追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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明日を待ち切れずに更新。

第二部開始となります。
第一話! って感じのイメージで書いてみました。


第二部
記憶のない彼は


 どうやら俺は記憶喪失のようだ。

 過去の記憶はほとんどない。

 ただ常識とかはちゃんと身についているようで、なにをしてもいいか駄目かは理解できる。

 

「かっつん、お腹空いたー」

「ハクア姉さん。今できるから着替えなよ」

 

 居間からそんな声が聞こえてくる。

 白川克樹(しらかわかつき)

 それが俺の名前らしい。

 ハクア姉さんは事故で記憶を失った俺の手当てをしてくれた命の恩人で、近くの病院に勤務している看護師さん。

 記憶を失った俺の世話をしてくれた恩人であり、家族だ。

 

「ハクア姉さん。普段が三歳児みたいなんだから、朝くらいちゃんとしてくれよ」

「うぐ……ま、まあ、私一歳児未満だからね。しょうがないしょうがない」

「全然、しょうがなくないだろ」

 

 のそのそと着替えながら朝食が並べられたテーブルに移動する姉さんの近くに、布で包んだ弁当箱を置いておく。

 

「はい、お弁当。全部手作りってわけにはいかないけど」

「いいのいいの……中身はなに?」

 

 料理はこの一か月で覚えた。

 正直、まだうまくできているとは言えなくて、半分くらいは冷凍食品とかそのへんだ。

 記憶を失う前はあまり料理をしていなかったのかもしれないが、それは今から覚えていけばいい話だ。

 

「自信作、日の丸弁当だ」

「白米に梅しか入ってないじゃん!?」

「ははは、冗談だよ。ちゃんとしたやつだよ。さ、早く朝ごはん食べようぜ」

 

 俺も食べてバイトに行かなきゃならないし。

 姉さんに紹介されてなきゃ、このまま養われるだけだったからな。

 さすがにそれは嫌だったので、少し無理を言って働く許可をもらったのだ。

 ……なぜか働く場所を姉さんに指定されてしまったが、まあ、普通にいいところなので気にすることでもない。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさんでしたー」

 

 朝食を食べ終え、姉さんも俺もそれぞれ準備を始める。

 

「ねえ、かっつん」

「ん?」

「今、楽しい?」

 

 準備をしている俺に、突然そんなことを訊かれ首を傾げる。

 もしかして、記憶がない俺を気遣ってくれているのだろうか。

 それなら心配は無用だ。

 

「はは、変な姉さんだな。楽しいに決まっているよ。ま、記憶はないけどねっ!」

「……っ。う、うん、そうだよね。それなら……いいんだ……うん」

 

 一瞬、表情を陰らせる姉さん。

 ……早く、心配させないように記憶を戻さなくちゃな。

 そう決意して、鞄を持つ。

 

「じゃ、俺は先にバイトに行くから」

『ガァオっ!』

「おっと、お前を忘れてたな。シロ」

 

 持っているカバンに入りこんだのは、機械っぽい見た目の手乗り犬『シロ』。

 白いし何よりかわいい人懐っこい奴だ。

 だけど、こいつが普通のロボットじゃないのは分かっているので、人前には出ないように言っている。

 

「あ、い、いってらっしゃーい」

「いってきます」

 

 姉さんに返事をして扉から外に出る。

 俺が記憶喪失になってから三ヵ月。

 元あった記憶がなんだかは分からないが、きっと前の俺もそんな風に生きていたのだろう。

 


 

 俺がバイトしている場所は住んでいるマンションからそう遠くない場所にあるカフェであった。

 コーヒーとサンドイッチがおすすめというシンプルでオーソドックスな店ではあるが、ちょうどいいくらいにお客さんがやってくる場所でもあった。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「二人です」

「二名様ですね。では、こちらの席へご案内します」

 

 来店した二人の女性をテーブル席に案内してから水を差しだしつつ、他の仕事をしつつお客さんからの注文を待つ。

 混雑しない程度に客が入るゆったりとした雰囲気の中、メニューを見ている女性客の声が聞こえてくる。

 

「黒騎士くん、まだ見つからないらしいね」

「中の子、高校生くらいの年齢って話でしょ? ……なんだか、かわいそう」

「今度、宇宙人が来たらどうするんだろう……」

 

 黒騎士、か。

 テーブルを拭く手を思わず止める。

 なんだか、俺が目覚める前にとんでもない事件が起きたらしいけど、それを止めたのが黒騎士という人物だったらしい。

 その事件に巻き込まれて記憶喪失になってしまったらしいけど、まあ、その黒騎士って人のせいじゃないから特別になにも思うことはない。

 他人事ではあるけど、ただ、生きているといいなとは思うな。

 

「すみませーん」

「はーい」

 

 どうやら呼ばれたようだ。

 お客さんの声に応え、そちらへ向かう。

 働かせてもらっている立場としてはしっかりと働かなくちゃ。

 

 

 

 昼間とは違い、客足がほとんどなくなる夕暮れ時。

 一通りの仕事を終えた俺は最後に食器を拭いていた。

 

「最初、お前を雇うのは反対だった」

 

 この店を経営するマスターが突然、そんなことを口にした。

 洗った食器を拭いていた俺はその手を止めて、換気扇の近くで煙草を吸っているマスターにジトーっとした視線を向ける。

 

「はっきり言いますか、普通」

「最初って言っただろ。目くじら立てるな」

 

 マスターというだけあって、清潔感のある黒を基調とした服を着ており、その頭にはバンダナを巻いている彼は、ふーっ、と白煙を吐く。

 

「なんかマスターってそれっぽいって思っているから煙草吸ってる感じですよね」

「バカ野郎。煙草だけじゃねぇぞ、コーヒーもこだわっている。そこそこ人気なんだからな」

「知ってますよ」

 

 彼の言葉に苦笑しつつ、手は休めない。

 

「……。白川姉が来た時のお前といったら、まるで姉離れできねぇ子供だったからな。少しでもふざけたこと言ったら、クビにしてやろうとも思っていた」

「記憶喪失で、不安だったんですよ」

 

 実際、外に出るのも怖いという気持ちもあった。

 誰かに会ってしまうのが怖い。

 もし、前の自分を知っている人がいたらなんて言われるのか。

 今の自分を否定されるのか。

 それが、なぜかすごく怖かったのだ。

 

「記憶喪失ねぇ……俺には想像もできんが、どんな感じなんだ?」

「うまくは言えませんが、なんというか……心にぽっかりと穴が空いている感じです」

 

 自分でもよく分かっていないが、とりあえず口にはしてみる。

 

「自分はなにかを思い出さなくちゃいけない。でもそれがなんなのか、なんで思い出せないのかが分からないんです。でもずっともやもやした気持ちがずっと、今でも続いている感じです」

「……辛いか?」

「いいえ、全然。ハクア姉さんと、マスターが気にかけてくれますからね」

「ハッ、ゴマすりがうまい記憶喪失者だな」

 

 俺の冗談に苦笑したマスターは携帯灰皿で煙草を消す。

 そのまま換気扇を回したまま、バーカウンターの椅子に座った彼は、こちらに話しかけてくる。

 

「今更、そんなやつがいるのは驚いたが……あれだな。過去の記憶のお前は過去でしかねぇってことだ」

「……はい?」

 

 思わず聞き返してしまう。

 

「お前はお前だろ。お前の名前はなんだ?」

「え?」

「いいから、答えろ」

 

 人差し指で肩を軽く突かれる。

 俺の名前。

 姉さんに教えてもらった、俺の、名前。

 

「白川、克樹(かつき)

「だろ? ならそれでいいじゃねーか。……無理して過去を思い出す必要なんてねぇだろ。お前はお前なんだからな」

 

 俺は、俺……か。

 それでいいな、と思う反面。

 姉さんの心配する表情が頭に思い浮かぶ。

 

「でも、いつまでもハクア姉さんに心配をかけるわけには……」

「そうか? 俺にはお前が記憶が蘇ることを……いや、なんでもねぇ。忘れろ」

「?」

 

 小声で何かを呟いた後、話を切り上げたマスターはそのまま立ち上がる。

 丁度俺も食器拭きが終わったので、その場から離れると、彼は腕をまくりながら冷蔵庫から食材を取り出し始めた。

 

「っし、まかない作ってやる。白川姉にも持って行ってやれ」

「え、いいんですか!?」

 

 ごはん作ってくれるんですか!?

 しかも姉さんの分まで……! ありがたい……!

 

「……すごい喜びようだな」

「はい! 食費カツカツなので!! ハクア姉さん、めっちゃ食べるんで!!」

「それ暗に給料上げろって言ってんのか? なあ?」

 

 賄いを作ってくれることに浮かれながら、席へと座る。

 働いてから約二カ月たつが、この職場はとても充実していると心の底から思えた。

 


 

「ハクア姉さん、喜ぶだろうなぁ」

 

 バイトが終わり、暗くなった道を歩く。

 周囲に人気はなく、街灯に照らされた夜道を歩きながら俺は、マスターに包んでもらった弁当箱を持ちながら姉さんの待つマンションへと続く道を歩いていた。

 

「俺は、俺か」

 

 マスターに言われた言葉を思い出す。

 たしかに、今生きているのは俺なんだ。

 前の記憶もないし、いつ目覚めるかも分からない。

 それなら、気にするだけ無駄かもしれない。

 

「……よっし、明日からも頑張るぞー!」

 

 俺は、とても恵まれている。

 家族思いの姉に、気遣ってくれるマスターもいる。

 今の日常に不安なんて一つもない。

 

「ん?」

 

 誰かが道の先にいる?

 壊れかけているのか、点滅を繰り返す街灯の下に女性がいることに気付く。

 よく目を凝らすと、深く被ったフードからは日本人離れした桃色に近い“淡い”髪が見えているが……コスプレイヤーさんかなにかだろうか?

 なんだか腕につけている金色の時計みたいなものもおかしい。

 

「———はぁい、探しましたよぉ」

 

 女性は俺を誰かと間違えたのか、こちらに手を振ってくる。

 人間違いかな?

 少なくとも俺の記憶では会ったことはないし、もしかすると記憶を失う前の俺を知る人かもしれない。

 

「ど、どなた……ですか?」

「……忘れた? 忘れたんですか? この私を? 全てを台無しにしておいて?」

「だ、台無し!?」

 

 も、ももももしや俺大変なことをこの人にしてしまったのか!?

 思わず動揺すると、くすくすと笑った女性はその頭にかぶっていたフードを外す。

 

「私ですよぉ、アクスちゃんですよぉ! ほらぁ、三ヵ月前に会ったぁ」

 

 フードの下の露わになった顔は、少し不気味だった。

 なんといえばいいか、生き物の顔というよりは人形じみていて、瞬き一つもしないのだ。

 顔だけは親しみやすい雰囲気をしているが、その目もそれ以外の雰囲気が危険な予感を抱かせる。

 

「あれれ? もしかして本当に記憶を失っているんですかぁ?」

「き、記憶喪失なんだ。ごめん、君のことは知らないんだ。よければ、君と何があったか―――」

 

 言葉を言い切る前に、俺の傍に何かが横切った。

 べちゃりとマスターが作ったまかないがいれられた弁当が真っ二つになり地面へと落ちる。

 

「許せません。許せませんねぇ……忘れた、ですってぇ? ふざけてますよねぇ……」

 

 女性の姿にノイズが走る。

 なんだ? なにかの手品か? まずい、なんだか分からないがまずい……!

 いつでも逃げられるように後ずさりしていると、俯いていたアクスと名乗った彼女が勢いよく顔を上げた。

 

「私をこんな目に遭わせて、なぁに普通に生きているんですかぁ!!」

 

 女性の姿にノイズがぼやけ、その内側が露わになる。

 顔の半分の皮がなく、その下には機械のようになっており、その腹部は様々な部品が無理やり詰め込まれたような姿に、俺の思考は一気に恐怖へと塗り替えられる。

 

「ホログラムが解けてしまいましたねぇ、でももうどうでもいい! 我慢できない!!」

「ひっ」

「殺す。殺してやるぅぅ」

『INVASION START!!』

 

 剥き出しの機械の目をギロリと向けた女性は、左手に取り付けられた時計のようなものに触れる。

 瞬間、その姿が変わり―――禍々しい装甲をつけた金色のスーツを纏う。

 その金色のスーツでさえ、ところどころ部品や歯車が突き出し、その目の部分もバイザーに覆われず機械の顔が俺に殺意を向ける。

 怪人。

 戦隊ヒーローのような面影はあるが、間違いなくそれは怪人であった。

 

「死ねええええ!!」

 

 金色の怪人の手からなにかが放たれる。

 それを前にして動けないでいると、俺のバッグから飛び出したシロがその全てを弾き、守ってくれた。

 

「し、シロ!」

『ガァオ!!』

「に、逃げるぞ!!」

「逃がしませんよォォ」

 

 急いでシロを抱えて走り出そうとすると、腕を掴まれる。

 万力のような力で腕を潰されそうになりながらも、俺の身体は反射的に動き出した。

 

「お、おおおお!!」

 

 膝を蹴りバランスを崩したところに、顔面に膝蹴りを入れる。

 腕から手が離れ、相手が呻いている間に、俺は急いでその場から走り出す。

 

「喧嘩なんてしたことないのにっ……クソ!」

 

 自分があんなに動けたことに驚きながら、逃げる。

 姉さんのいるマンションの方向には逃げられない。

 なら、公園なら人気もないし隠れる場所もあるはずだ。交番もその先にあるし、公園でやり過ごしてからそっちに逃げ込もう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

『クゥーン』

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 公園の遊具の中に逃げ込みながら呼吸を整える。

 かなり全力疾走で走ったけど、思ったよりも疲れてなくて逆にびっくりする。

 

「な、なんなんだよ、あの化物……まさか、あれが怪人なのか?」

 

 よりにもよってどうして俺を狙ってくるんだ。

 意味が分からない。

 

「どうして……」

――戦え

「ッ!?」

――戦え

 

 不意に幻聴が聞こえてくる。

 周りを見ても誰もいない。

 直接、俺の頭の中に響いてくる声に、恐怖を抱く。

 

「だ、誰……」

「見ーつけたぁ」

「ッ、あぐっ!?」

 

 遊具の入り口からそんな声が聞こえると同時に、胸倉を掴まれ公園の真ん中へと放り投げられる。

 地面に叩きつけられた痛みに呻いていると、俺の首に怪人の手がかけられ持ち上げられる。

 

「ぐ、うぁ……」

「記憶を失えばこんなもんですかぁ? やはり、下等な生物ですねえ!!」

『ガウ!!』

 

 首を絞められている俺を助けるべくシロが怪人に飛び掛かろうとするが、すぐに殴られ地面へと叩きつけられる。

 

「生体デバイスごときが、変身した私に勝てるとほぉんきで思っているんですかぁ?」

「シロ……!」

「貴方はこれからしぃっかりといたぶってやります、よ!!」

 

 無造作に投げ飛ばされ地面を転がる。

 このまま、死ぬなんて納得できるはずがない。

 朦朧とする視界に、俺に寄り添ってくれるシロの姿が見える。

 罅割れて、スパークすらしているのに俺を気遣ってくれている……。

 

「負けて、たまるか」

 

―――そうだ

 

 頭の中で、また声が響く。

 俺を後押しするように、煽るような声に従い立ち上がる。

 

―――戦え

 

「言われなくても、やって、やる」

 

―――叫べ

 

「戦ってやる!!」

 

 こちらに近づいてくる怪人に声を振り絞り叫ぶ。

 瞬間、シロがその声に反応し、雄叫びを上げる。

 その瞳が黄色く光ると俺の腰に黄色いベルトのようなものが巻かれ、跳躍と共に変形したシロが、その身体を変形させ俺の掌に収まる。

 

―――貴様は、それでいい

 

 手元に収まったシロを見て、怪人を見る。

 なぜか自分がこれからどうすればいいのかを理解できてしまう。

 だが、そんな疑問はどこかに消えた。

 

「……なにがなんだか、分からない。お前がどうして俺を狙うのか、殺そうとしているのかさえも!!」

「あはっ、今更そんなこと―――」

「だけど―――」

 

 変形しバックルとなったシロを軽く掲げ、その側面のスイッチを押す。

 同時に、罅割れたシロの表面が弾き飛ぶように吹き飛び、輝くような銀色の姿へと変わる。

 

「俺がするべきことは分かった!!」

『AWAKENING!!』

 

 その声と共に勢いよくバックルをベルトへと横から勢いよくはめ込む。

 瞬間、バックルを中心にして不思議なフィールドが形成される。

 

『DUST→→→LUPUS DRIVER!!!!』

 

 まるで元から手順を知っているかのように体が動き、軽快な動作でバックルの上を叩く。

 

「変身!!」

『FIGHT FOR RIGHT!!』

 

 瞬間、俺の身体の首から下を黒いスーツが覆い、フィールド内に白色のアーマーが形成される。

 それらは次々と身体に装着されていき、最後に頭を覆うように分解されたヘルメットが構築され、すっぽりと覆うことでその変身を完了させる。

 

『SAVE FORM!!! COMPLETE……』

 

 最後に、そう音声が鳴り響き変身が完了する。

 怪人の金色の光沢に映り込むのは―――白の仮面の戦士であった。




どう足掻いても戦う運命にあったカツキくんでした。
最初の敵は、ベガの仲間の金色戦士となります。

ダストドライバー改めルプスドライバーへと名前が変わりました。
ベガと戦った時のてんこもりフォームは、カツミがレッド達との絆があってこそ実現した姿なので、記憶を失った状態では扱うことができなくなっております。

カツキくんは、記憶がないことからプロトスーツ時代のような殴り一辺倒ではなく、それ以外の戦い方を使わされることになります。

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