後半、緑色の台詞がありますが、その部分に読み上げ機能を使ってみるのもおすすめです。
注釈には、前回同じく怪人の解説などを入れました。
前半と後半の温度差がすごい……。
今日未明、———行きの旅客機が墜落。
暗い、瓦礫に溢れたとても狭い空間の中で、おれは生きていた。
鼻をつく匂い。
上から滴り落ちてくる、雨水だけがおれの命を繋ぐ。
救出活動を開始、生存者の捜索を試みる。
おれを、見ている。
生気を失った二つの視線。
あの優しかった表情も目も、苦悶に満ちたものへと変えておれを見続けている。
おれは目を背けることができなかった。
からだは瓦礫に挟まれ、ほとんど動くことができなかったからだ。
死者多数、生存者は絶望的か。
くるしい。
もうやめて。
ようやく、この地獄から解放される。
墜落から三日後! 瓦礫から七歳の子供が救出!
一人だけ、生き残ってしまった。
おれいがい、みんな、いなくなってしまった。
奇跡の子、絶体絶命の瞬間からの救出劇!
「カツミくん! 当時の状況を教えてほしいんだ!!」
やめて。
「いったいあの場でなにがあったんだい!? カツミくん!!」
ほうっておいて。
「黙ってないでなにかを言ってくれ!!」
テレビ なんて だいっきらいだ。
「亡くなったご家族について、なにか一言を!?」
もう だれとも かかわりあいたくない。
「なぜ答えてくれないんですか! 我々には真実を伝える義務があるんです!!」
なんで おれ 生きているんだろう
「大丈夫だよ。大丈夫……」
ふと、誰かのはっきりとした声が聞こえた瞬間、俺を取り囲み言葉にならない言葉をなげつけてきた黒い人影の姿が掻き消えた。
次に何者かに抱きしめられているかのような感覚。
意識が浮上し、気だるい感覚に顔を顰めながら目を開けると、目の前には嫌味なくらい整った顔が―――、
「あ、起きた? 大丈夫?」
「レッド……?」
「うん」
昼間椅子で眠ってしまっていたのか。
それでいつもの悪夢を見て、うなされているところをレッドに抱きしめられたということか。
……。
状況を全て理解した俺は、おもむろに立ち上がり、トイレへと駆けこみ扉を閉める。
「あ、照れてるのかな?」
そんな呑気な声が聞こえているが、俺は苦悶の表情を浮かべたままその場で膝をつき―――、
「おうろろろろろ!?」
「「「えええええええ!?」」」
胸からこみ上げ、吐いてしまう。
トイレから出て冷蔵庫の水を飲み口内を潤していると、唖然とした様子のレッド達が俺を見ていることに気付く。
……よく考えれば悪いことをしてしまったな。
さすがにさっきのはないか。
「いや、悪い。俺の正直な気持ちが。気にするな」
「気にするよ!? 正直な気持ちって言葉が付け加えられた時点で、私の心はボロボロだよ?! 吐くことないと思うんだけど!! ……美少女の抱擁だよ!?」
「自分で言うか……? 普通」
すっげぇ性質悪いな。
まあ、俺が普通に学校行ってた時は普通に人気者だったから、間違いはないんだろうな。
俺には通じないが。
「まあ、正直、ざまぁないとは思ったわ」
「うん」
同じ部屋で見ていたイエローとブルーも中々に酷いことを言っている。
口を尖らせたレッドは、彼女達をジト目で見る。
「貴女達って味方だよね……?」
「場合によっては最大の敵に回るで」
「調子に乗るなよ、レッド。いつまでもリーダーでいられると思うな」
「友情崩壊!?」
ブルーとイエローに睨まれ落ち込むレッド。
最早、こいつらが勝手に部屋に入り浸っている事実にはツッコむ気力も湧かない。
胡乱な視線を三人に向けていると、奴らは一つのテーブルを三人で囲みながら何かをしていることに気付く。
「で、なにしてんの?」
「え、クイズ大会」
「本当になにしてんの?」
俺の閉じ込められている部屋でやることじゃないよね?
しかしクイズ大会っていうわりにはテーブルに出されているのはノートパソコンだけだ。
「問題はどこにあるんだ?」
「いや、音声プログラムを組んで読んでもらおうかなって」
「無駄に多芸だな……」
「理系ですから」
心なしかドヤ顔のブルー。
そうだな、俺の爆弾解除するほどだもんな。
それが理系の力かどうかは分からんけど。
「ね、カツミくんもクイズやってみる?」
「はぁ? 嫌だよ。俺はお前らと馴れ合うつもりはねぇんだ」
こいつらは俺をジャスティスクルセイダーにいれようと思っているが、俺は絶対に入らん。
例え世間がなんと言おうとも、この俺だけは絶対に、絶対に絶対に入ってやらない。
「もしかして、負けるのが怖い?」
「は? は? なんつったお前」
「うわちょろ……いや、そこまでクイズを避けるってことは苦手なんかなぁって」
煽るような口調のイエローに口の端が痙攣する。
この俺がクイズごときで?
負けるのを恐れる?
……。
「やってやろうじゃねーか! 俺が負けたら、なんでも言うこと聞いてやるわ!!」
「じゃ、私達が負けたら、ご飯奢ってあげるよ」
「めちゃくちゃ高いの奢らせてやる……!」
出前とか食ったことないから、楽しみだぜ……!!
「もうちょっと待って、すぐに問題を作るから」
なんだかんだで受けてしまったが、まだまだ問題が出来上がるまで時間がかかるようだ。
ブルーはパソコンで問題を作っているとして、回答者は、俺とレッドとイエローの三人か。
四つ目の椅子に座りながら、俺は心理戦を仕掛けるべく、二人に話しかける。
「この勝負を受けたことを後悔しろよ……! 俺はな、クイズ怪人を倒したほどの男だからな……!!」
「え、なにその弱そうな怪人。強いの?」
出した問題を現実化させるという、概念そのものを操る怪人*1だ。
不正解だと、絶対に避けられないペナルティを下してくるのが厄介だったな。
「どうやって倒したん?」
「超遠距離からの投石で頭のクエスチョンマークをぶちぬいてやった」
「それは、クイズに勝ったと言えるのかな……?」
一度真正面から戦ったのはいいが、正解しても大したダメージを与えられるわけじゃなかったし。
それじゃあ、正解した一瞬の隙をついて範囲内から脱出して、倒した方が早かった。
「それじゃあさ、幽霊怪人ってどうやって倒したの?」
「お前ら、さも当然のようにアンケートの内容を知ってんだな」
秘匿義務はどうしたんだよ……。
「え、だって白川ちゃんにのみ見せるって書いたけど、白川ちゃんが喋っちゃいけないとは書いてなかったし」
「いや、医者の秘匿義務とかあんだろ。なに俺が悪いみたいに言ってんだよ……」
おかしいだろ、常識的に。
……なんで俺がこいつらに常識を語らなきゃならないんだよ……!!
「まあまあ、教えてーな。ぶっちゃけ、君のアンケートのせいで上の人達、頭悩ませるどころじゃないことになってるからさ」
「……。はぁ、しょうがない。後で同じアンケートをされるのも嫌だしな……」
ため息をつき、幽霊怪人について説明する。
「幽霊怪人ってのは物理攻撃も効かないかわりに、相手からも攻撃することができないやつだったんだよ」
「へぇ、結構楽そうなあい――」
「その代わり、日本ホラーさながらの精神攻撃をしてくる」
一瞬にしてレッドの顔が青くなる、レッドなのに。
……正直、こいつにはあまりいい印象がない。
だが下手に隠すとこいつらの場合、すぐに勘づいて鬱陶しく心配してくるから正直に話しておこう。
「奴は戦ってる相手の心を覗き込んで、記憶に刻み込まれた死別した人間に化ける」
「……すっごい性質が悪いね」
「それが能力だからな」
降霊術っぽい感じだ。
感情、性格、仕草、全てを真似て、相手を精神的に追い込み、弱り切った魂を抜き取り力とする。
相手はそんな奴だった。
「まあ、俺には効かなかったけど」
「え、でも、カツミ君の時って多分……」
「ああ、家族だったよ」
そんな顔をするな、鬱陶しい。
「別に。あの程度の恨み言なんて、俺には効かなかっただけだ」
「そ、そうなんだ……」
皮肉な話だが、怪人としての姿だとあらゆる攻撃が効かない無敵なやつだが、人に化けると実体を持っちまう。
大抵は、死別した人間に再会して取り乱してしまって攻撃どころじゃないが……。
「あいつら、死人に化けてる時は実体があったからな。そのままぶん殴って簡単に倒せたよ*2」
「私、幽霊苦手だから戦わなくてよかったぁ……」
「うんうん」
……今度、欲しい物リストにホラー映画って書いておこ。
レッドとイエロー避けに、大音量で流して追い払えるか試そう。
「笑わせ怪人は? あれって結構な被害があったよね」
「私も知ってる。突然、意味もなく笑い出した人が沢山で出て、交通事故とかもたくさん起こったり、一時は都心の機能が停止するくらいの騒ぎに発展したんだっけ?」
そこまでの騒ぎになっていたのか。
いや、奴の能力を考えるとおかしくはないのか。
「笑わせ怪人の能力は単純。奴に触れられた人間は、生きていた中で最も“幸せ”だった瞬間を強制的に思い出させられ、多幸感のあまり笑っちまうんだ」
「へぇ、能力だけならなんか優しそうな力やね」
「それだけならよかったんだがな。厄介なのは、触れられた人間からも、効果が伝染するってところだ」
そのやばさにすぐに気づいたのはブルー。
パソコンからこちらへ顔を上げた彼女は、顔を青ざめさせる。
「……え、それって……街中で肩とかぶつかっても移るってことだよね?」
「その通りだ。だから、被害が大きく広がった」
脳裏によぎるのはピエロ姿で笑顔を振りまく怪人の姿。
軽快な動きですれ違う人々の肩に触れていきながら、笑顔を増やしていった奴の姿は出来の悪いホラー映画に出てくるような得体のしれない恐ろしさがあった。
「効果は多分、笑わせ怪人が生きている間ずっと。その間、どんなことをしても絶対に笑いは収まらない」
「……な、なんだか怖いね」
「そうじゃなけりゃ、怪人じゃないだろ」
笑わせる、ただそれだけなら良かった。
笑った人間は喜び以外の感情を剥奪され、言葉を交わすこともできなくなってしまう。
……つーか、どうして俺ばっかり襲われたのかなぁ。
クイズ怪人は範囲内に巻き込まれただけなんだが、こいつと幽霊怪人は明らかに俺を狙って来たんだもんな。
「どうやって倒したん?」
「……。まあ、触れられる前に始末しただけ。戦闘力自体はそれほどでもなかったし。お前らでも楽勝だよ*3」
単純に触れられても笑えなかっただけだけど。
どいつもこいつも面倒くさいやつらばっかりだ。
まあ、俺としては電撃ナメクジ怪人が一番厄介だったけど。
「でけたよ」
と、怪人のことを話している間にクイズが出来上がったようだ。
パソコンを操作し、俺達を見たブルーは、レッドとイエローに視線を送ってから俺を見る。
「ルールは単純。答えが分かったら、答えを口に出す」
「おう」
「はっきり、思いを籠めてね」
「なんで……?」
「そうじゃなきゃ伝わらないから」
え、別に操作するのはお前でパソコンが答えの是非を決めるわけじゃないよな?
意味深な確認をするブルーに首を傾げている間に、クイズが始まる。
「これから、ジャスティスクルセイダー主催、ドキドキワクワクのクイズ大会を始めます」
「無駄に凝ってんな……」
「ボイスは、きりたんとゆかりの二種類用意してる」
「誰……?」
「嘘でしょ、カツミくん……!?」
なぜそこで驚かれるのかも分からないんだが。
でも、パソコンが喋るってのはすごいな……。
ここに来るまで持っていなかったから、こういうのを見ると時代の進歩というのを理解させられるな。
「あとこういうのもある」
「アオイ様ばんざい。アオイ様はジャスティスクルセイダーの真なるリーダー」
「ちょっと? やっぱり狙ってるよね、リーダーの座!?」
ツッコむレッドを無視してブルーは続けてパソコンを操作する。
すると、再び、パソコンから音声が流れてくる。
「条件の確認をいたします。アカネ様、きらら様の勝利で、カツミ様への命令権を獲得。カツミ様の勝利で敗者が彼に食事を奢る、または作る権利を獲得。出題されるクイズの答えが分かり次第、口頭でマスター、アオイ様に伝え、正解すれば1ポイントとなります。以上、よろしいでしょうか」
異論はない。
なぜか奢る項目に、飯を作るって条件が追加されてる気もしないが気にするほどでもない。
「では、クイズを開始いたします。第一問」
「よーし、頑張るぞー」
「やったるでー」
これもジャスティスクルセイダーとの戦い。
誰が一番賢いのかを教えてやるぜ……!!
「ジャスティスクルセイダーのリーダー、レッドの苗字は
……。
……、……。
「ねえ、ちょっと待って?」
一瞬頭が真っ白になったが、え、なに? なんでこんなこいつらにとって答えが分かり切った問題を?
聞いて分かるほどの異常事態に隣のレッドを見ると、彼女は苦悶の表情のまま頭を抱えている。
「なんて難しい問題なんだろう……!? レッドの本名っていったい……!? 誰なの?」
「お前の名前だよね? ねえ、なんで知らないふりしてんの!? 白々しいことこの上ないんだけど!!」
いきなり記憶喪失!?
明らかにわざとっぽく悩みだすレッドは、俺の反応を見るとさらにわざとらしい素振りで驚く。
「あれっ!? もしかしてカツミ君、答えが分かっているの!? なら、言ってみてよー!」
「わぁぁ~すごい。さすがはクイズ怪人を倒した男。さらに見直したわぁ」
「渾身の問題をもう分かるなんて、さすがは黒騎士。やるね」
まるで示し合わせたように動き出すイエローとブルー。
ここで俺は自分が嵌められたことを悟る。
「お、おおお、おま、お前ら、ま、まさか最初から――」
「なんのこと? あ、問題は全部で三問だよ。君なら全問正解できるかもしれないね」
サンモン? 三問!?
流れからして、こいつらの下の名前を呼ばなくちゃならねぇじゃん!?
「こ、こんな勝負は無効だ!! 俺はやめる!!」
「駄目だよ」
椅子から立ち上がろうとした俺の肩を両サイドに座っていたレッドとイエローが押さえつける。
普段の彼女達からは想像できない力と、凄みに立ち上がることができなくなる。
「言ったよねぇ、負けたらなんでも言うこと聞くって」
「まさか、あんな啖呵切ったのにやめるなんて……言わへんよなぁ」
「もし勝負を放棄したらその時点で負けだから」
なにこいつら怖くない……?
怪人よりも狡猾なことしてくるんだけど。
「言うことを聞いてやるなんて、言ってないぞ。そ、そんな証拠はどこにもないしな!!」
こうなったら意地でも条件を踏み倒して逃げてやる。
こんなことで監視カメラの映像をとってくるはずがないだろうし、ここで抵抗し続けていればこいつらもきっと諦めるは―――、
『やってやろうじゃねーか! 俺が負けたら、なんでも言うこと聞いてやるわ!!』
ブルーが操作したパソコンから俺の声と思わしき音声が鳴り響く。
これは、イエローの挑発に乗って、勢いで口にした言葉……。
「お前らそれでもヒーローかよぉ!?」
思えば俺は三人集まったこいつらに苦戦させられていた。
それが今の状況でも同じだとは……。
「……ハッ!?」
よく考えたらこれって勝っても負けてもこいつらに得しかないんじゃ!?
ジャスティスクルセイダーは、かなりの高給っぽいだろ。
命張ってんだし、そら沢山給料とかもらえるはずだ。
そんな奴らに、出前程度払うのは訳ないはず。
対して、俺はどうだ。
勝つには、こいつらの下の名前で呼ばなければならない。
負ければ、ジャスティスクルセイダー入り以外のことをなんでも聞かなければならない。
どちらも選んでも、地獄。
ならば―――、
「答えは、アカネ……!」
よりリスクの少ない勝つ方にするしかない。
口に出してから、自分の中のなにかが大きくすり減ったような感覚に苛まれる。
くっ、こいつらと慣れ合わないように、名前で呼ばないようにしてきたのに、こいつらこんな卑怯な手を使ってくるとか信じられねぇ……!!
「せいかーい。よくできましたぁ♪」
このパソコンを今すぐぶっ壊してジャンクに変えてやりたい。
でも、きっと高いのでしない……! 我慢する……!
隣にいるレッドは、俺が名前で呼んだのを聞いたのか、暫し呆然とした後に不意に頬を赤く染めた。
「え、い、いや、なんかいざ呼ばれるとそのすっごいドキドキするねっ! え、えへへ……や、やっぱまだレッドでいいよ。照れちゃうし」
「お前、マジぶっ殺すぞ!?」
ここまできてその反応はないだろぉ!?
両頬に手を当て照れるレッド。
顔に熱を感じながら怒りをぶつけようとすると、その前に反対側のイエローが俺の肩に手を置いた。
「さあ」
「次の問題、やろうね」
「第二問」
クイズはまだまだ終わらない。
後、二問も残っているパソコン画面を見た俺は、絶望の表情を浮かべるのであった。
黒騎士くんの過去の一部とテレビを見ない理由でした。
こんな過去を持つ黒騎士くんの心を開かせるには、これくらい押しが強くないといけない難易度。
感想欄で指摘され、読み上げ機能に気付いて素で驚きました。
きりたんボイスで読み上げてくれるとか、ハーメルンすごすぎる……。