今回はちょっと長めとなります。
着ぐるみと、幕開け
最後に起こった怪人騒動から一か月が過ぎ、季節は夏真っ盛りとなった。
それまでに怪人は空からやってこずに、俺はレッド……アカネさん達との模擬戦闘を繰り返し行いながら、いつ怪人がやってくるか分からない緊張の日常を送っていた。
「……うーむ」
いつもは喫茶店でバイトをしている時間ではあるが、今俺がいるのは駅をいくつか乗り継いだ場所にある遊園地のある建物の中である。
スタッフ専用の裏手で、渡された着ぐるみと被りもの。
「まったく、この状況はどうしたものだか……」
以前、マスターから話は聞いていたわけだけど、まさかこんなバイトを任されるとは思いもしなかった。
困惑したま着ぐるみを持って立ち尽くしていると、一人の眼鏡をかけた男性が顔を出してくる。
「いやぁ、ごめんね、カツキ君。急に着ぐるみを任せている人が急用で来れなくて困っていたんだよ」
カフェの常連客でありマスターの友人の雨宮さん。
なにやらこの遊園地? テーマパークに関係する仕事をしているらしく、そんな彼に助っ人をお願いされてしまったのだ。
「いえ、俺は構いませんけど……こういう仕事って専門の人がやるべきなんじゃないですか? ここテーマパークですし、デパートとは勝手が違うんでしょう?」
「そうなんだけどねぇ。何分、急だったし……はぁ」
着ぐるみを着るとだけ聞いていたが、それもその場所を代表するイメージキャラクターの一人として着ぐるみを着なくてはならないのだ。
予想外どころの話じゃない。
「もう一度説明するね」
「あっ、よろしくお願いします」
「基本的に喋らなくても大丈夫。小さいお子さんには、優しく対応してあげてね。写真をお願いされた時も同じ。それと……」
雨宮さんが真面目な表情のまま俺へと話しかけてくる。
「長くても30分以上は着ぐるみのままでいないこと。必ず休憩をとって水分補給を忘れないように。着ぐるみの中にボトルを取り付けられるから、凍らせた飲み物とかを常備しておいてね」
「了解です」
「あ、やばい、って思ったらすぐに室内に戻ること。今日、君の傍にいる新不破さんに冷却スプレーを持たせるから、着ぐるみと被り物の隙間から冷やしてもらってね? ……子供の夢を守ることも大事だけれど、なにより命が優先だ」
神妙に言ってくる雨宮さんに頷く。
とりあえず、tシャツとハーフパンツの上から着ぐるみを着て、凍らせたペットボトルを入れた後に被るものを持ってアルファが待っている部屋まで移動する。
「お待たせ」
「じゃーん、どう、これ?」
「うん?」
部屋に入るなりアルファが、パークの人が着ている制服のようなものを見せてくる。
子供に親しみやすい明るい色の服に、つばのついた帽子。
「似合ってる、ぞ?」
「ありがと! そういう君も似合ってるよ!」
「褒めているのか? それ。おっと、シロか」
アルファと一緒にいたシロがカバンから飛び出し、着ぐるみの中に入ってくる。
丁度、着ぐるみの内に開いた飲み物をいれるスペースに入りこんだ。
「シロ、ここじゃ熱くなるぞ?」
『ガオー』
どうやらかまわないようだ。
まあ、嫌になったらすぐに出てくるだろう。
そう納得し、俺はアルファと共に、開園の時を待つ。
なし崩し的にアルファもこの手伝いに参加することになってしまったが、まあ、俺にとっても彼女にとっても初めての経験になるので、雨宮さんに迷惑をかけない程度に頑張ろう。
この遊園地のイメージキャラクターの一体。
ひねくれオオカミのクロロくん。
デフォルメ化された愛嬌のある黒いオオカミの頭を持つそれを担当することになった俺は、夏の炎天下の下で開演したテーマパークの中に立ち、お客さんをもてなしていた。
「クロロくん! 写真撮って!」
「では、私が撮りましょうか?」
「あっ、よろしくお願いします!」
親子連れのお客さんに写真を一緒に撮ってもらうようにお願いされる。
アルファがカメラを受け取り、俺が着ぐるみとして写真を撮ってもらう。
「ありがとー!」
はにかむ男の子に手を振りながら、見送る。
近くに人がいないことを確認したアルファは、声を潜めながら着ぐるみの中にいる俺へと話しかけてきた。
「ねえ、カツキ。熱くないの……? 物凄く熱いよ……?」
今日は晴れ。
まだ七月中旬で本格的には熱くはなっていないが、それでも着ぐるみの中は今頃地獄になっているだろう。
しかし、この時の俺の着ぐるみは少しばかり事情が違った。
「どうやらさ、シロがクーラー代わりになってくれているから、めっちゃ涼しいんだよね」
『ガウ』
着ぐるみの中からシロを見ると、冷たい風を送り込んでくれるこの子と目が合う。
涼しいけれど、かといって寒すぎないちょうどいい塩梅で温度を保ってくれるので、逆にこの中の方が快適という不思議なことになっている。
「……ちょっと、手入れていい?」
「どうぞ」
周りを確認したアルファは後ろに回ると首と胴の隙間から手を入れてくる。
明らかに外気よりも冷たく涼しい、着ぐるみの中に彼女は真顔のまま、前に回り込んでくる。
「私も中に入っていい?」
「ははは、一人しか入れないだろ」
「……」
「……冗談だよな?」
真顔なんだけど。
……ッ、ちょ、入りこもうとすんな!
胴と頭の隙間から頭だけを突っ込もうとするんじゃない!!
「クロロだー」
「!!」
「わっぷ!?」
子供が近づいてきたことに気付き、アルファを引きはがし隣へ立たせる。
あ、危ねぇ。
危うく子供の夢を壊すところだったぜ……!
俺は身振り手振りでクロロを演じ、近づいてきた女の子と、後から遅れてやってくる母親らしき人物を迎える。
「わー」
すると突然女の子が着ぐるみに抱き着いてくる。
半歩ほど下がりやんわりと受け止めると、女の子は驚きの顔で母親へと振り返った。
「ママ! なんか、ひんやりしてる!」
「ふふふ、リンナ。クロロさんを困らせちゃ駄目よ?」
「はーい! ごめんなさい!」
礼儀正しい子だなぁ、と思いながら離れる少女と被り物の目線を合わせて頭を撫でる。
それで満足したのか、にんまりとした笑顔を浮かべた少女は俺から離れ、別の方向を指さす。
「ねえ! 次、あそこ行きたい!」
「そうねぇ。パパが戻ってきたら行きましょうか? 今、飲み物を買いに行ってくれているから」
「うん! ばいばい、クロロー」
母親に手を繋がれその場を離れる少女。
少し離れると、父親らしき男性が飲み物を持って駆け寄り、そのまま少女が指さした方向へと歩いていく。
……。
「カツキ。大丈夫?」
「……ん? 心配いらないよ。言っただろ? この中は涼しいんだって」
「そういうことじゃないけれど……」
「?」
それよりさっきの女の子が向かった先ってアトラクションではなく、なにか広いステージのある場所だったような気がしたけど……。
「あっちのステージでなにかやっているのか?」
「多分、ヒーローショーじゃないかな?」
「ヒーローショー?」
ここでもやるんだ。
地味に初めて知ったので普通に驚く。
「この遊園地のオリジナルヒーロー、アニマル戦士ウルフブラックと、悪の怪人サメーンとの戦いだってさ」
「なんでそんなに知っているんだ?」
「パンフレットに書いてあったのを見た」
なるほど。
アルファの記憶力の凄さは分かっているので、普通に納得してしまう。
どんどん人が集まっていっているし、これからショーが始まるのかな?
「なあ」
「「!」」
またもや声をかけられる。
今度は子供ではなく、どこかいかつい風貌の男だ。
派手な柄のシャツに、スウェット。
まるで適当に見繕った服を着たとても遊園地に遊びに来るような服装ではない男は、サングラス越しに俺達を見ながらこちらへ近づいてきた。
「あんたら、ここのモンか?」
「そうですが? なにか?」
応対するアルファだが、様子からして警戒しているのが分かる。
男はさほど気にしないまま、何を思ったのかポケットからパンフレットを取り出し、アルファに見せる。
「ここらで、こいつが出るのはどこだ?」
「ウルフブラック……ですか?」
男は面倒そうに頷く。
「こいつに会いてぇんだ」
「それなら……そちらへ真っすぐに向かった先でショーが行われます」
「……」
無言でショーが行われる場所を見る男。
顎に手を当て、数秒ほど思案した彼は、どこか歪んだ笑みを浮かべる。
「こりゃ、都合がいいな」
そのまま男は俺達を無視してショーのする場所へ向かって行く。
俺とアルファは顔を見合わせる。
「不審者?」
「かもしれない」
いや、まだそう考えるのは早計だ。
ただのヒーローショー好きの人という可能性も捨てきれない。
人を見かけで判断してはいけない……!
「一応、確認しにいこうか?」
「ああ、何かあってからじゃ遅いから、いつでも警備員を呼べるようにしておいてくれ」
「了解」
アルファに連絡を任せつつ、俺達はヒーローショーが行われるであろうステージのある広場へと向かう。
距離的にはそこまで遠くではないので、すぐに広場へと到着するがその場にはたくさんの子供達と、保護者である親たちが設置された椅子に座り、ショーの始まりを心待ちにしていた。
「人が多いね」
「俺はさりげなく動かないと、目立つからな……」
あくまで園内を歩き回る着ぐるみとして動きながら、先ほどの男の居場所を確認する。
……人ごみに紛れて見えないな。
どうしたものか、と思っていると不意に、ステージの両端から大きな音と共に煙が噴き出し、ショーが始まってしまう。
湧き上がる子供達。
鳴り響くヒロイックなBGM。
それと共に、五人ほどの敵役の怪人が現れる。
『げっへっへっへ、ここは我々、海鮮団が乗っ取ってやった!! お前達は人質だぁ!!』
……海鮮丼?
いや、違うか。
アニマル戦士がヒーローなら怪人は海関係なのだろうか?
サメーンという名前からして、見た目がサメだし。
あのサメ怪人と比べると、大分可愛い顔をしているけども。
『み、みんな大変! 悪の組織海鮮団にショーが乗っ取られちゃった!! このままじゃみんなが危ない!!』
司会のお姉さんが出てくる。
アルファと同じ制服を着た司会のお姉さんの声に、子供たちはざわつきながらもハラハラとした様子を見せている。
ヒーローショーというのは初めて見るが始まりが唐突だなぁ。
『待てぇ!』
効果音と声。
再びステージから煙が吹き上がり、一人の黒いスーツを纏った男が出てくる。
お、登場だ。
ここで名乗りを上げるのかな?
『そぉい!!』
『ぐはぁぁぁ!?』
と、思ったら問答無用でサメーンに跳び蹴りを繰り出した!?
いや、当ててないから演技なのは分かるがそれでいいのか!?
『俺はアニマル戦士、ウルフブラァック! 邪悪なる海の藻屑共よ! 今すぐ俺に倒されるか、人質を解放してから俺に倒されるかどちらか選べ!!』
「なぁ、これヒーローショーだよな?」
「黒騎士くんリスペクトしてるねこれ……」
言動が完全にヒーローのそれじゃないんだけど。
子供に見せてはいけないタイプのヒーローなんだけれど!
いったいどうなってやがるんだこのヒーローショーは……!?
そんなやり取りを交わしていくうちに、ヒーローショーは滞りなく進んでいく。
言動以外は内容も子供向きで、大人でも楽しめる内容になっている。
「……ん?」
数分ほど見て、そろそろ自分の仕事に戻ろうとしたその時、客席の真ん中を無理やり割って入るように出てくる、先ほどの怪しげな男の姿を見つける。
夢中になっている子供すらも突き飛ばし、ステージの前に出た男にようやく周囲は異常に気付く。
まず最初に動いたのは司会のお姉さんであった。
「ほ、保護者の方でしょうか!? まだショーの最中なので――」
「うるせぇ」
司会のお姉さんを突き飛ばした男は、ステージへと昇りウルフブラックへと近づく。
客席から悲鳴が上がる。
———、あいつ、もしかして……!!
「ッ、アルファ、ジャスティスクルセイダーに連絡してくれ!」
「分かった!」
嫌な予感を抱いた俺は、その場を走り出す。
「クックックッ、テメェが黒騎士とかいう奴か」
「な、なんだね君は! 子供が楽しむ場に何の用だ!!」
「用はお前にだよ」
男の姿に罅が入り、その姿が大きく変わる。
燃え盛るように逆立った髪に、両腕を銀色の装甲で固めた異星人じみた姿。
特に右腕は二回りほど大きな装甲と機械に包まれており、どう見ても人間とは言い難い姿へと変わり果てた。
侵略者か……!!
「さあて、始めようぜ。もうこっちは準備ができてんだからよォ……!」
「……ッ、み、皆さん! 逃げてください!!」
怪人を目の前にして恐怖に声を震わせながらもステージ前にいる人々に逃げるように促すウルフブラック。
そんな彼に手を伸ばそうとする奴。
だが、そんなことはさせない。
「ふぅん!!」
その場で思い切り跳躍し、全力の飛び蹴りを男の背中へ叩きつける。
前に思い切り飛んだ男と向き合いながら前に出た俺に、ウルフブラックの人は驚きの声を上げる。
「く、クロロくん!? そんなに武闘派だったの君!?」
「ここにいる人たちの避難をお願いします!!」
「あ、ああ!!」
黒騎士に用があったのかは分からないが、こんなところで戦いなんて起こさせるわけにはいかない。
最悪、着ぐるみの中で変身を完了させてからルプスストライカーで別の場所に移動するしか。
「どうやら、テメェだったようだなァ。同じ場所にいたもんで勘違いしてしまったようだ」
着ぐるみをきた俺の登場に呆気にとられる周囲の人たちであったが、相手が侵略者だと気づいた彼らの行動は早かった。
すぐに子供達を連れてその場を移動しようとする。
……この際、仕方ないこの場にいる人たちには正体がバレてしまうが、ここで隠して犠牲を出すよりかはずっといい。
「おかげで間違えたやつと、やる羽目になることだったぜ……。だが、丁度いい」
逃げる人々を一瞥した大きな腕の怪人は、右腕を掲げる。
カシャンとスライドした拳に出てくるのはなにかしらの宝玉のようなもの。
ッ、すぐに変身しなくてはマズイ!!
着ぐるみの中で変身を行おうとしたその時、宝玉が夥しい光を放つ。
「ッ!? ここは!?」
次の瞬間には俺がいる場所はステージの上ではなく、どことも知れない広大な空間の中にある直径二十メートルほどのリングのような場所に立っていた。
これは、闘技場か!?
リングの外側の異空間を見れば空中に透明な風船に包まれているなにかを見つける。
「……な……」
透明な風船の中にいるのは先ほどまでヒーローショーを楽しんでいた子供達であった。
皆、眠ってはいるが、今にも割れそうな風船の下には真っ暗な空間が広がっているだけで、もし割れでもしたら助からないと即座に理解した。
「俺はよ、殴り合いが好きなんだわ」
「……」
俺が立っている場所の端で腕を組み佇んでいる腕の怪人を見る。
機械に包まれた腕を見る限り、サイボーグなんだろうが……この星の人間とは異なり、その肌の色は赤色に近い。
「
「今すぐ、子供達を解放しろ」
「でよ、こいつはちょっと俺用に作り変えたもんで……生贄にさせるのは、こっちで選べるようにしたんだわ。俺は自分の命、お前は自身の命と、ここにいるガキどもの命を賭けているわけだ。どうだ? 嫌でも本気になるだろう?」
強制的に自分と戦わせるために、人質を取るということか。
それも範囲内にいる子供全てを異空間に連れていき、誰にも邪魔をさせないようにさせる。
「お前を倒せば、子供達は解放されるんだな?」
「言っておくが俺が武器と認識するもんは使わない方がいいぞ?」
被り物を外し、バックルを腰に巻く。
手に握りしめたシロに、なにか銀色の帯のようなものが巻き付く。
『
瞬間、この空間にアラームのような音が鳴り響き、宙に浮かび上がった数字の3が2へと変わる。
「なんだ……?」
「あーあ、言っただろ? 武器は使わねぇ方がいいって。武器を一回使うごとに一カウント。あれがゼロになったら……あの閉じ込められた子供はどうなるんだろうなぁ?」
「……ッ」
こいつ……!
迂闊に武器を使うこともできないということか。
だが、変身しなければ戦えない。
「ッ、変身!」
バックルにシロを差し込み変身を開始させる。
黒いアンダースーツ、白いアーマーを装着させていきながら、慣れ親しんだ姿―――セーブフォームへの変身を遂げる。
『FIGHT FOR RIGHT!!』
『SAVE FORM!!! COMPLETE……』
煙を噴き出し、変身を完了させた俺に、腕の怪人が揚々とこちらに近づきながら獰猛な笑みを浮かべる。
「俺の名は、星将序列099位“供物決闘のジァウル”!! さあ、正々堂々真正面からの殴り合いとしようぜぇ!!」
99位ということは前のセギラよりも強いのか。
一つ違うだけでどれほど実力が異なるのかは理解できないが、どちらにしろ俺のやることは変わりない。
加速と共に、大きな右腕を振るおうとするジャウルを冷めた目で見ながら、俺は左手を掲げる。
『
人命がかかっているので、さっさと終わらせる。
左手にグラビティグリップを出現させ、アナザーフォームへの変身を行おうとする。
2→1
カウントが減る。
次に武器を使ったら子供達の命は危ない。
だが、これで倒せば―――、
「「「あ、あああああ!?」」」
透明なシャボン玉に電撃が走り、子供達を傷つける。
悲鳴をあげる彼らに、フォームチェンジを行おうとした手を止めジャウルを睨みつける。
「ッ、なにをした!?」
「言い忘れたなぁ! 二回目以降は、子供に電撃が流れるんだった!! まあ、死ぬほどじゃねぇし、滅茶苦茶痛いだけだぜ!! ハハハッ、そいつを使うのをやめれば電撃はきえるがどうする……?」
「……ッ」
グラビティグリップを消し去ると奴の言う通りに電撃が消える。
気絶しながらも苦しみの悲鳴を上げた子供達の表情も、元に戻ったことを確認していると――、
「なぁに余所見してんだコラァ!!」
眼前に近づいていたジャウルの拳が迫り、フィールドの端の壁に叩きつけられる。
両腕でガードしたおかげでダメージこそは少ないが、こいつ……!
「俺はなァ!!」
目と鼻の前にまで迫ったジャウルがその拳を連続で叩きつけてくる。
一撃一撃が凄まじいもので、防御する度に衝撃が響いてくるが、それでも奴は手を緩めずに嘲笑の言葉を叩きつけてくる。
「武器も持てず、何もすることのできない奴を殴り殺すのが大好きなんだ!!」
「……」
「子供はいいなぁ! 人質にすれば無関係なガキでも勝手に守ろうとしてくれるんだもんなぁ!! 俺の土俵で戦ってくれるし、本当に都合のいい存在だァ!!」
とどめ、と言わんばかりに振り下ろされる右拳。
大きく改造され、肘からブースターのような炎を迸らされたそれに、俺は迷いなく掌を突き出し、真正面から受け止める。
「はっ?」
呆気にとられるジャウルの髪を掴み、膝蹴りを顔面へと叩き込み後ろへ下がらせる。
「く、うおおおお……」
「殴ることが好きでも、殴られるのは嫌いみたいだな」
無傷の腕のアーマーを確認しつつ、腕を回す。
一か月前の俺ならもしかするなら負けていたかもしれないが、一か月経った俺は違う。
「まさか、この一か月なにもせずにただお前達を待っていたと思っているのか?」
ジャスティスクルセイダーと一緒に訓練してきたんだぞ?
『いいよォ、その調子! 限界を超えて!! まだまだいけるはずだよぉぉ!!』
『相手の仕草、動きを観察し、無意識に守っている部分を見つける。つまり、直感力を磨くのです』
『君はよく頑張っているなぁ。今の攻撃もすごく良かったし、次はもっとうまくいける。だから……一緒にがんばろ?』
苛烈な訓練で実力を引き上げてくれるレッド。
理論と直感を両立させて教えてくれるブルー。
基礎からしっかり優しく教えてくれたイエロー。
どれも種別こそ違えど、しっかりと俺を強くさせてきた。
「フッ」
拳を避け、蹴りを一撃。
苦し紛れの頭突きに肘を当て、さらに膝蹴り。
相手の動きを予測、小技を入れて混乱を差し込みつつ、威力の高い蹴りで確実に相手の力を削っていく。
だが、さすがは序列99位。
その耐久力は並みのものではない。
「どうした? 殴るのが好きなんだろう?」
「は、はは!」
「同じ土俵で戦えば、自分が勝てると思ったら大間違いだ」
半歩横にずれて、拳を避けた俺はそのまま腕と首を巻き込むように、右腕で引っ掛け地面へと叩きつける。
硬い地面に背中から打ちつけられ、バウンドする奴の背中を蹴り、お返しとばかりに反対側の壁へと激突させる。
「ァ、ガァァ!!」
青い血液をまき散らしながら、赤い肌から炎を噴き上げるジャウル。
それが奴固有の能力なのだろうか?
触れるのは危険と判断し、バックルを一度軽快に叩きながら繰り出される手を避ける。
「テメェ、は!!」
生身部分から吹き上がる炎。
振り向きざまに回し蹴りで散らしながら、さらにもう一度バックルを叩く。
「ただ俺に殴られてりゃ――」
最後に鋭く、刺し貫くように放った拳をジャウルのみぞおちに繰り出した後に―――三度目を叩く。
必殺技の音声が鳴り響く。
赤から、金色の電撃へと変わったエネルギーが、バックルから足へと流れ込む。
『
無言のままのけぞったジャウルを見据え、エネルギーが込められた横蹴りを奴の胴体ど真ん中に叩き込む。
『
吹き飛ばさず、その場に立ち尽くすジャウルから足を引き戻す。
蹴りが効かない――そう思い込み、一瞬笑みを浮かべた奴だが、蹴りが直撃した部分から罅が入っていったことにその表情を恐怖へと変える。
「ッ、嘘だろ……俺は99位だぞ。ここまで上がるのに、何百年かかったか……」
「……卑怯な手を使って、だろ?」
「ハッ、ハハ、違ぇねぇ……」
罅から黄金色の光を漏れ出しながら、ジャウルは絶望の顔を浮かべ、腹部を押さえる。
「あばよ、この、化物……」
最後にその言葉を呟いた後に、ジャウルを中心に爆発が巻き起こった。
その爆発の余波に巻き込まれながらも、奴の消滅を確認すると、周囲の空間がどんどん元に戻っていく。
「……倒せたか」
厄介な能力を使う敵だったな。
今後もこんな奴が現れると思うと気が滅入ってくる。
透明なシャボン玉に包まれた子供達も徐々に地面へと降りていくのを確認した俺は―――ふと、自分の姿と、近くで煤だらけになっているクロロ君を見つけ、顔を青ざめさせる。
「やばばばば!?」
このままじゃ白騎士としての俺の傍にクロロ君の生首が転がっているやべぇ光景になってしまう。
慌てて変身を解いた俺は、着ぐるみの姿のままクロロ君の被り物を被る。
それと同時に、俺と子供たちが閉じ込められていた空間が解除され、周囲には警察の方々と、最早見知った顔のジャスティスクルセイダーの三人の姿がそこにあった。
「「「……」」」
「……」
煤だらけの被り物をしている俺を見て、三人はなんとも形容できない反応をされてしまう。
ま、まずい!? 俺はここでバイトするということを説明はしたが着ぐるみの仕事をするとは言ってはいない!
アルファは説明してくれたのか!? レッドは怪人には手加減しない!?
勘違いされたらたまったものではない!
声を出す!?
いや、こんなところで普通に喋ったら園内で着ぐるみが地声で喋り出すことになってしまう。
それでは雨宮さんに申し訳がたたないことに……!
なにかしら、打開策を……はっ!?
「ボっ、ボクはクロロだよ、怪人じゃないよっ!!」
出せる限りの裏声を出すと、周囲に気まずい沈黙が支配する。
猛烈な羞恥心に駆られながらも、近くで呆然とした様子の警察の人たちに地面に寝かせられている子供達のことを話す。
「子供達をいますぐに安全な場所に、早く!!」
「あ、ああ! しかし君は……」
「そんなことより今はもっと重要なことがあるでしょう!!」
「着ぐるみに諭されるとは……いや、確かにその通りだ!」
ハッと我に返る人々と、この場にやってくる保護者達。
時が動いたように動き出す状況と、未だに無言でこちらを見ているジャスティスクルセイダーを気にする。
「く、クロロくんが……怪人を倒した……!?」
「……ん?」
不穏な呟きを聞いたような気がする。
やや焦げ臭い被り物の中でため息をついていると、俺の元にレッド達がやってくる。
彼女達のおかげで周りの人が近づいてこないのは安心できるが……あっ、アルファがいた。
後で、合流しなくちゃな。
「ねえ、カツキ君」
「レッド、アルファから聞いてたか……」
「ううん、仕草と声で分かってたけど」
「そうか。……ん?」
なんか今おかしな言葉が混じっていたような。
「怪人は倒したの?」
「ああ、光の柱も使わずに現れたから驚いたよ。後でシロから記録を提出する」
「なら、安全ってことね。私達も戻らなきゃならないけど……」
ん? なんだ?
やけに期待を込めた雰囲気の三人に首を傾げると、レッドはチャンジャーからスマホのようなものを取り出す。
「ねえ、この後一緒に写真撮ってもらってもいい? あと抱き着いても大丈夫?」
「待って、レッド。司令に許可を。公式のコラボとしてやろう」
「クロロくん、弟と妹が好きなんや」
「君達はもっと他人の目を気にしろ! ヒーローだろ!?」
事態がもっとややこしくなるじゃん!
君達、そんなクロロ君好きだったっけ!?
その後。
幸い、白騎士としての自分が戦っている場面を誰も見なかったわけだが、後日煤だらけの頭のクロロ君とジャスティスクルセイダーの写真が、公式ブログにて掲載されてしまうのであった。
怪人はどこかへ消えた、という話で終わり、着ぐるみにいた俺も、巻き込まれた子供達も無事だったということで一先ずは事件は終わりを迎えた。
しかし、一部の人々はクロロくん怪人倒した疑惑とか滅茶苦茶なことを言っていたりして、地味に大変なことになりかけたのはまた別の話だ。
99位は強制的に自分の有利なステージに引きずり込む能力持ちでした。
レッド達の英才教育を受け成長した主人公には、及びませんでしたが普通に厄介な敵でしたね。