追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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二日目二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。


自分の意思で

 私はこのままでいいんだろうか。

 カツミさんとアオイちゃん達が地球を守るために戦いにいったその背中を見送ってからずっとそんなことをかんがえている。

 私には力がある。

 イリステオですら私の力に干渉することもできない次元を統べる能力。でも私は、この力を戦いのためとかに使ったことは一度もない。

 逃げるためだとか、絵のために他の世界を見るためだとか、そんなことにしか使っていない。

 

「……」

 

 改めて私は周りに目を向ける。

 ジャスティスクルセイダーの二つ目の本部内の食堂。

 今はスタッフとその関係者の一時的な避難場所として提供されている場で、私は隅っこの方で膝を抱えて一人座ったままでいる。

 

『ここは安全だけど、家は大丈夫なのか……』

『おうちなくなっちゃうの?』

『パパが今、頑張っているからね。きっと大丈夫』

『きっとジャスティスクルセイダーと黒騎士さんがなんとかしてくれる』

 

 皆、不安そうにしている。

 でも他ならない私自身も不安で、抱えているスケッチブックにも力が入ってしまう。

 

「……書こう、かな」

 

 こういう気分が落ち込んでいる時は絵を書くと落ちつく。

 ずっと一人っきりだった時もひたすらに絵を書いて未だ見ぬ外の世界に思いを馳せていたし、自由になった今でも私は好きな景色、物、動物、そして人を書いている。

 スケッチブックをめくり、取り出した鉛筆を走らせひたすらに線を刻んでいく。

 

「……」

 

 描いているのは今、この場にいる人たち。

 不安に思いながらもお互いに助けあう、そんな絵。

 彼らの表情は不安に満ちている。だけど、それでも諦めていない。

 今を戦ってくれている彼らがいることを知っているから、希望を持って耐えている。

 

「……」

 

 強い人たちだなって素直に思った。

 私みたいにずっと後ろ向きに考えているわけじゃなく、不安に苛まれながらも諦めないでいることが本当に凄い。

 ゆっくりと、少し時間をかけて書き上げた絵を見て、はぁ、とため息を―――、

 

「わぁ、ものすごく上手!」

「わひぃん!?」

 

 すぐ隣からかけられた声に飛び跳ねるように驚く。

 え、だ、誰ぇ!? お、女の子!?

 混乱しながら声の方を見ると、そこには12歳かそれより幼いくらいの女の子がその両手にタオルの束を持っていた。タオルといっても手拭いじゃなくて、バスタオルくらいに大きなものだけれど。

 ……でもなんだろう、この子誰かに似ているような……。

 

「あ、驚かせちゃってごめんなさい」

「あ、い、いえ、お気になさらず……」

 

 急に声をかけられてびっくりしちゃったけれど、この子が悪いというわけじゃない。

 むしろ大袈裟に驚いちゃう私がダメなわけで……。

 どんより、とネガティブな思考に陥りかけていると女の子が私にタオルを差し出してくれる。

 

「はいどうぞ、タオル。床にそのまま座ったらお尻が痛くなっちゃうから」

「あ、あああ、ありがとうございます。……もしかして、ここにいる人たちに配っているの?」

 

 そう聞いてみると、女の子は「うん!」と明るく頷く。

 ここに避難している人たちのためにタオルを配ってくれているんだ。

 

「私も少し前からここでお世話になっているんですけど、こういう時くらいは自分にできることをやろうって思って。……いつもお姉ちゃんに戦わせてばっかりだし」

「自分にできること……」

 

 この子もカツミさんと同じことを。

 私よりもずっと年下のはずなのに、凄いな。

 

「すごい、ね」

「でしょー? こういうのって考えるよりも先に行動が大事だからね!!」

「……確かに、その通りかもしれない」

 

 私はずっとうじうじ考えたばっかりで行動に移せていなかった。

 考えて動こうとして止まっての繰り返しで、最初の一歩すら踏み出せていなかったんだ。

 

「私、なにもできてない」

 

 ぼつり、と情けなく呟いてしまう。

 初対面の女の子になんて面倒くさいことを口にしているんだろう。

 それを自覚しながらも吐いてしまった言葉は止まらない。

 

「なにかできることがあるのに、なにもできずに逃げることしかできてない……自分だけ安全なところでのうのうとしていいのかな」

 

 力を持っているなら何かしなくちゃいけない。

 私は地球に住まわせてもらっているし、今地球を襲っている人たちのせいで日常の景色が失われるのも嫌だ。

 頭ではそんなことを考えていても、肝心の体が心とは真逆に動いてくれない。

 

「ネガティブクラッシュ!」

「ぐぇ!?」

 

 私の言葉は女の子が繰り出した水平チョップにより阻まれた。

 ただのチョップじゃない。なぜか私の胸に前腕ごと叩きつけるようなそれに思わずむせてしまう。

 

「あ、ご、ごめんなさい! 普段お姉ちゃんにやる勢いでやっちゃった!!」

「お姉ちゃん、とっても強いんだね……」

「強くもあるけど、でっかいし跳ね返してくるから……」

 

 でっかい? 跳ね返す? なんだかそれ以上聞くと逆に普通に効いた私にダメージが来そう。

 でも衝撃を受けたおかげで我に返って、激しい自己嫌悪に陥る。

 

「とりあえず考えすぎだと思うな!」

「え……」

 

 びしっ、と指を差してそう指摘した女の子に呆気にとられた声が漏れる。

 

「できることがあるからって何かをしなきゃいけない訳じゃないよ。それとも貴女は誰かにそうするように言われてるからそんなに悩んでいるの?」

「……ううん、言われてない」

「誰も貴女を責める人なんていない。いるとしたら、それは貴女自身だよ」

「……っ」

 

 この子の言う通りだ。

 私が、私自身がなにもしないことを責めている。

 皆、誰も私のことを責める……いいえ、イリステオのように他責思考の奴らと違って無責任に責めるような人たちじゃないことは私が一番分かっていた。

 

「でも私、思うんだ」

 

 自覚した私に女の子は優しく微笑んでくれる。

 

「自分にできることで悩んで考えてくれるって、それだけ貴女が優しくて責任感が強い人だってことだって」

「そんな、私……責任感なんて……」

「まるで漫画にあるすごい能力を持ったヒーローみたいな悩み!!」

 

 どきり、とした私に女の子は「冗談だよっ」と明るく言ってくれる。

 あ、え、う、と言葉が言えなくなっていると、女の子が我に返ったように周りを見てから一端傍に置いていたタオルを抱えなおした。

 

「あ、じゃあ、私他の人たちに配りにいかなきゃいけないから!」

「あ、あの」

「はい?」

 

 タオルを抱えて次の人たちにタオルを私に向かおうとする女の子。

 でも、そんな背中を私はとっさに呼び止めてしまった。

 

「名前を、教えてくれないかな」

 

 ……。

 ……、……。

 わっ、アァ……!? こんな形で名前を尋ねるとか例え同性でも警戒されてもおかしくない!?

 もっといい聞き方があったんじゃないか私!? この子に変な人って思われたらどうしよう!?

 

「えへへ、私、天塚ななか!! 気軽にななかって呼んでね! お姉さんの名前も教えて!!」

「ヘ!?……アッ、イ、イリス、テラ……()ス」

 

 急に名前を聞き返されたので、とっさに声が出ずものすごいどもりながら名乗る。

 そんな挙動不審気味な私の自己紹介に少しも怪訝な様子を見せないまま、女の子……ななかちゃんは花のような笑顔を見せてくれる。

 

「アイリス・テラダさんだね!!」

「えッ違……名前……違う……」

 

 ほぼ原形がない名前になってしまった。

 最初の自己紹介の時よりずっと酷いことに……!!

 す、すぐさま訂正しなく―――、

 

「可愛い名前だね!!」

「私の名前は寺田アイリスです」

「じゃ、落ち着いたらまた話そうねー。アイリスさん!!」

 

 混乱したまま我欲にまみれて寺田アイリスになってしまった。

 そのまま小走りで次の人にタオルを私に行くななかちゃんを見送った私は、先ほどの彼女との会話を思い浮かぶ。

 

「責任感、か」

 

 力があるから何かをしなきゃいけない。

 それを責任感とは言っていいか分からないけれど、確かに私は私自身を一番責めていた。

 

「考えるよりも先に動く……そう、だよね。よく考えるのは大事だけれど、私に足りないのは……」

 

 一歩目を踏み出す勇気だ。

 私はななかちゃんからもらったタオルを握りしめ、目を閉じる。

 頭の中で念じて、もう一度目を開けると――――私はジャスティスクルセイダーの本部から、見慣れた自分の部屋に立っていた。

 

「よし、無事に移動できた……」

 

 空間移動。

 空間跳躍は空間から空間へジャンプする、空間移動は点を頭で思い浮かべた地点に出現させること。

 これは次元・距離も一切合切無視してできることが利点だけれど……逆に神経を使うから不便だから普段は使わないようにしてる。

 

「……普通に移動した方が楽しいよね。やっぱり」

 

 むしろ道中に景色とか色々見れるから、徒歩とか電車での移動の方が楽しくて私は好き。

 これからすることに緊張して、早鐘を打つ心臓を押さえながら私は扉を開けてアパートの部屋から出る。

 

「……ひぃぃ、空からたくさん落ちてくる!?」

 

 青い空のずっと上からとてつもないくらいに大きな船が炎に包まれながら落ちようとしている。

 なんかもう部屋を出た瞬間からクライマックスって感じ!!

 あ、あああああれってひょっとしてまずいんじゃ……!?

 

「で、でも私は、あれをなんとかできる……気がする」

 

 全然無理なんて思わないし、愕然とだけで「あれを止められる」という確信がある。

 

「……すぅぅ……ふぅぅ……よし」

 

 私は、両手の人差し指と親指で四角を作るように構える。

 

(フレーム)

 

 ずっと遠くにある大型タワー。

 普段は観光とかに利用される、都市でも屈指の高さを誇るタワーを()に納める

 その風景に意識を集中して、さらに強く念じ―――た直後に私は大型タワーの屋上へと立っていた。

 

「よし、行けた」

 

 手で囲んだ枠内を平面———二次元として隷属・定義し、その空間を弄び物理的な距離そのものをゼロにする。

 感覚としては写真に入り込むというものが近いかな?

 

「さて……」

 

 ものすごい高さにあるタワーに足が竦みながら、空を見上げる。

 雲一つない青い空の遥か上から、炎が吹き上がるとてつもなく大きな戦艦が地上目掛けて降ってきている。

 他にも随伴艦? みたいな小型と中型のものもあるけれど、あの大きなやつが落ちたら取り返しのつかない被害が出ることは明白だった。

 

(フレーム)

 

 両手の人差し指と親指で四角の枠を作り、空の大きな戦艦を納める。

 今度はさっきみたいに遠くから移動しない。

 しっかりと対象を見定めて、意識を集中させ能力を発動させる。

 

範囲指定(スケール)表層空隷化(テクスチャ)時間凍結(フリーズ)強制二次元還元(キャンバス)空間掌握(キリトリ)

 

 戦艦とその周囲の範囲を目視で指定、その空間内を私の支配下に置き、戦艦のみの時間を強制的に凍結、仕上げに強制的に二次元に還元・掌握し世界から切り離す。

 そして三次元に存在する二次元の風景に閉じ込め―――空に浮かび落下を止めた宇宙戦艦が映し出された空間を写真のように剝がしと―――、

 

「剥がしちゃ駄目なんだった……!!」

 

 写真のように手に収まったソレをすぐに戻す。

 下手をすれば、空いた空間を補う作用で地球の重力に影響が出ちゃうからね……。

 

「……一先ずはあの大きいやつは地上に落ちないよね」

 

 ひとまず一番危険なやつは止めることができた。

 あとは私はバレないように隠れるだ———、

 

「ふーん、それがステラっちの隠してたことなんだね」

「はい、でも悪気があって隠していたわけじゃないんです」

「まー、これだけの力だもんね。しゃーない」

「そう言ってくれて助か……え?」

 

 なんで隣に葵ちゃんがいるの?

 ……。

 ……、……。

 

「ぎゃああああああ!?」

「そんな悲鳴上げるほど?」

 

 本日二度の驚愕の声。

 その場でまた飛び跳ね、そのままタワーから足を踏み外した私に葵ちゃんは手をさし伸ばして支えてくれる。

 

「なんでいるの!?」

「むしろこっちの台詞。私、ここで爆睡かましてたから」

「なんでここにきちゃったの私ぃ!?」

 

 むしろポカをしちゃったの私!?

 一番高いタワーに来たのが悪かったの!?

 ああああ、絶対誰にもバレないようにって意気込んでたのに……!!

 

「あ、あああ、葵ちゃん!? いや、これは違くて、その……」

「ん、訳アリみたいだし今は言わなくても―――」

「実は私、本当は序列を持っていて、でも別に侵略とかそういうのは全然興味なくて、というか元から侵略者でもなんでもないし悪いことなんて一度もしてなくて押し付けられたというか、能力を隠していたことももし明かしたら私を見る目が変わっちゃうと思って怖くて……でも私が二位だってバレたら敵だと思われちゃうし、え、えへへへ、もう駄目ですよね。隠し事なんてしてたら……」

「もう全部言うじゃん。おもしれー女」

 

 もうこれ以上隠すのも心苦しいし、ここまでくればどんな罰も受け入れるからやけくそ気味に全部白状する。

 でも、私の捨て身の暴露に思っていた以上の反応をしなかった葵ちゃんは、首をひねりながら私を見る。

 

「てか二位って言った?」

「ハイ……」

「……イリステラ・ニーナノなの?」

「イリステラ二位なの……」

「すっげぇ度胸あるね」

 

 そこは忘れてくださいぃぃ。

 名前は本当に適当に考えただけなので伏線とか関係ないんですぅぅ。

 

「……星将序列二位?」

「ハイ……」

「君、ワシより強くねー……?」

「能力がなければ子供にも負けます……」

 

 生身は貧弱なので……。

 これから私どうなっちゃうのかなー。捕まっちゃうのかなー。

 でも、自分で選んで、自分でちゃんとした一歩を踏み出せれたし、後悔はないかな。

 内心で色々と決心を決めていると私と葵ちゃんのいるタワーのてっぺん付近の欄干に、ものすごい速さで誰かが飛び乗ってくる。

 ぎぃぃん、とてっぺんのアンテナをしならせながら、私と葵ちゃんの前に着地した―――黒と白の装甲を纏った戦士、カツミさんは私達を見る。

 

「……なるほどな」

「お、かつみん。おはよ」

「かつみん言うな。休憩は取れたようだな」

 

 カツミさんは気軽に手を挙げた葵ちゃんに手を振り返しながら、この場にいるはずがない私を見る。

 

「ありがとう。ステラさん」

「え、な、なんで」

「上のやつを止めてくれたのは君だろう?」

 

 確信するようにそう言われ、思いっきり動揺する。

 葵ちゃんですら驚いていたのに……。

 

「どこか不思議な感じがしていたからむしろ納得がいった」

「私、得体が知れなくて」

「得体が知れねぇやつなんてうちじゃいくらでもいる。その筆頭が俺だからな」

 

 自身を親指で指し示す。

 

「だから何も言わなくても大丈夫だ。力のことを黙っていたのは、それだけ君にとって大事なことだったんだろう?」

「でも私が黙ってなければ、この戦いももっと楽に……」

「今の時点で十分助けられてる。俺も無茶をしなくて済んだからな」

 

 そう言葉にした彼はタワーの欄干に足をかける。

 なんで、こんなに優しくしてくれるんだろう。

 こんなにも信じてもらえるんだろう。

 私、力のことも、序列のことも隠していたのに、それなのに葵ちゃんからもカツミさんからもこれ以上にない信頼を感じている。

 こみあげるもので言葉も出せずにいると、カツミさんは葵ちゃんへと顔を向ける。

 

「葵、とりあえずステラさんのことは黙っておいてくれ」

「うん。共有しちゃったね、秘密」

「なんで言い方怪しくした? まあ、いい。俺は今から奴との決着をつけてくる」

「おけ、私は十分に睡眠をとれたので作戦に復帰する」

「ああ」

 

 一瞬で姿を消し、カツミさんが街中に降り注ぐ一際大きな光の柱が差す場所へと向かっていく。

 その後ろ姿を見送っていると、ライフルを構えた葵ちゃんが隣にやってくる。

 

「じゃ、私たちはサポートと雑魚の排除。頑張ろう」

「え、わ、私も?」

「もちろん。だって仲間でしょ?」

 

 だからなんでそんなに私を信じてくれるんですか!!

 なんかもう、情緒がすごすぎてどんな感情でいていいか分からないんですけど!!

 

 




なんかすごい立ち位置になってきているキララの妹ななか。
そして、さらっととんでもないことをしているイリステラでした。

今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださり、ありがとうござました。
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