追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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本日二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。

ベガ戦の時になるはずだった暴走フォームは強めのルプスフォームが暴走するくらいのパワーでした(ベガたちは普通に倒されますが)

今回の暴走フォームは、主人公の悪の感情とラスボスとの戦闘経験によりもっと悪い方向に強化されています。


黒騎士は止まらない

 現れた黒い戦士。

 不気味に嗤いながら、強く足元の首を踏みつぶした奴を目にした俺は、即座にその手に持ったスイッチに沿えた指に力を籠める。

 

「動くな! 爆弾が作動す――」

 

 ———待て、なぜ、やつの手にスイッチが?

 それに、あの手は? 誰のだ?

 恐る恐るスイッチを持つ手元を見ると、手首から先が存在していなかった。

 

「あ、あああ!?」

INVASION(インベイジョン) START(スタート)!!』

 

 即座に変身し、全身に装備を纏い臨戦態勢へと移る。

 スイッチを握りつぶし、破壊した黒い戦士は全く感情を感じさせない素振りでこの場にいる仲間達の顔を確認すると、なんの躊躇もなくバックルを叩く。

 

HAZARD(ハザード)(ワン)!!!

 

 その音が鳴った瞬間、仲間の一人が黒いオーラに囚われ宙へと浮き上がる。

 

「な、なんだ!? か、身体の自由が!! ユルガッ!?」

「ヒュンラ!?」

 

 奴の手が黒いオーラに包まれる。

 まずい、そう判断した時には遅く、黒いオーラに包まれた仲間は黒い戦士目掛け引き寄せられるように向かって行ってしまう。

 

「い、いやだ!? こんなところでッ、ああああ!?」

GRAVITY(グラビティ)!! FINAL(ファイナル) BLOW(ブロウ)!!』

 

 引き込まれ、奴が軽く前に掲げた拳に自分から激突し、黒いオーラと共に粉々に砕け散ってしまった。

 星将序列200番台の者が一瞬にして、粉々に砕け散り消滅する姿を目にした者は、恐怖に震えながらも黒い戦士に攻撃を仕掛けようとしている。

 

「この! 死ね!!」

 

 繰り出される武器での攻撃。

 レーザーとエネルギー弾を用いた攻撃は、棒立ちの奴の身体には届かず、その寸前で見えない壁のようなものに遮られ通ることはない。

 

「な、なんだよ、こいつ! 攻撃が、通じな」

 

 黒い戦士の身体が黒い煙に包まれ、その姿を消す。

 一瞬にして消えた奴に動揺した次の瞬間には、一人の背後に無音で現れその首が斬り落とされる。

 

「しゅ、瞬間移動だと……!? い、いや、今のは違う!!」

 

 ワームホールだ……!

 単体でワームホールを作り出し、それを使っている!?

 全員が恐怖のまま攻撃を繰り出していくが、奴は連続でワームホールを作り出しながら移動を続けながら、一人、また一人とその拳で倒していく。

 ふと、動きを止めた奴は、どこか不満そうに自身の拳を握りしめると、再び仲間の一人に殴りかかる。

 

「大人しく、死ぬはずだったのによォ!」

「……」

「がぼ!?」

 

 首に抜き手を叩き込み、宙に浮いたところで右拳を三度、心臓に叩きつける。

 私にも分かるほどに動きを遅くさせ、手加減をしながら攻撃を加えた奴は、ほぼほぼ死にかけている仲間の胴体に強烈な横蹴りを叩きつける。

 そのまま、地面に叩きつけられたそいつの頭を踏みにじる。

 

カハッ、クハハハ……!

 

 肩を震わせ、奴は愉悦に身を震わせ、何度も何度も息絶えた仲間の亡骸を踏みつぶす。

 誰も、言葉を発することもできなかった。

 戦う意思すらなくしかけ、恐怖に震える私達に、ぐるんっ! と首を動かし、次の標的を奴は見定める。

 

「ひっ!?」

 

 逃げ出そうとする一人の前にワームホールで移動し、そのまま両足を一瞬にして叩き潰す。

 

「が、ああ、や、やめてくれ!!」

ハ、ハハハハ!! アハハハハハ!!

 

 機械で作られた腕を引きちぎり、足を叩きつけた奴はまるで楽しむかのようにその拳を振るっていく。

 明らかに手加減をし、遊びながら破壊を繰り返していた奴を目にした私は心底震え上がる。

 

「ば、化物……」

 

 しかし、ここで引くわけにはいかない。

 ちぎり取られた腕の処置を終えながら、手首のツールを操作し、武器を転送させる。

 

「重力反転砲だ……! これなら、お前のような化物も終わりだ!!」

 

 大型のキャノン砲を肩に担ぎ、重力弾を黒い戦士へと放つ。

 奴はワームホールで逃げるそぶりを見せないまま、首を傾げ、バックルを二度叩く。

 

HAZARD2!!

 

 今更、この攻撃は避けられまい。

 重力弾は相手を捉え、反転する重力波により相手を粉砕する兵器……!

 奴がおもむろに右手を前に掲げた瞬間―――まるで、破裂するように重力弾が消え去り、それ以上の大きさの重力弾が呑み込んだ。

 

GRAVITY(グラビティ)! FINAL(ファイナル) IMPACT(インパクト)!!』

「は?」

 

 ———ありえない。

 ただの力で重力弾を消し去ることはできない。

 こいつの力は、重力そのものを操っているのか?

 呆然としたまま奴を見れば、少しの感情を見せないまま私以外の部下へと攻撃を仕掛けに向かっていた。

 

「に、逃げなくては……」

 

 こいつは、我々では手に負える相手ではない。

 あの方は、それを分かっていないのか!?

 背後で悲鳴を上げ、一瞬にして刈り取られていく仲間に背を向けたまま転移装置を発動させる。

 

「よし、転——」

 

 装置を起動させようとした時、自分のもう反対の手が消え失せていることに気付く。

 機械化され、電気を散らす腕に喉を震わせると同時に、私の左足から感覚が消え失せる。

 

「……」

「あ、……あああ……」

 

 左足を砕かれ、地面に倒れ伏す私を黒い戦士が見下ろす。

 なんの意思も感じられない黒い複眼を目の当たりにし、恐怖の声を上げる。

 奴が腕を振り上げ、黒いオーラを纏わせる。

 死ぬ、ここで死ぬ!

 腕で顔を隠し、泣き叫ぶ。

 

「……」

 

 しかし、衝撃が来ない。

 なんだ? こ、攻撃されないのか?

 疑問に思いながら腕を解くと、そこは先ほどまでいた場所とは別の光景が広がっていた。

 

「え?」

 

 そこは、暗闇に包まれた空間であった。

 足元は赤く、周囲がどれだけの広さがあるか分からない、そんな場所の先に―――階段とその上に君臨するように置かれている玉座を見つける。

 玉座には優雅に足を組み、腰かけている女性がいた。

 

「あ、ああ……」

 

 こ、ここは、間違いない。

 “あの方”が、私を救ってくださった。

 最上の美。

 あらゆるものに勝る美貌を持つ、彼女はひれ伏す私を見下ろし、冷笑を浮かべる。

 

「素晴らしい」

 

 お褒めの言葉に、思わず歓喜に打ち震える。

 どういう理由かは分からないが“あの方”が褒めてくださった。

 この宇宙を統べる絶対強者。

 序列という枠組みすらも意味を成さない最強の存在。

 そんな“あの方”の賛辞の言葉に

 

「まさか、私の術を模倣するとはな」

「え?」

「地球からここまで“追ってきたか”」

 

 顔を上げて気付く。

 あの方は、私のことなぞ見てはいなかった。

 それどころか存在にすら気付いていないかのように、その視線は私のすぐ後ろへと向けられていた。

 

「……」

「ひっ……あぁ……」

 

 音もなく、背後に立っている黒い戦士。

 恐怖のあまりその場で無様に地を這う私に、奴がその掌を向けた瞬間、身体が引き寄せられる。

 

「うぐ!?」

 

 首を掴まれ宙づりにされる。

 どうして、ここまで、さっきまでここに来ていなかった、はずなのに……!?

 

「さあ、止めを刺すがいい。その後に、お楽しみの時間としようじゃないか」

 

 楽し気に声を弾ませる、あの方の声。

 もがく余裕がないほどに強く絞められた首に悶え苦しむ私を、ジッと見つめた奴は空いている手でゆっくりとバックルを叩き始める。

 

HAZARD(ハザード)1(ワン)!!

 

 一度目。

 

HAZARD(ハザード)2(ツー)!!

 

 二度目。

 

HAZARD(ハザード)3(スリー)!!

 

 三度目、その後も連続して叩く。

 バックルが光を帯びるごとに、赤い電撃が迸りながらも奴は駄目押しとばかりにバックルを叩いた。

 私は、ただその時を待つしかなかった。

 

BLACKHOLE(ブラックホォール)!!』

 

 エラー音と共に歪な音声へと切り替わり、独特の重低音がベルトから鳴る。

 私の身体が発生した重力で浮き上がり、空中に固定され身動きすらもできなくなる。

 

DEADLY(デッドリィ)! LIMIT(リミット) OVER(オーバー)!!

 

 奴の全身から黒い煙と赤い電撃が漏れ出し、その全てが奴の右足へと集まる。

 直視することそのものが悍ましくなるほどのエネルギー。

 それをたった一人の力で振るった黒い戦士はそれを私目掛けて―――、

 

BLACKHOLE(ブラックホール)!!』

 

「あ……あ……」

 

FEVER(フィーバー)!! CRASH(クラァッシュ)!!!』

 

 赤黒いエネルギーを纏った横蹴りを叩き込んだ。

 音もなく繰り出された一撃により、全身の空間が歪められ、粉々にされながら自分の存在が削り取られていく。

 気絶することすら許されず、その感覚を叩きつけられた私の意識はゆっくりと虚空へと消えていく。

 

「さあ、やろうじゃないか」

 

 機械化された肉体に残された知覚が“あの方”の姿を捉える。

 自ら玉座を降り、友人を迎えるように腕を広げた“あの方”に黒い戦士は無言を返したまま、さらに黒いオーラを纏い始める。

 

HAZARD3!!

 

「あぁ、やはり貴様は挑戦者だ。私は幾星霜の時を経て貴様と出会ったのだな……」

 

 黒い戦士がワームホールと共に飛び出す。

 “あの方”が作り出した星の文様を描くオーラが広がる。

 それらがぶつかり合う光景。

 それが、私が最後に見た景色であった。

 


 

「これは夢だ、カツミ」

 

 朧げな視界に誰か、がいる。

 横になっている俺を見下ろし、その手で俺の頭を撫でるように触れている誰かがいる。

 

「怪我は癒した。服も元通り。なにも、お前は思い出すことはなかった」

 

 深く、子供に言い聞かせるような言葉。

 頭にもやがかかったように、ボーっとしたまま彼女を見上げる。

 

「ふふふ、心配するな。爆弾も私が回収した」

 

 青い肌の、ものすごく綺麗な人だ。

 

「今回も素晴らしい戦いであった。やはり貴様は私の期待をいい意味で裏切ってくれるな」

 

 額に手を置かれる。 

 冷たいその手に妙な心地よさを抱きながら安心してしまう。

 

「カツミよ、強くなれ」

 

 声を響かせた人は、ゆっくりと俺に言葉を投げかけてくる。

 

「私は貴様のことを、気に入っているのだからな」

 

 そのまま抱き寄せられる。

 抵抗する気も起きない。

 そもそも、抗う気持ちもないし、この状況を俺は無条件で受け入れてしまっていた。

 意識が、再び深海へ落ちていくのを感じながら、俺は再び目を閉じる。

 


 

「かっつん、起きた?」

 

 次に目を開けた時、そこにいたのは姉さんであった。

 少し不安そうな様子で、俺の額に手を置いている彼女に思わず呆気にとられた声を漏らす。

 

「ハクア、姉さん?」

 

 目を覚まし起き上がる。

 どうやら、眠っている俺に姉さんは膝枕をしていたようだ。

 しかもおまけに頭を撫でられるという恥辱もされていたとなると、弟としてはこれ以上になく恥ずかしい思いにさせられる。

 

「ちょっと、恥ずかしいからやめてくれよ……」

「照れちゃって、このこのー」

 

 額を押さえる俺を、からかうように肘で突く姉さんに苦笑する。

 ふとそばを見れば、シロもすやすやと眠っている……機械なのに……。

 

「あれ、どうして公園なんかに……」

「どうしてって、いつまでも君が帰ってこないから探しに来たんじゃないか。そしたら君が公園のベンチで眠っていたから……もう、びっくりしたんだよ?」

「……そう、か。なんか急な眠気に襲われて……」

 

 寝る前のことを思い出せない。

 あれ? あの男と何を話していたんだ? いや、そもそもどうして話そうとしたんだっけか?

 

「……」

 

 なにか嫌なことと、いいことどっちもあったような気がする。

 それがなにかは分からないけれど、なぜかそう思ってしまった。

 

「かっつん?」

「……とりあえず、マスターに謝りにいってくるよ」

「あ、かっつんが倒れてたって言ったら、休みにしてくれたよ」

「……」

 

 すみません、本当に。

 明日はしっかりと真面目に働かせてもらいますから……!

 

「帰りに食材でも買って帰ろうか」

「そうしよっか」

 

 俺の家族は、今は姉さんだけ。

 それは変わらない。

 

「かっつん?」

「あの、さ」

 

 立ち止まった俺に姉さんが振り返る。

 自分でもどうして立ち止まってしまったのか分からなかった。

 

「ハクア姉さんは、姉さんだよな? 家族、なんだよな?」

「……勿論だよ。もしも……ううん、たとえ、血が繋がっていないとしてもその事実は変わらないよ」

「そっか……なら、よかった」

 

 例え、記憶が蘇った後でさえも……変わらない。

 少なくともこの三ヵ月の間は、俺達は紛れもない家族だった。

 その事実は誰にも歪めることのできない事実だ。




黒騎士(ラスボスに)止められました。

ハザードフォームまとめ。
・ハザード1:引き寄せ置きパンチ。
・ハザード2:重力系エネルギーボール。
・ノーモーションでワームホール移動してくる。
・過剰出力でブラックホール発動
・悪感情を増大させられているので残虐
・ど こ ま で も 追 い か け る。

どういうわけか(ラスボスさんのせいで)、悪い記憶だけ思い出したことで目覚めた姿なので、今後は出ないかと思われます。

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