第三十話 白騎士君について(掲示板回)
第三十一話 焼肉と再会
を、見ていない方はまずはそちらをお願いします。
今回はイエロー視点でお送りします。
白騎士、彼が姿を現してから一か月が過ぎた。
彼が赤い炎の姿に変わった後に、新たに二体の侵略者が現れ彼に敗れていった。
星将序列378位ジャケェと呼ばれる、エイリアンタイプ侵略者。
そして、その次は356位のグルゥーと名乗った人型の侵略者。現れた二体は直後に、カツミ君……白騎士に倒された。
赤い炎を扱う剣士。
ダガーを操り蹴りを主体とした戦いを得意とする白い戦士。
彼の力は、一戦一戦ごとに洗練されていく。
私達の出る幕はほとんどなかったとはいえ、相手がオメガが生み出した怪人どもと比べると、どうにも見劣りしてしまうことは確かであった。
『やっぱり赤。使っちゃうよなー。うんうん。これってやっぱり心の奥ではってやつだよねっ!』
まあ、それはそれとしてカツミ君がアカネと似た力を使っていることに彼女はとてつもないウザさを見せていた。
私と葵、それに加えてアルファちゃんもキレかけたが、当の本人は全く堪えた様子もなく余裕の表情を見せるだけだ。
「はぁ」
「きらら姉、どうしたの? ため息なんかついて」
手を繋いでいる妹が私を見上げて気遣ってくれる。
今日は今年で小学四年生になる妹、ななかと一緒にこの子のための文房具を買いに街に繰り出したのだ。
既に文房具は購入して、あとは両親と弟にケーキでも買っていこうと、していたわけだ……どうやら、内心のため息が漏れだしてしまったようだ。
「ううん、ちょっとね」
「黒騎士兄に会えないから?」
「そうかもしれない……」
以前、色々あってななかと弟のこうたは黒騎士時代のカツミ君と関わることになっていた。
まあ、迷子になって慌てふためいた二人に偶然彼が居合わせていただけなんだけど、その時のことは今でも覚えている。
『イエロー! このひっつくガキをなんとかしろ!! なにを笑っているぅ!!』
普段はあんなに強気なのに、妹たち相手にたじたじになっている彼に思わず笑ってしまったものだ。
そんなこともあり、彼が悪い人ではないことを確信したのが始まりではあるが、彼が記憶喪失だと判明してからというもの、一度も彼に接触できたことはなかった。
「あのバイク反則すぎるよぉ……」
空も飛ぶし突然消えるし。
いくらヘリでも空をマッハに近い速度で自由に駆けるバイクを追跡することは不可能だ。
明らかにこの星のものではない技術に肩を落としてしまう。
「話せればなんとかなるんだろうけど……」
私達が現場に駆けつける頃には彼は既にその場にはいない。
いたとしても私達の声を無視して逃げて行ってしまう。
侵略者の接近を察知するセンサーが完成するまでは、私達は後手に回るしかない……が、彼が迅速に侵略者を倒しているおかげで街の人々に大きな被害が出ていないことも事実だ。
「きらら姉には頑張ってもらわなくちゃ」
「頑張るけど、なんで?」
「私もこーたもまた会いたいから。今度は素顔で」
私がヒーローとして活動していることを家族は知っているが、カツミ君の名前までは教えていないからなぁ。
いつか教えてあげたいけど、今は無理だろう。
「あ、ケーキだ。みんなに買っていこうよ」
「そうだね」
ななかに笑いかけながら、ケーキ屋へと足を運ぶ。
しかし、その時――私達のいる場所からそう遠くない場所に光の柱が落ちる。
「——ッ」
あれは、侵略者が用いるワープの光!
もしかしてこの近くに奴らが現れるのか!?
私はすぐにななかの手を取りながら、この場を離れようとする。
「きらら姉! 私は一人で逃げられるから大丈夫!」
「ななか!?」
「きらら姉は他にやるべきことがあるでしょ!!」
そう強く訴えかけられ驚く。
スマホも持っているし、いざという時になにをするべきかは事前に伝えてある。
「分かった。もし何かあったらすぐに私に連絡するんだよ!」
「うん、きらら姉も気を付けて」
「いってくる!!」
強く頷いたななかからは離れて、近くの路地へと足を踏み入れる。
左の袖を拭い『ネオ・ジャスティスチェンジャー』を出した私は、そのまま指を押し当て変身を開始させる。
『
独特な待機音が流れる。
左腕のチェンジャーを口元に運び、第二の音声認証を行う。
「変身!」
『
瞬間、特殊なフィールドが展開され、私の身体を黄色いスーツが覆っていく。
ものの数秒ほどで頭を含めた全身を仮面とスーツで覆うことで、変身を完了させる。
『
新たに改良されたジャスティススーツ。
以前の三倍以上の性能に引き上げられたそれを纏い、私は急いで光の柱が落下した場所へと向かう。
「あ、イエローだ!」
「コスプレじゃない!?」
「本物!?」
「通してくださーい!」
目立つのはいつものことなので、逃げる人々の間を走って光の柱が落ちた場所へと辿り着く。
そこでは既に戦闘が繰り広げられていた。
「フワぁぁ―――!?」
胸部の装甲から火花を散らしながら吹き飛ばされる赤いアーマーを纏った白騎士と、痩身な身なりの宇宙人。
ごろごろと地面を転がりながら起き上がった彼は、ウサギのように長い耳と、爪のような手甲を両腕に嵌めた宇宙人を睨みつけた。
『ワガハイハ セイショウジョレツ287イ キヌト ダ!!』
「速くてびっくりした……相変わらず何言っているか、分からないな……」
社長に組み込んでもらった異星人の言語の翻訳機能がちゃんと作動しているようだ。
相手は、星将序列287位のキヌト、見た目は毛のないウサギを人型にしたような不気味な姿だ。
恐らく、既にこの場で結構な戦闘を繰り広げたのだろう。
彼と侵略者が戦っている空間の壁は傷だらけで、地面にはガラスの破片などが大量に落ちていた。
「炎で!」
片刃の剣から炎をあふれ出して攻撃を当てようとするも、相手は目にも止まらぬ速さでその全てを避け、さらに白騎士に痛烈な蹴りを浴びせようとする―――が、
「慣れてきたぞ、この野郎!!」
『ナ!?』
速度に反応した彼がその手に持った炎に包まれた剣を前へと突き出す。
だが、相手の反応もそれなりにあるのか、ギリギリ攻撃を避け、彼から大きく距離を取った。
「……どうやらスピードに特化した侵略者のようやね」
これまでになかったカツミくんと侵略者との戦いへの介入。
それに思うところがないわけではないが、まずは目の前の相手をなんとかせねばならない。
「ッ、新手か!!」
「え!?」
何を思ったのかダガーを手にした彼が私へと攻撃を仕掛けてきた。
彼に驚きながらチェンジャーから両刃の大斧『ネオ・ジャスティスアックス』を引き抜いた私は、ダガーを斧の柄で受け止め、力技で押し返す。
「な、なんてバカ力だ……!?」
後ろにのけぞった彼が戦慄したような声を漏らす。
「女の子になんてこというんや!?」
「ご、ごめんなさい……。て、敵じゃないのか!?」
彼が記憶を失っている事実を叩きつけられながら、私は斧を持ち直す。
恐らく彼は、最初に戦ったアクスと私達のスーツのデザインが似通っているから勘違いしてしまったのだろう。
「私は君の味方だよ」
「そ、そうなのか? ありがとう! 助かる!!」
「……」
素直すぎひん?
思わず内心までも似非関西弁になってしまうほどの衝撃だ。
これ、普通に接触すれば協力し合え……、……!
「不意打ちとはやってくれるわぁ」
話している最中に攻撃を仕掛けてきた毛のないウサギを人型にさせたキヌトの爪を、斧で防ぐ。
ガキィーン! と甲高い金属音が鳴ると共に、斧を振り回すが相手は軽々と避けて距離を取る。
『ナニモノダ』
『
社長が作ったこちらからの翻訳機が作動していることも確認。
私の言葉を自動的にあちらの言葉に変換し、音声として発したことに相手が驚くのが分かる。
『イエロォ!! 既に現地にいるのか!?』
「ただいま交戦中。白騎士もすぐ近くにおり、協力を持ちかけるつもりです」
『了解した! こちらでサポートする!』
社長に通信を送った後に私は横目でカツミ君……白騎士へと視線を送る。
「白騎士くん、私も協力するから一緒に戦わへん?」
「て、手伝ってくれるのか……?」
「勿論や。同じ地球を守る仲間だからね、私達……」
「そうか……! ありがとう!」
無茶苦茶素直だけど、なんだか複雑な想いに駆られてしまう。
人を助ける心は変わらない。
だけど、彼は私のことなんて覚えていないし、その性格もまるで違う。
その事実を叩きつけられながら、無意識に斧を持つ手に力が籠る。
「あいつは目にも止まらないくらいに速いんだ」
「君はどうやって戦ったん?」
「出会い頭に背中にダガーを刺して、しがみつきながら殴ってたんだ。落とされちゃったけどね……」
「へ、へぇ……」
前言撤回。
やっぱりこの子カツミくんだ……!
記憶なくても、最初の攻撃の遠慮の無さからしてカツミ君だ。
「あの攻撃に対抗するには、どうすれば……」
『
「え、シロ!? またやってくれるのか!?」
彼のバックルから意思の籠ったかのような音声が発する。
オオカミの黄色い目は次第に赤、青、黄と点滅を始める。
シロというのは、バックルのメカオオカミの名前だったんだ……。
『
というより、これはまさか今の赤い姿に変身したときみたいに新たな形態を生み出そうとしているのではないか? 速い相手に対抗するといったまさに、電光石火の雷に決まっている。
つまりは私だ。
ちょっと、いやかなり期待した視線を向けていると、待ちきれなかった怪人が動き出そうとするのを察知する。
すぐさま斧を彼の前に突き出し、キヌトの攻撃を阻いてみせる。
「彼はやらせんよ、私が相手や」
『ッフザケヤガッテェェ!!』
その場で跳躍し、一瞬で高速移動を行い視界から消えるキヌト。
どうやら私から始末するつもりのようだ。
「き、黄色さん!」
「イエローや。君のこと、今度こそ守るから」
「……? あ、ああ!」
周囲の壁と建物の側面を蹴り、縦横無尽に動き回る相手。
文字通り目にも止まらない速さであるが、そんな相手これまでに何度も何度も戦ってきた上に、もっと恐ろしいやつを倒してきた。
おもむろに斧を上に振り回し、頭上からの爪をはじき返す。
『ミモシナイデ……!?』
「甘すぎるわぁ。この程度の速さで私を倒せると思うてるんか?」
軽々と片手で斧を振り回し、四方から迫る攻撃をはじき返していく。
私に生中な攻撃は効かないと判断したのか、私から一定の距離を取った相手は、おもむろに爪の装備された手をこちらへ向けると、まるでミサイルのように爪を連続で放った。
『クラエ!!』
「だぁかーらぁ!!」
目前へと迫る爪に、思い切り斧を振り上げ電撃を纏わせる。
そのまま力強く、地面へと斧を叩きつけた瞬間、私の前方へ扇状の電撃が放たれ、飛んできた爪を全て叩き落としてしまった。
敵の姿はいつのまにかいない。
「まあ、不意打ちやろうなぁ」
『!?』
黒騎士としての彼の攻撃は、生半可なものではなかった。
彼の攻撃は恐ろしかった。
最後の戦いは、文字通りの、お互いが本気で力を出し尽くしたもの。
私の中では怪人と戦う以上に最も苦戦した戦いだと断言できるものだったのだ。
「遅い」
側方から突き出される爪を首を傾けて避けながら、短く持った斧の刃を腹部に叩きつける。
軽く後ろへ吹き飛んだ奴が立ち上がろうとした時―――、
『
そんな音声が響き渡り、白騎士くんがゆっくりと立ちあがる。
で、できたんかな……私の、色……。
『
彼がバックルを叩くと録画されていた映像と同じ音声が溢れ出る。
『
「はえ?」
あれ、なんでそこでブルーなの!?
私ちゃうの!? 驚愕のまま動揺していると、怒りの形相を浮かべた侵略者が捨て身じみた加速のまま、カツミくんへと飛び掛かった。
危ない!?
そう叫ぶ前に、彼が突き出した手が正確にキヌトの爪が装備された腕を掴む。
完全に動きを見切らなければ不可能な挙動に相手が驚く暇を与えないまま、彼は反対の手で相手の顔を殴り、そのまま蹴りで無理やり距離を取らせた。
『CHANGE!!
赤色に染まった装甲が青色へと変わる。
水を弾くようにさせて形態変化を完了させたカツミ君は、右手を掲げるとその手に武器のようなものを出現させる。
『
手に納められたのはハンドガン型の青色の銃。
葵の持つそれと微妙に似たその銃を、握りしめた彼はその照準を敵侵略者へと向ける。
『ハッ! ジュウ ナゾニ アタルカ!!』
加速を用いてその場から消える奴に、彼は銃口の先を虚空へと向けてエネルギー弾を放つ。
空中での炸裂音。
その次の瞬間には、肩を押さえた侵略者が地面に倒れもだえ苦しんでいるではないか。
「白騎士くん、これは」
「精密射撃です。この形態の俺は、どうやら目と手先が器用になるようです」
……なんやそれ。
まんま葵じゃん!
なんで私じゃないの?
ねえ? どうして?
なんでなん……?
「もう俺は狙いを外さない」
『マグレアタリガ ナンドモツヅクト オモウナ……!』
彼が照準を構え、連続してトリガーを引けば何もない空中に連続して何かがぶつかり、侵略者の痛みに悶える叫び声が響く。
これはもう、私が出る幕はないかなぁ。
そう察していると、相手は勝負に出たのか真正面に現れカツミ君目掛けて私に放ったものと同じ爪でのミサイルを放ってくる。
「狙いは、外さない」
慌てる様子もないまま照準を合わせ機械的にトリガーを連続で引いていく。
三秒もしない間に爪を全て、外すことなく撃ち落とした彼は、その左手にいつの間にかダガーを握りしめていた。
『
ルプスダガーと呼ばれた武器をリキッドシューターに装着させ、銃剣のようにさせた。
まるで、それが本来の姿と言わんばかりに、ダガーの刃の黄色い光は青色へと変化させたのを確認し、彼はそのまま呆然とするキヌトに銃口を向ける。
『
まだ戦う意欲があるのか、そのまま動き出そうとする奴だが、それよりも先にカツミ君が放ったエネルギー弾が直撃する。
『ガッ、ク、ヤメ、ガァ!?』
機械的にゆっくりと歩み、距離を詰めながらキヌトの動きを阻害するかのようにエネルギー弾を叩き込んでいく。
ある程度の距離にまで彼が近づくと、その手に持った銃に取り付けられたダガーを連続してキヌトに叩き込み、そのまま吹き飛ばした。
「ここに来る時、女の人や子供を優先して狙おうとしただろ」
『……ッ』
火花と共に地面を転がる奴を目にした彼は、そのままバックルを三度叩き、必殺技を発動させる。
バックルから流れ出したエネルギーが両手で構えたリキッドシューターへと集められていく。
『
「俺はお前を、許さない!」
『
放たれた大きなエネルギー弾はキヌトを呑み込み、一瞬の静寂の後に大きな爆発を引き起こした。
跡形も、その残骸すらも残らないほどの威力に驚きながら、私は安堵するように肩の力を抜いている彼に近づいた。
「あの、白騎士くん」
「ありがとうございます。俺だけじゃ、駄目だったかもしれなかった」
そんなことはない。
彼が誰よりも早くここに辿り着いていなければ、被害はもっと酷くなっていたはずだ。
……目覚めた力が葵なことには納得がいかないけれども。
まずは彼にジャスティスクルセイダーの本部にまで来てくれるかどうか交渉しなくては。
――今回は粗削りだな まだまだだ
「はは、シロは手厳しいなぁ」
――貴様に それだけ期待しているということだ
「え?」
「いや、なんでもないです。……あ」
この場にはいない誰かの声に反応するかのように苦笑する彼に、違和感を抱く。
一瞬呆然としている私を他所に、彼は突然立ち上がり頭を抱えた。
「……やっば! そろそろ帰らなきゃ。また姉さんに怒られる……!!」
「は?」
姉さん?
彼に家族上の姉はいなかったはずだ。
義理の? まさかこの短期間で?
呆然の後に、混乱させられた私にぺこりと深々とお辞儀をした彼は、そのまま空間に出現させたバイクにまたがり走り出そうとする。
「イエローさんですね。次に一緒に戦う時があったら、またよろしくお願いします!」
「あ、う、うん。待って、君にお姉さんがいるの!?」
「……あー、しまった。はい。います。実の姉で、大切な家族なんです……」
照れくさそうにそう言葉にした彼はそのままバイクを走らせ、空へと駆け上っていった。
一瞬にしてその姿が見えなくなったことに、気づきながらも頭の処理が追い付かなかった私は、軽いめまいと共に近くの街灯に背中を預ける。
「実の、姉? まさか、ありえない……」
記憶喪失の彼に付け込み、姉になった何者かがいるのか?
なんだそれ羨ましい
許されざる行為だ。
姉なら、私の方がお姉ちゃんだぞ
彼が記憶のないことをいいことに、きっと好き放題しているはずだ。
私ならそうしてる
いったい、それは誰だ……!
どういうつもりで、彼の家族と名乗ったんだ……?
銃ライダーは近接が強い(偏見)
二番目のフォームチェンジは、精密さと射撃が得意なブルーでした。
今回の敵は序列287位のキヌトくん。
イエローがいなければ中々にいい勝負ができていたはずですが相手が悪すぎました。
真の姉属性持ちのイエローが、姉を騙る謎の人物に対抗心を抱きました。