前話 三色娘+α(レッド視点)を見ていない方は、まずはそちらをお願いしますm(__)m
記憶を失う前、俺は何をしていたのだろうか、と考えることはよくある。
俺はどのような人間で、どのような人達に囲まれていたのか。
無性にそれが気になる時もあるし、ふとした拍子に妙な空しさが胸の中を占める。
もしかすると、俺って記憶を失う前も結構寂しい人生を生きていたんじゃないかって考えてしまう。
「今日の仕事はここまででいいぞ」
「あ、はーい」
季節も夏に近づき、徐々に日が暮れる時間も遅くなっていく。
夕焼け色に染まった空を見つつ、片づけを始めた俺はふと、お客さんの目の届かない厨房に置かれている写真立てを見る。
「あの、マスター」
「なんだ?」
「マスターって自衛隊に入っていたんですか?」
写真には迷彩っぽい服と帽子を被ったマスターが、同僚と思われる人たちと一緒に撮ったと思われる写真がある。
それを興味深げに見ていると、彼は気まずそうにしながら、曖昧に頷く。
「あー、元だよ。元。一年からそこらくらいにやめたんだがな」
「どうしてですか?」
「どうしてってお前……まあ、それだけのことがあったからだよ」
「何があったんですか?」
そう尋ねてみるとどこか逡巡するような素振りを見せる。
数秒ほどの沈黙の後に、彼は首を横に振る。
「大したことはねぇよ。オラ、こっちは明日の仕込みやら色々あんだよ。さっさと帰れ」
「わ、分かりました。また明日もよろしくお願いします」
「……ああ、そうだ。待て」
「はい?」
不意に呼び止められる。
「常連によ、ちょっと人手を欲しがっているやつがいたんだが、どうかって思ってな」
「バイトですか?」
「ああ、少し体力を使うみてぇだからお前くらいがいいんだと」
「……怪しい仕事じゃないですよね?」
そう言うと、マスターは目を丸くした後にからからと笑いだす。
「んなわけねーだろ。そうだったら俺が紹介するはずねぇだろ。着ぐるみのバイトだよ」
「めっちゃ体力仕事じゃないですか……」
「そうだよ。だから若い奴がいいんだよ。まあ、まだ夏じゃねぇからそれほど苦でもないだろ」
それくらいの仕事ならいいかな。
体力には自信があるし。
一応、返事は保留にした後に改めてマスターと別れて、外に出る。
外の街並みは、夕焼け色に染まっておりその中をのんびりと歩いていく。
「今日は怪人とか出なかったな。よかったよかった」
侵略者は基本的に昼間に出る傾向が多い。
なので、この時間帯になればもう出てくることはほとんどないはずだ。
『ガーゥ』
「こんな狭いところにいてもらってごめんな、シロ」
カバンからひょこりと顔を出したメカオオカミ、シロにそう言うとふるふると首を横に振る。
なんだか前以上に感情豊かになってきているな。
やっぱり、学習とかしているのだろうか?
「さて、姉さんももうすぐ家についている頃だろうし、夕ご飯、何を作ろうかな」
まあ、まずは食材を買いにスーパーに行かなきゃならないか。
……。
「いつまで、こんな日常を送っていられるんだろうな」
ふと、そんなことを一人呟いてしまう。
なぜか地球にやってくる侵略者。
戻る気配のまったくない記憶。
後者はともかく、前者の場合は俺のせいで侵略者が来ていると考えてもおかしくはない。
もしかしたら、この先俺のせいで姉さんも、周りにいる人たちも巻き込んでしまうかもしれない。
「———ッ」
今日聞きたくはなかった頭に響く鈴の音。
今から、侵略者がやってくる。
それを強く知らせてくるそれに大きなため息をついた俺は、近くの路地へと駆けこみ、バックルに変形したシロをキャッチする。
「今日も、やるしかないか」
『
どんな時でも侵略者は現れる。
安易な考えを抱いていた自分に呆れながら、俺はいつものように白い戦士の姿へと変身をするのであった。
ルプスストライカーに乗り、光の柱が現れたところに到着した時には、既にその場所は惨憺たる状況へと変わっていた。
ひっくり返された車。
大きな爪のような傷跡が刻まれたコンクリートの地面。
これまでとは違い、獣が現れたようなそれを目にしながら現場に着地しバイクを止める。
「シャァァァ!!」
「!」
背後から何かが飛び掛かる音を察知し、一瞬でバイクを反転させて後輪で弾き飛ばす。
地面に叩きつけられたそいつは、もがき苦しみながらもすくりと立ち上がり、よだれを垂らしながら俺を強く睨みつけた。
「人型の、獣?」
灰色の毛に包まれた猫科に似た怪物。
胸部、足、腕には拘束具のような機械的なベルトが装備されており、胸部には189という番号が刻まれていた。
「189? やっぱり数字になにか意味があるのか?」
数字に疑問を抱きながら周囲を確認する。
既にこの付近の人々は避難しているようだが、まだ逃げ遅れている人がいてもおかしくはない。
いつも通りに、この……獣……いや、猫か? 猫怪人を手早く倒そう。
「ジャッ!」
「速ッ!?」
とてつもない脚力で襲い掛かってくる猫怪人。
咄嗟に取り出したルプスダガーで振るわれる爪をはじき返すが、その力は強く押し返されそうになる。
「ブルーか!? いや、駄目だ! パワーが足りない! なら!!」
『
バックルを叩き、白から赤へと形態を変化させる。
炎に包まれた装甲に一瞬驚いた様子を見せる敵だったが、それもあくまで一瞬で、果敢に襲い掛かってくる。
『
『
炎に包まれた剣を握りしめ、連続して振るわれる爪を防御する。
これなら力負けはしない!!
「ハァ!!」
「ジャアアア!!」
だが、相手も強い!
これまでの知性のあった敵とは違い、相手はその本能のままにこちらを倒そうと飛び掛かってくる。
その瞳には、憎悪と怒りしかない……!!
「オラ!!」
剣を左手に持ち替え、炎を纏わせた拳を叩き込む。
のけ反った様子を見せながらも、奴が前のめりに攻めようとしたところにさらにもう一撃叩き込む。
「——ッ、ガガァァ!!」
「ッなんだと!?」
瞬間、奴の両手両足の拘束具のようなものが解放されるように弾け飛ぶ。
その変化に驚くと同時に、奴の姿が目の前から掻き消え、俺の背中に強烈な衝撃が走りそのまま吹き飛ばされる。
「ぐああ!?」
なんだ!?
奴の速さも、その力も一気に跳ね上がった!?
回転するように立ち上がり、周囲に目を向けるも奴の姿は捉えられない。
「さらに速くなるのか!! ぬぉお!?」
肩のアーマーに爪を叩き込まれ、火花が散る。
この速さ前のひょろひょろウサギ怪人よりも速い!?
ショットブルーで捉えられるだろうが、近距離戦闘では逆に分が悪くなってしまう。
「一か八かショットブルーの瞬時変身でとどめを刺してみるか」
『
「ん?」
突然否定してくるバックル。
これまでとは違った明らかな反応に首を傾げると、また猫怪人の爪が直撃地面をゴロゴロ転がる羽目になる。
『
「いつつ……え、なに新フォーム?」
アックスイエロー?
え、いつできたの!? いつもみたいにサルベージとかしないのか!?
「まあ、やってみるか!!」
猫怪人の爪を受け流しつつ、バックルに手を掛ける。
横のスライドを三回動かし、新たなフォームへの変身を開始させる。
『
「勿論だ!!」
軽快にボタンを叩いた瞬間、俺の周囲に雷が落ちる。
雷はこちらに近づこうとしていた奴の身体を吹き飛ばしながら、俺のアーマーに当たりその色を明るい黄色に染めていく。
『
腕を払い雷をはじき返す。
——使い方は既に覚えた!!
なら、後はこいつを倒すだけだ!!
「ジャ!!」
怒りに満ちた様子の奴がその爪を俺に叩きつける。
金属音と共に激突したそれを真正面から受け止めた俺は、その状態からパンチを繰り出し奴を吹き飛ばす。
「!?」
「効いてるぞ。やせ我慢しただけだ。フッ!!」
腰を低く構え、前へ飛び出す。
瞬間、全身に電撃が纏われ周囲の時間が遅くなるような感覚に襲われる。
その感覚のまま、驚きの目で俺を見た猫怪人の腹部を殴り、さらに殴り飛ばされた先に回り込み、蹴りを叩き込む。
「バランスの赤に、テクニックの青。んでもって力と速さの黄色ってことか」
だけど、こいつは周りに人がいるところでは使えないな。
見れば俺が移動している間は普通に電撃がまき散らされているようだし、余波で凄いことになっている。
「だけど、今は思う存分に動ける!!」
『
右手に現れた片刃の大斧。
ライトニングクラッシャーを両手で持ち、再び電撃を纏い高速移動をする。
「ハァァ!!」
「ジャァァ!!」
同時に動き出し、互いが互いを追って攻撃を交わしていく。
だが条件が同じとなれば、パワーで勝るこっちの方が強い!!
加速に合わせ、すれ違いざまに斧をその胴体に叩きつける。
「ジャ!?」
「まだまだ!!」
さらに加速し、斧を叩き込み体力を削り取る。
奴が膝をつき、逃げられないように追い詰めてから俺は、斧を放り投げてから必殺技を発動させる。
「悪く思うなよ……!!」
『
発動と同時に全身に電撃が迸り、右足にエネルギーが凝縮されていく。
奴が立ち上がり、高速で移動する前に瞬時に強烈な横蹴りを奴の胴体に食らわせていく。
「ギィ!?」
さらに先回りし、その背中を蹴り上げ空へと打ち上げる。
そのままさらに電撃の力を集め、チャージさせた後に跳躍し、全力での必殺技を繰り出す!!
最初に一撃を繰り出し、その反動を用いて着地し、さらに跳躍して蹴る。
それを連続して繰り返し、最大の一撃を放つ!!
「「「ハァァァァァァ!!」」」
『
全力の高速移動により、連続キック。
自身が十数人に増えているように錯覚させながら、最後に上からのキックを猫怪人へと叩きつけ、そのまま着地する。
「……よし、これで……ん?」
爆発が、起こらない?
すぐに振り返ると空中では強烈な熱を放った猫怪人の身体に異変が起こっていた。
なにかが、膨れ上がるようにして、胸部を覆っていた最後の拘束具が壊れようとしている。
「な、なんだ!?」
「ギィ、ギィィァァァ!!!」
「ッ!!」
バキィン!!! と音を立てて拘束具が砕け散った瞬間、猫怪人が大きな光に包まれる。
熱と風に耐えた俺の視界には、信じられない姿へと変貌した猫怪人が映り込む。
「ジャァァァ……!」
「巨大化とかアリかよ……」
大型のバスほどの大きさにまで巨大化した猫怪人。
否、四足で移動する巨大な獅子の怪物へと変わり果てたそいつを見て、俺は暫し呆然とするしかなかった。
「ジャア!!」
「ッ、おい待て!! どこいくつもりだ!! クッ!!」
『
俺に目もくれずにそのまま街中を走り出す怪物。
あの図体で暴れられたらマズいぞ……!
セーブフォームに戻した俺は、すぐにルプスストライカーを呼び、走り出しながら俺は今度こそ奴を倒すべく追跡を行う。
斧ライダーは強い(脳筋)
周りを気にする必要がなければ雑に強いイエローフォームが一番です。
100番台からは巨大化怪人の登場となります。
素の実力も高く、中々に耐久力もあるので侮れない相手となります。