に備えた!!」
「わぁ……お金持ちのやり方だ……」
「社長だからな!!」
複雑な形へ変えることは難しい、が、見た目を変哲のないビルに変える程度なら可能!!
あとはシステムさえ、起動させてしまえばいつでも外敵の脅威から一般市民を守ることができる!!
見た目さえ取り繕えば、中身をぎっちぎちに詰めてもいいわけだしな!!
外見以上に大量のナノマシンをストックできていたということだ!!
「でもGNDMってそれもうガンダ……」
「ガンダムではない!! ゴールドナノテクノロジーアースディフェンスモード!! ジー・エヌディーエムだ!!」
「もう言っちゃってるし。それにその訳し方だとG:NEDMだから、ガネダムじゃん」
「なんのことか分からんなぁ!!」
なにより覚えやすいし、語呂がいいだろうが!!
断じて後から気づいちゃって、もう計画書もスタッフに向けた説明も通しちゃったから後になって訂正しづらくなったってわけではない……!
勢いで誤魔化していると作戦室の奥の扉が開き、変身を解除しているカツミ君とイエローが入ってくる。
「———レイマ、今戻った」
「おおまかな状況は聞いているけれど……」
カツミ君が来てくれたなら私もこちらに集中できる。
作戦室に彼がいることに安心感を覚えながら、私は引き続き防衛に意識を集中させるのであった。
バレないようにものすごく頑張ってナノマシンを設置しまくっていた社長でした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。