追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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前回から続いて怪物戦となります。


巨大生物と赤の恐怖

 巨大な怪物が道路を全力で走っている。

 幸い、周辺の人の避難はされているようだが、それでも奴がいつ人のいる場所に向かうか分からない。

 俺はルプスストライカーで奴に追いつきながら、ショットブルーへと変わり右手に持った銃を放つ。

 

「こっちだ!」

CHANGE(チェンジ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

LIQUID(リキッド) SHOOTER(シューター)!!』

 

 バイクを走らせながら、放たれたエネルギー弾は怪物の頬に当たるがあまり効いた様子はない。

 やっぱり、奴に有効な攻撃を与えるにはイエローの力じゃないと無理だ。

 

「ギィジャァ!!」

 

 奴が蹴り飛ばした車が吹き飛び、近くで避難を急がせているパトカーへと向かって行く。

 その近くには警察官の方がいることに気付き、リキッドシューターを打ち込み、直撃しかけた車を別方向に吹き飛ばす。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 バイクを止めて声をかければ、驚きの表情を浮かべた男性警察官の一人が呆然と頷く。

 

「あ、ああ……」

「この先の道にいる人たちを避難させてください!! あと、人通りの少ない道ってありますか!?」

 

 警察の人ならここらの道に詳しいはずだ。

 確証のない考えだが、警察官の一人は立ち上がりながら道路の先を指さした。

 

「それならここから三キロほど先に建設途中の高速道路がある!」

「ありがとうございます!!」

 

 三キロ先か!

 なら、全力で急げばまだ間に合うはずだ!!

 バイクを全力で走らせ、空を駆けながら怪物のいる場所へと先回りする。

 

「奴はまっすぐ走っている。……なら、一瞬だけこっちに敵意を向かせれば誘き寄せられるかも」

 

 空から奴の姿を確認しながら考えを纏める。

 リキッドシューターの火力じゃ心許ないが……。

 

UPDATE(アップデート)!!』

「うわっ!? どうした!?」

 

 バイクから今度は声が聞こえる。

 ……っ、これは新しい機能!?

 バックルから新たな能力の扱い方を教えてもらった俺は、ハンドルの側面に現れた青色のボタンを押す。

 

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!! ARMY(アーミー) BLUE(ブルー)!』

「ん? おおお!?」

 

 するとバイク後部に部品のようなものが現れ、側面に何かが組み上がっていく。

 まるでミサイルランチャーのような形状へと変わったそれを目にし、男心に感嘆の声を上げてしまう。

 

「これならいける!」

 

 エンジンを回し、全力で怪物へと下降する。

 目視で奴を誘き出す道を確認した俺は、そのまま側面のミサイルを放つ。

 上のカバーが開き、そこから上方へ向かって大量のミサイルが打ち出され、怪物の背に直撃していく。

 リキッドシューターとは異なる威力に悶絶した怪物は、ようやく俺に意識を向ける。

 

「よし! もっとミサイルを!!」

EMPTY(エンプティ)!』

「……え!?」

PURGE(パージ)……』

「落ちたぁ―――!?」

 

 続けて放とうとするとそんな音声と共に、側面の装備が地面へと落とされバイクの色も元に戻ってしまう。

 もしかして、使い捨てとかそういうのだった……?

 たしかに、威力が凄かったけれど……いや、ここで我儘なんて言ってられない!! このまま奴を引き付けて人のいない高速道路に入るぞ!!

 

「よし、そのまま来い!」

「ガァァ!!」

 

 通行止めの標識が貼られている看板にジャンプして入る。

 後ろから怪物が追ってくる気配を感じつつ、俺は一瞬だけ全力で前に進み距離を無理やり離す。

 

「チャンスは一度だけ、すれ違い様の一撃」

――ここが決め時だぞ

「ああ、やってみせる……!」

 

 それが失敗したら泥仕合だ。

 最悪、黒騎士みたいに真っ向から殴り合いして倒すしかない。

 だが、これ以上周りに被害を出さないためにも、ここで、一瞬で始末するしかない。

 

「あそこが行き止まりか」

 

 高速の行き止まりが見え、その寸前で滑るようにバイクを止めた俺は、電撃を司る形態———アックスイエローへと姿を変えさせる。

 

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

LIGHTNING(ライトニング) CRUSHER(クラッシャー)!!』

 

「来い……!」

 

 ライトニングクラッシャーを構え、二百メートル先からやってくる奴の姿を視界に移し込む。

 できるかどうかは、この際考えない。

 やるといったら、やる。

 そう気合を込めて、バックルから必殺技を発動しようとした―――その時、俺の頭上にいつも見るヘリが現れる。

 

「イエロー、ブルー、手順はさっきので。うん、よろしく」

「え?」

 

 俺から十メートルほど先に現れたのは、赤いスーツを纏った誰かであった。

 女性なのは分かる。

 しかし、全身とその顔さえもスーツと仮面に覆われているからか、正体が分からない。

 彼女は俺を見てなにか言いたそうにするがすぐに前に向き直り、その手に持った長剣を大きく構えた。

 

「……」

 

 すると怪物と俺達のちょうど真ん中ほどに見覚えのある黄色いスーツの少女、イエローさんが降りる。

 彼女はまるで準備体操でもするかのように、ぐるぐると腕を回しながら怪物を迎え撃とうとしているが、大型バスの大きさの怪物と彼女じゃ明らかにサイズが違いすぎる。

 

「あ、危ない!」

「大丈夫」

 

 静かな声で赤い人が呟く。

 怪物がイエローさんに食らいつこうとし思わず目を背けそうになったその時———、ヘリの中から放たれた青色の閃光が一瞬にして怪物の四肢を撃ち貫いた。

 そちらを見れば、ヘリの側面に腰かけた青いスーツを着た人が狙撃銃のような武器を構えている姿が映り込む。

 リキッドシューターを遥かに上回る威力で、狙撃し、貫いた……のか?

 

「ぶい」

「動きの阻害に成功、ナイスだよブルー。次、イエロー、よろしく」

「まぁかせといてぇ!!」

 

 バランスを崩し勢いのまま倒れようとする怪物に、どういうわけか走り出したイエローさんがその大斧を下から突き上げるように振り上げた。

 この距離でさえ眩く感じるほどの電光を放った彼女の一撃は、あれだけの巨体を持つ怪物の身体を空高く打ち上げた。

 

「……えっ?」

――ほう

 

 思わず空を見上げてしまう。

 放物線を描くようにこちらに落ちてくる怪物を目にした赤い人は、剣を腰だめに構えたまま動かない。

 

「まずい……!」

 

 咄嗟に斧を持ち直し必殺技を放とうとした瞬間、とてつもない突風が赤い人を中心に吹き荒れる。

 透明な何かが空へと放たれ、一瞬にして消え失せる。

 なにかが起きた。

 しかし、それが分からない。

 明らかな異変にそちらを向けば、既に剣を振り切り、何かを払った赤い人の姿があった。

 

「討伐完了っと」

 

 瞬間、こちらに落下しようとしていた怪人は一瞬でバラバラに切り刻まれ血の雨がその場に降り注いだ。

 べじゃりと、俺の頭に血の塊がぶつかり一瞬だけ視界が真っ赤に染まる。

 

「は? え……え?」

 

 慌てて複眼を擦り周りを見れば、怪物の破片はそのまま消滅しながら落ちていくが周囲は怪物の血に彩られ、どう言い繕っていても大変なことになっていた。

 

「なにこの人たち怖すぎる……」

 

 初めて抱くタイプの恐怖であった。

 強すぎるということもあるが、何より赤い雨に打たれながら何事もなかったかのように背伸びをしている赤い人が怖すぎる。

 なんなのこの人。

 俺もソードレッド極めればこんなことできるの?

 いや、できる気がしない。

 多分、前世は剣豪か人斬りか何かだったのだろう。

 明らかにこの時代に生きる人の雰囲気じゃない。

 

「ふふふ!」

「ひぇ……」

 

 ぐるん、とこちらに振り返ったレッドがこちらへ駆け寄ってくる。

 とても嬉し気な様子だが、その手に握られている長剣と、血まみれの姿に喉が引き攣りを起こしたような声を零してしまう。

 

「はじめまして! 私、レッド!」

「……」

――……こいつは ひどいな

 

 明るい声で話しかけてくる赤い人、レッドと名乗った少女にまともに返事を返すことができない。

 なんだ? 俺は今からここで捕まるのか?

 だ、駄目だ、俺がいなくなったら姉さんはどうする!!

 一人でちゃんとしたご飯も作れないんだぞ!! 朝も起きれないし、掃除も本当にたまにしかしない!!

 俺が帰らなきゃ、姉さんは安心できないんだ……!

 

「ずっと君に会いたかったんだ」

「そ、そうなんですか……」

「会えて、本当に嬉しいよっ!!」

 

 俺を捕まえるため?

 それとも戦うため?

 今の精神状態で戦ったら確実に負ける自信がある。

 

――かわいそうに 怯えているな

――逃げてもいいんだぞ?

 

 シロもそう言ってくれているので、逃げよう。

 さりげなくルプスストライカーを発進できるようにする。

 

「あれ? どうして帰ろうとしているのかな?」

「ご、めんなさい!」

「イエローから聞いたよ。お姉さんのところに帰るんだって?」

 

 家族関係を探られている!?

 心臓を握られたような感覚に晒される。

 いや、待て。

 この人たちは怪物を倒してくれたんだ。

 怖がりはすれども、邪険にしていいはずがない。

 そう、全ては俺が怖がっているだけで、目の前の彼女もいいひ―――、

 

「お姉さんによろしく伝えておいてね!」

 

「……」

 

 俺は迷いなくバイクにまたがりその場を走り出した。

 なぜかよく分からないが怖くなったし、泣きそうになった。

 

『え、なんで逃げちゃったの!? って、痛い!? なんで蹴るの!?』

『あんたバカか! この人斬りブラッド!! そんな血まみれで物騒な姿のあんたを見れば誰でも逃げるわ! こんのボケェ!!』

『勇を失ったな、レッド。もう、散体しろ』

 

『あだだだだ!? ちょ、叩かないで!?』

 

 後ろで騒ぐ声が聞こえるがもう家に帰りたかった。

 なぜか、あの人たちの前に立つと心がざわつくし、妙な感覚に襲われるのだ。

 

「まさか、俺の記憶か……?」

 

 俺は彼女達にやられたことがあるのか……?

 それとも、別の感情か?

 分からない。分からないけれど、もしかすると俺の過去をあの人たちは知っているのかもしれないのか?

 


 

 汚れたシロをちゃんと洗ってあげた後になんとかマンションに戻った俺は、なんだかすごく疲れたような気分になりながら玄関の扉を開ける。

 すると、すぐに姉さんがこちらに駆け寄ってくる。

 

「おかえり、かっつん! 大丈夫だった!? ……って、すごいげっそりしてる!?」

「ハクア姉さん……」

 

 もう怪人との戦いも疲れたし、その後も色々な意味で疲れた。

 テレビも映画とかちょっとしたニュースしか見ないし、あの三人って結構有名なのかな?

 

「とりあえず夕飯を作りながら話すよ」

「無理しないでよ? なんなら私が作っても……」

「姉さん、人には向き不向きってものがある。いいんだ、俺に任せてくれ」

「優しさでこんなにダメージ受けることある……?」

 

 とりあえず冷蔵庫から材料を取り出していく。

 その際に、ふと姉さんにレッドから聞いた言葉を伝えておく。

 まあ、他意はないんだろうけど……一応ね。

 

「あのさ、レッドって人に会ったんだけどさ」

「ぅぇッ……その人がどうかしたのかな?」

「いや、良く分かんないけど、ハクア姉さんによろしくだって」

「ンヒュッ!?」

「?」

 

 なんだ今の声?

 ふと、そちらを見るといつも通りの姉さんがそこにいる。

 

「全然知らないよ? うん」

「そう? いや、そうだよな。ごめんな、変なこと聞いちゃって」

「……ま、まずいよぉ、どうしよぉぉぉ

 

 懸念も消えたことだし、料理に集中するか。

 米を研ぎながら俺は、いつも通りに夕食を作り始めるのであった。

 




ナチュラルに斬撃を飛ばしはじめるレッドでした。
黒騎士くんがしていた前作主人公ムーブを今度はジャスティスクルセイダーがやるという……。

奇跡的に全てのコミュニケーションに失敗するレッド。
久しぶりに会うから、すごくテンパっていたと供述しております。

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