今回はカツミ視点でお送りいたします。
太陽の化身。
炎に包まれた巨狼が敵である俺を睨み、喉を震わせる。
その身体から発せられる熱は大地を焦がし、大気を震わせ、閉ざされた世界そのものを自分のものへと作り変えていく。
「地獄みてぇな光景だな」
赤く染め上げられた空間を見上げ呟く。
生身の状態なら一秒も持たずに焼け死ぬほどの環境だ。
これが外に漏れだせば、都市一つどころか日本そのものを一瞬で壊滅させることができるだろう。
「イレーネ。そこを出るな。出た瞬間に即死するぞ」
「ん、私はなにをすればいい?」
俺が作り出した結界の中にいるイレーネは、この状況に少しも動揺せずに訪ねてくる。
元より、この空間の主導権は彼女にある。
なら、やってもらうことはさっきと変わらねぇ。
「歌ってくれ。思う存分、好き勝手にな」
「え、好き」
「え?」
「ん、好き勝手に歌う。任せて」
なんか告白されたと思ったら勘違いだった。
いや、真面目な状況でいきなりこんなこと言うわけないよな。
結界を維持するためにグラビティバスターにミックスグリップを装填したまま、地面に突き刺し視線の先の太陽の化身に意識を集中させる。
「プロト。スーツは耐えられそうか?」
『そこは平気。でも長時間はもたない。熱じゃなくて、カツミの本気の動きにプルートルプスがついていけないから』
それを超えれば、あの姿になっちまうかもしれないってか。
あの姿になれば何が起こるか分からねぇし、気を付けないとな。
『でもプロト1ならそんなことにはならないんだけどね!! 今の姿だけだから!!』
『
「ああ、ちゃんと分かってる」
今の姿はザインを相手にした時に使った力が漏れ出さないようにするための拘束具のようなもの。
別世界のプロトが命を懸けても尚、俺のためにやってくれた姿だ。
その姿に不満なんてあるはずもなく、この状況も今の俺にできることを最大限にやれば問題はない。
「———やるか」
敵に意識を集中させ、獄炎の大地を踏みつけ前に進む。
視線の先には溢れ出る炎に包まれたスコル。
内から際限なく溢れ出る熱波により空気すらも泥のように重い。
だが、それでも俺と奴には関係ない。
「「———」」
飛び出したのは同時。
繰り出した拳と振り下ろされた爪が激突し、空間に亀裂が入り―――イレーネの歌によって即座に修正される。
力はあっちが上だが、爪に打ち込んだ拳を斜め上に流すように弾き、瞬時に左手に出現させたフレアカリバーを薙ぎ払いその前足を真っ二つに両断する。
「Guraaa!!」
切断した前足が、実体なぞないとばかりに炎となって再生する。
超速再生どころじゃねぇな!! ———ッ!!
噛みつきを間一髪避け、さらに出現させたリキッドシューターを打ち込みながらさらに距離を詰めていく。
「身体を捨てやがったか!!」
倒すべき肉体を捨て、その身体を全て炎へと変えた。
それが生半可なことじゃねぇのは一目で分かったが、それだけのことをする覚悟がこいつにあることだけはよく伝わった。
「ハッ」
五位の野郎と違って、こいつは正真正銘命を捨てる気だ。
命を懸けて、俺と戦い殺そうとしてくる。
紛れもない強敵であり、同時に決して侮れねぇ強者だ。
怪人どものような邪悪さが伴った殺意ではないそれを妙に心地よく感じながら、さらに意識を集中させていく。
「Gugaaaaa!!」
咆哮が轟き、奴を中心に蜘蛛の巣状の罅が大地に刻まれる。
罅に走った炎が、火柱を形成しそれらが天へとのぼり空間をさらに塗り替える。
だが、いくら炎を広げたとしても俺にしてみれば、マッチ程度の火が増えたこととなんら変わりない。
「炎を撒き散らすだけかァ! んなもん地球の怪人もできるぞ!!」
『Guraaaaaaaaaaaa!!』
大地を砕く勢いで跳躍し、手を翻しながら召喚した数十にも及ぶリキッドシューターの掃射を行いながら、二刀のフレアカリバーを両手に携え斬りかかる。
奴は回避する動きを見せない。
実体がないから。
太陽の化身と化した奴にはあらゆる攻撃が意味をなさない。
んな甘っちょろいことを考えているようだが、
「ふんッ!!」
すれ違いざまに首から胴体を一閃。
二つの赤い軌跡を描いた斬撃は、スコルの炎の肉体を切り裂き―――その身体から血炎を迸らせる。
「Giッ!?」
「おい、なんだ! やろうと思えばできるじゃねぇか!!」
存在固定とかいう技。
ルインが口にし、最初の戦いでこの俺に何度も叩きつけてきた攻撃。それは不定形の存在を、物質という枠組みに強制的に掌握し攻撃を通すことにある。
以前の俺では必殺技を発動しなければできなかったが、今の俺にならそれができる。
―――まあ、細かい理論なんてすっ飛ばして、やろうと思ったらできたってのが正直な感覚だ。
そんな曖昧な感覚の元で繰り出された斬撃は、確かな攻撃としてスコルの肉体に傷を刻みつけた。
「Gu,Giguoooooooooooo!!」
傷を再生させるように炎をさらに燃え上がらせながら、スコルがさらに咆哮する。
奴の炎の身体が一気に燃え上がり、散った火花が膨張すると同時に次々に狼の姿へと形どっていく。
「……今度は数で攻めようってか」
とんでもねぇ数だし、なにより……あれは力の分散というより複製だな。
本体も弱ってねぇし、分身体も本体と遜色ないパワーとスピードを備えていると見てもいい。
『なんて数……!? いったいどこからこんな力が……』
「捨て身なんだろうよ。なにがどうか分からねぇが、奴は俺を恨んでいるようだ」
いや、正確には俺ではないのか?
だが向けられる殺意には、怒りと憎しみも込められている。
それに心当たりもねぇし、地球を責めてきた輩の恨みとか別にどうでもいい。
「「「Gaaaaaaa!!!」」」
「ッ!」
剣を捨てると同時にライトニングアックスを召喚、両手で構え群れを伴って襲ってくる炎の化身達を迎え撃つ。
「Gaaa!!」
最初の一体の頭を消し飛ばし、遅れて迫る爪の斬撃を斧でいなす。
それから左右から挟み込む形の噛みつきを跳躍で避け、その間に斧を投擲———重なった二体の首を落とし、電撃の応用で斧を手元に引き寄せ、頭上から叩きつける形の爪の一撃を防ぐ。
「チッ」
数が増えると面倒だな。
奴は今、自身の肉体を捨てながら力を使い続けている。
確実にそれは長続きせず、いずれは奴の存在すべてを磨り潰して消滅するだろう。
戦闘が長引けば確実にこっちが勝つ。
だが、それはあくまで今この場でイレーネの空間が保てればの話だ。
「プロト、シロ」
『なに?』
『ガウ?』
迫る炎をライトニングアックスで薙ぎ払いながら、バックルのプロトとシロに語り掛ける。
「少し無茶をさせる。いけるか?」
『———うん、大丈夫!!』
『
頼もしい返答を耳にし―――
空を蹴り、力任せに斧を振るい取り囲んだ炎の化身共をまとめて消し飛ばしながら、一気に肉薄したスコルの胴体に飛び蹴りを叩き込む。
「Giッ!?」
加速の乗った蹴りは奴の巨体を吹き飛ばし、さらに奴がぶっとんでいった方向に先回りし拳を叩き込む。
奴の身体を無理やり存在という枠組みに当てはめ、実体を捉える。
繰り出された一撃は奴の横っ面に直撃し、そのまま振りぬきぶっ飛ばす。
「すぅぅぅ……!!」
空を乱回転しながら舞うスコルを見上げ、数秒の全力駆動により全身の装甲が赤く染まった右拳を腰だめに構え―――、
「オラァ!!」
赤い閃光として一気に解き放つ!
拳から生じた赤い閃光が炎の化身共を呑み込み、スコルに直撃し爆発を引き起こす。
このまま追撃を―――、
『カツミ、駄目!!』
「……っ」
プロトの必死の声。
それから全身に纏ったプルートルプスの鎧が真っ赤に染まっていることに気付き足を止める。
気づけばスーツに亀裂がいくつも入り、右腕に至っては装甲そのものが溶解し、ボロボロと崩れ落ちてしまっている。
「……まだトドメをさせてねぇな」
直感的に奴を始末してねぇのは分かっている。
問題は決め手がねぇことと、奴を相手に長く時間をかけられねぇってことだ。
落下と同時に黒こげの姿から、徐々に炎を纏い始めるスコルから、シールドの中で歌っているイレーネを見る。
空間を補強し続けているからか、その顔色は悪いが表情そのものは満ち足りたようなものに見える。
「げほっ、がはっ」
「ッ!!」
唐突に口を押えて崩れ落ちたイレーネの元に跳躍する。
シールド内に入り、すぐさま彼女を支えると、口元を押さえた彼女の手には赤黒い血が吐き出されていた。
「おい、無理するな!!」
「私はへいき、まだ歌える」
能力の負荷で喉がやられたのか!?
このままじゃ俺は大丈夫でもイレーネが危険だ。
かといって、この空間が解除されればあの太陽の化身が外で暴れ回るだろう。
「このままじゃくうかんがもたない……」
イレーネが掠れた声で呟く。
「わだし、ちきゅう好き。歌がみんなに受け入れられていて、すてきな歌がたくさんあって……」
「……」
「だから、君のために、地球の歌を失いたくない。私の故郷みたいになくなってほしく……ない」
……のほほんとした奴ではあるが、彼女の歌に対しての思いは最初に戦った時からよく知っているつもりだ。
そして、この数か月彼女が地球で過ごし、この地球を守りたいと思い至った理由も嘘偽りのない本心だということも理解できた。
「イレーネ」
なら、その思いに応えるのも俺の仕事だ。
虚ろな目で見上げた彼女と目を合わせ、俺は次の言葉を紡ぐ。
「お前の力を貸してくれ」
「———いい、よ」
迷いのない即答に苦笑しながら、立ち上がる。
そして―――、炎に包まれた世界の中、ひび割れた装甲に包まれた左手を虚空に翳す。
「来い」
バックルを介して掌に転送されるのは黒色のコネクター『グラビティグリップ』。
グラビティフォームへのフォームチェンジを行うためのアイテムであり今はグラビティバスターを強化するものではあるが、今からこいつを核にして新たに作り変える。
「シロ」
『ガァァウ!!』
使うは進化の力。
バックルから流れた銀色の光が身体を通して左手に集約する。
そしてその光の中からプロトでもシロでもない、また別の黒い力が溢れ出て———光に包まれたグラビティグリップを十字に縛り付ける。
『
『→ー
十字模様があしらわれたグリップ。
黒と白の装飾が彩られたソレの側面のボタンを押し込む。
グリップを起動させると同時に傍にいるイレーネを光が包み込む。
ファンファーレのような軽快な音声が鳴り響く中、イレーネがもう一度俺を見る。
「うん、全部あげる。君のために私は歌う」
彼女の身体が光に包まれ、クロスグリップへと吸い込まれていく。
瞬間、クロスグリップに表示された液晶から光が溢れ、ホログラムが展開される。
構えを取り、グリップを持つ手でホログラムを砕き割る。
砕き割れたホログラムの光が粒子となってXグリップへと流れ込み、力の充填を確認。
同時にグリップを片手で変形させ、バックルの液晶の上から重ねるように嵌め込み―――上部のスイッチを軽快に叩きフォームチェンジを行う。
全身を覆う装甲が霧散し、新たなアーマーが宙に形成。
先ほどの白と黒が入り混じった姿ではなく完全な黒の装甲が全身を覆い、身体そのものを覆うスーツも黒から赤へと変化する。
全身に白い十字模様のライン、そして最後に首元に装着されたアーマーからマフラーを思わせる赤色のエネルギーを放出させたことで、フォームチェンジを完了させる。
変身が完了すると同時に、バックルを通して音楽と歌が鳴り響き空間に広がっていく。
歌は空間を支配下に置き、その存在をより強固なものとして再構成していく。
———なるほど、こういう力か。
変身と同時に頭に流れ込んできたコイツの使い方を理解し、奴を睨む。
相変わらず制限はある。
だが、今のこの力なら―――十秒あれば十分だ。
久しぶりに凝った表現を使ったら物凄く疲れました。
新フォームのバックルのモチーフは対局時計です。
もしかしたらデザインだけでどんな戦い方をするか分かるかもしれませんね。
今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。