前半がちょっとした過去回想。
中盤からは、前話の続きからとなります。
星将序列61位“悪魔の科学者ゴールディ”と呼ばれていた頃の私は、傲慢で自信に満ち溢れた愚かな性格をしていた。
まあ、天才だったことは事実だろう。
他の追随も許さないほどに賢かった私は、平の研究員だった身で自作のスーツを作り上げ、その性能と戦闘力、そして将来性を後に先生と仰ぐ“ヴァース”に評価され、星将序列を持っていない身から一気に序列61位へと繰り上げられた。
その時の私は、ものすごく調子に乗っていた。
自身の科学力と発想を評価され、柄にもなく舞い上がっていたのだ。
『誰もが、実現することの不可能な最強の“鎧”を作り上げる』
肉体の枠を超え強大な力を“身に着ける”というごく単純な目的のために、研究と実験を繰り返していた。
その一環で作り上げた三つの傑作と、一つの失敗作。
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サジタリウスは、この私専用の強化スーツ。
ライブラは唯一適合してみせた“ヴァース”に師と仰ぐ彼に友人として贈ったが、レグルスは適合者が現れることなかった。
スーツを作っている時点では、なぜ強化スーツが適合者をえり好みするのかその理由を分かっていなかった。
その理由の大部分が強化スーツに用いているエナジーコアに由来しているのが分かっていたが、それ自体はただの意思を持つエネルギーとしか、私は漠然としか理解していなかったのだ。
ただの興味本位だった。
エナジーコアとは、なんなのか?
どこからやってきたものなのか?
知的探求心のままに、私はエナジーコアを調べてしまった。
……調べて、しまったのだ。
『なんだ、これは……』
解析し、濃縮されたエネルギーの壁を突破した先に映し出された映像は、地獄そのものであった。
破壊されている惑星。
虐殺されていく星の生命体。
その視線の主である少女は、悲しみに暮れたまま捕獲され、その末に物言わぬエネルギー体、エナジーコアにされてしまった。
『ふざけるな……!』
この事実がどれほど私にとって衝撃的だったか。
意思を持つエネルギー体、という認識に過ぎなかった。
だがその実態は、“アルファ”と呼ばれた能力に目覚めた生命体を生きたままコアとさせる、悍ましい所業により生成されたものであった。
思えばここで私は、自らの地位と、組織に不満を抱いていたのだろう。
研究さえできればいいという考えは既になかった。
地位と、知識を生かし、組織の内部を調査すると、すぐに私が星将として所属している場所がどのような所業を行っているのかが判明した。
星の管理。
アルファとオメガの選別。
侵略と破壊。
そして、頂点に君臨する絶対的な強者の存在。
どれだけ自身が愚かかということを理解させられた。
私は自身の研究に没頭するあまり、事実から目を背けていたのだ。
気づいたときには既に遅く、私の背信にいち早く気付いたかつての上司であった研究者、ガウスによりサジタリウスが盗まれ、粗悪品のスーツが序列内に出回ってしまった。
粗悪品とはいえ、誰にでも扱えそれなりに戦力の向上を可能にさせるスーツだ。
自身の発明が卑劣な所業に使われる。
そのような事実はあってはならないと決起し、単身でガウスの研究室をサジタリウスごと爆破し、それ以上の改良、強化をできないようにさせ逃亡を行った。
『ゴォォォォルディィィィ!!』
『フハハハ!! さらばだ! パクリ野郎!! この俺の研究成果は誰にも渡さんぞォ!! ヴェ、ヴェェェッッハッハッ!!』
自身の傑作を破壊したこと以上に、元は肉体を持って生きていたコアであるサジタリウスを破壊しなくてはいけなかったことをひたすらに悔やむしかなかった。
本格的に組織から抜け出し、裏切り者として追われる身となってしまった。
強化スーツと、研究室に保管していた二つのエナジーコアを持ちだし逃亡を図った私は、どこか組織から身を隠せる場所へと向かうことにした。
追っ手に関しては、軽々と撒けると思っていた。
その時点までは。
『すまないな、ゴールディ』
『先生……!?』
まさかの追手が先生と呼び、父のように慕った男“ヴァース”であった。
重厚な鎧を纏った強化スーツ“VERSION:LIBRA”を身に纏った彼は、私の乗る宇宙船の前に現れた。
『貴方は組織の所業を知っているのですか!?』
『然り』
胸に抱いたのは失望か、はたまた喪失感か。
信じていた者に裏切られた私に、ヴァースは静かに刀の柄に手を添えた。
『この一刀にて、お前の運命を決する』
『———ッ!』
『生か死か、それを決めるのはお前自身。……それが、お前に師と呼ばれた私にできるせめてもの情けだ』
私は迷いなく船を自爆させた。
彼が攻撃を放つその意味を理解した上で、より高い生存確率を選んだのだ。
爆発が引き起こされたその瞬間、宇宙船が空間ごと両断させられる。
身体に突き刺さる破片を、肉体を焼き焦がす炎を無視しながら、たった二つのコアを持ちだした私は、あらかじめ転移先の座標をセットさせた小型ポッドへと乗り込み――ー爆発内での強制転移を行い、その場からの逃走を成功させた。
『備え、なくてはな』
転移した先には、青い星。
口から血を吐き出しながらなんとか意識を保たせた私は、確固たる決意を固めながら青い星へと降り立つべくポッドを操作させた。
禍々しい仮面の戦士へと変身を遂げたコスモと、アナザーフォームへと変身したカツミ君。
向かい合う二人を目にした私は、彼の邪魔にならないように大森君とグラトを逃がすべくその場から離れようとする。
「グラト、大森君を連れて逃げるぞ!」
「そうした方が良さそうだ。あの戦いに、私程度が援護に入っても死ぬだけだ」
レグルスが暴走している今、コスモの戦闘力はカツミ君のアナザーフォームを上回っていてもおかしくはない。
しかし、レグルスの変身者は数日前とは別人すぎる……!!
いったい、なにをされたら暴走状態のまま変身させようとする無茶なことをするようになるんだ……!!
「逃げちゃだめだよ?」
「わひっ!?」
しかし、一瞬大森君から目を離した瞬間に、彼女の背後にいつの間にか現れた少女――ヒラルダが、大森君の首に右腕を回しながら、左腕に趣味の悪いデザインのバックルを見せつけながら、悪戯をした子供のような笑みを浮かべていた。
「大森君!?」
「マナ!?」
「動かないでねー。君達が何もしなければ、なにもしないから♪」
恐らく、肉体を乗っ取るタイプの侵略者。
それも意識を表面化させたアルファが強化スーツとしての力を持っていることから、高い戦闘力を有していることは間違いない。
「お前、アルファだな」
「そうだよ? よく分かったね」
「……その肉体の元の人格は、生きているのか?」
ベルトとして寄生し、人格を乗っ取る。
今、宿主となっているのは年端もいかない少女だ。
「勿論、生きているよー。ずっと泣いてて鬱陶しいくらい」
こちらにとっては人質を取られている状態なわけか……。
後で身元を確認すべく胸ポケットのペン型のカメラでヒラルダの顔を撮影しておく。
「貴方がゴールディね。こっちじゃ貴方は有名人よ」
「当然だろう! 私だぞ!」
「……思ったより自己主張の激しいバカなのは分かったけど、今はあっちの戦いを見て楽しもうよー」
なぜバカ呼ばわりされるのか分からないが、ヒラルダが見るように促した方向を見る。
「私、強化スーツ開発者の貴方の解説が聞きたいなー」
「あ、あわわわわ……」
「くっ」
大森君が人質に取られている以上、迂闊なことはできないか。
……こういう時こそ、私自身が戦闘できればいいのだが……!!
「ガァァァ!!」
「ッ」
雄叫び、そして激突音。
それを耳にしカツミ君へと視線を戻す――前に、私の視界内に、木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされてくるカツミ君の姿が映り込む。
そんな彼を追うようにし、暗闇を切り裂くように青い軌跡を走らせたコスモが獣のような挙動と共に襲い掛かる。
「白騎士ィィ!!」
「……ッッ」
『
その手に白と黒の大剣を出現させた彼が、叩きつけられた腕の一撃を受け止める。
しかし、真正面から攻撃を受け止めることを難しいと判断したのか、後ろに逸らすように攻撃を受け流した彼は、そのまますれ違いざまに大剣の一撃を胴体へと叩きつける。
「あはっ!」
「!?」
アナザーフォームの強力な一撃。
まるで効いた様子もなく、彼の腕を掴み取ったコスモはそのまま力任せに、彼に頭突きを叩き込む。
理性も効率性もない、本能に任せた戦い方。
そして、攻撃に対しての耐性と再生能力。
「痛みを感じていないのか!!」
「この忠義の前にはねぇ! 痛みなんか、感じていないのと同じなんだよ、白騎士!!」
「意味が分からん!!」
グラビティバスターを両手で握りしめたカツミ君が、嵐のように迫る連撃を防いでいく。
「死ねっ、死ねっ! 白騎士!!」
『
ジャキン! と光と共に右の前腕に出現する魚のヒレのような刃。
手刀を叩きつけるように腕を振るい、グラビティバスターの刃に腕を打ち付け火花を散らしたコスモは、そのまま左手を添えて、グラビティバスターごとカツミ君を押し込む。
「これが、ボクの力なんだ……お前とは違う……ルイン様に選ばれたボクだけの力だ……」
「……っ!」
コスモのパワーは完全にカツミ君のアナザーフォームを上回っている……!!
押し付けられた腕の刃が彼の肩に接触した瞬間、コスモは力任せに腕を引き、彼のアーマーごと肩を切り裂く。
「ぐっ……まだ!!」
肩の負傷を無視した彼だが、瞬時にグラビティバスターをガンモードへと切り替え、コスモの胴体にエネルギー弾を撃ち込み、後ろへと退かせる。
肩で息をしながら、肩を押さえた彼はその場を動くことのできない私達に気付く。
「レイマ! どうして、まだ……!? ヒラルダ、お前……」
「名前、憶えていてくれたんだー。嬉しいなー。カ・ツ・キくん」
「大森さんを離せ……!」
「今は駄目だよ? ほら、余所見していていいの?」
「あ、ははは!!」
タガが外れたような笑い声を上げながら襲い掛かるコスモの攻撃を、カツミ君が受けとめる。
腕の刃と、大剣が甲高い金属音を上げながらぶつかりあう光景を目にしたヒラルダは、目を細める。
「醜いなぁー。コアがかわいそう」
「あれは、どうしてああなった?」
「さあ? 前はもっと弱かったけど、ちょっとは強くなったみたいだけどなー。苦しんでる声が聞こえないのかなー」
序列内の仲間かと思ったがそこまでではないのか?
せめてもの情報を引き出せれば……このままでは、俺は役立たずだ。
「社長、ナツ! 私のことはいいから逃げてください!!」
ヒラルダに捕まりながら大森君がそんなことを叫んだ。
顔を青ざめさせ、恐怖で足を震わせた彼女を見た私とグラトは、表情を顰めさせる。
「このバカちんがァ――! 君をこの場に残して宿主にでもされたら、後々厄介なことになるに決まっているだろうが!! よく考えてものを言えぇ!!」
「マナ、ドラマの見過ぎだ! そいつは人間に寄生するんだぞ!! お前が死んで済むという相手じゃない!!」
「えええ!? 勇気出して言ったのになんで怒られるの!?」
「喧しい人達だなー……」
身体を乗っ取られでもしたら厄介だが、それ以上に大森君は我々の仲間。
見捨てる選択肢はない。
だが、それと同時に我々には打つ手がない。
「おおおお!!」
「無駄な抵抗ばかりだねぇ!!」
白のアーマーに罅を刻みつけながら、彼は果敢にコスモへと挑みかかっていく。
グラビティバスターをガンモードにさせたエネルギー弾を放つ彼を前に、コスモは軽く後ろへと飛ぶと、背後に作り出した黒い渦に入り込みその姿を消す。
「ワームホールだと!?」
単体でワームホールを発現させたのか!?
まさか、タイムハザードの能力まで有しているとは……!!
姿が消え、周りを警戒するカツミ君の側方に、コスモが現れ彼の左肩に蹴りが直撃する。
「ぐっ」
肩の骨が折れたのか、だらりと左肩を脱力させながらも彼は着地する。
グラビティバスターを投げ捨てながら、バックルを叩く。
『
十秒間限定のフォーム、タイムハザード。
白いアーマーを消し去り、黒い姿となった彼は動ける右腕を構えながら、コスモへと向かう。
『
『
ワームホールを作り出すと同時に、コスモもワームホールへと入り、別次元の戦闘を開始させる。
互いに同じ能力を持つ者の戦い。
空中に現れては消えていく、二人。
『
「「ハァァァ!!」」
この私の目を以てしても目まぐるしく動く戦いは、恐ろしく速い。
だが、今のカツミ君は左腕を負傷している……!!
その差はとてつもなく大きい……!!
『
「ハ、ァハハ!!」
『
バックルを乱暴に叩いたコスモが空に転移すると同時に腕の刃を赤熱させながら、連続の転移を用いてカツミ君目掛けて落下し――、サメが獲物を食い破るように腕を叩きつけ、強烈な斬撃を刻みつけた。
『
「ッッッッ!!!」
血煙が舞い、地上へと叩きつけられながらも立ち上がるカツミ君。
それでも尚、立ち上がって見せた彼は振るえる腕で、バックルを叩き最後の必殺技を発動させた。
「ま、だ」
『
「ハハッ! 無駄な足掻きを!!」
『
全エネルギーを集中させた右拳を構えるカツミ君に、足にエネルギーを集めたコスモが飛び蹴りの態勢に移る。
消耗しているカツミ君とは裏腹に、強大なエネルギーを放ちながら襲い掛かるコスモ。
「終わりだァ! 白騎士ィィ!!」
「今だ!!」
『
彼が掌を前に突き出すと蹴りを繰り出すコスモの前にワームホールが作り出される。
「なっ!?」
勢いのままワームホールに入り込んだコスモが転移された先は、カツミ君の背後。
地面に蹴りを叩きつけた奴に振り向いた彼が、全力の拳を遠心力に任せて振り下ろした。
「オラァ!!」
『
力に任せたコスモとは異なる、経験に裏打ちされた策に、コスモは完全に不意をつかれた……!!
ギリギリまで引き付け、圧縮されたエネルギーが込められた拳がコスモへと突き進む。
「……ッ……」
———しかし、その拳がコスモに届くことはなかった。
拳が叩きつけられようとしたその時、彼の身体から漆黒のオーラが消えてしまったのだ。
一瞬の光に包まれた彼は、初期フォームのブレイクフォームへと戻されてしまう。
「ここ、までか……!!」
「ッ、このぉぉぉっ!!」
身体が負荷に耐え切れずタイムハザードが強制解除された?!
攻撃が中断され、疲労で今にも倒れそうな彼を目にし、我に返ったコスモはそのままエネルギーの纏った回し蹴りを彼の胴体へと叩きつけた。
『
「がッッ……」
『
胴体へと叩き込まれた一撃により、彼のマスクの一部が砕き割れる。
地面を転がりながら、倒れ伏した彼に私達が駆け寄ろうとするが、それよりも先に技を放ったコスモがワームホールを介してやってくる。
「ボクは、勝ったんだ」
変身が解けないまま、地面に倒れ伏すカツミ君の身体を奴は足蹴にする。
声を震わせた奴は自身の顔に手を当て、喜びに打ち震えた。
「ふ、あ、ははっ……やった! やったんだ!! これでボクは認められたんだ!! お前を倒した!! 倒したんだ!! これで……これで……」
「……」
「これで……なんだ……?」
……? コスモの動きが止まった?
不意に我に返ったように、倒れ伏したカツミ君から足を引き、後ろに下がった奴は混乱したように頭を押さえる。
「……ボクは、勝ったのか……? こんなものが、勝利なのか? 力で勝っているにも関わらず、一瞬の差でボクは負けてたのに……?」
「……」
「あ、ああ、なんで、何をしたんだ? 何がしたかったんだボクは……? こんな力に頼って、何をしたかったんだ……? レオ? どこにいるんだ? レオ? 君の声が聞こえない……」
ど、どうしたんだ?
突然、錯乱しはじめたんだが……。
「あーらら、無理な強化で自分を見失いそうになってる。かわいそー」
愉快気に笑うヒラルダ。
状況が変わり、私もグラトもどうするべきか分からず困惑していると、気絶し、倒れ伏したはずのカツミ君が立ち上がろうとしているのが見えてしまう。
「……」
「どうして、立ち上がるんだ……? お前は、もう立てないはず、なのに……」
割れたマスクから彼の素顔を見れば既に彼の瞳は意識を保っていない。それにも関わらず、戦う意思を見せる彼の姿に、コスモがやや怯えの混じった声を漏らす。
唯一動く右手を彼が掲げると、その手に光と共に掌サイズの何かが現れる。
「……」
『
グラビティグリップとは異なるアタッチメントを手にした彼が、右手で掲げたそれのスイッチを押す。
すると、アタッチメントに二つの表示がルーレットのように動き出し、それぞれが赤、青、黄、黒、と別々に動き出す。
もう一度スイッチを押すと同時に停止し、“赤”と“青”二つの色が表示される。
『
『
この場に来て新しい戦闘形態だと!?
さらなる進化を遂げようとした彼が、バックルに新型のアタッチメントを接続しようとする。
「……」
「カツミ君……!?」
しかし、その挙動は叶わず変身が解けてしまった彼は、その場で崩れ落ちてしまった。
既に限界を超えていたんだ。
呆然とするコスモと倒れ伏したカツミ君を目にしたヒラルダは、一人上機嫌のまま私とグラトへと視線を戻す。
「さーて、この後どうする? コスモは戦意喪失しているわけだけど、私はどうしようかなー」
「見るべきものは見たんじゃないのか?」
「大人しく帰るとは口にしていないし」
確かに、それは分かっていた。
だが、もう心配はいらないだろう。
彼が自身が傷つくことをいとわず、その命すらも賭けたたった数分で――現地球最強の守護者達がやってくる時間を稼いで見せたのだから。
「! おっと!!」
何かを察知したヒラルダが大森さんの首に回していた腕を外し、その場から飛びのく。
次の瞬間、奴がいた場所に二発の小型のエネルギー弾が撃ち込まれ、地面に風穴を開ける。
「躊躇なく急所を狙ってきたっ! こりゃ、やばいねっ! さっさと逃げよっと!!」
人間の身体を乗っ取っているとは思えない身体能力で、その場から消えるヒラルダ。
自由の身となった大森君をグラトに任せた私が、カツミ君の方を見ると、その場には既にカツミ君の状態を確認しているイエローとレッドの姿があった。
「イエロー、彼は……」
「生きてる。でも早く治療しなくちゃ……」
「……」
血にまみれ倒れ伏した彼の状態を確認し、生きていることを確認した彼女は未だにその場を動いていないコスモへと振り向き――、かつてないほどの怒気と殺意を放った。
「お前か」
「ッ!」
敵意に反応したのかその手に刃を作り出し、ワームホールと共に攻撃を繰り出そうとするコスモ。
それを目にしたレッドは小さく腰を下げ、剣の柄に手をかけ——、目にも止まらないほどの抜刀と共に、ワームホールを叩き割り、その先にいるコスモの肩を縦に切り裂いた。
「ッッッ!? な!?」
プロトとは別の、もう一つのコアに選ばれし適合者、レッド。
ただの地球人の少女だった彼女は幾度の死線を潜り抜けた末に、戦闘における天性の才覚を覚醒させた、この私ですらもドン引きさせるスーパー地球人の一人。
「目障りだから、さっさと消えろ」
続けて振るわれる不可視の斬撃。
ワームホールすらも容易く、両断、破壊して見せる彼女の攻撃にさらなる混乱に追いやれられたコスモは、その場からの逃走を選んだ。
かろうじて発動させたワームホールでその場から消え失せた奴を確認したレッドは、剣を取り落としながら彼へと駆け寄る。
「か、かかかカツミ君!? い、イエロー、本当に大丈夫なの!?」
「分からんわ!! 私に聞かれても!! 司令!! 早く、こっちに!!」
「わ、わわわ、分かっているわぁ!! 安心しろ!! 私は科学者だ!! 応急処置くらい朝飯前だぁ!!」
「今、夕飯後ですけど」
「わーってるわ!! このナインジャーズが!!」
先ほどの緊迫した状況とは裏腹にあたふたとし始めるレッドとイエロー。
シロが護ってくれたのか、大きな傷は肩だけで後は軽傷だけであるが、それでも油断ならない状態であることは確かだ。
「応急処置なら、私にもできる」
「グラト? 可能なのか?」
大森君と共にやってきたグラトがカツミ君に手を掲げ、なんらかのオーラを放つ。
それを浴びたカツミ君の表情は、徐々に穏やかなものへと変わっていく。
「蓄えたエネルギーを彼に与えた」
「大丈夫、なのか?」
「美味しいものを食べれば、いずれは溜まる。美味しいものを食べれば」
言外に催促された気もしなくもないが、これで彼の状態は安定したか……。
後は怪我を悪化させないように応急処置を施しながら――ー、
「大森さんが二人……!?」
「嘘やん……」
「なるほど、生き別れた双子と……」
「後で説明するからお前達は静かにしてろ……!!」
そういえばこいつらにも大森君のことを説明しなきゃいけなかったんだ……!
さらっとアナディケのオーロラ技もどきを使いだす主人公でした。
このタイミングでレイマの過去について描写させていただきました。
名前のみ登場した強化スーツについては、全部出せるかどうかはかなり怪しいかもしれません。