追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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今回はギャグ&ブルー回。

前半はブルー視点。

中盤からは主人公視点となります。


口喧嘩と必勝法

 私達、ジャスティスクルセイダーが学校に通っている理由は、普通の人間としての生活を忘れないようにするためだ。

 少なくとも私、日向葵はそう思っている。

 怪人との苛烈な戦いは人間性を削り、その思考を鬼へと変える。

 レッドであるアカネあたりは完全に普段の生活と、戦闘時の気持ちの切り替えができているあたり異常だ。

 イエローのきららは、家族というメンタルケアがいることから精神的な心配はない。

 私は……まあ、精神的に図太いと小さい頃から言われているので、それほど自分が変わったという自覚はない。

 例え、戦いの中に身を置いたとしてもだ。

 

「葵ってさ」

「なんぞ」

 

 平日の昼休み。

 夏休みを目前にさしかかり休みまでに学業を惰性的に過ごしている私に、同じクラスの友人、天花 緑(あまはな みどり)が手作り弁当なるものを口にしながらそんなことを聞いてきた。

 

「変な子だよね」

「……今更?」

「自覚あったんだ……!?」

 

 緑っぽい黒髪を後ろで一つに結ったミドリは衝撃に打ち震える。

 

「葵って不思議ちゃんどころじゃないし」

「いやいや、私、理系だから」

「それ毎回言っているけど、キャラ付けのつもり?」

「なってるでしょ?」

「なってないよ!? あんたどんどんオカルト方面に向かっていってるじゃん!!」

 

 オカルトも突き詰めれば立派な科学なのだ。

 なぜ、それが分からない。

 

「まったく、これだからトーシローは」

「すっごいイラっときたんですけど」

 

 私もお腹が空いたので、鞄から布にくるまれたタッパーを取り出す。

 そこにはサンドイッチが綺麗に並んでおり、タマゴサンド、ツナサンドなどシンプルなラインナップに彩られている。

 

「あれ、いつもと違うね」

「行きつけのカフェで作ってもらった」

「買ったんじゃないの?」

 

 聞いてくれるのかな?

 ならば、話そう。

 

「フッ、行きつけの店のバイトの人がサンドイッチを作る練習をしてる情報を掴んだの」

「あー、葵が気になっているって人の……」

「で、その人にお願いしたの」

「うん」

「それで、練習のためのサンドイッチを作ってもらうことに成功した」

「図々しいよね? 恥を知れよ」

 

 酷い言われようだ。

 これが、私の友達の姿なのか……?

 

「図々しいかどうかは私が決めるとするよ」

「……それでも……!!」

「……」

「……」

「やめよっか」

「そうだね」

 

 ネタも振りすぎれば不毛なのだ。

 サム八語録は無敵ではあるが、負けないから無敵であって勝つから無敵であるとは限らないのだ。

 先ほど購入した紙パックのジュースにストローを突き刺しながら、昼食を食べる。

 

「これを私のマブダチの先輩二人に見せて煽ってやろうと思ったけれど、獣のごとく襲い掛かってきそうと理系シックスセンスが発動したのでやめておいた」

「どうしよう、ツッコミどころが多すぎて捌ききれない……!?」

 

 きららは割とふざけてくれるからいいけど、アカネが本気になれば私も本気にならざるを得ない。

 ジャスティスクルセイダーは仲良しではあるが、それは時と場合で変わる時もあるのだ。

 

「先輩達と仲いいのってどうなの? 私はそんなに知らないんだけど」

「アカネ先輩は王道負けヒロイン。きらら先輩は、眼鏡取ると美少女に変わるタイプのヒロイン

「ねえ、ギャルゲで例えるのやめてくれない?」

「緑は主人公の友人タイプで電話十回くらいするとルート解放される――」

 

 無言のまま緑から振り下ろされる手刀を甘んじて受ける。

 かよわい女の子なので暴力には弱いのだ。

 

「あんたって本当に、変! 私達とは違う生き物みたい!」

「そこまで言うか」

「世間一般の同年代と比べて、なんかズレてるじゃん」

 

 そのようなことはありえない。

 緑の言葉に呆れ、肩を竦める。

 

「なにを言う。漫画とかアニメとか小説とかも好きだよ」

「範囲が広すぎるし、その内容がネタに振り切っているのもどうかと思う。……じゃあ、好きなゲームなによ? パズル系?」

「ブラボ」

「なんッで! 女子高生がブラッドボーンを推してんのよ! その時点でおかしすぎるわ!!」

 

 知ってる緑も相当だと思うんだけど。

 ツッコミ疲れたのか、水筒からお茶を一気飲みした緑は椅子に座り直す。

 

「アホなことを除けば、あんたは天才だと思う。アホだけど」

「二度も言ったー」

「何度だって言いたいわ」

 

 そこまで言うか。

 呆れた様子の緑は机の頬杖をつく。

 

「まあ、まだこういう話ができるうちはあんたも大丈夫そうね」

「私はいつだって変わらないよ。どんな状況でも」

「……本当に、気を付けてよね。あんたがいなくなったら、結構寂しくなるんだから。あんたが席からいなくなる度に色々しなきゃいけないこっちの身にもなりなさいよ」

 

 友人であり、校内の協力者の一人。

 それが緑だ。

 いつも心配をさせていることを申し訳思いながら、私は私らしく答える。

 

「緑」

「ん?」

「私以外に友達いないの?」

 

 さすがに勢いの乗った拳は避けた。

 冗談もほどほどにしないと痛い目を見る。

 また一つ、私は賢くなった。

 

「そういえばさ、あんたはどう思ってるのよ」

「どうって?」

 

 周りを一旦確認した緑が声を少し潜めて話しかけてくる。

 

「黒騎士が記憶喪失になってるってこと。私達は末端だから知らされてないんだけど、事実なのよね?」

「事実だよ。でも、今はそれほど気にしてないかな」

「え、そうなの?」

 

 記憶がなくなったわけじゃない。

 記憶をどこかに仕舞われてしまっただけなのだ。

 いずれは戻されると明言されているのなら、今の彼と絆を育めばそれでいい。

 

「私のやることはいつだって変わらない」

 

 敵を倒す。

 倒して、誰かの平和を守ることだ。

 サンドイッチの最後の一切れを口に放り込んでいると、腕に着けている腕時計型のチェンジャーが微細な振動を繰り返していることに気付く。

 ……どうやら、侵略者は私達に平穏を送らせてはくれないようだ。

 

「はぁ。緑、後は頼むよ」

「気をつけなさいよー。ま、こっちはこっちでなんとかしておくから」

「うーい」

 

 荷物を緑に託し、その場を走り出す。

 異星からの侵略者も怪人もこっちの都合を考えずにやってくるのは同じ。

 そこが一番厄介なところだ。

 


 

 また新たな侵略者がやってきた。

 一緒にカフェで働いていたアルファの知らせを受けた俺は、マスターに申し訳なく思いながらバイトを途中で抜け出し、現場へと向かう。

 途中でジャスティスクルセイダーの三人と合流し、到着したのは都会から少し離れた海岸であった。

 港とは異なり、白い砂浜が広がった場所に着地した俺達を待っていたのは、一人の異星人。

 

「やあやあ、待っていたよ」

 

 角のようなものが生えた目が真っ白な男。

 その手には本のようなものを抱えており、様相からして人間に近い様に見えるけれど、気配は全く異質だ。

 

「ッ!」

 

 レッドが無防備に立っている男に、飛ぶ斬撃を放つ。

 真っすぐに首へと飛んで行った斬撃だが、それは男の前に現れた不可視の壁のようなものにぶつかり、砕け散ってしまう。

 

「おっと、今の私に攻撃しても無駄だよ? 既にここは私の領域だからね」

「……」

「言葉を交わすつもりはない、と。それじゃあ駄目だ。君達にはこの私の分野で戦ってもらわなければならない。生憎、私は君達のように粗暴で野蛮な種族ではないからね」

 

 男が指を鳴らした瞬間、俺とレッド達の周囲が暗闇へと包まれる。

 これは、99位の時と同じ……!?

 

「相手にルールを押し付ける系だよ……あー、もう本当にこういう能力使うやつ嫌いだよ」

「相手の条件で勝たなきゃいけないのも面倒やしね……」

「めんど……」

「反応が呑気すぎやしないか君達!?」

 

 レッド達にツッコミをいれていると暗闇に包まれた空間に、フィールドのようなもの向かい合うように設置された四つの証言台のようなものが出現する。

 昔の時代を舞台にした映画で、裁判の時に見るような台。

 それを見て首を傾げると、その一つの前に俺達をこの空間に巻き込んだ男が暗闇から現れる。

 

「改めて自己紹介を私は星将序列077位“問答のケフカ”。知識の探究者であり、叡智を司る私ですが、今回は侵略者らしく私の土俵で、私の戦い方で皆様と相まみえたい所存であります」

 

 恭しくお辞儀をしながら証言台のような台に足を乗せる。

 すると台はひとりでに浮き上がり空中に固定される。

 

「この空間は私を含めて一切の攻撃は無効とされます。原理を教えたとして理解できるとは思ってもいませんので、固有の術を持っていると思ってくださっても構いません」

「……いちいち癪に障る言い方をするね」

「当然です。私は高度な知識を司る高次元の生命体。一方の皆様は、地球という限られた星に生きる者。持っている知識の格が大きく異なりますから」

 

 見下されているのは分かるけど、言い方が回りくどいな。

 とにかく俺達は物理的な攻撃を相手に向けることができない。

 ただそれは相手も同じはずだ。

 

「私の力は特定の“ルール”に準じた言葉の争いとなります。相手を同じ言語を用い対等な勝負の元、弁論を以てして勝敗を決めます」

「こっちが勝ったら?」

「生きて出られるのは、私か皆様のどちらかとなります」

 

 ケフカが手を掲げると、空中に五つの棒のようなものが現れる。

 五つに区切られたソレは、格ゲーの体力ゲージのように俺達とケフカの頭の上に出現する。

 

RED                 

BLUE                    

YELLOW               

WHITE                

 

 WHITEって俺のことか?

 たしかに白騎士って呼ばれてはいるけど。

 

「今回、掲げたルールは“悪口”とさせていただきます」

「わるぐち? は、悪口?」

「ええ。相手を罵り、打ち負かされれば頭上のゲージを徐々に失い、なくなれば発言権を失います」

 

 な、なんだそりゃ……。

 お、俺、悪口なんてあまり言ったことないし自信がないんだけど。

 

「え、えぇ、わ、私、人に悪口なんてあまり言ったことないんだけどなぁ」

「?」

 

 ちらちらとこちらを見ながらそう言ってくるレッドに首を傾げる。

 

「あんた怪人にいつもなんて言って切り刻んでいるか思い出せや」

「口汚いオプティマスブラッドじゃん」

「うぐっ……」

 

 するとレッドの頭上の体力ゲージが二つ分減り、残り三つになってしまった。

 味方の攻撃でも普通にダメージ受けているんだが!?

 自身の体力に気付いたレッドが、慌てた様子でケフカに叫ぶ。

 

「ちょっとどういうこと!?」

「えぇと、既に勝負は始まっておりますので、味方の悪口も攻撃と見なされますので気を付けてください」

「そういうことは早く言ってよ!? 最初からダメージ受けた状態から始まることになったんですけど!!」

「さすがに味方から攻撃される例はなかったので……いえ、あの……正直、普通に引いています」

「……ッ! ……!!」

「レッド、駄目だ! ここでは攻撃は通じないからっ!」

 

 とりあえず剣を引き抜こうとするレッドを止めつつ俺達は証言台へと上がる。

 すると宙に浮かんだ台は、空中で横一列に連結し、ケフカと向かい合うような形状へと変化する。

 並びは……レッド、イエロー、ブルー、俺の順番か。

 

「うわぁ、遊戯王の初期デュエルフィールドみたい……」

「え、なんて?」

 

 隣のブルーの呑気な呟きに驚きながら、ケフカへと意識を戻す。

 

「では、始めようか」

「四対一……ううん、三対一やけど、そっちはええんか?」

「ねぇ、なんで私を省いたの? ねえ?」

「別に構いません。何人来ようが私には関係がありませんので」

 

 これ、後でレッドのフォローをしておいた方がいいかもしれない。

 さすがにこの扱いはかわいそうだと思いながら、静かにこれまで体験することのなかった言葉を用いた勝負が始まる。

 

「では、手本を見せるために私からさせていただきましょう」

 

 本を抱えながらケフカがその視線をレッドへと向ける。

 

「この星では貴女はヒーローらしいですね」

「そうだよ、バーカ」

「なのに貴女は……ぷふっ」

「切り刻むぞ」

 

 途端に殺気立つレッドにイエローとブルーが頭を抱える。

 お、驚くほどに煽り耐性がない……!?

 まだ体力が削れてないけど、これまずいんじゃないか……?

 

「えぇと、オプティマスブラッド?」

「!?」

「危険度レッド?」

「……ッ」

「人斬りブラッド?」

「くっ……」

「これ、仮にも女性につける異名ではありませんねぇ」

「う、うぅ……」

「情けとして明言しませんが、貴女本当に女性としての意識を持っているんですか?」

 

 レッドの体力ゲージが一瞬で一になった!?

 肩を震わせたレッドはそのまま、やけくそとばかりに薄ら笑いを浮かべるケフカに叫ぶ。

 

「……ば、バーカ! バーカ! バァーカ!!」

「レッド。これ以上は話さない方がいい。スケットダンスのボッスンみたいになってるから」

「お、お前なんか物理で戦えば一瞬で撫で斬りだよバーカ! バーカ!!

「レッド、もうええ! ええんや! 喋らなくてもいい!!」

 

 な、なんて強敵だ……!? 

 あのレッドをここまで追い詰めるやつを初めて見たぜ……!!

 これは油断してかかっていい相手じゃない。

 レッドは実質、敗北しているから後は俺達で頑張らなきゃならない。

 

「レッド、あんたの無念は晴らしたる! 今度はこっちから攻撃や……!」

「どうぞ、かかってきてください。無個性さん」

「……」

 

 なんでイエローの体力が減ったぁ!?

 本当になんでだ!? やべぇなこの相手!?

 

「へ、へぇ、やるやんか。だけど、調子に乗るのもそこまでや!」

「え、すみません。ちょっと私の知る日本の言語とは異なるので聞き取れませんでした」

「……。調子に乗るのもそこまでだよぉ!!」

「あ、戻すのですか。まあ、所詮それだけのキャラ付けに過ぎないんですね。……呆れたものです」

 

 イエローの体力がものすごい勢いで削られていく!

 まだ何もしていない俺が言うのもなんだが、君達ダメージ負いすぎだろ!?

 

「レッドやブルーと比べても地味なんですよね。貴女、勝っているのはふくよかさくらいですね」

「いや、勝っているというより、むしろ邪魔なくらいやけど」

「グフッ、持つ者特有のテンプレ台詞……!?」

「なんで君がダメージを受けるんだブルー!? おかしいだろぉ!!」

「その邪魔さを得られなかった者もいる……!」

 

 い、意味が分からん!

 胸を押さえダメージを受けるブルーに驚愕する。

 さっきの流れでどうして君がショックを受けるんだ……!

 

「ま、まずい……」

 

 レッドが残り体力1。

 イエローが残り2。

 ブルーが残り4。

 俺が、依然として無傷。

 こ、こうなったら俺が頑張るしかない……!!

 

「他愛ないですねぇ、ジャスティスクルセイダー。では、次のブルーを手早く片付けて、最後に白騎士を料理してやりましょうか」

「ほう、この私を手早く、ね」

 

 なぜかここで既に1ダメージ受けているブルーが得意げに笑う。

 謎の自信だが、なにか秘策でもあるのだろうか?

 いや、ブルーは謎の口喧嘩の強さを持っているような気がする。

 

「期待外れもいいところです。噂に聞くジャスティスクルセイダーがここまで駄目な連中とは、これでは別の惑星の知恵を持つ生命体に勝負を挑む方がどれだけ有益か……」

「……」

「ブルー、貴女のことも調べましたよ。冷酷無比な狙撃手。意味不明な言動と、機転で――」

「フッ」

 

 嘲るような、失笑するような笑みを浮かべたブルーに、僅かに眉を吊り上げるケフカ。

 

「私達を見下していた割には、よくもまあ調べてきたようだね」

「情報収集をしてはいけないと?」

「そうまでは言わないさ。しかし、疑問に思ってしまっただけだよ」

 

 人が変わったように余裕の素振りを見せ腕を組んだブルー。

 

「高次元の知生体を自称するのなら、どうして私達の情報を事前に集める? そのようなことをせずとも君達は容易くこちらの思考を上回ることができるはずだ。なぜそうしない? できれば理由を教えてくれないかな?」

「なぜ、それを貴女に話さなければならないのですか?」

「多弁は偽り、沈黙は肯定。疑問に対して疑問に答えることは、図星を突かれたことを意味する。……そうか、なるほど理解したよ」

 

 な、なにが?

 なにを理解したんだ?

 首を傾げる俺達にブルーはケフカを指さす。

 

「恐ろしいのだろう? 私達が」

「ありえない!!」

「囀るなよ。これは言葉の勝負だろう? 勝負を仕掛けた君が激昂してどうする? それにほら……」

 

 次にブルーが指さしたのはケフカの頭上。

 彼の頭の上の体力ゲージは、一つ減っていた。

 

「一つ減っているぞ?」

「~~~ッ!!」

「恐ろしいと感じることを恥じる必要はない。安心するがいい、叡智の侵略者よ。それは同じ生物として抱く普通の感情だよ」

「同じ、生物だと……!! この私を、お前達と同列の生命体と見なすのか!!」

「ほら、また一つ減った」

 

 激昂し、また一つゲージが減り残り三つ。

 ハッとした顔を浮かべたケフカは、それでも怒りに肩を震わせながらブルーを睨みつける。

 

「まさか、この私を怒らせて……!」

「騙したつもりはないさ。君が勝手に怒りだし、君が結果墓穴を掘っただけのこと。『私は悪くない』

 

 さらに一つ減り、残り二つ。

 す、すげぇ、ここまで相手を煽るなんてすごい。

 

「ブ、ブルー、だよな?」

「うん」

「なんか人が違くない?」

「藍染ムーブしてるから。あとちょびっとクマー」

「???」

 

 アイゼンとは誰だ……? クマーとはなんだ……?

 ブルーに聞いてみても意味が分からないままでいると、何を思ったのかブルーはおもむろにチェンジャーを操作し、変身を解除させる。

 

「ブルーなにしてんの!?」

 

 静かにしていたレッドが慌てた様子で声を上げる。

 元の姿に戻ったブルー、葵はあっけらかんとした声を発する。

 

「こっちのほうがいいかなと思って」

「いやいやいや、変身解いたら危ないやろ!?」

「もしもの時は、白騎士君が助けて」

「いや、助けるけども!!」

「なら大丈夫」

 

 なぜに変身を解く必要が……!?

 そんな衝撃的な行動を目の当りにしていると、ケフカは深呼吸をし落ち着きを取り戻す。

 

「確かに、貴女は他のアホ二人とは違うようだ。だがもう油断はしない。これからは、こちらが調べた弱点を突き追い詰め――」

「ク、ククク」

「なにが、おかしい」

 

 やけに様になる悪役っぽい蠱惑的な笑みを浮かべた葵。

 素顔を晒しているからか妙に様になっている姿のまま、続きの言葉を叩きつけた。

 

「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ?」

「……なん、だと?」

 

 呆然としたケフカの声に、笑みを吊り上げた葵はそのまま困ったように肩を竦める。

 

「訊き返すとは、高次元の存在とはよほど耳が悪いようだ。だが生憎、私は同じ言葉を繰り返すほど余裕のある人間ではなくてね」

「黙れ……」

「おや、これは言葉の勝負ではないのかな? 黙っては勝敗はつくことがない。それでは君の目的を達成できないだろう?」

「……ッ!!」

 

 歯を噛みしめ踏みとどまるケフカ。

 その様相を目にした彼女は畳みかけるように口を開く。

 

「知識は無限に存在する。例えそれをどれだけ得たとしても、天に立つことにはならない。私も、君も、誰もがその場に立つことなどありえない」

「……なんたる不遜……!! それは、“あの方”への愚弄に他ならない!!」

「つまらない。所詮は、諦めた者。成長を諦めた者に歩みを進める資格はない。ましてや、“勇気”を以てこれから歩み続ける私達を止められる道理はない」

 

 か、かっこいい……。

 滅茶苦茶なことを言っているのに、凄みと口調とかで異様な説得力を持たせる葵の言葉に思わず聞き入ってしまう。

 

「敗北者である君にこの星の格言を一つ教えてあげよう」

 

 気づけばケフカの残りの体力ゲージは一つだけとなっていた。

 それを一瞬だけ見た葵は、とどめを刺すように指を突き付け——―最後の言葉を言い放った。

 

「向上心のないものはバカだ」

「ぐ、あ、ぁ……」

 

 夏目漱石!?

 勝手に星の格言にまで押し上げられてしまった台詞に驚愕していると、ケフカの身体がぐにゃぁぁ、と歪み始める。

 その一撃によりケフカのゲージがゼロになる。

 崩れ落ちる彼に、薄ら笑いを浮かべたブルーはさらに言葉を続けた。

 

「天を見ず、下を見るしかない地を這う虫には適切な表現だろう? 星将序列077“問答のケフカ”」

 

 ケフカの身体の崩壊に合わせて周囲の空間が崩れるように、元の海原の景色を映し出していく。

 

「そんな、私がこんなところで……」

「よし……ごほん……『お前』『なんだかギャグ回で倒されそうな敵みたいだな(笑)』

「こんなふざけた変な奴にぃぃぃぃぃ!?」

 

 そんな断末魔と共にケフカは消滅する。

 自分達も負けたらああなっていたのかと、改めてぞっとした心境になる。

 周囲の空間も元に戻ったところで、俺は葵が変身を解除していることに気付き、ハッとした顔になる。

 

「シロ! バイクとヘルメット!!」

『ガウ!』

 

 シロに出してもらったヘルメットを葵に投げ渡す。

 さすがに今から変身したら素顔を見られてしまう可能性があるので、このまま移動してしまおう。

 出現させたバイクにまたがり、ヘルメットを被った彼女に声を投げかける。

 

「乗れ、ブルー!」

「オーケー。まあ、今回は私が一番活躍したからね。アディオス、レッド、イエロー」

「「ちょ、待っ」」

 

 急いでその場を走り出し、空へと走り出す。

 生身の葵に気を使い、ほどほどのスピードを出しつつ光学迷彩機能を用いて姿を消す。

 

「私、すごかったでしょ?」

「ああ!」

「ふふふ……」

 

 しかし、口喧嘩で勝負を持ちかける異星人がいるとはなぁ。

 これはいよいよ直接的な攻撃力以外も重要になってくるかもしれないな……!!

 




※ブルーはその場のノリと勢いで煽っているだけです。

ブルー活躍回でした。
どうしてこういう変な言動のキャラをスラスラ書けるようになってしまったのか……。

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