範囲選択して右クリック→……し、知ってた(震え声)
指摘がありましたのでタグを追加させていただきました。
・戦隊ヒーロー
・仮面ライダー
今回は二部構成
前半は、ハクア視点。
後半は、レッド視点となります。
かっつんと私は宇宙からの侵略者による騒ぎに巻き込まれた。
逃げ惑う民衆の波に呑み込まれ、離れ離れになってしまったけれど、そのすぐ後に『白騎士』が出た、という大きな誰かの声が響いた。
「うっそ、来てるの!?」
「やっぱ、昨日のあれがそうだよ!」
「なんで白くなってんのか分からないが、黒騎士だぜ!」
何度も世界を救ったジャスティスクルセイダー以上に有名かもしれない黒騎士。
そんな彼のことを知る人間は多く、彼の出現を訝しむ者はいたが、疑う者はあまりいなかった。
騒動はジャスティスクルセイダーが到着する前に終わり、白騎士は今まさに彼女達と一般市民に追われて逃げ回っているらしい。
かっつんは、集合場所にまだこない。
心のどこかで彼ではない、という淡い希望を抱いていた。
あの白騎士と呼ばれた誰かは彼ではなく、中身は別の人だと。
……嫌だ。
すぐにそう思ってしまう。
彼には、もう戦ってほしくない。
この三ヵ月通りに、戦いから離れた穏やかな生活をずっとしていればいいじゃないか。
……嫌だ。
一人になりたくない。
もう彼を騙すようなことをしたくない。
彼は既に記憶を取り戻しているのだろうか?
記憶を取り戻した上で、私といてくれているのだろうか?
それとも、記憶を取り戻していないのに戦っているのだろうか?
分からない。
基本、どんな可能性もカツミ君ならありえてしまうのが怖い……!
「ハクア姉さん」
「はっ……」
不意に声をかけられハッとする。
手には茶碗とお箸を持っており、今が自宅に帰り夕飯を一緒に食べている時だと気付く。
真っ白な白米の上には、赤色の麻婆がのせられており、辛そうな見た目と豆腐の良い感じの味がイイ感じにマッチして、ご飯が進む。
とりあえず無意識に口に米と麻婆を口にいれていると、目の前の席に座っているかっつんが心配するような目で私を見ていた。
「調子悪いのか? いつも三杯は食べるのに一杯と半分しか食べてないじゃないか。やっぱりおかずのチンジャオロースと麻婆の味が濃すぎたか? それとも辛すぎたか? 目分量豆板醤はさすがに無謀が過ぎたかもしれないけど……!」
なんだかものすごく食べる人みたいな扱いをされているのは納得いかない。
生後一年未満の赤ちゃんの成長期だぞ。
とりあえず、おかわりのお茶碗を差し出しておく。
「おかわり」
「姉さん……!」
どこか嬉し気に傍の炊飯ジャーから米をよそるかっつん。
なんか、私料理とか全然できないせいで、この一か月で大分上達させてしまったわけだけど……すまん。
とりあえず、差し出された茶碗をテーブルに置き、水で喉を潤す。
「……。姉さん。俺、なんか変身できた」
「ふーん」
……。
……、……!?
「ぶふぅ!?」
あまりにも突然すぎるカミングアウトに驚きのあまり水を噴き出す。
それは対面にいるかっつんの顔面に勢いよく拭きつけられ、ぴちゃぴちゃと彼の顔から水滴が落ちる。
「……ご、ごごっごごめん!」
「いや、いいんだ。そりゃ驚くよな。えーっと、タオルタオル……」
「は、はい! これどうぞ!」
すぐ近くの手拭いを差し出し顔を拭いてもらう。
「それで、変身できたって……やっぱり昨日と今日の?」
「ああ。やっぱり隠し事をするのは駄目だと思ったから、ハクア姉さんには話すよ」
ナチュラルにメンタルにダメージを受ける。
過去の事件が無ければこういう素直で心優しさを表に出してくれる性格になるはずだったと思うと、ものすごく沈痛な心持ちにさせられてしまう。
かっつんの話によると、彼は昨日、正体不明の怪人に襲われたらしい。
戦隊ヒーローじみた金色のスーツをきた女怪人、多分それは三ヵ月前の戦いでかっつんが蹴散らしたやつだとは思うけれど……まさか、復讐を考えてやってくるだなんて……。
「大変だったね……」
「でもシロのおかげで助かったんだ。なんかベルトぎゅいーんって巻かれて、シロが変形してバックルになってさー」
なんで、彼の記憶が戻ってないことを喜んでいるんだ、私は……!
でも彼が変身をしなければならなかった状況に追い込まれてしまったのは確かだ……。
無事で本当によかった……安堵のあまり胸を撫でおろす。
「だからさ、これから今日みたいな奴らが出たら俺が戦うって」
「駄目だよ!!」
彼の言葉に思わず立ち上がり否定する。
食器が揺れ、彼が驚きの目で私を見上げる。
ハッと我に返った私は、椅子に座り直しながら隠し切れない動揺の言葉を口にする。
「そんな危ないこと、してほしくない……」
「……そ、そうだよな。ごめん、勢いで無責任なこと言って。反省してる……」
どうして、かっつんは戦わせられる運命にいるのだろうか。
昨日と今日も、巻き込まれただけだ。
それなのに、どうして……。
「……ハクア姉さん、夕食後にパソコン貸してくれるか?」
「え、どうして?」
不意の言葉に疑問を投げかけてみると、彼はやや険しそうな顔で腕を組んだ。
「黒騎士とやらについて調べてみる」
それはある意味で、私にとっては絶望的な言葉であった。
彼が、自分の過去の、黒騎士のことを知る。
それは彼が自身の記憶を取り戻す大きな切っ掛けになってしまうと思ったからだ。
『テメェ、この野郎!! ふざけやがってぇぇぇ!!』
激昂した黒騎士が怪人をぶん殴る。
『うるせぇ!!』
激昂した黒騎士がアースの顔に膝蹴りを入れる。
『ククク、その程度かぁ! おい!!』
怪人の攻撃を頭突きで弾き飛ばしながら嘲笑う黒騎士。
『笑顔にできねぇ身体にしてやる!!』
スマイリーの胴体を腕で刺し貫く黒騎士。
『ハッハァ! その腕は必要ねぇだろうな!』
掌握怪人*1の腕をもぎ取る黒騎士。
『そっちがレーザー怪人なら投げ返してやるわァ!!』
飛んできたレーザー*2を掴み取り、どういうわけか投げ返す黒騎士。
「……」
パソコンの前で彼は動画を見ている。
動画の一番上に表示される最も見られた動画、しかも総集編のような形で黒騎士が怪人を相手に暴虐を尽くしているものだ。
まずい、黒騎士としての記憶は彼のものだ。
こんなものを見ては彼の記憶が―――、
「フッ……周りの人がなにを言ったかと思えば……」
「か、かっつん?」
パソコンの画面から目を離した彼は、呆れた様子でため息をつく。
「俺じゃないよ。この人」
いや君だよ? とでかかった声を理性で堪える。
こころなしかドヤ顔の彼に困惑する。
「こんな野蛮で、口の悪くて、乱暴なやつが俺? そんなわけあるはずないじゃん」
「え、えぇ……」
「それに戦い方も野蛮すぎる。なんで拳で相手撲殺しようとしているんだよ。正直、一緒にされるのは逆に恐ろしくてかなわないね。……まあ、それで助けられた人がいるのは事実なのは分かってるけど」
やれやれと肩をすくめる彼。
ここまで自分自身を卑下しだすとなんだかなんとも言えない表情になってしまう。
「声だって全然違うだろ?」
「え、そ、そうかなぁ……」
「そうだよ」
「……そうかも」
だから意思が弱すぎだろ私!! 欲望に撃ち負けすぎだろ!!
てか、自分で聞く声と他人から声を聞くと実は違って聞こえる現象で勘違いしてる!?
「なんで俺がこの黒騎士と同じ扱いをされるのか分からないけど、今度戦うときは――」
「かっつん」
「はい、なんでもありません……」
彼はもう戦うべきじゃない。
だってもう十分戦ったし、これ以上彼が命をかける必要もない。
あの宇宙人だってジャスティスクルセイダーがいれば十分以上だ。
「ううん……」
それは理由の一つにすぎない。
私は、一人にはなりたくなかった。
例え、偽りの姉弟関係だとしても私にとっては、この空間はこれ以上になく大切な空間になってしまっていたのだから。
白騎士と呼ばれる新たな変身ヒーロー。
それは、私達、ジャスティスクルセイダーにとっても衝撃的な存在であった。
最初は、月明かりを背に金色のスーツを纏った怪人を、その蹴りで穿つ光景。
その次が、街の中に現れ宇宙からの侵略者を倒した彼の姿。
すぐに彼だと分かった。
その戦い方、姿すらも大きく異なってはいたけれど、それでも遠慮すらない戦い方と巻き込まれた子供を身を挺して守るその姿は黒騎士君の時のカツミ君を思わせた。
「謎のヒーロー、白騎士の存在とその姿を確認できたわけだが、彼のスーツの由来は間違いなく宇宙由来のもの。それもプロトスーツに用いられているエナジーコアと同種の危険極まりないものだ」
ジャスティスクルセイダー本部、ブリーフィングルーム。
そこに集められた私達とスタッフの前で、プロジェクターに映し出された月夜を背景にしている白騎士を指し示した社長は、険し気に声を漏らす。
画像は切り替わり、その手に持つダガーで宇宙人を切り裂き爆散させた彼。
「戦闘力は高く、初見の怪人を相手にほぼ一方的に、慈悲もなくとどめを刺した」
「「「……」」」
全員が無言になる。
彼の変身した姿は、頭の三本角もバックルのデザインも、その以前の決戦に見せた三色の色を持ち合わせた姿とは異なる、装備を削り落としたかのような姿をしている。
「って、どう見てもカツミくんやないかーい!!」
ババァーン! とノリツッコミの如く映し出された映像を叩く社長。
まあ、どう見てもカツミ君だ。
むしろ彼以外に誰がいるだろうか。
「声を聞けばわかりますよ?」
「仕草で分かりますやん」
「第六感で既に分かっていた」
「俺はお前達が時々怖くなる。いや、マジで」
社長がやや怯えた様子を見せながら、話を続けようとする。
「だがなぜ、彼は我々の下に戻ってこない?」
「この際、単独で自由に動こうと思っている……とか?」
「……いや、それはないだろう。彼は戦闘自体は荒々しいが賢い。そんな彼がわざわざ自分の正体を知られている上で、あのような行動をするだろうか?」
首を捻る社長。
彼なら、ここに戻ってくるはずなんだ。
それも……三ヵ月……三ヵ月もどこをほっつき歩いていたのだろうか。
「極めつけはこの言葉だ」
「お、俺は黒騎士って名前じゃない!? 誰かと勘違いしているんじゃないのか!?」
映し出された映像と音声。
それは、あの場にいた人達から投げかけられた言葉に彼が反応した時であった。
「彼が意地になって否定している可能性は十二分にある。むしろ、この人間味のある反応でクローン説は消えた」
「このいじっぱりな感じはカツミ君ですからね……」
声が加工されているようにされているが、間違いなく彼の声だ。
「ついでに言うなら、機材を用いたチェックにも体格、抑揚、微細な癖などを総合すると93%で彼本人だということも確定している」
「……でも、戻ってこないんやね」
「そうなのだ。それが、我々が考えうる最悪の可能性だ」
苦々しい顔をした社長が言い淀む。
分かっている。
分かっているからこそ、今ここで言葉にしてほしい。
「彼が、記憶を失っている可能性があることだ」
「「「……ッ」」」
「彼の戦闘方法が変わっていることに加え、あのスーツそのものの性能が落ちていると言うことは、それだけの要因があるということ。……仮に、あのベガとの戦いに見せた姿がお前達との絆が形になった形態だというなら……今の姿に説明がつく」
彼は私達のことを忘れてしまっている。
その事実は、私達の心に大きな影を落とす。
苦しい……。
あの、日々を、忘れられているだなんて……。
「主任! きっと記憶喪失となって次第に自分の力に目覚めていき、いずれは最強に――」
「スタッフ! 無自覚に不安を煽ろうとする大森君を外につまみ出せ!」
「なぁ、離せ! 私は大森だぞ! 離せぇ!」
……大森さん、水を得た魚のように元気になっている。
秘密裏にカツミ君に貢ぐお菓子などを差し入れていたようで、しばらく放心状態になり仕事だけに熱中していたので、今は物凄く元気だ。
……そうだ、生きてくれている。
その事実が明確になっただけ、前進だ。
「アルファはどうしてる?」
「塞ぎこんでいましたが、彼に気付くと元気になりました」
「……彼女ならば認識を改変して外に出ていただろうが、同時に侵略者も現れたからな……」
社長の言葉に私は首を横に振る。
「いえ、実際そうして出ていこうとする前に、私が手刀で気絶させました」
「お前、なんなの……?」
社長だけではなくスタッフさんにまでドン引きされてしまった。
「一瞬認識改変され、アルファちゃんが誰だか分からなかったんですけど。自分の感覚を信じました」
「マジでなんなの……?」
起きると同時に戻してくれたらしいけど、びっくりしたなぁ。
あれが認識改変を食らう感じか。
きららと葵が後から来なかったら、気絶したアルファを放って部屋から出ていたかもしれない。
「宇宙からの侵略者に対するセンサーが完成していない今、我々には迅速な対応が急がれる。……恐らく、今後とも宇宙人はやってくるだろうからな」
「戦いが、また始まるんですか?」
「ああ、アルファを狙っているのかは定かではない。だが、あの侵略者の言語をこの私が解読した際、驚くべき事実が発覚したのだ」
「驚くべき、事実?」
首を傾げると、社長が手元の端末を操作し映像を切り替える。
サイボーグ的な姿を持つ宇宙人が、相対する白騎士としてのカツミくんに何か話しかけていた。
「
「せいしょうじょれつ?」
「私が所属していた組織の、力の序列分けだ。
社長が所属していた組織……。
今度は、そこが相手となるのか?
「問題は次だ」
「
カツミ君を殺せば序列が上がる!?
いったい、どういうこと!? なんで命を狙われるならまだしも、なんでそんな景品みたいに……!!
「正直、私も混乱している。序列を引き上げるとは、
「ラスボスってこと?」
「ラスボスなんぞという可愛い言葉で収まるような相手ではない。まさしく、絶望が形となった超越存在だ。あれは絶対に相対するな。すれば、確実に命はない」
社長の声には緊張と怯えの感情が込められていた。
それだけ、相手は恐ろしい存在だというのか?
「だが、そのおかげで地球は首の皮一枚が繋がった状態で生きながらえている。私の憶測によればな」
大きななにかが動こうとしているのは分かる。
だけど、どのようなことが起きたとしても私達がするべきことは決まっている。
「希望はまだある。じきにお前達の強化装備も完成する!!」
「!」
「もう、あのような汚らしい兵器などに変身を解除されんし、負けはしない……!」
変身を無理やり解除されたことは社長のプライドを大きく傷つけたらしい。
それはもう必死な様子で新作のスーツを作った後に強化アイテムまで続けて作り出したのだ。
「既にお前達に渡してある『ネオ・ジャスティスチェンジャー』は一つの力を三分割していた従来のスーツとは異なり、お前達三人それぞれがエナジーコアを有し、さらにその力を一つに合わせることも可能となった。つまり、プロトスーツ以上の性能を引き出すことが可能となったわけだ」
「使用した感じ、問題ないです」
「フッ、当然だ。それに加え、強化アイテムを使えば敵なしだ」
自信満々な笑みを浮かべた社長。
しかし、その表情はすぐに沈痛なものになる。
「……これもプロトチェンジャーのデータのおかげで実現したが……」
「社長……」
「早く、彼に戻ってきてほしいものだ。立場抜きにしても彼は友であり、私の理想を実現する最高の装着者だからな」
「……私達も、同じ気持ちです」
そのためにはまずは彼から話を聞かなければ。
場合によっては、多少強引な手を使うかもしれない。
……まるで、一人で戦っていた黒騎士の彼に戻ってしまったみたいだ。
現代の剣豪レッドはやはり違った。
多分、一番びっくりしたのはアルファでした。
姿からして即バレのカツキ君でした。
当の本人は過去の自分を全否定にしてボロクソに言う模様。