今回は前半イリステラ視点、後半カツミ視点でお送りいたします。
カツミさん達が三位と五位を倒したみたいだ。
彼と三位の戦いは閉ざされた空間越しに見ていたけれど、やっぱり彼は強かった。制限に制限、それまた制限をかけた状態での決戦ではあった上で、彼は三位———太陽の化身へと転じた大狼を打倒した。
———彼は、私にとってのヒーローだ。
彼は知る由もないけど、色のない世界に閉ざされ外を知ることができなかった私を救ってくれた。
正体がばれてしまったが、そんな彼の一助となれたことは私にとって誇らしいことだ。
「アカネさんは……」
レッド、アカネさんの名前を呟く。
彼女が五位から模倣してみせた技を目にした時、正直寒気がした。
私は空間を扱う技がものすごく得意って自覚はあるけれど、あの技は駄目だ。
単に空間を斬り抜くなんて単純な技ではなく、次元そのものを断ち斬る神業とも呼べるもの。あれを前にすれば私がどのように空間を歪め、攻撃を逸らそうとしても意味を成さない。
なにせ、文字通りに空間を無視してくるからである。
あの肥大化したプライドを持つイリステオが一位ではなく二位という地位に大人しくいた理由にも納得がいく。
なにせ、一位は純粋な剣技のみで恒星も、時空操作も上回る超越者だ。
……元々敵対することは絶対にないけれど、アカネさんは怒らせないようにしよう。うん。
「状況終了って感じかな。おつかれ、ステラっち」
「あ、はい」
ステラっち……? い、いつの間にかあだ名呼び……。
タワーの天辺に位置する場所で、スコープを除いて状況を確認していたブルー、アオイちゃんが銃の引き金から指を外しながら顔を上げる。
先ほどまで、正確無比な射撃で遥か遠くの怪人や侵略者を蹂躙していたとは思えない様子だ……。
「貴女はどうする?」
「私は……ど、どうしましょう?」
「黙っててほしいなら秘密にしてくよ」
正直秘密にしてもらえるなら秘密にしてもらいたい……けど。
ここに立つことを選んだのは私だ。
それをしてしまうと、今ここにいるまでの過程が全部無駄になってしまう……ような気がする。
「いえ、お伝えしても大丈夫です」
「……いいの?」
「はい。でも多分、立場上そこまで協力できない……かもしれません。多分」
私はルイン様に命じられて序列二位の立場にいる。
極端な言い方をすれば、私の行動の良し悪しの判断はルイン様にあるということ。……でもちょっと許されるラインで色々手助けするのは許されるかな……?
内心でちょっと葛藤していると、武装を収納し終えたアオイちゃんが手首の腕輪のようなものに触れる。
「司令、ちょっと報告が」
空間にホログラムが投影され、社長さんの姿が映し出される。
つい数分前まで戦闘中だったからか、彼の周囲はレバーやスイッチなど「ザ・操縦席!」って感じな見た目だ。
『どうした? こちらは今、風浦氏の力で街を修復している最中だ。火急のものではなければ報告に関しては後回しで構わないぞ。フッ、君とカツミ君には無理をさせたからな、後は私達に任せて十分な休息をとるといい』
『火急の要件です』
『どうした? なにがあった?』
疲れを滲ませた声から一瞬にして、声が引き締まる。
その変わりようを前にしながらアオイちゃんは、映像が映しているであろう手首をこちらに向け―――私の姿を映し出す。
『む、ステラ氏ではないか。……待て、君は我が社から基地に避難したはずだ。なぜブルーのいる現場に……』
「わ、私、実は隠していたことがあったんです……!」
『え、突然のカミングアウト……? え、怖……』
ここは変に臆しては駄目だ。
伝えにくくても頑張って言おう。
「私、二位なんです!!」
『二位? なんのだ?』
「星将序列の」
『……。……は?』
「星将序列二位なんです。私……」
映像の先の社長が目元を押さえる。
『まさか空のアレは君が?』
「しょ、証拠が必要ですよね!?」
『いや、今はいらな―――』
「じゃ、じゃあ、もう空間を
空で止めておいた巨大戦艦。
空間そのものを固定したソレだが、皆さんが戦っている間に空間の
なので、現状ただ空間に浮き彫りになったそれを空に翳した手でペリっと引き剥がし、写真のようなサイズになった宇宙戦艦とその背景が映し出されたソレを映像越しに社長さんに見せる。
「見ての通り、もう大丈夫です!!」
『———』
「あとは地球に影響しない適当な宇宙に放ってしまえば問題ないかと思います!!」
『———』
「やってること超越者の所業でウケる」
あ、あれ無反応……?
「司令、驚いて失神してるところ悪いですけど戻ってきてください」
『———あまりにもとんでもない事象をポンだしされて意識が飛んでいた!?』
我に返ったように声を発した社長さんが、不意に「ハッ!?」と何かに気付いたような声を上げる。
『ま、まさか……イリステラ・ニーナノという名前も……?』
「はい、イリステラ二位なの……です」
『……』
沈黙。
五秒。十秒と続き、堪えきれなあったように社長が頭を抱える。
『少しは隠す努力をしろぉぉぉ!! 隠さなすぎて全く気づけなかったわぁぁ!!』
「うわあああ、すみません、ごめんなさい、申し訳ありません!!」
我ながらどうかなと思っていたけど、本当に適当に考えて別に茶化すとかそういう意味はなかったんです。
『ということはアレか!? 我々は知らず知らずのうちに敵勢力のナンバースリーを専属イラストレーターとして雇っていたという……こと!?』
「ウケるね」
『ウケてたまるかァ!! そしてなぜお前はそんなに落ち着いているぅぅ!!』
「黒騎士くんがいるから今更でしょ」
『それはそうであるがぁぁ!!』
ぷすーっと笑うアオイちゃん。
アオイちゃんがあまり驚いないのはカツミさんを見ていたから……?
うん、普通にルイン様を相手に少しも怖気づいたりしていないし、私とは本当に次元が違う強さしているから、確かにそうだ。
『こっちは仮想二位に対しての対抗策を秘密裏に練っていたのだぞ!? え、それももう無駄骨!?』
「あ、でも私の前任の二位は同じ能力を持っていてものすごく悪い奴なので対策は練っておいた方がいいです」
『前任も同じ力を!?』
「私の方が強いですけど」
『君の方が強いのォ!?』
こればかりは譲れないところだし断言できる。
私がいるかぎりイリステオはこの次元世界に入ってくることが絶対にできない。
それはイリステオがイリステオである限り絶対に覆ることのない事実。
自分に自信がない私が唯一、絶対と言えることでもある。
『スゥー、フゥー……未だに衝撃があるが、君が我々を救ってくれたことは紛れもない事実だ。感謝するイリス氏」
「……あ、いえ、そんな……」
『謙遜の必要はない。私は、実際に君と面接しその人となりを確認した結果、君が善良な心を持つ者と判断したのだ』
真正面から礼を言われて慌ててしまう。
本当に、外の世界に出てから会う人みんな優しい人ばかりで思わず涙ぐんでしまう。
『話を聞きたいところではあるが、今はまず破壊された街の再生を急がせねばならん。それまでブルーの傍に待機していてほしい』
「あ、はい」
それから社長さんとの通信を切ると、緊張が途切れたのか私は脱力するようにその場に座り込んでしまった。
「大丈夫?」
「は、はい……その、あまりこういうことをしたことがなくて……」
「戦ったことがないの?」
「戦いどころか、自由な生活ができるようになったのもちょっと前からで……私はなんといいますか、人間力レベル1というか、人生経験一年生目って感じなんです」
「思っていたよりも過去がヘビーそうだね」
だからこそ今こうして自分の意思で何かを決められていることは、怖いけどちゃんと前に踏み出せているって自信に繋がってくれているような感じがする。
「ま、私は配慮のできるいい女。詳しいことは聞かな―――」
「私、実は前任の二位の分裂態というかバグみたいな存在で、それが理由で疎まれてものすごく長い間死んだ次元世界で暮らしていて、最近ようやく出てこれたんです。前にいた世界は白黒しかない彩がない世界で、本当に苦しい場所で今こういてここに入れることそのものが奇跡みたいで……」
「隙を見せた私が悪かった……」
隠すことでもないので、カツミさんの“あの姿”以外のことを話してしまう。
「……ステラっち。ゲームとかやったことある?」
「え、……ないです」
「じゃあ、今度一緒にやろっか。ハルちゃんもカツミ君とも一緒にね」
アオイちゃんからの提案に面を食らってしまう。
数秒ほどして言葉の意味を理解した私は、自分でも驚くくらいに首を縦に振る。
「じゃ、PCとかその辺あたりはこっちに任せてよ。なんならゲーム機本体も買いに行こう。私が費用を持つ」
「あ、え、そんな……」
「心配しないで。私正義の味方、お金たくさんある。領収書にさせろ」
正義の味方ならそんな台詞言わないと思います……。
むふー、と自信ありげなアオイちゃん。
「なんだかアオイちゃんって不思議な人ですよね。いつも平常心で動じないというか……」
「それって私がクールすぎるってこと? よく言われる」
そういうわけではないと思う。
少なくともこの人はクールを装った別の何かだ。
一切の疑いのないキメ顔を見せる彼女に私は苦笑し———、
「———ッ」
瞬間、背筋に刺さるような寒気が走る。
その場で勢いよく立ち上がり、頭上の遥か上、地球外の宇宙に入り口を無理やりこじ開けようとしている何者かを視る。
「ステラっち?」
「なにかが、この次元に干渉しようとしています」
まだ大丈夫、だけれど。
宙に手を添え、次元に干渉し何者かの侵入を即座に阻む。
「……なんなの、これ?」
気配が滅茶苦茶だ。
入り込もうとしているのが怪物か人間か、それ以外かすら分からないほどに混沌としている。ただ分かるのは悍ましいほどの悪意が、干渉越しに強く伝わってくること。
だけど―――私の方が強い。
手に力を籠め、多次元からの一切の干渉を切断し、合わせてその強度を高める。
「退いて、くれた……のかな?」
入ろうとするのをやめた、というより一旦引いたという感じだ。
私との力比べを諦めたという表現の方が正しいかもしれない。
「大丈夫だった?」
「とりあえず追い返しました。でも、なにかがこの宇宙に入り込もうとしてきました」
「……なるほど理解した」
のほほんとした表情で頷くアオイちゃん。
しかし、何を思ったのか少し考え込むような素振りを見せてからフッと顔を上げる。
「ステラっち、このまま歯向かう侵略者全員ぶち殺していこう」
「全然分かってないですよね!?」
「大丈夫、私達とかっつんがいるから」
それもう私いなくてもいいですよね!?
●
「……なんか来ようとしてたな」
最早、船も何もかもがなくなった夜空を見上げながら呟く。
今感じた妙な気配は、多分ステラさんが追い払ってくれたようだ。
出現と同時にぶちかまそうとした大砲モードへと変形させたブレイクバスター10Xを消し去り、アカネときららの方を見る。
「黒騎士君、どうしたの?」
「なにか剣呑な気配してたけど」
「……妙な気配を感じてな。出た瞬間にぶっ飛ばそうとして構えてたんだが、その必要もなくなったみてぇだ」
後でステラさんと情報を共有しておくか。
「まあ……黒騎士くんが大丈夫って言えば今は心配ないかな」
「せやね」
「反応が軽すぎだろ……」
凄い信頼を感じてむず痒くなってしまう。
「それはともかく、また姿が変わったね」
アカネが興味深げな様子で今の俺の姿『プルートルプス・X』をまじまじと見る。
こいつは10秒間だけ俺が全力で動けるように進化した姿……いや、ちょっと待てバックルに入ったイレーネは大丈夫か?
少し前から全く反応がないんだが!?
「おい、イレーネ」
『ん、なんだ?』
声をかけるとバックルからすぐに返事がする。
「え、なんでカツミ君のベルトから八位の声が……?」
「力を貸してもらうために、なんかこう……吸収した」
「吸収した!?」
いや、他にどういう表現したらいいか……。
実際、俺としては力を貸してもらうだけでよかったんだけど、なぜか体ごと吸収されて実は内心焦っていたんだよな。
そんな場合じゃなかったから取り乱さなかっただけだし。
「カツミ君。それ、元に戻せるんか?」
「……多分戻せるはず。イレーネ、自分の力で出てこれるか?」
きららの言葉に曖昧に答えながらもう一度バックルのイレーネに声をかける。
『……』
「おい、どうした?」
『出なくてもよくない?』
「全然良くないんだけど」
突然どうしたこいつ!?
え、むしろ困るのお前側だろ!?
「協力した手前すっげぇ言いにくいけれど、俺とお前は敵同士だろ!?」
『君と私の格付けは済んでいる。気にするな』
「なんで勝っているはずの俺がこんな押されなきゃならないの……?」
これもう勝者の風格過ぎるだろ。
なんでこんなに我が強いんだこの人。
『約束も結んだし、私はお前と戦わないし悪いこともするつもりもない。それなら、このままの方が都合がいい』
「いやいやいや!?」
『ここは落ち着くしいくら歌っても喉がかれないし、二人の観客もいる。しかもここでは人の姿をして、私と同じ背の高い美人だから目の保養にもなる』
『私達観客扱い!?』
『
なんかもうベルトの中の生活を満喫してやがるぞ。
プロトもシロも振り回されている。
「黒騎士くん、私が乗り込んで引き剥がしに行くよ?」
「待てい、邪心500%の羅刹女には荷が思いわ。私が行く」
『もっとやばいのが来ちゃう!?』
『
いや、お前らが入れるかどうか分からないんだが。
正直なにか基準とかあんのか曖昧なんだよな。
アルファだから入れる……ってわけじゃなさそうだ。
いっそのこと変身を強制解除してしまおうか、などと考えていると不意に俺たちの頭上で雷が鳴り響き、一瞬の閃光と共に目の前に電撃を纏った少女が着地していた。
「はぁ、まったくバイオスーツを着なおすのも大変ね」
「お前か……」
「やっほ。黒騎士、ジャスティスクルセイダー」
雷と共に現れたのは七位……確かレアムだったか?
彼女もイレーネと同じく助太刀にやってきて、レイマ達と共に空からの敵を撃ち落としてくれていたんだってな。
戦う気は、ないみたいだな。
「ねえ、イレーネ知らない? あんたの援護にいったはずなんだけど」
「……あー」
『私はここだ』
「は?」
バックルから聞こえるイレーネの声にレアムが呆気にとられた顔になり俺を見る。
「どういうこと?」
『心配するな。私はここでうまくやっていく』
「本当にどういうこと?」
本気で困惑するレアムに俺はもう一度ため息をつきながら、強硬手段に出ることを決意する。
「やっていくな。……ふんっ!!」
「わっ」
変身を解除しながら気合でバックルに吸収したイレーネを分離する。
バックがプロトとシロ、それぞれメカオオカミの姿へ戻り、分離したイレーネが地面に倒れないように支える。
「居座ろうと思ったのに」
「ずっと変身してるわけにもいかないだろ。……はぁ」
なにはともあれ彼女には助けられた。
正直、イレーネの助けがなかったら被害はもっと大きくなっていたはずだ。
……俺も無茶をせざるをえない事態になっていた。
イレーネを立ち上がらせながら、様子を伺っているレアムを見る。
「お前にも助けられたな」
「ま、私も久しぶりに暴れられたし気にしなくてもいいわよ」
「此花のこともありがとな」
「そこも気にしなくてもいいわ。なんだかんだであの子とも仲良くやっているから」
「フッ、そうか」
なんだかんだで此花は逞しいやつだからな。
実の両親に認識を歪まされてしまい、ほとんどの人々の記憶から忘れ去られてしまったが……そんな状況でも心折れずに前を向いていてくれたことは俺にとっても安心できた。
「じゃ、私はこいつ連れて戻るわ」
「ああ」
「次に会う時は味方かどうか分からないけど、そん時はよろしくねー」
不穏な言葉を言い放った直後にレアムはイレーネを連れて、稲光と共に空へと消えていった。
「……なんかもう嵐のように凄かったね」
「あの人達が敵かどうか分らんようになってきたわ……」
「それに関しては同感だ……」
イレーネはともかくレアムは再戦する気満々みたいだからな。
変な表現になるが殺し合い、というより命を懸けた遊び相手を求めているといった感じだ。
……ターゲットにされた俺としては結構迷惑な話だが、それでも話が通じない怪人相手よりはずっとマシだろう。
テンパってさらっとえげつないことをするイリスでした。
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