前回からの続きとなります。
空中で激突した蹴り。
火花と閃光をまき散らしながら互いに拮抗した一撃は、コスモに直撃することなく同時に俺の身体を吹き飛ばした。
「ぬおおおおお!?」
地面に叩きつけられ、ごろごろと転がりながら立ち上がる。
ここは、住宅街か!? しまった、こんなところに降りたら被害が……!!
『カツキ君!! 無事か!!』
「え、ええ、なんとか!!」
『相手は君と同じか、それに近い能力を備えている!! かつて私が作ったものだが、明らかに奴専用に弄られているからな!!』
かつてレイマが作ったスーツ。
それも、かなりの強さを持つらしいということは、あの戦闘の後に訊いていたけど……まさかここまでだとは。
俺と同じく吹き飛ばされたコスモが、視線の先で立ち上がる。
周囲は住宅街。
異変を聞きつけて、人の姿もちらほらと見える。
「……場所を変えないか?」
「うるさい!!」
「ッ、全員この場から離れてください!!」
ガチャン、と剣と銃が合わさった武器を剣の形にさせたコスモが斬りかかってくる。
すぐさまルプスダガーを取り出し、振り下ろされる剣を流すように弾く。
「本気で戦え、白騎士……!!」
「お前の目的はッ、なんだ!!」
「最初から言ってる!!」
振り下ろし、一歩踏み出して距離を詰めてからの横薙ぎ、後ろに半歩足を引いてからの刺突。
流れるように放たれる連撃を見極め、ルプスダガーで捌く。
「「……!!」」
強いな……!!
青の戦士、コスモの戦い方は……なんというべきか、綺麗なものであった。
型に嵌った王道的な戦いとでも言うべきなのだろうか?
「まさに、積み重ねた技術ってことか……!!」
剣道や空手のように、あらかじめ反復し、身に着け研ぎ澄ませた技術を実践で活用したその戦い方は、俺がこれまで模擬戦を交わしてきたレッド達とは異なる戦い方だ。
『怪人戦で型なんて括ってたら覚えられるし。え? 武術の経験? ないよー』
『戦い方なんて変身してから身に着けたからなぁ』
『小4の時に射的が得意だった。ぶい』
その時、改めてジャスティスクルセイダーの面々が規格外なのだと理解した。
なぜか、そう言うと三人そろって微妙な顔をされてしまったけれども。
「周りには被害を出せない! なら!!」
『
バックルをスライドさせ、フォームチェンジを行う。
白色の装甲が青色へと変化し、水が弾ける音と共にブレイクブルーフォームへとの変身を遂げる。
『
感覚が強化され、コスモが振るう剣を避け鋭い横蹴りを叩きつける。
「あぐっ!?」
地面を転がり、苦悶の声を上げるコスモ。
彼? 彼女? に追撃を加えようとしたところで、背後にいる人々の気配に気づく。
「な、なんだ、撮影……!?」
「いや、違うよこれ! 早く逃げなきゃ!!」
ッ、ここで戦えば被害が大きくなる。
「シロ! 広い場所を探してくれ、人がいないところを!!」
『ガゥ!』
「やったなぁ!!」
「チィ……!! 相手は待ってくれないか!!」
起き上がったコスモがその手に持つ銃をこちらに向け、弾を連射する。
実弾か……! 避ければ後ろの人に当たる。
掌を開き、迫る銃弾の全てをブレイクブルーの超感覚で捕捉、認識し全て手で掴み取る。
それを地面に投げ捨てながら、後ろの人々に逃げるように叫ぶ。
「巻き込まれる前に、早く逃げてください!!」
「は、はい!」
「戦う場所なら、近くの市民球場が今、誰もいませんからっ!!」
「! ありがとうございます!!」
市民球場か! シロもすぐに見つけてくれた!
まずは、どうやってそこまでこいつを連れていくってことだが……!!
「まずは戦わないとな!!」
『
手に出現させたリキッドシューターⅡを構え、強化されたエネルギー弾を連続して放つ。
「ぐっ、この……!!」
攻撃を食らいながら後ろに怯んだコスモは、ベルトの側方から何か鍵のようなものを取り出し、バックルへと突き刺した。
「その程度の攻撃を!!」
『
音声が鳴った次の瞬間には、コスモの身体の周囲に小規模のエネルギーフィールドが展開され、新たに追加されたアーマーが全身の各部に取り付けられる。
「俺と同じ!?」
『いいや違う! 君がフォームチェンジ……すなわち属性と特性を変える変身ならば、レグルスは装備換装! 新たに装備を転送させ、能力を拡張させる!!』
青い装甲の上からマントのように被せられた外套。
右腕に集中して黒いアーマーが装着されると、その手の中には柄の長い大鎌が現れ、風切り音と共に大きく振るわれる。
「姿を変えられるのが、自分だけかと思ったか!!」
『気をつけろカツキ君!! バージョンアップされた性能は私にとっても未知数だ!!』
「ッ!」
奴は、そのままエネルギー弾を切り裂きながら、不自然な加速と共にこちらへ攻撃しにくる。
そのまま姿が掻き消え、目の前に現れる。
「ッ」
胸部のアーマーを一閃され、火花が散る。
速さに特化させた形態か……!!
でもこの感覚に優れた形態なら……!!
「ふんッ!!」
「ッ!!」
タイミングを合わせて、左手のダガーで、上段から振り下ろされる大鎌を受け止め、近距離からのエネルギー弾を放つ。
驚異的な反射速度で避けられ、高速移動によりまたその姿が掻き消える。
「俺にも見えているぞ」
「それはボクも同じ!!」
周囲を高速で移動するコスモ。
その場を移動しながら銃を構え、狙いを定める動きを予測して銃を放つ。
「……」
感情に任せて振られる大鎌。
シロに頼み、ここから最も近い戦いやすい場に奴を誘導する。
「どうしてッ、本気で戦わない!!」
「なにを!」
「あの白黒の姿が一番強いんじゃないのか!!」
アナザーフォームのことを言っているのか……!!
あれをこんな住宅街で使えるはずないだろ!! 肉弾戦ならまだしもグラビティバスターの射撃だけでも、簡単に家屋を吹き飛ばす威力なんだぞ!!
「お前の都合で相手が戦ってくれると思うな!!」
「なに……!!」
握りしめたダガーを振るい、腹部を切りつける。
しかし相手も攻撃を受けながら無造作に大鎌を振るい、俺に攻撃を当ててくる。
「ぐっ」
「あぅ」
アーマーから火花を散らせる。
視界明滅、頭を振り我に返ると大鎌に紫色のオーラを纏わせ、必殺技を放とうとする
『
「食らえ……!」
相手の姿が幻影のように消える。
敵を見失った次の瞬間、目と鼻の先に現れたコスモが俺の肩に大鎌の刃を叩き込む。
『
「がッ……!!」
「ボクは、ボクの価値を証明しなくちゃならないんだ……!!」
肩に走る激痛。
じわりと血が滲むような感覚に苛まれながら、大鎌の柄を掴む。
「なっ!?」
「かかったな?」
『
動きを止めたコスモの腹部にリキッドシューターⅡの銃口を押し当て、必殺技を発動させる。
気づいたようだが、遅い!!
「とりあえずぶっ飛べ!!」
『
『
「うぐぅ!?」
真正面から攻撃が直撃し、コスモの身体は遥か先までエネルギー弾と共に吹っ飛んでいく。
その様子を確認し、すぐに追いかけようとするが肩の傷の痛みに足を止める。
「シロ、アーマー部分だけでもいい。覆ってくれ」
『ガゥ』
「ああ、ありがとう」
ぶっとばした方向には市民球場があるはずだ。
相手はまだまだ戦う余地がある。
ルプスストライカーを呼び出し、それに跨った俺は、コスモが飛んで行った方向へとバイクを走らせる。
「よ、よくもやったなぁ……!! 白騎ひぶ!?」
バイクで走り、すれ違い様に胴体を引っ掻けるようにして走る。
そのままトップスピードで、一瞬で目的地にまで到着した俺は、そのまま野球場と思われるグラウンドの真ん中の地面にコスモを叩きつける。
「ぐっ!?」
俺もバイクから降り、砂煙が舞い上がった奴の方を無言のまま伺う。
ダメージは、俺と相手もあまり変わらない。
まだ戦えるし、奥の手も隠しているのだろう。
――相手はお前と同じタイプの戦士だ
「……」
内心で囁いてくるルインさんの声に頷く。
俺と同じ、スーツを着た戦士。
その在り方はレッド達のものよりもシロを纏った俺に近い。
――相手は侵略者だ。
「分かって、ます」
――なら、これまで通り、やることは同じだ
侵略者を倒す。
――この地球のために。
侵略者の危険に晒される人々のために。
――さぁ、奴を倒すんだ。
――息の根を止めて、民の平和を取り戻せ。
やるべきことはこれまでとは変わらない。
相手が侵略者である以上、情けをかける理由もないし、放っておけば人に危害を加えるからだ。
なにかあってからじゃ遅い。
「でも……」
今回の敵には何か違和感のようなものがある。
これまでの敵とは異なり、他の人間を害するというより、俺そのものに戦いを挑んでいるみたいなそんな感覚だ。
「ここで、やめないか?」
「……ッ!!」
自然と俺はそんな言葉を口にしていた。
特に理由はない。
ただ、俺は目の前のコスモと、少し前に戦った双星のジェムを重ねていた。
戦う目的そのものが他の侵略者とは違う。
なにかに必死になろうとしているコスモの姿は、まるで何かに見てほしいような……そんな子供のような必死さがあった。
「ふざ、けるな。ボクを、憐れんでいるのか……? よりにもよって、お前が?」
「いや、そんなつもりは……」
「ボクにはそう聞こえたんだよ……!!」
頭を掻きむしるように仮面に爪を這わせるコスモ。
その怒りに反応するように、ベルトの獅子が瞳に怪しい光を集めていることに気付く。
「あ、あああ!! ふざけやがって、ふざけやがって!! ボクもルイン様の名前を呼ぶことを認められたんだ! お前と同じだ!!」
「なにを、言っているんだ?」
「戦え、白騎士!! ボクと、本気で戦え!!」
名前? 誰のを? 何かを口にしたように見えたが、声だけが俺の耳に入ってこない。
感情の発露。
怒りと憎悪のままに、ベルトから翼の形をさせた鍵を取り出しそれをバックルの獅子へと差し込む。
「期待に応えなくちゃ……そうじゃなきゃ、ボクなんかに意味はない……!! 戦う意味も、生きている意味さえ……!!」
『
「そのためだったら、この命さえも惜しくはない!!」
纏っていたアーマーが消え去り、一瞬だけ元の青い戦士の姿に戻るコスモ。
しかしその次の瞬間には、背後に現れた機械的なコウモリの翼に包まれ――新たなアーマーを纏った姿で現れる。
左腕全体と、全身の各部を覆う禍々しい緑の鎧。
右手の中に現れた、機械化されたようなマスケット銃に似た武器。
それをぐるんと振り回し、銃口をこちらに向けてきたコスモに、俺は対話を諦める。
「やるしか、ないのか!!」
『
握りしめたグラビティグリップをバックルに差し込み、アナザーフォームへの変身を開始する。
放たれる強烈なエネルギー弾が、作り出したエネルギーフィールドにぶつかり、罅をいれていくが、それでもなおアーマーが展開されては、身体に装着されていく。
『
黒のアーマーの上にさらに白のアーマーを纏った姿、アナザーフォーム。
変身を完了しても尚、コスモはその手に持つ長銃を構え、なんらかの技を発動させる。
『
コスモの背後に現れる百を優に超える半透明の長銃。
その銃口が全てこちらへ向けられ、一斉にエネルギー弾が放たれる。
「ハァァ!!」
「……」
軽く掌を掲げ、銃弾の全てを俺に触れることなく止め、地面へ落としていく。
十数秒の集中砲火。
その全てを無傷でしのぎ切った俺を見て、コスモが愕然とした様子で銃口を僅かに下へと下げる。
「そん……な、ま、まだ!!」
『
必殺技として放たれた、エネルギーを纏わせた銃弾。
ブレイクフォームならば、避けるそぶりを見せていたが、この姿になったからにはもう意味はない。
「……」
六発放たれたそれを掌で叩き落としながら、一瞬で奴との距離を詰め——その手に持つ長銃に触れ破壊する。
「う、ぐぅ、ッ、このっ!」
苦し紛れに繰り出された回し蹴りを回転して避けると同時にバックルを三度叩く。
前を振り向き、コスモと相対すると同時に白いオーラを纏わせた拳を叩き込む。
『
「しまっ――」
『
カウンター気味に繰り出された拳が、コスモの胴体へと直撃。
拳から解き放たれた白いエネルギーが一瞬にして、コスモの全身へと襲い掛かり衝撃が後方の空間へ貫通する。
「が……ぁ」
地面に膝を突くように崩れ落ちながら、コスモの変身が解かれる。
拳を引き戻しながら、戦闘が終わったことに安堵していた俺だが、変身を解除したコスモの姿に驚く。
――この程度か、まあ、妥当なところだろうな
「……女……の子?」
地面に倒れたのは、真っ黒い外套を身に纏った少女であった。
顔はフードと緑色の前髪で見えないが、その華奢な見た目でまだ年端もいかない少女と判断した俺は、予想外の正体に驚く。
……とりあえず、レイマに連絡しよう。
「司令、星将序列067位コスモの無力化に成功しました」
『こちらでも確認した。……レッド達の方ももうすぐ片がつきそうだ。君は、その娘が目を覚まして逃げないように見張っておいてくれ』
「了解」
一応、出来る限りの手加減はしたがそれでも相当な一撃を食らわせてしまった。
それだけコスモという戦士が強かったこともあるが……。
「……シロと、似ているな」
とりあえずまた変身されても困るのでバックルだけはこちらで持っておくか。
そう思い、少女のベルトの獅子の顔を模したバックルに手を伸ばした――その瞬間、前触れもなくバックルから赤い電撃が走りだす。
「———ッ」
「……!」
その場を飛び、コスモから距離を取る。
「なんだ?」
「が、ぁ、があああ……!! う、あああああああああ!!!」
倒れ伏した彼女の腰につけられたベルトが赤い電撃を全身へと走らせる。
電撃に苦しむように身体を痙攣させた少女のバックルが、悲鳴のような音声を上げる。
――ほう、これはこれは……
「お、おい、大丈夫か!」
『
危険を現すように耳障りな警告音が鳴り響く。
なにかやばい……!
臨戦態勢を解かないまま、拳を構える。
『
まるで何かの目覚めを知らせるような音。
倒れたまま、腕も使うことなく突然起き上がった少女はまるで何かに操られるように、その手を動かそうとする。
『まずい! 暴走状態だ!! カツミ君! 今すぐ、彼女を止めてくれ!!』
「は、はい!!」
俺の名前を間違うほどに慌てたレイマの声に、すぐに行動に移るべく前へと飛び出す。
「……へ、ん、し、ん」
『
ッ、間に合わない!!
ひとりでに空中に浮き、バックルに嵌め込まれた獅子の頭が青の混じった漆黒色に染まり変身を開始させる。
一瞬の明滅と、ヘドロのようにあふれ出した泥がコスモの身体を包み込み、その姿をまた別のものへと変える。
『
『
『
近づいた俺に黒いヘドロの間から腕が突き出され、見えない力に後ろに吹き飛ばされる。
同じ場所に戻された俺が、コスモのいた場所を見ればそこには――、
『
青いアンダースーツと黒いアーマーに身を纏った戦士が立っていた。
獅子ではなく、まるでピラニアを連想させる刺々しい外見。
なにより目を引くのは、充血したように赤く染まった複眼。
『なんだ、この……姿は……』
「司令、どうしますか……! 相手……かなり、やばいです」
『……戦闘、続行だ』
了解、と呟く前におもむろにコスモの腕がゆらりと動き出し、バックルを叩く。
『
「ッ!?」
必殺技の発動と同時にこちらへ向かってくるコスモ。
その動きは、彼女の動きとはかけ離れて、野性的で乱暴極まりない。
だが、それは先ほど以上の脅威と認識した俺は、すぐさま必殺技を発動させ攻撃を相殺させようとする。
「来いッ!!」
「……」
拳を構え、迎え撃つ。
手加減なんてできる相手ではなくなった。
ここで始末するつもりで、全力で!!
『
互いの攻撃で接触しようとする――その瞬間、背後に現れた穴のような何かがコスモの全身を呑み込んだ。
「へ!?」
一瞬にして目の前から消えたコスモに呆気にとられながら周囲を見回し、警戒するも、彼女の禍々しい気配はどこにも感じられなくなってしまった。
な、なんだ……?
どこに行ったんだ?
「……司令」
『……すまない。こちらでもコスモの反応を追えなかった。奴は……否、彼女はその場にはいない』
「……」
最後の悪意と、俺に対しての憎悪を凝縮させたような姿。
まともに戦っていないが、あれは危険だ。
周りに対する被害の危険度もそうだが、なによりコスモ本人の命さえも壊しかねない姿だと、一目で理解させられた。
『ガゥ……』
「ああ、シロ、分かってる」
コスモだけではない。
シロと同じバックルのライオンも、苦しみ泣いているようにも思えた。
『ッ、カツキ君!!』
「はい?」
『すぐにレッド達の方へ来てくれ!! 現れた三体の怪人が一斉に巨大化した!!』
「今すぐ場所を教えてください!! すぐに向かいます!!」
とにかく今は、侵略者への対処か。
戦闘自体はレッド達だけで事足りるだろうが、俺は俺で街への被害を押さえるという役目もある……!!
コスモ暴走回。
コスモはものすごく面倒くさい性格をしている敵って感じに描写させていただきました。
彼女の戦闘力についてですが、ブレイクフォーム時点なら主人公とはほぼ互角。
しかし、アナザーフォームを使われるとスペック差で通常時のコスモでは勝ち目はなくなります。
レオドライバーの変身パターンは、ライガーゼロの換装をイメージとなります。