追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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記憶喪失後の初戦闘となります。
黒騎士くん時代とはかなり異なる戦い方になりそうですね。


戦いの終わりとはじまり

『SAVE FORM!!! COMPLETE……』

 

 身体に力が溢れる。

 先ほどまで、怪我で痛んでいた体も今はなんともない。

 俺の姿に、恐れ慄く怪人アクスを目にしながら、まず抱いたのは驚きであった。

 

「な、なんだこれ! えぇ、姿が変わってる……! 角も三本ある!」

 

 両手で頭に触れながら自身の身体を確認する。

 黒を基調とさせたインナーに白いアーマーが外付けで装着された姿。

 バックルには変形したシロが嵌め込まれており、明らかに今の自分の姿が普通のものではなかった。

 

「こ、これなら、行ける!!」

 

 なにがなんだか分からないが、これなら戦える。

 そう言葉にすると、混乱していた怪人も我を取り戻したようで怒りに震えながらこちらへ殴りかかってくる。

 

「記憶がないくせに戦えるはずがないでしょ!!」

「ふんっ!!」

 

 軽くステップを踏み、拳を突き出す。

 相手の拳が到達する前に繰り出された一撃は、怪人の胸部に叩き込まれのけ反らせることに成功する。

 ———いける!

 

「テメェ、さっきまでよくも好き勝手にやってくれたなぁ!!」

 

 普段、絶対にしないであろう荒々しい言葉と共に、自然と動き出した両腕が怪人を連続で殴りつける。

 拳に伝わる鈍い衝撃。

 はじめて喧嘩もするのに。

 怪人という生き物か分からないなにかを殴っているはずなのに、俺はそれに慣れてしまっていた。

 

「……ッ!?」

 

 なんだ?

 なんでだ?

 俺は、戦い方を知っている。

 やみくもに拳を突き出したその時、不意に顔を上げた怪人が俺の手を掴んだ。

 

「なっ!?」

「弱くなりましたねぇ。その程度のパンチじゃ、私は倒せませんよぉ?」

 

 怪人の右腕の肘あたりからコードのようなものが伸び、電撃を帯びる。

 それを目にして嫌な予感を抱くが、時すでに遅く、それは勢いを伴って俺の身体に叩きつけられた。

 

「おおう!?」

 

 胸部の装甲から火花が散り、後ろへ吹き飛ばされる。

 地面を転がりながら、起き上がり胸のあたりを確認するが胸部が傷ついただけでなんともない。

 痛くはない。

 痛くはないのだが、俺の拳が効いてないのか!?

 

「ど、どうすれば……」

 

――そうではない。

 

「な、謎の声!?」

 

 また聞こえたのは謎の声。

 もう聞こえない幻聴とばかり思っていたが、もしかすると……。

 

「まさか、シロ!? お前なのか!?」

 

 返答はない。

 だが、いつも俺と一緒にいるのはシロだ。

 もしかすると、ピンチになった俺を助けるためにテレパシーを送ってくれているのかもしれない。

 全てに説明がついてしまうぜ……!

 

「なぁにを余所見しているんですかぁ?」

「は? え、えええ、なにその武器!?」

 

 奴がいつの間にか取り出したのは剣のようなチェーンソーのような武器。

 ぎゃりぎゃりと高速回転させながらそれを無造作に振るう怪人の攻撃を慌てて避けながら、苦し紛れの蹴りをその背中へと叩きつける。

 

「———がっ!?」

「え?」

 

 ビキ!! という部品が砕ける音と共に、怪人がその場から吹っ飛んだ。

 10メートルほど弧を描くように地面を飛んだ奴は、そのまま地面に叩きつけられ苦しみながら呻く。

 

――貴様の武器を知るんだ

 

「俺の、武器?」

 

 ……パンチより蹴りの方が強いのか?

 自身の足を軽く掲げてみると、なんだか右足だけデザインが少し違うように見える。

 脛や踵の部分に排気口のようなものがついているという変化だけだが。

 

『LUPUS DAGGER!!』

「……ん? だがぁ? おおお!?」

 

 バックルから音声が鳴り、手元に光が溢れる。

 それはなにか棒状のものを形作り、俺の手に収まる。

 

「これは……」

 

 普通のナイフよりも二回りほど大きいソレは、刃に当たる部分に縁を黄色いエネルギーのようなものが流れている。

 持ち手の部分は片手で取り回しがしやすい形状となっており、それは普通のナイフとは明らかに異なる武器であった。

 ルプスダガーって言っていたよな?

 まさか、これで戦えってことか?

 

「ハァァァ!!」

「わ、ちょ、ちょっと!?」

 

 いつの間にか復帰した怪人がチェーンソーを振り回す。

 慌ててそれを構えながら防御すると、ギャイン!! という音を立ててチェーンソーをはじき返し、その刃そのものを破壊してしまった。

 こちらの武器には、傷一つない上に刃に走る光はさらに強いものへと変わっていた。

 

「一撃で……!? なんですかその武器は!?」

「俺も知らないよ!! ……ッ!!」

 

 頭になにかが流れ込んでくる。

 これは、こいつの使い方? 戦い方?

 ベルトが、教えてくれるのか?

 

「ふざけてるんですか、あんたはぁぁ!!」

「……」

 

 一瞬で逆手に持ちかえたダガーを上に振るい、掴みかかろうとした右腕を斬り飛ばす。

 数秒ほど静寂が流れ、空に打ち上げられた右腕が地面に落ちた音で、怪人はようやく我に返り青色の液体を零しながら呆気にとられる。

 

「は? あ? がっ!?」

 

 さらに一歩踏み込み、斜めから一撃、切り返しに一撃。

 連続して繰り出されるダガーは特徴的な甲高い金属音と大きな火花を散らせ、怪人は痛みに悶えながら後ろへと倒れる。

 

「使い方が、分かった」

 

 これはこうやって使うものなんだな。

 ベルトから直接このダガーの使い方を学び、実践する。

 

――いいぞ 分かってきたじゃないか

 

「シロ……!」

 

 自分の戦い方はなんとなく理解できた。

 ダガーで近接攻撃を行い、蹴りで打撃を与えダメージを与える。

 自身のスペックを改めて、認識し深呼吸をした俺は、半狂乱になりながら立ち上がる怪人を見据える。

 

「あああああ!! 許さない許さない許さない!!」

「……」

 

 消え去った右腕の代わりにコードを伸ばし、武器にさせた怪人。

 このまま、なんらかの遠距離攻撃をしながらこちらへ突っ込んでくるのだろう。

 その正体は、恐らく肩に見えるキャノン砲のようなものだ。

 

「スゥー」

 

 思考を切り替え、感覚を鋭敏化させる。

 空気を切り裂き迫るエネルギー弾。

 それをダガーで斬り落とし、避けながら怪人を迎え撃つ。

 

――無駄を省け

 

 突き出される腕を避け、触手を手で軽くいなす。

 一歩だけ後ろに下がり距離を取り、相手の間合を把握する。

 

――感覚を研ぎ澄ませろ

 

 身体を軽くスウェーさせ掴みを避ける。

 ムキになる怪人の顔に軽く拳を叩きつけ視界を奪う。

 

――気勢を削げ

 

 すれ違いざまにダガーで脇腹を斬りつけ、返しの刃で肩のキャノン砲を破壊する。

 

――的確に攻撃を当てろ

 

 さらに回転するようにダガーを叩きつけ部品と火花が散り、怯んだところに勢いをつけた横蹴りを入れる。

 

――ふふ いい子だ

 

「が、ああ、ぁぁぁ……!? クソ、なんで、データでは常に優利なのに……!!」

 

 やはり蹴りの威力は拳よりも高いのか怪人は大きく後ろへ吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられ、呻きながらも立ち上がったやつはギリギリと機械音を鳴らしながら、なにか技を繰り出そうとしている。

 

「重力弾で圧し潰して、やる……!!」

「……!」

 

 ダガーを構えて迎え撃とうとすると、また頭になにかが流れ込んでくる。

 ———。

 これは、そうか!!

 そうすればいいんだな!! 

 

――仕上げだ

「ああ! これで、終わりにする!!」

 

 ナイフを投げ捨てバックルを操作する。

 上部のボタンを連続で三度叩き、必殺技を起動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 右足が赤い電撃に包まれ、排気口からは煙が噴き出す。

 力を解放し、一時的に全身に力が漲る。

 

「しねぇ!!」

 

 奴が攻撃を放つと同時に、右足の踏み込みと共に前方へと飛び出す。

 眼前には奴の放った漆黒色のエネルギー弾、しかしそれに対する恐怖はない。

 その全てを駆け抜け、回避し怪人の前へと迫り――、

 

「ふんッ!!」

「あぐぅ!!」

 

 その身体を空へと蹴り上げる。

 ここで爆発させれば何が起こるか分からない!!

 なら、空で!!

 

「行くぞ、シロ!!」

 

 全力のジャンプで奴の高さを上回り、キックの体勢へと移る。

 それと同時に右足と背面の装甲から白色のオーラが噴出し、急加速させながらその蹴りが怪人の胴体ど真ん中へと叩き込まれる。

 

「ハァァァァ!!」

 

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

「そ、そんな、また、わだじは――」

 

 とてつもない衝撃により、怪人の胴体のど真ん中をぶち抜く。

 その勢いのまま地面へ滑るように着地した次の瞬間、一瞬遅れて後方で大爆発が起きた。

 

「……ととっ」

 

 地面を削りながらようやく止まった俺は、後ろを振り向きながら怪人を倒したことを確認する。

 空中で起きた爆発の煙はまだ残っており、からからと部品などが落ちてきていた。

 あれは、倒してもよかった怪人なのだろうか?

 

「俺の過去を、知っていた感じだったな」

 

 詳しく聞きたかったけれど、こっちが殺されたんじゃたまらないけど……それでも手掛かりにはなるはずだった。

 とりあえず、変身を解こうと思いバックルに嵌め込まれたシロに触れてみる。

 すると、俺の考えを分かってくれたのかひとりでにバックルから外れてくれる。

 

「お?」

 

 身体を覆う白いアーマーが粒子へと変わり、次にアンダースーツが分解され元の服装に戻る。

 全裸にならなくて良かった、という地味な心配もなくなったところで、足元にいるシロを抱え上げる。

 

『ガウ!』

「ありがとな。シロ。俺がピンチの時も声をかけてくれてありがとう」

『? クゥーン! ガウ!!』

「はは、飛びつくなよ。ん?」

 

 不意に足元に何かが落ちてくるのが見える。

 光を放ったビー玉のようななにか、それを拾ってみると、何を思ったのか俺の腕の中にいたシロがそれに噛みつき、飲み込んでしまった。

 

「何やってんの!?」

『ガウ』

「いや、ガウ! じゃなくてそんな危ないもの食べたらだめでしょ! ほら、ぺっ、しなさい、ぺっ!!」

 

 ぶんぶんとシロを振り、吐き出させようとしていると、ふと、警察のサイレンのような音が近づいてきているのが聞こえる。

 それに伴い、周囲の建物がざわざわとしていることにも気付く。

 

「……やっば、さすがに騒ぎになっちゃったか! 帰るぞ、シロ!」

『ガウ!』

 

 こんな状況にいたらまずい。

 俺は記憶喪失だし、怪人と戦っていただなんて信じられるはずがない。

 それに、シロのことがバレれば離れ離れになってしまうかもしれない。

 実験などに使われたら最悪だ。

 


 

「よし、シロ。さっきのことはハクア姉さんには内緒だぞ?」

『ガウ』

 

 マンションの住んでいる部屋の前で、シロと目を合わせるように掲げた俺は自分に言い聞かせるように、シロに言い聞かせるように口にする。

 ハクア姉さんにはただでさえ心配をかけているんだ。

 俺が、死にかけたと知ったら、倒れてもおかしくない。

 それだけは絶対に避けなければ……!

 

「分かったら、頷いて」

『クゥン』

「よし、なら入ろう」

 

 互いに頷いた俺はシロをカバンに戻し、マンションの扉を開ける。

 

「ただいまー!」

 

 いつものようにやや大きめに声にすると、ぱたぱたと駆けだすような音と共に、姉さんが廊下へと飛び出してくる。

 

「かっつん……」

「ど、どうした? そんな顔して」

 

 なんかものすごく信じられないって顔をされているんだが。

 帰る時間もそこまで遅くなっていないし、心配される部分はないんだが……。

 そう思っていると、何を思ったのかこちらへ駆け寄ってきた姉さんが、俺に飛び掛かってきた。

 

「おわぁ!? ど、どうしたハクア姉さん!?」

「……ッッ……」

「時折ある、心細くなるアレ!?」

 

 不意に抱き着き、腕に力を籠めた姉さんに困惑するしかない。

 十秒ほどそうしていると、不意に姉さんが俺を見上げるように顔を上げた。

 

「ねえ! かっつん、今までどこにいた!?」

 

 姉さんはどこか必死な様子だ。

 とりあえず、嘘をついていない感じで言おう。

 あらかじめ言い訳は考えてある。

 

「え、ま、マスターのバイトから帰ってきたところだけど」

「本当に!? 嘘をついてないよね? 嘘ついたら怒るよ!!」

 

 すごいぷんぷん怒っているじゃん……。

 涙目にすらなっている姉さんに驚きながら、なにかあったのだろうと察する。

 

「……なにか、あったの?」

「……来て」

 

 姉さんに手を引かれ、リビングへと連れていかれる。

 やはりというべきかまだ夕食を食べていなかったようで、テーブルの上にはなにも置いていないようだ。

 その反対にソファーとテレビが置いてあり、そこには―――、

 

『新たなヒーロー出現!? 公園に登場した黒い影!!』

 

「……は?」

 

 そんなニュースの見出しと共に、どこかのマンションの上階からスマホかなにかで撮ったような映像が流れていた。

 呆気にとられた声を漏らす俺を、姉さんが鋭い目で見ていることに気付きつつ、流れてくる映像に目を向ける。

 

 

「ハァァァァ!!」

 

『BITING! CRASH!!』

 

 

 空に打ち上げられた怪人が、月明かりに照らされた仮面の戦士に打ち砕かれている光景に、俺はなんとも言えない顔になった。

 すっげぇ、音声も拾われてんじゃん……。

 てか、俺の声、微妙にノイズがかって聞こえているんだね……初めて知ったよ。

 変身した姿自体は月明かりとその影で鮮明にはなっていない。

 暗闇に映える黄色い複眼、身体に流れる白色のライン、それらが際立ち幻想的な姿をした戦士に、俺は思わずあんぐりと口を開けるしかなかった。

 

「え、なにあれ……」

「本当に知らないの……?」

「知らない……」

 

 撮られていたことなんて……。

 情報化社会って怖い……。

 今まで気にもしていなかったが、この時初めてそう思い知るのであった。




戦い方はスタイリッシュ気味に。
白騎士君は基本のルプスフォームはダガーと蹴り主体となります。
拳? もうステがほぼ極まっているので伸ばす必要はないと判断されました(誰に?)

正しく読み上げてくれるように、必殺技音声にふりがなを振ってみました。

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