前回の続きとなります。
巨大化した怪人の前に現れたレッドが操る合体ロボは圧倒的なパワーを振るった。
ロボットとは思えない、人間のような滑らかな動きから繰り出される一撃は容易くトリケラ怪人の外皮を砕き、抉り取るほどの威力を発揮する。
「この白亜紀の亡霊が!」
「ヴァァァ!!」
ただしその台詞が色々と酷かった。
ロボに乗っているからか普段からそうなのかは分からないけど、とにかく酷かった。
「最後に残ったその角をへし折ってやる……!」
「ヴィギィ!!」
かろうじて残った一本の角を砕き折るレッド。
さらにその角を掴み取り、トリケラ怪人に刺し追い打ちをかける徹底っぷり。
侵略者に対する欠片の慈悲も感じさせない戦闘にただただ唖然とするしかない。
「オプティマスプライムかなにか……?」
この前、姉さんと見た映画で同じようなシーンあったよこれ……。
正義の味方なのにえげつない戦いばっかりするあたり、レッドだなこれ。
ドン引きはすれども、しかしその力は俺も見習うものもある。
イエローさんとブルーもそうだが圧倒的な技量とパワーで敵をなにもさせずに倒すやり方は、俺が目指すべき一つの道だとすら思えた。
「初めまして」
「わぁ!?」
いつの間にか隣から話しかけられびっくりする。
咄嗟に距離を取ってそちらを見てみれば、そこには近くにバイク型の乗り物を着地させていた青いスーツを着た少女、ブルーが俺を見ていた。
「は、初めましてブルー、さん」
「さん付けはしなくていいよ、先輩」
「先輩……?」
「あっ……」
なにやらしまったと言いたげに口に手を当てるブルー。
先輩? なんだ言い間違えなのか?
この反応からして目の前のブルーは俺のことを知っているのか?
え、え? どういうことだ? 俺はこの子の先輩かなにかだったのか?
ぐるぐるとそんな疑問を頭に浮かんでいると、ブルーは続けて言葉を投げかけてくる。
「この前はレッドがごめん」
「い、いや、逃げた俺の方が悪いし」
「レッドには後でお仕置きをしておいたから反省していると思う」
お仕置きされたんだ……。
ちょっと戦隊内での闇のようなものが見えてびっくりする。
この前の件については、実際それほど気にしていないし、自分の力を見つめなおすいい機会にもなった。
って、いや、違う!
なんで俺はこんな呑気に話しているんだ!
『図体だけがでかくなってもォ!』
レッドのそんなドスの利いた声と悲鳴を上げる怪人の声を聞き、我に返った俺は急いでルプスストライカーに乗る。
ブルーが止める様子はない。
――少し趣向を凝らしてみようか
「……シロ?」
シロが何かを喋ったことは分かったが、何を喋ったかは聞き取れなかった。
思わずバックルを見てしまうと、レッドが戦っている海の方で異変が起こっていることに気付く。
咄嗟にそちらを見れば、トリケラ怪人の背中に現れた丸い輪っかのようなものから何か注射器のような物体が、刺さるのが見えた。
「なんだ、あれは……」
「ワームホール……?」
『ヴァアアアア!!』
「ッ!?」
輪っかが消えると同時につい先ほどまで攻撃されるだけだったトリケラ怪人の身体に異変が生じる。
再生し、さらに強く伸びた二本の角に、背中から新たに二つの腕。
最初よりも明らかに強化された姿で再生したトリケラ怪人は、さらにその背中に生えた突起を空へと飛ばし、地上にいる俺達へと向かって落としてきた。
「ブルー!」
「心配いらない」
瞬時にショットブルーへとフォームチェンジさせ、リキッドシューターで降り注ぐ突起を撃ち落とす。
俺以上の精密さと冷静さで的確に目標を打ち抜いているブルーに感心していると、電撃を纏いながら俺とブルーの間に割って入ってきたイエローさんが、電撃を纏わせた斧を大きく振るった。
「そぉぉい!!」
電撃で軒並みの突起を破壊したイエローさんはそのままボードから俺達の前に飛び降りる。
破壊を免れた突起は、俺達の周囲の地面に突き刺さるように落下していくが……近くで見ればかなり大きい。
「また会ったなぁ、白騎士くん」
「あ、ああ。それよりレッドは大丈夫なのか? 敵が強化されたように見えるが」
「まあ……レッドなら大丈夫やろ」
『壊す部位が増えた!? えーい! ならばこうだぁ!』
『ヴァァァ!?』
「……ほら」
「あー、うん。大丈夫そう」
ジャギィン!! と前腕から赤熱するブレードを展開させたレッドの操るロボットが、強化されたトリケラ怪人の腕の一つをバターのように切り落とす。
やっぱりあのえげつなさは見習うものがある。
手段は別として、俺に足りないのはああいう“雑さ”なんじゃないかと思う。
「……む?」
「……ブルー、気づいてる?」
「もちろん」
俺と同じくイエローさんとブルーが周囲に目を向け、武器を構える。
周りに落ちた十数本の突起全てから気配を感じる。
フォームチェンジするべくバックルに手を当てた瞬間、まるでタマゴが割れるように突起が罅割れ、その中から巨大化する前のトリケラ怪人が次々と生まれてきたではないか。
「「「「ヴァァァ……」」」」
「奇妙な生き物やなぁ」
「さっきの注射のせいかもね」
「……一体も逃がすことはできない」
最早、消化試合のようなものだが、それでも一体たりともこいつらを逃がすわけにはいかない。
周りにブルーとイエローがいるが、彼女達二人ならばイエローフォームでも問題はないはずだ。
『
音声の確認を取り、バックルを叩く。
電撃をまき散らしながらアーマーが黄色く染まり、アックスイエローフォームへの変身を遂げる。
『
『
手で払う動作で目の前のトリケラ怪人たちに電撃をぶつけながら、その手に片刃の大斧、ライトニングクラッシャーを握りしめる。
「ドヤ顔でこっち見ないで、うざい」
「え、そんなことしてへんよー。……さて、私達も倒しにいくとしますか」
イエローさんとブルーのやり取りを聞き流した俺は、電撃を纏い加速させながらトリケラ怪人への攻撃を開始させる。
すれ違い様に一閃。
振り向きざまに縦に斧を叩きつけ、吹き飛ばしながら側方から突っ込んでくる別個体の突進を避ける。
「ヴァ!!」
パワーとスピードが高いこのフォームならトリケラ怪人に優位に戦える!
イエローさんとブルーの方を確認するが、当然彼女たちも俺以上にうまく立ち回っており、イエローさんに至っては俺と同じような加速法でトリケラ怪人を次々と葬っている。
「……俺も負けていられないな」
『
必殺技を発動させ、腰だめに構えた斧を両手で握りしめる。
周囲にいる四体のトリケラ怪人が一斉に攻撃を仕掛けると同時に、黄色く染まったオーラが巨大な刃を形成し、一瞬にして周囲の四体を真っ二つに切り裂き、爆散させる。
「ヴァァァ!!」
「……ッ」
必殺技を繰り出した直後に背後から襲い掛かる三体の別個体。
咄嗟に振り向き対応しようとすると、別方向から飛んできたエネルギー弾が、一瞬で三体のトリケラ怪人の頭部を貫通する。
目の前で一瞬で葬られた怪人を目にして驚く俺に、エネルギー弾を放ったブルーがサムズアップを向けてくる。
「ヒーローは助け合い、だよ」
「あ、ありがとう……」
ブルーに礼を口にしつつ、俺は不思議な感覚に苛まれていた。
いや、元よりこの感覚はさっきから感じていたんだ。
ジャスティスクルセイダーがこの場に来てから……だけど、今のこの記憶の奥底を揺るがしてくるこれは俺の失われた記憶に関係するものだ。
「ッ」
視界にノイズがかかり、目の前の光景とは別のなにかが映し出される。
断片的に見せられる、戦いの記憶。
早回しのようにそれらが頭に思い浮かんでは、それが消えていく。
「や、やめろ!! ぐわぁ!!」
「貴様、黒騎士!!」
「アァァァス!!」
「お前が、お前がいなければァァァ!!」
「理不尽のごんぐぶふぁ!?」
人ではないなにかの怨嗟の声。
死に間際のそれらに
「な、なんだ……!? 誰なんだ、俺は……!?」
だが、全ての怪人の顔が塗りつぶされている。
誰が誰を倒したかも理解できない。
濁流のように流れてくる記憶に頭を抱える俺に好機と思ったのかトリケラ怪人が攻撃を仕掛けてくる。
「うるッせぇ!!」
動きの止まった俺に突進を仕掛けてきたトリケラ怪人を真正面から斧でぶん殴る。
いくらアックスイエローでも正面からの突撃を受け入れられるはずがない―――しかし、俺が繰り出した斧は黒いオーラを伴い、トリケラ怪人へと激突しそのまま爆散させてしまう。
「なっ、これは……」
――いいや 違う
――それの進化に先はない
「が、ぁぁ」
また記憶が溢れだす。
今度は戦いとは異なる光景。
怪人の怨嗟の声ではない、他愛のない日常の記憶。
いつも誰かが近くにいたような気がする。
鬱陶しいくらいにお節介なやつがいた。
自分の個性のなさを気にするへんなやつもいた。
物静かだが、時折意味の分からないことをするやつもいた。
顔はぼやけて見えない。
その声も、なにもかもが分からないが俺は―――大事ななにかを忘れてしまっていたことに気付いてしまったんだ。
『
バックルが強制的にセーブフォームへと変身させる。
気付けば、俺の左手には先ほどまで握られていなかった黒いグリップのようなものが握られている。
頭に流れ込んでくるイメージと共に、側面のボタンを押し、グリップから銀色のアタッチメントを発動させる。
――あぁ……
――そうだ それでいい
『
グリップから音声が鳴り、それを大きく構えた俺はそのままなんの躊躇も無しにシロの―――バックルの側面の窪みに鍵を差し込むように接続させる。
『
二つに重なる音声が鳴り響き、自身を中心に特殊なフィールドが二重に形成される。
『
セーブフォームで覆われていた白いアーマーがはじけ飛ぶように消え去り、その上から新たなアーマーが作り出され、金属音と共にはめ込まれていく。
白のアーマーの隙間を覆うように黒いアーマーが嵌め込まれ、最後に腰回りを覆うようなマントが纏われたところで変身が完了する。
『
自身の掌を見つめる。
ちゃんとした記憶を思い出したわけではない。
俺が誰かも分からない。
誰と話していたのかも分からなかった。
「……それでも」
俺は、どうやら記憶を思い出さなければならないようだ。
そうしなければならない。
記憶に映り込んだ誰かを思い出したい。
「姉さんに、話を聞こう」
そのためにさっさとこの場をなんとかする。
周囲にいるトリケラ怪人を一瞥し、数を確認する。
六体、か。
『
バックルを三度叩き、一つ目の必殺技を作動させる。
ファンファーレのような爽やかな音声が響き、蹴りの態勢に移る。
「ヴァァァ!!」
『
近くで威嚇する一体に白いエネルギーを纏った蹴りを叩きつけ、一撃で粉砕する。
セーブフォームより格段に性能が上昇している。
ならば、と思い今度はバックルに接続されたグリップの側面を押し、さらなる必殺技を発動させる。
『
右拳に黒いオーラを纏わせ、左手を敵へと向ける。
「ヴァッ!?」
『
黒いオーラに包まれた二体のトリケラ怪人がこちらに吸い寄せられ、そのまま拳を突き出し粉砕させる。
「白騎士くん、その姿は!?」
「大技を出す、離れてて!!」
グリップを叩いた上に、さらにバックルを三度叩き重ねて必殺技を発動させる。
『
その場で跳躍し、一瞬で残り三体のトリケラ怪人の上空に転移する。
そのまま右足から黒色のエネルギー弾を蹴り放つ。
中空へとぴたりと留まったソレは、トリケラ怪人のみを空中へ引き寄せ、磁石のように一纏めに固める。
「ハァァァ!!」
腰のマントを翻し、蹴りの態勢に移り加速と共にエネルギー弾諸共、三体のトリケラ怪人へ蹴りを叩き込む。
『
繰り出された蹴りはそのままトリケラ怪人三体を一瞬に消滅させる。
着地と同時に確実に怪人を倒したことを確認した俺は、改めてレッドの方へと目を向ける。
『選んだ星が悪かったね……!!』
『ヴァ、ヴァァァ……』
『私の手で、引導を渡す……!』
トリケラ怪人の胸をブレードが伸びた右腕で心臓ごと貫きとどめを刺しているレッド。
なんだか色々と壮絶な光景を見てしまった気分にさせられてしまった。
「……大丈夫そうだな」
心なしか声を震わせそれを確認し、ルプスストライカーに乗った俺はその場を離れる。
声をかけてくるブルーとイエローの声に申し訳なく思いながら、一応バックルのシロに話しかける。
「シロ、発信機は取り付けられてないよね?」
『YES』
なぜか発信機に嫌な記憶があるような気がする。
覚えてはいないけれど。
追跡される危険がないならこのまま帰ろう。
正直な気持ち、記憶を思い出すということに関してはそこまで必死になってはいなかった。
マスターの言葉もあったけれど、家族のいる生活に満足していたからか記憶を思い出す必要はないかなと思ってしまっていたからだ。
だけど、俺には記憶を思い出して会わなければならない誰かがいた。
それを知ったことで、俺は今一度自分の記憶と向き合う覚悟を決めた。
「まずは姉さんと話さなくちゃな」
変身を解き、雨を避けながら帰る場所であるマンションに戻る。
扉を開けると、いつも出迎えてくれる姉さんの姿がどこにもないことに気付く。
「ただいまー。姉さん、いる? ……うん?」
知らない靴が二つある。
一人は高そうな黒い靴と、女性用のスニーカーっぽい靴だ。
お客さんかな? 今までそんなことなかったはずだなぁ、と思いながら居間へと足を踏み入れる。
「お、おかえりぃ、かっつん……」
「ハクア姉さん、えっと……ただいま」
やや引き攣ったような顔で俺を出迎える姉さん。
しかしいたのは姉さん一人だけではなかった。
そこには―――、
「やあ、君が白川くんの弟くんかな?」
「……」
「はじめまして、レイマだ。それで、こっちの子がアルファだ」
金髪の男と、黒い髪の女の子。
そんな二人を前にしていた姉さんは、この世の終わりのような顔をしていた。
……いったい、この状況はどういうことなんだ……?
フォント選びが大変だった回でした。
ハザードフォームには成長性はないので、ちょっと変更させたラスボスさんでした。
社長が白川宅に来ていることは、レッド達には知らされていません。