今回は主人公視点、後半から別視点でお送りいたします。
第三位スコル・ネガバース。
その名を視線の先のでけぇ狼ではなく、今俺にしがみついているイレーネから聞いた。
スコル、その名前に僅かに聞き覚えがある。
「北欧神話か」
「知ってる?」
「断片的にな」
所詮、図書室にある本で暇つぶしに読んだ程度の知識しかない。
神殺しの狼フェンリルの息子ってやつだったはずで、月と太陽を追いかける双子の狼。
それが事実かどうか分からねぇし、そもそも目の前にはこいつ一体しかいねぇから俺の知る神話がどれだけ正確かもわからねぇ。
いや、それ以前に俺の知識そのものが合っているかどうかすら定かじゃない。
なにより前宇宙の話っつーのも正直よく分からん。
そもそも話が壮大すぎるだろ。
つまりビックバンの前にあった宇宙ってやつか?
そんな途方もない昔のことを聞かされても「ふぅーん」くらいにしか思わねぇ。
「Gururu!!」
三位、スコルの巨大化が止まる。
その大きさは大型バスを優に超えるほどで、その体を縛り付けていた鎖は全て弾け飛び、全身の毛を逆立てながら敵対者である俺に殺意と怒りの目を向け威嚇してきている。
『
しがみつくイレーネに構わず青の姿へ変わる。
白の装甲が青色へと彩られ、さらにバックルの上部を四度押す。
『
バックルから溢れんばかりの青いエネルギーが生じ、側面を叩く。
『
『
『
掌を眼前の空間へ向けると同時に俺の周囲を青のエネルギーで構成された銃が出現し、それらが一斉にスコルへと殺到していく。
千を優に超える青い光弾は次々とスコルへと殺到し、地を揺るがすほどの威力で歌により作られた大地を削り、光の柱を作っていく。
「……この程度じゃ効かねぇだろうな」
白煙に溢れた奴の周囲が咆哮によって消し飛ぶ。
現れたのは無傷のスコル。
その姿を見て、相手の脅威度を再確認しイレーネを引き剥がす。
「後ろに逃げてろ」
「えー」
いや呑気か。
「お前がやられると空間が壊れる。守ってやるから下がってろっていってんだよ」
「あまりかっこいいことを言わない方がいい」
「えぇ?」
「胸が高鳴る」
なにいってるのこの人……? 葵と同じタイプ……え、怖。
大人っぽい風貌と変わって子供のように拗ねながら俺から離れ、宙に浮かびながら後方に下がッ、———!!
「ガァ!!」
俺の意識が僅かに逸れた瞬間、奴が音もなく動き出す。
そして背後へ下がったイレーネをその牙で食い殺そうとする―――前に、間に入った俺がライトニングアックスで遮る。
激突により衝撃が引き起こされ、鍔迫り合いのように斧と牙が火花を散らせる。
速ぇな、この巨体でプロト1並みのスピードか。
「こっちの弱みを狙う、か」
「———ッ!!」
手段を選ばず、空間を作っているイレーネを殺しにかかった。
卑怯云々じゃなく、かといって悪意もない。
“俺を殺す”という目的の上で有効と判断したという野性的な本能に基づいた行動。
「そういう何でもありは嫌いじゃねぇ!!」
牙を弾き返し、地面に足を踏み込みと同時に雷撃を迸らせる。
腕を伝い夥しい稲光を迸らせながら横薙ぎに斧を叩き込むが、奴も前足の爪で応戦する。
「「———ッ!!」」
電撃を迸らせた斧の横薙ぎと、前足が激突しガリガリと空間を軋ませる。
溢れんばかりの破壊の余波が周囲へ撒き散らされ、俺と奴を中心にしてイレーネが作り出した空間に亀裂が刻まれていく。
『
イレーネが破壊されかけた空間を歌で修復する。
「ジィィ!!」
「っと……!!」
力で押し返され、後ろに下がる。
その間に奴が振り下ろした前腕の鋭利な爪が叩きつけられるが、その爪の危険性を見て判断した俺は黄色の姿「AXE YELLOW」へとフォームチェンジし、その場を跳躍するように後ろへ下がる。
瞬間、叩きつけられた前足を中心にして、大地が
虚空へ振るわれた爪は空を切り裂く斬撃となって奴の眼前の空間、遮るものを両断し、叩きつけられた前足は奴を中心にして蜘蛛の巣状の破壊をもたらし、さらに大地が噴火するような夥しい火炎が吹き上がり、空へと真っ赤に炎の柱を作り出した。
「あんなの地球に叩きつけたらたまったもんじゃなかったな」
少なくとも都市は一撃で更地になっているほどの一撃。
その破壊の傷跡を目にし、目を見張っているとこちらを睨みつけた奴の姿が、一瞬にして視界から消え失せる。
奴が消え失せたことに驚いた瞬間、右側方から流星のような加速と共に現れた奴の噛みつきが俺の胴体を捉える。
「! ぐッ」
『カツミ!!』
プロトの焦る声。
噛みつかれた胴体には牙が突き刺さり、今にも砕かれそうな圧力が全身を襲う。
「ハッ、やるじゃねぇか、よッ!!」
『
『
空いた手で必殺技を発動、全身から電撃を放電させながら咬合力を弱める。
そのまま一気に口をこじ開けながらお返しとばかりに鼻の頭をぶん殴り―――それでも、怯まずに再度噛みついてきたところを、次は拳で弾き返す。
「「———ッ!!」」
空間を揺るがす攻防。
さっきの焼き直しじみた攻防を繰り返しながら、奴の超加速による挙動を
拳で弾いた隙に攻撃を差し込み、牙を鷲掴みにしながら奴を一回転させるように背中から地面に叩きつける。
「GuRurururu!!」
やはりダメージはない。
こっちはこっちでプルートルプスの装甲に罅をいれられちまった。
「力と速さは奴の方が上か」
今の俺では、という前提がつくが、それでも現状の力比べは奴の方が勝っている。
恐らく奴もそれはさっきの攻防で完全に理解しただろう。
“速さで上回るなら自分の優位は揺るがない”と。
「———ハッ」
事実、俺より移動速度は圧倒的に上回っているだろう。
スコルの速度はプロト1に匹敵するほどのものだ。
だが
「Grurururu!!」
にたり、と口の端を歪めた奴が足に力を籠め、その場から掻き消え―――、
「Gyaaaa———Gaッ!?」
「甘ぇんだよこのボケがよォ!!」
―――こちらを圧倒的に上回る速度で攻撃を仕掛けた奴の横っ面に俺の拳を叩き込まれる。
音を置き去りにするほどの加速によって叩き込んだ拳は数舜遅れた打撃音を響かせながら、スコルの巨体を大きく吹き飛ばす。
地面に叩きつけられる前に着地した奴はまるで不可解なものを見るような目でこちらを睨む。
「なに驚いてんだ?」
赤熱し、ひび割れていく腕のアーマーを修復させながらこちらも奴を睨む。
今の俺よりも力が強く、今の俺よりも速い。
間違いなく強敵。
それも簡単に星の生物を食いつぶし、なんだったら太陽も食らいつくせるほどの化物。
だけどなぁ―――、
「その速さに慣れてる俺が反応できねぇはずがねぇだろうがよ」
何度か見て慣れちまえば、もう捉えられる。
そもそもプロト1を十全以上に扱える俺が、それと同じ速さの奴を相手に防戦一方でいる方が意味不明だろう。
「Guuuuu!! Gaaaaaaaaaaaaaaa!!」
スコルが激昂し雄たけびを上げる。
奴の白銀の毛並みが赤熱するように赤く、紅蓮に染まっていく。
それに合わせ、奴の周囲の地面が焼き焦げ、空気すらもその熱量で歪んで見えるほどに環境が塗り替えられていく。
「ッ!」
奴の変容の正体に予測を立て即座に後ろで状況を見ているイレーネの元へ跳び、手元に出現させたグラビティバスターにミックスグリップを差し込み、必殺技を発動させる。
「プロト、青と黒だ」
攻撃ではなく防御目的の技。
地面に打ち込むように放った黒と青の入り混じったエネルギーは、円柱状のシールドへと変わりイレーネを熱波から守る。
「っ、なにあれ。あんな能力聞いてない」
「呑み込んだ後なんだろうな」
「呑み込んだ……?」
「太陽を、だ」
奴は太陽を追いかける狼じゃねぇってことだ。
むしろその先、太陽を既に食らいその上自分のものにしている。
「カツミ、大丈夫?」
「この程度の熱問題ねぇ」
そもそもプロトゼロの時点で惑星怪人アースの放つ熱量である太陽表面温度の熱でも余裕で耐えていた。
強化された今の姿でもさして問題はない。
やることは変わらず、この太陽の力を纏う奴を排除するだけだ。
「上等だ。かかってこいよ」
「Gurururu……!!」
こいつを倒すことは決定事項だ。
それができず、イレーネの空間が壊されば地球は瞬時にこいつに滅ぼされるだろう。
だが、そうさせないために全力でこいつをぶっ倒す。
●
―――片時も忘れることはない。
―――我が片割れを縊り殺される、その光景を。
恒星存在が作り出した雌雄で生み出された宇宙に破滅の光をもたらす終末装置。
成長する兵器として生み出された奴らを殺すためにまた、我と同胞が生み出された。
宇宙は危うい均衡で成り立ち、常に争いが絶えることはなかった。
あらゆる勢力が銀河を崩壊させる手段を持ち、あらゆる勢力が支配を望み無為に戦い、そして滅ぶ。
だが銀河を崩壊させたとしても、それを容易く上回る“恐ろしいもの”は存在する。
たくさん、たくさんたくさんたくさんたくさん、たくさんたくさんたくさんたくさん!!!
太陽を食らってその力を身に宿しても、我らは蹂躙され、その末に我が片割れは縊り殺された。
恐ろしいものを見て、戦って食らって負けて———無様に生き延びた。
幾度の闘争の果てに限界を迎えた世界が崩壊しすべてが消え去る最中、不幸にも宇宙を超えて生き延びてしまった。
前宇宙を超えたとしても、我が片割れはもうどこにもいない。
―――なぜ、我は死ななかったのだろうか
だが、我は生きなければならない。
それが我が兄弟の最後の願いで、今ある命は我のものではないという証でもあったからだ。
しかし生きていてなんの意味があったのか。
叶うならば、あの場で兄弟と共に死にたかった。
無意味な死でなく、最期まで戦って死にたかった。
意識を取り戻したその場所で伽藍洞の我が心は、最早なにもする気力も意思もなかった。
幾千、幾万、最早果てしない時が流れた末、ただ眠る我の元に一人の生命体が迷い込んだ。
彼の名は、イディガルといった。
ボロ布を纏ったみすぼらしい、弱々しい男だった。
『———そうか。お前、死にたいんだな』
我と言葉を介すことなく一度、視線を合わせただけで奴はそう呟いた。
それから奴は、迷いなく細腕に持ってた錆だらけの剣を地面に突き刺し、地面に屈したまま虚ろに目を空けている我を覗き込む。
『それじゃあ、俺がお前の死に場所を探してやる』
気まぐれから始まった我々の旅路は思いのほか長いものになった。
そして、いつしか彼が『イディガル・ハティ』……我が兄弟の名を名乗るようになり、義兄弟として共に戦うようになった。
この宇宙にも原初のアルファが発生していることを知った時は血が凍るような思い出はあったが……前の宇宙ほど凶暴な存在ではなかったことに安堵した。
その怒りを買わないよう奴の率いる勢力に加わり、これまでと変わらない闘争の毎日を送る―――はずだったが、
『力が、足りない』
序列一桁にまで上り詰めた男は、尽きることのない渇望に身を任せ、力を求めた。
なぜ、そうなったのか。
義兄弟よ、それほどまで力を以てどうする?
まだ、我の死に場所を探してくれているのか?
お前も、死にたいのか?
それともお前は俺の存在を疎ましく思い殺したいのか。
―――しかし、それでも我は義兄弟を裏切ることはないだろう。
元より、伽藍洞だった我が魂が一時とはいえ充足する時間を過ごすことができた。
それだけ、それだからこそ我はお前という愚か者に付き従う理由になり得る。
そして、因果は巡り、我の前に立ちはだかるのは黒と白の鎧に身を包んだ地球の戦士。
奴は強い。強すぎるほどに。
この状態で本来の力から、弱体化しているなどとこの獣の身でも笑えてきそうなほどに規格外だ。
だが、それと同時に確信した。
――アレは、我が兄弟を殺した怨敵だと。
相対すれば、するほど理解させられる。
あの姿の奥底に宿る二つの
我が
どれだけ時を経ようとも、その恐怖に満ちた記憶が脳に焼き付いている。
『犬ごときが私に楯突こうなんて生意気』
『どうでもいいからさっさと片付けなさい。……あぁ、こいつも違った』
白髪と黒髪の女の幻影が脳裏をよぎる。
同じだ。記憶も、力こそ失っているが、忘れもしない。
自身以外の全てを蔑み、見下し蹂躙することに喜びを感じる悪辣さ。
我が兄弟を縊り殺した運命と進化を司る悪魔。
忘れるものか、忘れてたまるものか。
「Guuuuuu!!」
自身を薪にし、肉体を、空気を、空間を燃やし、再生を繰り返しながら内に呑み込んだ
前宇宙で性格最悪だったプロトとシロでした。
次回の更新は明日を予定しております。