追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。
主人公視点となります。


触れてはならない、記憶 前編

 本当に自分が嫌いになりそうだ。

 自己管理のできていない俺のせいで、ハクア姉さんが戦うことになってしまった。

 なんとか怪人を撃退できたとしても、姉さんが危ない状況に身を置いていたことは事実。

 もうこんなことが起こらないようにするべきだ。

 

『わ、わわっ』

 

 侵略者の襲撃から一週間後。

 住んでいるマンションが侵略者に把握されてしまったということで、俺と姉さんとアルファはジャスティスクルセイダー本部に一時的に住むことになった。

 その際に、なぜか俺にあてがわれた部屋が以前、泊まることになった独房に似た場所だったけれど……まあ、そこに関しては妙に落ち着くから文句はない。

 現在は、修練場で白騎士としての姿になっている姉さんを複雑な心境で、モニター越しで見ていた。

 

「白川君の変身はどうやら、君と似た機構を持っているようだね」

「似ているということはどこか違う部分があるんですか?」

「彼女が変身で用いているコアは、二つ。シロのエナジーコアと、もう一つの量産型のコアだ」

 

 量産型の、コア?

 そんなものシロは一体どこから……って……あっ。

 

「最初に俺が侵略者を倒した時、出てきたコアをシロが食べちゃった時があったんですけど……もしかして、それかもしれないです」

「アクスと呼ばれた侵略者が装着していたコアだな」

 

 今、この場にはジャスティスクルセイダーの面々はおらず、数人のスタッフさんとレイマしかいない。

 しかし、アクスか。

俺にとっては色々と印象深い敵ではあったな……。

 

「アクスは、なぜか俺に恨みを持っていたんですよね……。今になっても分かりません。もしかすると、俺は記憶を失う前から、今みたいに戦っていたんでしょうか?」

「それは……こちらにも分からない。少なくとも、白騎士という戦士が確認されたのは、アクスとの戦いが最初だった」

 

 そりゃそうか……。

 でも、あのアクスが俺に向ける憎悪は生半可なものではなかった。

 その執念には、そうさせるだけの何かがあったんだと思う。

 

「話を戻そう。白川君の白騎士、シグマフォームは二つのコアを用いてこそいるが、そのエネルギー供給は量産型コアが中心となっているようだ」

「それってつまり……」

「その気になれば、シロというバックルなしでも変身が可能ということだ」

「レイマ」

 

 思わず彼の名を呼ぶ。

 切羽詰まった俺の声に、彼は安心させるように微笑む。

 

「フッ、白川君を戦わせるつもりはないさ。何より、彼女はあの戦闘民族ナインジャーズと違い、選んだのではなく、そうせざるを得ない状況で戦うことになってしまったからな」

「そう、ですか……」

「今は、単純にデータを取っているだけの時間に過ぎないから安心するといい」

 

 そう言われて俺もようやく肩の力を抜く。

 

「しかし、シロの複製技術には驚かされるな。まさかジャスティスクルセイダーのスーツに酷似したチェンジャーを作り出してしまうとは……」

「さすがは、地球外の技術ということでしょうか?」

 

 データ取りをしていた大森さんの声に、レイマは首を横に振る。

 

「いいや、大森君。これはシロ独自の能力と言ってもいいだろう。吸収、再構築。その繰り返しにより、装着者の弱点を補い、強化していく……凄まじい、ベルトだ」

 

『シロォ———!? ちゃんとやるから、あうっ!? 電流流さないでよぉ!?』

 

「シロ自体は白川君にはドSではあるけれども」

 

 悶えながら動く姉さんにハラハラとさせられる。

 後で、シロに姉さんに意地悪をしないように言っておくべきだろうか。

 腕を組んで思案していると、隣にいたスタッフさんが不意に何かを差し出してきた。

 

「カツキ、食べるか?」

「え、あ、はい。ありがとうございます。グラトさん」

 

 たいやきのいれられた紙箱を差し出してくれた元侵略者のグラトさん。

 大森さんに化けていた彼だが、今や俺達に協力してくれる頼もしい存在になっている。

 そんな彼から、たいやきを一つ受け取り、お礼を口にする。

 

「気にするな。お前が倒れれば、地球を守る戦士が少なくなる」

「……そう、ですよね」

 

 俺がいなくなれば、ジャスティスクルセイダーだけが戦うことになってしまう。

 実力的に自分が下にいることは分かっているが、彼女達に負担がいくようになってしまっていいわけじゃない。

 

「……ん? いや、すまない。プレッシャーを与えたつもりはないんだが……とにかく、食べるといい。甘味はいいぞ、心に余裕をもたらしてくれる」

 

 グラトさんの言葉に頷いた俺は、たい焼きを食べる。

 口いっぱいに広がる餡の甘い味を堪能しながら、モニターを見守る。

 

「あー!? ナツ、それ後でカツキ君に差し入れようと思ってたたい焼き!!」

 

 すると、グラトさんの隣で作業をしていた大森さんが、彼の食べているたい焼きに気づき声を上げる。

 え、これ俺に差し入れされるものだったの……?

 当のグラトさんはきょとんとした表情の後に、肩を竦める。

 

「私のかと思ったぞ。マナ、言っただろう? 冷蔵庫に入っているもの、デスクの上に置いてある食べ物には名前を書いておけと」

「別々のデスクになったんだから、私のでしょ!? 絶対分かってて食べたよね!?」

 

 ま、まあ、とりあえずは大森さんもグラトさんと変わらず仲良くしているようだ。

 二人のやり取りを見て苦笑していると、レイマが俺に声をかけてきた。

 

「カツキ君。プロトのことだが……」

「あ、一週間前の騒ぎで端末が壊れてしまったんですよね。あの子が無事なことは知っていますけど……大丈夫なんですか?」

「ああ、勿論だ。記お……データが失われているというわけでもないからな。同じ端末にインストールすれば、そのまま元通りさ」

 

 しかしな、と少しばかりバツが悪そうな顔をした彼は傍らに置いていたケースから、アカネ達がつけているチェンジャーに似た黒い腕時計を見せてくる。

 

「プロトが拗ねてしまってな」

「拗ねる?」

「なにもできずに壊されてしまったことにショックを受けて、君の傍にいると言って聞かないんだ。……私としても君の身の安全を確保するために、白騎士とは別の変身アイテム(・・・・・・)を持たせることにした」

 

 これは、以前変身に用いたXプロトチェンジャー……?

 

「でも俺はこれを十分に扱えなかったんですけど」

「あくまで最後の手段ということにしてくれ。使うとしても、その場からの逃走に用いればこれほどうってつけの装備はない」

「な、なるほど……」

 

 たしかにこのスーツの力を考えれば逃げに徹するだけでも十分な力だよな。

 納得しながらXプロトチェンジャーを腕に巻くと、すぐにピコーンと画面に赤い光が点灯する。

 

『カツキ……』

「プロト、大丈夫?」

『……君を、守る』

 

 ……なんだかすごい思いつめちゃってるな。

 風邪で寝込んだのは俺のせいなのに。

 それほど侵略者に襲撃されたことは、プロトにとってショックなことだったのか。

 後で、この子と話す時間を設けたほうがいいか。

 

「そろそろ訓練を終わらせるとするか。白川君もグロッキーだし」

『お腹空いた……!』

「あ、姉さん……!? グラトさん、ちょっとたい焼きいくつかもらってもいいですか!?」

「構わん」

「元から貴方のじゃないでしょ……」

 

 動いてお腹が空いてしまったのか変身を解除しぐったりとしている姉さんに気づいた俺は、たい焼きを二つほどをいただき、急いで修練場へと向かうのであった。

 


 

 空腹で倒れかけた姉さんにご飯を食べさせた後、俺は自分の部屋代わりとして住むことになった独房っぽい一室へと戻った。

 構造は独房っぽいが勿論鍵も閉められていないし、部屋の中にはサボテンやブルーレイなど、様々な物で溢れている。

 散らかっているという訳ではないけど、なんというべきか……ジャスティスクルセイダーの本部にあるとは思えない暮らしに溢れた部屋だ。

 

「……なにやってんの、アルファ」

「……」

 

 部屋に入るなり、アルファがベッドで仰向けのまま眠っている。

 部屋を間違えたってことはないだろう。

 と、すれば俺を待ってそのまま眠ってしまったということだろう。

 

「まったく、しょうがないな」

 

 軽くため息をつき、苦笑しながらアルファに布団をかけると、それで起こしてしまったのか彼女は薄っすらと目を開ける。

 

ぅん……あ、カツミだー……

 

 まただ。

 気にしないようにはしていたけど、時折俺はカツミと呼ばれる。

 誰かと勘違いされているのか、それとも本当にその人と俺が似ているのか分からない。

 

記憶が、戻ったんだね……よかったぁ

「……は?」

 

 記憶が、戻った?

 寝ぼけたアルファの口から飛び出した言葉に一瞬頭がフリーズする。

 記憶を失う前の俺を知っていることは別に不思議ではない。

 でも……、俺の名前そのものが違っているのはどういうことだ。

 

ずっと、私のこと忘れてたから……

「俺が、カツミ……?」

……えへへ、何言っているの? カツミは、カツ……ミ

『アルファ!!!』

……よ?」

 

 声を上げるプロト。

 後ずさりする俺にアルファはようやく我に返り、勢いよく起き上がる。

 その表情は、知られてほしくなかった秘密を知られてしまったような……そんな顔をしていた。

 

「カ、カツキ、これは、ち、違くて……!!」

「俺は、記憶を失う前は誰だったんだ……? ッ」

 

 眩暈がする。

 なにか、頭の内側から溢れだそうとしてくる感覚に陥る。

 その場で膝を突き、頭を抱える。

 

——丁度いい

「……ッ?」

 

 不意にルインさんの声が頭の中で響いた次の瞬間、腕に取り付けられたXプロトチェンジャーが点滅し、本部内に侵略者が現れたことを知らせるサイレンが響き渡る。

 侵略者が、現れた。

 一瞬で頭を冷やした俺は、深呼吸をした後にしどろもどろになっているアルファに向かい合う。

 

「アルファ、別に俺は怒ってるわけじゃない」

「……うん」

「なんとなくだけど、君が俺のために隠しているのは分かってる。……でも、この騒動が終わったらちゃんと教えてくれ」

「……分かった」

 

 ……よし。

 思考を切り替えて、侵略者との戦いに集中するべく、そのまま出撃準備を進める。

 


 

 

『やあやあ、はじめまして地球人諸君! 私の名は星将序列44位のガウス!! 今日は君達を人質に取ることにした!!』

 

『危機感の薄い諸君はあまり状況が理解できていないだろう! しかし、そんな諸君にも私は懇切丁寧に分かりやすく説明してやろう!!』

 

『この街の中央、半径500メートル以内に存在する地球人を閉じ込めた』

 

『未だ命の心配はしなくてもいい。君達は人質ではなく、目撃者だ!!』

 

『これからの宇宙史の歴史に残る戦いの目撃者として、彼らを誘き出す餌として諸君には役割を全うしてもらおうじゃないか!!』

 

 

 

 

『あのパクリ野郎! ラボ爆破するだけじゃ懲りなかったのかァ!!』

「レイマ! 現場はどうなっていますか!?」

 

 ルプスストライカーを走らせ空を駆けながら状況を確認する。

 事前情報では、都市の中央に位置する区画を、侵略者は占拠しその上で特殊なフィールドを張っていると聞いたけど……。

 

『相手は、君達を誘き出そうとしているようだ!』

「人質は!?」

『今は被害が確認されていない! しかし、我々が到着しなければ奴は躊躇なく虐殺を開始するだろう!!』

 

 なら、罠も承知で向かっていかなければならないということか。

 厳しいけれど、それでも行かなくちゃな……!!

 

「白騎士君!」

「レッド!」

 

 ここでレッド達が合流する。

 

「……」

 

 もしかして、彼女達も俺の名前のことを知っている?

 ふと、そんな疑念を抱くが、今はそんなことを考えている場合ではないのは分かっているので、さらにバイクを加速させ現場へと向かう。

 場所は遠くない。

 目視できる位置にまで接近すると、そこには——黒いドームに覆われた街が見える。

 

「ブルー!」

「私が撃つ」

 

 先頭に飛び出したブルーがエネルギー砲を放ち、ドームに穴をあけてそこに飛び込む。

 ドームの中は暗闇に包まれており、その代わり眼下には街灯と街の明かりだけが目立っている。

 

「……嫌な暗闇やな。ものすごく覚えがあるわ」

「奇遇だね、私もだよ」

 

 レッドとイエローの呟きを聞きながら、一際明かりの大きな場所に降り立つ。

 

『じゃ、ジャスティスクルセイダーだ!!』

『白騎士もいるぞ!!』

『た、頼む!! 頑張ってくれ!!』

『は、離れるぞ!!』

『いけぇ! 白騎士くーん!!』

 

 俺達の到着にドームに囚われ、逃げることのできない人々が大きなざわつきを見せる。

 

「早くこのドームをなんとかしよう」

「だね。そのためにもまずは、目の前の敵をなんとかしなくちゃ」

 

 円状に広がった空間に3人の人影の姿が確認できる。

 二人は黒色の外套を着ているが、青い刺々しいスーツを纏っているそいつには、俺にとって因縁深い相手だった。

 

「コスモ」

「来たね、白騎士」

 

 かつて敗北を喫した相手。

 俺の到着を待っていたかのように腕を組み、立っていた奴の背後———建物に取り付けられた大きなモニターに、くすんだ金色のスーツに身を包んだ何者かが映り込む。

 

『あのスーツは、サジタリウス……!?』

「司令、あのスーツを知っているんですか?」

『知っているもなにも……そうだな、借りパクされたものを相手の家諸共爆破して処理したと思ったら、劣化改造されてまた出てきたという感じだな……!!』

 

 つまりどういうことなんだ……?

 レイマも混乱しているのか、それともそれほどの衝撃があるスーツなのか分からないが、油断していい相手ではない。

 

『ようやく来てくれたなァ! 白騎士、ジャスティスクルセイダー!!』

「お前がガウスだね」

『この場に現れない非礼を詫びよう、恐るべき戦し———』

 

 言葉を言い終える前に、レッドが剣を振りビルのモニターを叩き割る。

 破片すら散らさずに、綺麗にモニターの機能のみを停止させるが、その隣のモニターにガウスの姿が映り込む。

 

『フハハ! 私程度の矮小な存在が出たとて、その刃がこの身を切り裂くことは分かり切っているので、ここから話させてもらおう!!』

 

 揚々と喋り出すガウスに、剣呑な気配を放つレッド達。

 今にも攻撃を始めそうな彼女達に俺も合わせるように努めていると、どこからか雷のような音が響く。

 それに合わせ、周囲の街灯も、ビルを彩る光が点滅していく。

 

「……なんだ?」

 

 何かが近づいてくる。

 漠然とした予感を抱いていると遠くに見えるビルの隙間の暗闇から、光を放つなにかがやってきていることに気づく。

 夥しい電撃をまき散らしながらやってきたそいつは、コスモの立っている場所へと降り立つ。

 

「シュルルル……!」

 

 見た目は手足の生えたナメクジのような生物が、ゴム製のスーツを纏っている。

 とても強そうには見えない見た目だが、それは見た目だけで伝わってくる強さは、とてつもないものだ。

 

「ッ、レッド、こいつもしかして……」

「うん、そうだね。つまり、後ろにいるやつらも、私が知っている()かもしれない」

『ご名答!! ではご紹介しよう!!』

 

 ガウスの声に合わせ、コスモの背後に佇む二体の侵略者が外套を取り去り、その姿を露わにさせる。

 一体は、宙に浮遊する煙のようなナニか。

 もう一体は、俺やジャスティスクルセイダーと似た姿の戦士。

 

『光食怪人グリッター! 君達、ジャスティスクルセイダーが倒した地球の怪人さ!』

「……」

 

 グリッターって、たしかイエローが倒したっていう地球の怪人だよな!?

 まさか、地球にいた怪人が蘇ったとでもいうのか!?

 驚愕のままイエローを見れば、彼女は手に握りしめる斧に力を籠めながら、言葉を発さないグリッターを睨みつけていた。

 

「あのクソボケ、生き返ったんか……!」

「イエロー、汚い言葉は駄目。レッドみたいになっちゃうよ?」

「ねえ、自然な流れで私の言動が汚いみたいな言い方やめてくれない?」

 

 さらっとツッコミをいれたレッドがガウスの方を見る。

 

「でも、本人の精神までもは再生できなかったみたいだね?」

『いいや、しなかっただけさ。少なくとも性格に問題のある怪人はね』

「……厄介だね」

 

 俺は地球の怪人についての知識は浅いけど、グリッターと呼ばれる怪人とジャスティスクルセイダーの戦闘については良く知っている。

 お調子者で詰めが甘い印象を受けたグリッターの性格を理解した上で、その精神を再現しなかったというのは……中々に厄介とも言えるだろう。

 

「そっちの怪人は?」

『生憎、作った私も名前は分からないんだ。黒騎士にでも聞けば分かるのではないかな? ん?』

「……そう。じゃあ、誰も分からないってことね」

 

 もう一体の怪人は、ふわふわと周囲を見回すと、こちらにピタリと視線を止めジッと見つめてくる。

 

「見られて、いる……?」

 

 なにがかは分からない。

 漠然とした嫌な予感を抱きつつも、ガウスの耳障りな演説が続いていく。

 

『そして、もう一体の恐るべき怪人! 電気ナメクジ怪人!!』

「シュルルル!! ジャバァァァ!!」

 

 その身に溢れる電撃を迸らせるナメクジ怪人。

 あまりの電撃に周囲の電子機器が煙を噴き上げ、ビルの明かりが点滅を繰り返す。

 あいつは精神がそのままなのか分からないが、ものすごく怒ったような様子で———なぜか、俺を見ている。

 

『おやおや、どうやら君に因縁のある相手のようだぞ。白騎士』

「……なんだと?」

『フフフ……』

 

 意味深に笑みを浮かべたその瞬間、前触れもなく動き出した煙のような怪人が俺達の前に現れる。

 青い、煙。

 それはゆらゆらと膨張と収縮を繰り返しながら、その煙の奥にある剥き出しの瞳を怪しく輝かせる。

 即座に攻撃を開始する俺達が、その攻撃は全て奴の煙の身体を素通りし———輝いた瞳の先が俺へと向けられる。

 

『さてさて、なにが出るかな』

「白騎士君!」

 

 ガウスの愉悦に満ちた呟き。

 それと同時に、煙の怪人と俺の間にレッドが割って入り———彼女が怪人のなんらかの攻撃の影響下に晒された。

 

「レッド!!」

 

 咄嗟に彼女を引き寄せ、怪人から距離を取る。

 ッ、攻撃そのものが素通りしたせいで油断してしまった……!

 バカか俺は……!!

 

「大丈夫か!」

「役得!」

「大丈夫……?」

「フッ、なんともないよ。……あの煙の怪人、もしかして……」

 

 自信なさげに尋ねると、やや声を上ずらせたレッドが立ち上がる。

 どうやら、平気なようだけど、あの煙の怪人がなにか知っているのか?

 コスモと二体の怪人はまだ動いてはいないけど……。

 

『ァ、ア、ァ……』

「ん?」

 

 煙の怪人の青い煙が赤く脈打ち、何かの姿に代わろうとしている。

 煙はそのまま肉塊へと変化し、人型へと変わっていく。

 

『さあ、見せてくれ! 最も親しい者の死を再現する悪辣の極みを! 死者を冒涜する悍ましき怪人よ!』

 

「……ブルー、イエロー。あれ、前に彼が言っていた怪人っぽい」

「物理攻撃無効系だね。いや、それ以前の問題としては……」

「レッドがなんの記憶を見られたか、やね」

 

 変化する最中の恐ろしさと不気味さに周囲にいる人々が言葉を失い、ジャスティスクルセイダーも迂闊に攻撃しようとはしない。

 そのまま肉塊は完全な人型へと変化し、服すらも着たそいつは、俯いたまま言葉を発する。

 

「俺は、言ったよな」

 

 黒い髪の、シャツの上に黒いパーカーと、下にジーンズを着た普通の男。

 顔を見せずに俯いたそいつの呟きは、どういうことか声そのものが拡張され、この場にいる全ての人間に声を届かせていた。

 

アカネ(・・・)

「「「……ッ!!」」」

 

 驚愕のまま声を失う。

 レッドの本名を知っている。

 男が顔を上げる。

 その顔は、俺にとって最も知っている顔であった。

 

「おれ……?」

 

「後は任せるって言ったのに、どうして地球はこの様なんだ? 教えてくれ、アカネ、きらら、葵」

 

 周囲にいる人々の視線に晒される俺と同じ素顔。

 そいつは、親し気な様子でレッド達へと語り掛ける。

 

「俺が命を懸けたのに、まだ地球は危機に瀕している」

 

「どうしてだ?」

 

「お前達は肝心なところで大事なものを取りこぼす」

 

「この地球も」

 

「人々も」

 

「俺も」

 

「どうして、俺に命を賭けさせたんだ?」

 

 意味が……意味が分からなかった。

 命を賭けさせた? この俺はなにを口にしているんだ?

 手に持っているダガーを取り落としながら、レッド達を見ると、彼女たちは動揺一つ見せずにジッと、もう一人の俺と敵の姿を目にしていた。

 

『なるほど、レッド。つまりはお前の中では彼は死んだ者と思っているようだな』

「……」

 

 揚々とガウスが無言のレッドに言葉を投げかける。

 その声になぜか周囲の一般人が大きな動揺を見せるが、それでも彼女は反応しない。

 

『残酷だなぁ。本人は傍にいるのに、君はそう思っていない(・・・・・・・)みたいじゃないか』

「……」

『あの半年前の騒ぎで命を賭して侵略を防いだ彼に対する認識がそれとは……いやはや、嘆かわし——』

 

 無音で振り切られた剣が視界に映るモニター全てを叩き割り、その機能を停止させる。

 全てのモニターを沈黙させた彼女は、静かな動作で剣を鞘に納めるが、俺としては冷静になんてなれるはずがなかった。

 

「レッド、どういうことだ……!? なんで、俺があそこに……死んだって……」

「白騎士君」

 

 静かに口にされた言葉。

 その言葉に我に返ると彼女は、俺の肩に手を置く。

 

「大丈夫。君は君だ」

「え……?」

「きっと、混乱するかもしれないけど言っておくよ。私は君が死んだ人だなんて思ってない。これは、私にとっての戒めだったの」

 

 動き出す二体の怪人。

 それにブルーとイエローが迎撃に向かう。

 混乱したまま俺も加勢に向かおうとすると、頬に添えられた手でレッドの方を向かされる。

 

「いなくなった君の代わりに戦おうって、どんなことを言われても、どんなに怖がられようとも、絶対にこの地球を守ろうっていう決意のつもりだったの」

「……決、意?」

「うん。だから、私は戦う。これからも地球のためにも……そして君が戦うことのないように、戦う」

 

 そう言葉にした彼女が俺から離れ、その手に持つ剣を引き抜く。

 向かう先は俺の姿をした怪人。

 ……。

 ああ、そうだよな。

 まだまだ混乱する部分はあるけど、それは後で考えればいいよな。

 

「レッド」

「うん?」

「俺だからって遠慮しなくていいからな……!」

「うん……うん、分かった!」

 

 俺の姿がバレてしまったからにはもうしょうがない。

 いつかはそうなるかもしれないと覚悟していたからな。

 近づいてくるレッドを目にした俺の偽物は、むかつくぐらいに俺と同じ自然な笑顔を浮かべる。

 

「アカネ、まさか俺を攻撃——」

 

 瞬間、レッドが振るった赤色の鞘が俺の偽物の側頭部へと叩き込まれ、その身体をビルの側面へと叩きつけた。

 ……あの、遠慮しないでって言ったけど、なんか……自分が攻撃されてるみたいで普通に嫌だな、これ。

 

『黙れ』

『アカネ、酷い、じゃないか……また、俺をいじめるのか?』

『お前が、私の名を口にするな』

———(父さん)———(母さん)みたいに……?』

『……ッ』

 

 レッドの戦闘が始まったところで、俺は気分を落ち着けるように深く深呼吸をする。

 地球の怪人はジャスティスクルセイダーに任せよう。

 俺の相手は、ここに来た時点からもう決まっている。

 

「待たせたな、コスモ」

「……こんな形での戦いになるとは思っていなかったけど、仕方ない」

 

 青い戦士、コスモと相対する。

 奴の目的は俺と戦うことだってのはなんとなく分かっていた。

 だからこそ、それ以上の問答は必要なかった。

 

「始めよう」

MIX(ミックス)!』

RED(レッド)!』BLUE(ブルー)!』

 

「こちらもそのつもり!」

COME ON(カモン)!!

 

 出現させたミックスグリップを起動させ、コスモもバックルに力を籠め黒と青のオーラを纏う。

 互いにフィールドを激突させながら、戦いが始まる。

 




ナメクジ怪人さんがめっちゃシャウトしていたのは、自分の名前がナメクジ怪人だとずっと間違われて呼ばれていたからです。

主人公、ジャスティスクルセイダー、一般人に同時に影響を与える能力対象はレッドでした。
一番のトラウマを刺激されて内心では滅茶苦茶怒ってます。
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