前回の続き、主人公視点となります。
ジャスティスクルセイダーと共にルプスストライカーに乗り現場へと向かう。
異星人が現れたのは真昼間の都市の中。
光る柱も出さずに現れた奴らは、暴れず、ただ街中に立っているだけで、どうやら俺達の到着を律儀にまってくれているらしい。
その時点でこれまでとは明らかに異なる怪人だ。
「待ちわびたぜ、白騎士、ジャスティスクルセイダー!」
俺達が到着するなりそんな声を上げたメタリックな装甲を纏った機械の男? は腕を組んだまま満足そうに頷いた。
武器に手をかけているレッド達を見つつ、ルプスストライカーを降りる。
「俺は星将序列50位“双星ジェム”だ!」
無言のままレッドとブルーが攻撃を叩き込む。
飛ぶ斬撃とエネルギー弾を前にして、余裕の様子の機械の男。
しかし、彼が動くと思えば、その隣にいたもう二体の人型の機械が盾になるように動き出し、バリアーのようなものを張る。
「防いだ……!?」
レッドとブルーの攻撃を!?
いきなり50位に飛んだだけはある……!
なんて余裕の表情を見せるんだ、あの機械男は……!
「……」
「「なにをアホ面を晒しているのですか? 避けるそぶりくらい見せてください」」
「ハッ!?」
二体の声がぴったりと重なり、余裕のまま動かないジェムに投げかけられる。
目の光を点滅させながらハッとした顔を浮かべた彼は、驚きのまま自身の機械の身体に触れる。
「うお、いきなりだな! 全然反応できなかった! 今死んでたぞ、俺!」
「「手練れを相手に油断しすぎでは? だから貴方はいつまで経っても姉君の影から逃れられないのです」」
「いやぁ、辛辣だなぁ! でもやっぱりジャスティスクルセイダーは俺では無理だ!! 地球、恐ろしいなおい!」
ジェムが男のような姿をしているなら、彼を守るもう二体は女性のような姿をしていた。
アンドロイド、というやつなのだろうか?
そのどちらも声も同じ。
話しかけるタイミングすらも同じで、双子というよりは同じ個体にも見える。
「油断大敵、うーん、地球の言葉は面白い。興味をそそられるよ。……後、五体くらい君を連れてきた方がよかったかな?」
「「否定。どれだけ連れて来ようとも結果は変わりません」」
「君が言うのならそうなのだろう! しかし、これが地球か! 記録で地球の怪人とやらを拝見させていただいたが、まさしく異常な星だ!」
……なんなんだこいつは……?
俺達を前にして笑っていることもそうだが、敵意がない。
「白騎士君」
「……どうした、レッド」
通信機能を用いて声をかけてきたレッドに答える。
「私達があの二体の相手をする」
「……リーダー格じゃないのか? 君達なら……」
「真ん中の奴より周りの二体の方が強い。今の君じゃきついかもしれない」
そこまでの相手か。
アナザーフォームならチャンスはあるけれど、こんな街中で使う姿じゃないし、タイムハザードに至っては十秒間限定で、変身後に強制的にセーブフォームに戻されてしまう。
「さて、じゃあ、俺は当初の予定通りに白騎士を相手にしようか」
「「了解しました。では、私達は破壊活動を行いつつ、ジャスティスクルセイダーとの戦闘を」」
「頼んだ。まともに戦うなよ?」
———ッ、破壊活動だと!?
ジェムの言葉の直後に、二体の女性型アンドロイドの肩部分から、ビーム砲のようなものが飛び出しビルへと放たれた。
ビームは拡散し、ビルへと向かっていく。
「ブルー!」
「全部は無理だけど……!」
二つの銃を構えたブルーが連続でエネルギー弾を放つ。
レッドとイエローも飛ぶ斬撃と、電撃を放ちながらビーム砲を落としていくが、撃ちもらしたビームのいくつかがビルや建物に直撃し、爆発を引き起こす。
「やー、あれを九割方撃ち落とすか! もう褒めるところしかなくて劣等感湧くなコレ!!」
「「では、出撃します」」
「ああ、行ってこい。壊されるなよ、
「「了解。マスター」」
女性型のアンドロイドがさらに変形し、背中にブースターのようなものが出現する。
二体同時に同じ方向に飛び出し、その二体をレッド達が追う。
「白騎士君! そいつを!」
「ああ、任せろ!!」
爆発音と金属音を背にしながら、俺はジェムと向き合う。
奴は戦う素振りも見せずに、俺を観察するように複眼の中で光る眼を細めた。
「さあ、少しだけ君とお喋りをしようか」
「……!」
「そうか? なら、戦いながらしよう」
接近し叩きつけるように振るうダガーを、相手は杖のような武器で受け止めながらそう言葉にする。
「今のうちに言っておくけど、いいかな?」
「……なんだ」
「俺、負けそうになったらすぐに逃げるから」
「ハァ!?」
驚き声を上げると、ジェムはからからと笑みを浮かべる。
ッ、動揺を誘われるな!
冷静になり、ダガーを持ち替えながら連続で振るい、蹴りを繰り出す。
「おおっ!」
奴は杖を盾にして蹴りを受け、そのまま後ろへ跳ぶ。
衝撃を逃がし着地しながら、大仰に腕を広げてみせた彼に俺は言葉にできない不気味さを抱く。
「見て分かると思うが、俺個人は序列50位としての実力はない。高く見積もっても75位ほどだ」
「それでも、強いだろう」
「いいや、弱いさ。お前がアナザーモードになれば成すすべなく俺は敗れることになるだろう。アックスイエローも怪しいし、とにかく君に本気で戦われるのは俺としても中々にきついのだ」
アナザーフォームもアックスイエローも知られている……!
間違いなく、こいつは対策してここに立っている。
そのためにこいつは……。
「その物騒な姿にさせないために、お前を人の多い都市に誘い出した。地球人の危機に対する意識が低いのか分からないが、まだ周囲にぼちぼちと生命反応があることから、逃げていない者もいるだろう」
「……!」
「おおっと、怒るなよ。怒りはお前を別人に変えてしまうぞ?」
本当にやりにくい……!
これまでの異星人とは違う。
こいつは俺達のことをちっとも侮っていないし、街を破壊することもあくまで手段としてしか考えていない。
だからこそ、厄介だ。
「そもそも、序列30から70位ほどまでは明確な力の差はほとんどないからな。得手不得手やら、色々あって序列が分けられているが、相性によって逆転することも多々ある」
「目的はなんだ……! 俺を殺すためか!」
奴の言葉を無視し、怒鳴りつける。
それに物怖じせずに、相手は肩を竦める。
「いや、いやいやいや、それは違う。以ての外だ」
「ッ!」
「お前を倒すことは俺にとって必ずしもいいことではない。正直、同情しているよ」
ここまできて話をややこしくするのか!
俺はバックルをスライドさせ、ソードレッドへとフォームチェンジする。
『
『
「ハァァ!!」
炎を纏わせた剣を叩きつけ、杖を両断させる。
「うおお!? 出力が上がってる! さすがに成長速度が違うな!!」
真っ二つになった杖を捨てたジェムが手元に光と共に剣のようなものを転送させる。
それを片手で持ち、俺の振るう剣と打ち合う。
「俺はな、手伝いに来たんだよ」
「どういうことだ!」
「お前を強くしてやるって言っているんだ!」
駆動音と共にジェムの身体に光が走り、その力が急激に増幅される。
力でソードレッドを上回った奴は、そのまま俺を押し返し、剣を叩きつける。
「ッ」
「あとは、そうだな。……命乞いだよ」
「誰にだよ!」
「お前にさ!」
ちっともそうしているようには見えないんだけどな!
剣を背後に流すように受け止め、そのまま柄を胴体に叩き込む!!
「意味が分からないんだよ!」
「ハハッ、そりゃそうだよな! あぁ、今の力でもこれか!」
力で上回れるのなら技で上回ればいい。
剣を受け流し、フェイントを入れながら剣戟を交わしていく。
「正確に言うのならお前にではない。いや、見方を変えるならお前にか? まあ、どちらでも同じか」
一人で首を傾げながらも、奴は人差し指を立てる。
「つまりまとめると、お前を強くしてやるから命だけは見逃してほしいってことになる」
「だから、なにを言っているんだ! お前は!!」
「悪い話ではない。一つ問題があるとすれば、お前が成長しなければ、お前自身とこの星の命そのものが終わることになるがな」
ッ!!
「そして――」
武器を投げ捨てた!?
驚きながら無手となった奴に攻撃を繰り出そうとすると、不意にジェムの機械の身体に黒いエネルギーが溢れだし、その動きが掻き消える。
瞬間、俺の身体にとてつもない衝撃が襲い掛かり、背後の建物に背中から激突する。
「俺は弱いと言ったが、その姿のお前よりは強いぞ?」
「ぐ、ぐッ……!」
明滅する視界。
首を振りながら立ち上がり、ジェムを睨みつける。
「さあ、俺の命のために成長してくれよ! 白騎士!!」
「ふざけるな! ……ッ!」
コンクリートの地面が爆ぜ、ロケットのような速さで殴りかかってくるジェム。
その動きには先ほどまであった正確さも、精細さも欠け、ただ相手を殴殺するための拳に全てを注がれていた。
「やば……!」
その場で地面を転がり回避しながら焦る。
なんだ、この速さは!?
真っすぐ、俺に突っ込んでくるだけなのに理不尽なくらいに速い。
これまでの回りくどい言動から想像できない真っすぐな拳は、容易く俺の防御を貫き、身体に衝撃を叩きつける。
「ッ、ラァ!!」
吹き飛ぶ前に剣の柄を叩きつけ、拳の軌道を無理やり変える。
だがそれでも止まらない。
まるで、肉食獣のように獲物に食らいついたら離さず、絶対に攻撃を叩きこもうとするその意思は、並みのものなんかじゃない……!!
「あぁ、とんでもない挙動で動くなァ! このデータは!!」
「なん、だと……!!」
「戦闘データさえあれば、俺はそいつの動きを
「その動きは、お前のものじゃないのか!」
「その通りさ。俺はインテリだからな! 肉体を鍛えるのではなく、頭に叩き込むのさ!!」
槍のように放たれる正拳突き。
その一撃は容易く装甲に罅を入れる。
「こいつはある地球の戦士の映像データから戦闘パターンを解析したもの。だが、これはどれだけ
これで、46%!?
本物は一体、どれだけ――、
「それ以上の再現を行おうとすれば」
「ッ!!」
「こうなる!!」
30メートル以上離れた距離を一瞬で詰めたジェムの拳が、防御に構えたフレイムカリバーをあっさりと粉砕し、胴体に直撃する。
アーマーが割れ、骨が軋む音と共に、俺の身体は遥か後方の建物をいくつも貫通し、地面に叩きつけられる。
「がはッ……!」
どこかの地下を転がりながら、変身が強制的に解除される。
手元に転がったシロを見ると、その機械の身体のいたるところに罅が入っていた。
「シロ、大丈夫か!? お、おい……!」
『ガウ!』
え、鳴き声はすっごい元気そうじゃん……。
痛みに悶えながら瓦礫の中で立ち上がった俺の前に、ジェムが現れる。
しかし、奴が攻撃のために繰り出した右腕は歪に折れ曲がり、スパークが迸っている。
「ほら、ものの見事に腕が壊れてしまった。機械の俺ですらこれなのに、地球人は戦闘に特化した生命体かなにかなのか?」
そのまま右腕を切り離した奴は、次の瞬間には同じ形状の右腕を転送し、入れ替えるように嵌め込んでしまった。
「機械生命体ならではだろう? 生身と違い取り換えが利くんだ」
「……ッ!」
「素顔でははじめましてか? ああ、安心するといい。ここには地球人の目もなく、カメラも存在していないぞ?」
絶体絶命だ……!
まだ変身できる余地はあれども、あの力に俺は勝てるのか?
一か八か、アナザーフォームで……いくしか……! いや、駄目だ。ここで暴れたら建物ごと崩壊する恐れがある。
「さて、どうする? 変身は解除されてしまったが、まだ続けるかな?」
「ここで終わりにしたら、お前は誰も殺さないのか?」
「……」
一瞬の沈黙の後に、ジェムは声を張り上げる。
「いいや、勿論。侵略するさ! 俺達は、悪い侵略者だからな! 悪逆非道の限りを尽くし、お前達地球人を血祭りにあげてやるのだ!」
「……なら、ここで終わりにできるはずがないだろ……!!」
変身を行おうとして、罅だらけのシロが視界に映りこむ。
———、ごめん、こんな目に遭わせて。
でも、もう一度、俺に力を貸してくれ……!!
「また、頼むぞ。相棒」
『LUPUS DRIVER!!』
シロをバックルに差し込み、特徴的なメロディーが流れだす。
そのままいつも通りにバックルを叩こうとして――目の前のジェムの立ち姿が、別の誰かと重なる。
黒い仮面を被った漆黒の戦士。
剥き出しになったパーツに、どう見ても敵のような姿をしたそいつは、俺の目を仮面越しに真っすぐと見つめているだけで、何も言葉を口にしない。
「……」
“黒騎士”の幻影は何も口にはしない。
ただ、俺を指さし、霧のように姿を消してしまった。
幻かそれともジェムの行った策かどうかは分からない。
だけど、不思議と恐怖はなくなった。
「変身!」
バックルを叩く。
その衝撃にシロの罅割れた外装がはじけ飛び、銀と金入り混じった姿へとバックルとベルトが変化する。
『
セーブフォームとは異なる音声と共に、エネルギーフィールドと共にアンダースーツとアーマーが展開される。
『
『
白いアーマーと仮面が全身を覆うところまでは変わらないが、その上からさらにアーマーの縁を覆うように金色の装飾が施されていく。
『
見た目に大きな違いはない。
しかし、それ以上の力を俺は感じ取る。
「お前を、超える!」
「そうこなくちゃなぁ!!」
俺と、ジェム。
同時にその場を飛び出し、繰り出された飛び蹴りと拳が閑散とした地下で激突する。
黒騎士(幻影)「俺を超えてみろ……!」
白騎士くん「(´・_・`)……?」
自称インテリアンドロイドのジェム。
本体ではなく、作ったものが強いタイプなので、本人の実力は序列70位前後。
しかし、黒騎士君再現時は戦闘力が大きく跳ね上がります。