追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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今回は前回からの続き、
アルファ視点となります。



囮と、歪な願い

 ハクアが変身して侵略者との戦いに身を投じた。

 予想外どころの話ではなかったけど、それ以上に心配だった。

 

『アルファ、カツミが……』

「意識を保てなかったようだね。今は無理をさせないようにしよう」

 

 なんとか彼をベッドに戻しながら、布団をかける。

 今、私にできることはこれくらいしかない。

 能力も侵略者には効果が薄いし、私という存在が知られてしまわないように能力も制限がかけられている。

 

「プロト、私も変身できない?」

『アルファが私を着たらバラバラになって死んじゃうよ……?』

「マジ?」

『マジ』

 

 普段どれだけやばいスーツ着てたのカツミ……?

 強化プロトスーツの異常さを改めて認識しながら、外の轟音に目を向ける。

 

「あれは、アカネのビークル……」

 

 空に見えるのは赤い飛行機。

 微かに見えるそれから、なぜかレッドの姿になっているアカネが飛び出し、おもむろに鞘から引き抜いた長剣を地上へと投げつけた。

 

「うん……?」

 

 そのままビークルを蹴り、空中で加速し一瞬でその姿を消し――その次の瞬間には、侵略者の血しぶきのようなものが空高く舞い上がる。

 

「うわぁ」

『うわぁ』

 

 相変わらず別の意味でメディア受けしそうな戦い方しているなぁ、と思いながら彼女の介入で事態が解決したことを察する。

 

「……ハクアの存在もちゃんと感じるから、大丈夫か」

『うん。シロの方も確認した』

 

 同じ力を持つ者同士の感覚というものだろうか?

 その感覚でハクアが無事なことを確認した私は、心の底から安堵しながらカツミの顔を見る。

 

「私も、なにか君にできることがあるのかな……」

 

 君が黒騎士と呼ばれていた時は、ただ傍にいることが君のためになると思っていた。

 孤独を共有する者同士。

 孤独だった彼を、孤独にさせないようにするためにしていた。

 でも、今はなにもできていない。

 私は、今のままで本当に――、

 

「こーんにちわっ」

「ッ!?」

 

 背後から迫る気配に気づくことができなかった。

 その声に咄嗟に振り向こうとすると、私の口元に何者かの指が差し込まれ声が上げられないようにされる。

 

「あふぁ!?」

「はい動かないでねー」

 

 いつの間にか背後に立っていたきつい桃色――ショッキングピンクのアーマーに身を包んだ仮面の戦士は、私の身体にサソリの尻尾のような機械的な触手を私に巻き付け、拘束する。

 床に倒れたまま身動きのできなくなった私は呆然としながら顔を上げる。

 

「だ、誰だ!?」

『アルファ!?』

「貴女がこの星のアルファ? わぁ、可愛い子」

 

 私が見上げた仮面の戦士はおもむろにバックルをベルトから外して変身を解く。

 そこには先日、ブリーフィングルームの話題に上がった女性――、

 

「風浦、桃子……!?」

「あら、この身体の名前、もう分かっちゃったんだ。君に会えただけでも、雑魚を囮に使った甲斐はあったかな?」

 

 まさか、さっきの侵略者はこいつがここに来るための囮だったの……!?

 なら、早くプロトに助けを求めるように――、

 

「ああ、それとこれは壊しちゃおっか」

『ッ』

「プロト!」

 

 靴でプロトのいる端末を踏みつぶされる。

 画面が粉々に砕け、破片を飛び散らせる端末に思わずプロトの名を呼ぶ。

 

「本体のコアは別かな? あそこまで意思が表面化しているのも、彼のおかげかなー」

「よくも、プロトを……!」

「別に死んでないからいーじゃん」

 

 本来の身体の持ち主由来のものか、人のいい笑顔を浮かべた“ヒラルダ”は拘束された私をしゃがんで見下ろし、頬を突いてくる。

 

「むぐぅ……!」

「貴女は運がいいよねー。いいオメガを見つけられてー」

「ふみっ、ふむっ!?」

「私なんてアレだよ? 裏切られたんだよ。酷いよねー」

 

 無遠慮に頬を突かれて情けない声を漏らしてしまうけど、ヒラルダの言葉に内心で驚愕する。

 裏切られた……!?

 他の星にもアルファとオメガの仕組みがあることは知っているけど、この子に寄生しているアルファだったバックルは、自分のオメガに裏切られたの!?

 

「羨ましいなぁ、本当に。なんで私は、貴女じゃないんだろ」

 

 その声に籠められた感情には重さがあった。

 軽薄な振る舞いからは考えれない、心底そう思うようなそれに私は思わず顔を上げると、いつの間にか私から離れたヒラルダは、ベッドで眠っているカツミの傍にいた。

 

「一度、ちゃんと顔を見たいと思ってたんだよね、しらかわ、かつきくん。いや、ほむらかつみくんかな?」

「カツミに近づくな!!」

 

 声を荒らげても、楽しそうに口角を歪めたヒラルダはカツミの頬に手を添える。

 

「このまま彼を奪ったら貴女はどんな顔をするかな?」

「ッ……!」

「あはははっ! じょーだん、さすがにそこまで悪趣味なことはしないよ。だからさぁ、そんな泣きそうな顔しないで? 私がワルモノみたいじゃん」

 

 何がしたいのかまるで分からない。

 一つ言えるのは、このヒラルダという侵略者はとてつもなく性格が悪いということだ。

 そうでなきゃ、こんな嗜虐的な笑みを浮かべるはずがない。

 

「カツミの身体を、乗っ取るつもり……!」

「え、無理だよ。だって彼にドライバーつけたら、負けるのは私の方だもん」

「……は?」

 

 予想外の言葉に私は怒りも忘れて呆気にとられる。

 ヒラルダは、どこか思いつめるようにカツミを見つめながら言葉を発する。

 

「支配力? うーん、そんな強制的なものじゃないね。相性っていうのかな? 多分、彼に私をつけたら、絆されちゃうんだろうなーって確信がある」

「……」

「あ、だからといって殺すつもりはないよ? 少なくとも戦い以外ではね。今日は単純に、この子を間近で見たかっただけだし」

 

 私には、ヒラルダがなにをしたいのかまるで理解できなかった。

 ただ間近でみたいだなんて、それは味方を一人犠牲にしてまですることなの?

 

「どうして、なんの、ために……」

「だって、初めてなんだもん」

 

 あっけらかんな反応を示したヒラルダが私を見る。

 その瞳をよく見れば、様々な負の感情が蠢いているような……真っ黒い目をしていた。

 

「誰にも口にしたことのない本心を理解されたのは」

「……ッ!」

 

 声色が変わる。

 雰囲気すらも軽薄なものから、無表情へ。

 

「ずっと泣いているんだよ? 言葉にすらできない怒りに身を焼かれながら、私は道化を演じ続けている。この命の温かさのないベルトと、借りものの身体で」

 

 ヒラルダが、要領を得ない言葉を並べる。

 感情を感じさせない、不気味な静かな雰囲気を纏った彼女は不意に、カツミを見下ろし頬を緩ませる。

 

「彼に私の心を覗かれた時、衝撃だった。歓喜の思いが心を占めた。でもね、でもね、違うんだよ。見つけてもらうのが遅すぎたんだよ」

「遅すぎる……?」

「救われるなんて今更だよ。だからさ、私を壊すなら、彼がいいなって」

「ッ!?」

 

 なん、だって……!?

 壊すって、まさかヒラルダの目的は!!

 

「私の悪夢を終わらせるなら、私のことを見てくれた人がいい。あの方でもなく、序列上位でもなく、ジャスティスクルセイダーでもなく、私の終わりはオメガの手によって下されなくてはならないんだよ……」

 

 ヒラルダが求めているのは自己の破滅。

 特定の誰かに壊されることを望む性質の悪いもの。

 それに……カツミが選ばれてしまった……!

 

「ふざけないで! そんな勝手な考えで、カツミを……!!」

「あはは、駄目だよ。もう決めたことだからさ。諦めて無様に見ていなよ。貴女は私と同じ(・・・・)“なにもできないアルファ”なんだから」

SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)

 

 いつのまにかベルトに腰に巻いていたヒラルダが、一瞬にして変身を行う。

 

BE(ビィ) STEEPED(スティープド) IN(イン) VISE(バイス)……』

 

 毒々しい煙が彼女の身体を覆い、私を拘束した姿と同じ姿へと変わる。

 ショッキングピンクの鋭利なアーマーに、身体の各部を覆う、煙を噴き出す銀色のパイプ。

 右前腕に、サソリの尻尾を思わせる鋭利な突起を出現させたそいつは、最後にパイプから煙を噴き出したことで変身を完了させる。

 

SCREAM(スクリーム)……SCREAM(スクリーム)……SCREAM(スクリィィィム)!!

POLLUTION(ポリューション)……』

 

「あぁ、やっぱりこの姿が一番落ち着くなー」

 

 その目に良くない色と鋭利な禍々しい外見の姿となったヒラルダ。

 面白がるように肩を竦めた彼女は、不意に背後の窓を見てからからと笑いだす。

 

「あははっ、そろそろ気付かれたころだから、宣戦布告は終わりにするよ。それじゃあねー」

FEAR(フィアー) STEAM GUN(スチームガン)

「待……!」

 

 その手に現れた片手で持てるサイズの銃を軽く振るいながら引き金を引く。

 思わず身構えてしまったが、銃口から噴き出したのはピンク色の煙。

 それがヒラルダの身体を包み込むと彼女の姿は煙と共に消え、その場には拘束が消えた私と、カツミだけが残された。

 

「カツミ……」

 

 彼の共感によってもたらされるものが、必ずしもいいことだけではない。

 中には、ヒラルダのような常軌を逸した思考を持つ、存在すらも引き寄せてしまう。

 

「カツミ、早く、私を思い出してよぉ……」

 

 弱り切った心のままに、思わず零れてしまった声。

 その声に応えてくれるのは、この場には誰もいない。

 他ならぬ、彼さえも。

 




破滅願望持ちの上に、認めた相手にしか壊されたくないピンク色のやべー奴、ヒラルダでした。
彼女が今の姿になったのは、オメガを含めた周りに裏切られ生贄に捧げられたからです。

見た目のイメージは多分一番分かりやすいかもです。
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