追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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連続投稿となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。

今回は白川視点となります。


閑話 シグマ

 私は作られた命だ。

 母から生まれたわけではない。

 年齢を重ねて成長したわけではない、人間でも怪人のどちらにもなれなかった異物だった。

 生まれた時は、どのような状況だったか。

 

『お前は、アルファではない』

 

『お前はアルファにはなれない』

 

『何者にもなれないクズだ』

 

『二度とその顔を見せるな』

 

 オメガ、そう呼ばれていた父が作り出した私は失敗作であった。

 アルファが生み出した娘。

 オメガが作り出した命である私。

 母と同じくアルファと名乗った彼女の力は、あらゆる生物に対して認識を変えさせてしまう恐ろしいもの。その気になれば人類さえも一瞬で滅ぼすことのできる能力。

 それを、父は自身の『命を操る』能力で作り出そうとしていたのだ。

 結果的に、一番の成功例は私だけだった。

 

『アルファに劣る失敗作、シグマ。それが貴様に相応しい名だ』

 

 最終決戦間際に生み出された私。

 利用もされず、頼りにされることもなく、ただ自身の父であるオメガがジャスティスクルセイダーと黒騎士に倒される光景を見ていることしかできなかった。

 

 本来は、父は無敵のはずであった。

 命の怪人。

 魂そのものを操ることのできる彼は、怪人だけではなく生者の魂すらも操ることができていたのだ。

 その気になれば、視界内の魂を抜き取り一瞬にして敵対者を殺すことができた。

 だが、そうしないのは―――彼らの中に、見えない協力者、アルファがいたからだ。

 

 父はアルファの存在を恐れていた。

 あの子が自身にとっての弱点であることを知っていたからだ。

 認識できていなければ、魂を掌握することもできない。

 見えなければ、能力も使えない。

 そうして、父は本来の力も発揮することを許されずに討たれた。

 

 正直、悲しいか悲しくないかで言われれば悲しい。

 能力で作り出された命だが、親には変わりない。

 だが、殺された復讐をしたいかでいえば……正直、それはずっと分からないでいた。

 

 ジャスティスクルセイダーを憎んでいるのか。

 黒騎士を憎んでいるのか。

 姉さんを憎んでいるのか。

 それが、自分でもよく理解できていなかったのだ。

 

『白川伯阿です。えーっと、医者です』

 

 まあ、怪人の要素を併せ持つ私は頭がよかった。

 知識はネットと図書館で学習し、ほぼほぼ習得。

 ついでに言えば、アルファの認識改変能力をほんのちょっぴりだけ持っていた私はそれを利用し、無意識での好感度、信用度を上げるように操作し、必要な書類も偽造し、ジャスティスクルセイダーの本拠地への潜入を可能とさせたのだ。

 それからの日々は私にとっても、奇妙に感じられた。

 人間の世界を学び、勉強しながらの日常。

 年相応の学生達のジャスティスクルセイダー。

 重い過去を背負いながら、人々を守るために活動していた黒騎士こと、穂村克己くん。

 なんか微塵も私を疑う素振りを見せない自称宇宙人……というより、本当に宇宙人っぽい変態社長。

 彼らと関わっていくうちに、自然と私自身も変えられていっているような……そんな錯覚に陥った。

 

「ねえー、かっつん」

 

 今、目の前にはベッドに寝かせられたまま眠っている穂村克己がいる。

 病院には連れていけない。

 なぜかそう思った私は、自分の能力を使い医療に用いる道具などを借り受け、彼に処置を施した。

 

「部屋まで借りることになっちゃったよー。君のせいで」

 

 マンションのそこそこ広めの部屋。

 未だ殺風景な部屋で、規則正しい寝息を立てている彼にため息をつく。

 彼のことはまだ本部には知らせていない。

 本当は知らせるべきだったんだけど、なぜか伝えたくないって気持ちになってしまった。

 まあ、私はもうあそことは関係ないから別に伝える義務もないんだろうけど……。

 

『ガオ』

「ん? あ、あいだだだ!? わ、分かった。包帯を変える時間だね……もう、乱暴だなぁ」

 

 ベッドに頬杖をついて彼の顔を眺めていると、ぴょんと頭に飛び乗ってきた手乗りメカオオカミが、私の頭に爪を立ててくる。

 このかっつんにしか懐かないいぬっころは本当に私に対する扱いが無礼すぎる……!!

 彼の身体に巻いた包帯を外しながら、傷の具合を確認する。

 

「治りかけてる。……君の力?」

『ガオ!』

 

 どうやらそのようだ。

 なにやら時折噛みついて、エネルギー的な何かを流しているからな。

 恐らく、治癒能力を促進させているのだろう。

 

「……。いったい、君は何と戦ったんだ……?」

 

 彼をあの雑木林で見つけて三日が過ぎた。

 だが、話に聞いていた以上にかっつんの身体には夥しいほどの青あざに打撲。

 それに、拳と思われる跡が刻み込まれていた。

 今は異常な速さで治りかけているが、彼を運んだ当初はもう大変だった。

 

「……」

 

 おもむろに彼の首に手を伸ばす。

 強く握りはせずにあくまで添えるだけ。

 父の仇。

 そう思いながら、軽く触れてから……苦笑しながら手を戻す。

 

「違うよなぁー」

 

 恨みはもうない。

 彼と関わって、彼を知った。

 それだけで私はもう許してしまっていた。

 

『グルル……』

「か、噛みつかないでね……?」

 

 目ざとく察知したオオカミくんが私を狙ってる……!?

 あと少し手を引っ込めるのが遅かったらその鉄の牙で食いちぎられていたかもしれないと考えると嫌な汗が流れる。

 

「———ん」

「!」

『!』

 

 彼が目覚めたようだ。

 椅子を頭側にずらして、彼が起き上がるのを待つ。

 すると薄っすらと目を開いた彼は、窓から差し込む明かりを手で遮りながら上半身を起こそうとする。

 慌てて彼の背を支えて起こし、調子を尋ねてみる。

 

「目が覚めたんだね。調子はどう?」

「……」

 

 私の顔を見てきょとんとした様子のかっつんは、首を傾げる。

 

「君は、誰だ?」

「……へ? え?」

 

 ……ははぁ、この前記憶喪失系の映画見たからそのネタを振っているんだね?

 

「ふふ、私は君の恋人さ」

「……ッ!? そう、か……すまない……」

「……あれ?」

 

 なんか思ってた反応と違う。

 ものすごく沈痛な面持ちを浮かべながら自己嫌悪に陥っているのだけど。

 

「俺は、誰なんだ……?」

「じょ、冗談きついよ。かっつん、笑えないよ……?」

「冗談じゃないんだ。……俺の名前はかっつんって名前なのか?」

 

 全てを忘れるタイプじゃなく、自分のことについて忘れる記憶喪失なのか?

 常識とかその辺は残っているようだし、どこまで常識が残っているのだろうか。 

 

「俺に、君みたいな恋人がいただなんて。それを……忘れてしまうなんて、俺はなんてやつなんだ……」

「じょ、冗談! じょーだんだよ!! 君の言葉が冗談だと思って、私も嘘をついたの!!」

「そ、そうか……」

 

 心なしか残念そうにするかっつん。

 なにムキになっているんだ私は……!

 こちとら生後半年の赤ちゃんだぞ。

 赤ちゃんに無理をさせるんじゃない……!!

 

「うぐ!?」

「ど、どうしたの?」

 

 突然自身の肩を抱きしめ震える彼に、駆け寄り背中を摩る。

 幼少期のトラウマが蘇ってしまったのか!?

 

「わ、分からない。なぜか青い肌の女性が身動きのできない俺に膝枕を……」

「そういう願望でもあるの……?」

「安心してしまった自分がいることが……怖い」

 

 安心しちゃったんだ。

 深層心理による願望ってやつかな?

 

「まさか、あれが俺の、母さん……?」

「絶対に違うから妄想に現実を見るのはやめようね? ……ほら、水でも飲んで落ち着いて」

「ありがとう……。喉も乾いていたし、すごくお腹も空いているんだ……」

 

 用意しておいたコップに水を注ぎ彼に差し出す。

 それを一気に飲んだ彼は、お腹を押さえる。

 当然だろう。

 一応、点滴こそはしていたが彼は食べ物らしい食べ物を口にしていなかったわけだからね。

 すると彼にメカオオカミがじゃれつくように飛び込む。

 

「わわっ、なんだこいつ、ははは、かわいいなぁ」

『クゥーン』

 

 こいつ、悪魔みたいに嫉妬深いのにかっつん相手には子犬のようなじゃれついて無邪気さを見せてくるんだけど。

 なんで家主の私がヒエラルキー最下層にいるわけ……?

 

「……君はいったい、誰なんだ? 恋人なのは冗談なんだろう……?」

「わ、私は……」

 

 なんて答えればいい?

 医者です? それとも一般人です?

 

「白川 伯阿」

「しらかわ はくあ……」

 

 この時点で嘘をついた。

 私はシグマ。

 アルファを模して造られた欠陥品。

 怪人にも人間にもなれない半端者。

 

「君は……。……ッ」

 

―――このまま、かっつんの記憶を戻してもいいのだろうか?

 

 彼は自身の命を懸けて宇宙船の母船を破壊するために乗り込んだ。

 彼の死生観は、この数カ月を経ても根本自体は全く変わっていないのだ。

 なら、その切っ掛けとなる記憶も、なにもかもを忘れている今なら、彼も普通の人間としての人生を送れるのではないか……?

 

「俺が、なに?」

 

 しかし、何を言えばいい?

 君は元々は黒騎士って呼ばれたスーパーヒーローとでもいえばいいのか?

 逆に信じてもらえないだろ、ソレ。

 返答を待つ彼と、彼の腕の中で目に怪しい光を放ち始めるメカオオカミ。

 なぜか、意味の分からないことで追い詰められた私は―――、

 

「君の、姉だよ……」

 

 ショートした頭のまま続きの言葉を口にした。

 ……。

 ねえ、何言ってんの私!?

 ねえ、何言ってんの私!?

 嘘の上塗りしてどうすんのさ!?

 むしろ私、生後半年の一歳未満だよ!?

 それなのになんで姉になろうとしているのぉ!?

 

「姉、さん? そうか……なんだかしっくりくるような気がする」

 

 なんで君はしっくりきちゃうのさ!?

 ねえ、刷り込まれないで……?

 最初に見た顔を親と認識しているみたいな目で私を見ないで……!

 

「姉さん、心配をかけてごめん」

「……」

「姉さん? どうかしたのか? ……顔が赤いけど……ハクア姉さん?」

 

 連続で姉さんと呼ばれなんだか不思議な感覚に陥る。

 なんだろう、この人生(半年)で味わったことのない感覚は。

 

「うん、気にしなくてもいいよぉ」

 

 生後半年の私、人生の岐路に立たされた結果、見事欲望に屈っする。

 私もアルファとして造られた身。

 どうしてもオメガを探してしまう本能にあったのかもしれない。

 ジャスティスクルセイダー。

 姉さん。

 すまん……ッ!! 彼を君達の下に帰せなくなりそうだ……!!




記憶喪失ルートとなります。
シグマちゃんが善意と欲望の間に苦悩することになるルートでもあります。

オメガ戦はアルファを味方につけないとムリゲーというやばさ。
地球産のアルファとオメガがどいつもこいつも化物すぎる……。

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