追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしてしまい申し訳ありません。
今回はコスモ視点となります。


戦う理由と変化(コスモ視点)

 次元が違っていた。

 黒騎士としての力を取り戻した奴の力はボクの想像を遥かに超えるデタラメなものだった。

 星将序列上位を苦戦もなく一蹴してしまうその力。

 覆すことのできない暴虐の極致。

 まさしくそれは、ボクには決してたどり着けない境地そのもの。

 

「いつの間にか騒ぎも治まってるし、とりあえず戻るか」

 

 一応、黒騎士———穂村克己に言われたとおりに近隣に住む人間たちに危険を知らせている間に、いつの間にか事態は終わりを迎えていた。

 

「まったく、すぐに終わるんだったらボクに頼むなよな……もう」

『ガオォ!』

 

 ぴょん、と肩に飛び乗った青色のライオン、レオに視線を向けながら軽くため息をつく。

 他の侵略者の視線のことはボクも気づいてボクもレオと一緒にホムラを追いかけたわけだが、相手があの悪名高い星界戦隊だとは思いもしなかった。

 

「理想に敗れ、戦いに溺れた正義、か」

 

 星界戦隊。

 序列20位から11位に居座る五人の戦士。

 元は敵対組織だったらしいけれど序列八位に敗れた後は、どういうわけか星将序列に名を連ねることになった謎多き集団でもある。

 その所業は悪辣極まりなく、星を救う側だったそいつらは星という命を弄び、時には意味もなく侵略、蹂躙しその果てに歪みに歪んだ“正義”の名の元に粛清を下していた。

 

「ボクも、いずれはああなっていたかもしれない……よな?」

『ガーオ』

 

 力に溺れ、自分すらも見失いそうになっていたボクは、なんとか自分を取り戻すことができた。

 それはきっとボクだけの力では無理だったんだろう。

 変態……サニーの言葉に諭され、

 白騎士、白川克樹の行動に命を助けられ、

 シンドウに自分を見つめなおす時間をくれる居場所をもらった。

 

「自覚、せずには前に進めないよな……はぁ……」

 

 これまで信じていたルイン様に見捨てられ、生きる希望すらもなくなっていたはずなのに……ボクは今、こうして生きている。

 ただ一つ言えることは、今のボクには戦う目標も、理由もなにもないことだ。

 

「理不尽だらけだなぁ……」

 

 この目で黒騎士の力を見た今なら理解できる。

 ルイン様が求めていたのは盲目的な忠誠心なんかじゃなかった。

 絶対的な強さを持つあの方が求めていたものは、自身が本気で力を向けることのできる強い存在———それが、穂村克己だったんだ。

 

「本当に道化だったんだな、ボク」

 

 勝手に舞い上がって、一番の相棒のはずのレオに酷いことをして。

 挙句の果てに敵だった人間に助けられてしまった。

 父上が見たらなんと言うだろうか。

 

「なにより穂村克己がまさかシンドウと知り合いだった事実がなによりも理不尽だ……!」

 

 ま、まさか……助けてもらった礼を返すためにうぇいたーとやらを手伝ってやろうと思った矢先に、このボクの醜態を見せることになるなんて……!

 あいつ、しょっちゅう記憶喪失になったりするし、どうにかしてその時の記憶だけを消し去ることはできないだろうか。

 

「はぁ、とりあえず戻ろ……」

 

 気づけばサーサナスに到着したのは扉を開いて店の中に入いる。

 店内にはこの星のアルファと思われる黒髪の少女……というより、名前もそのまんまでアルファな少女がいた。

 

「克己? ……なんだ、違うんだ」

「悪かったな、穂村克己じゃなくて」

 

 露骨に残念そうな顔をされてしまった。

 こいつ、なんか失礼だな。

 思わずムッとした顔になっていると、店の奥からサンドイッチを乗せたお皿を持ったシンドウがやってくる。

 

「ほれ、サンドイッチでいいのか?」

「ありがとー。はじめて食べるんだよねー、これ」

「……? まあ、お代はいらねぇから」

 

 お皿を受け取り、頬を綻ばせながらサンドイッチを食べ始めるアルファ。

 その様子を確認したシンドウは、今度はボクを見る。

 

「どこほっつき歩いてたんだ?」

「……ちょっと、そこらへんに」

「……。まあ、とやかくは言わねぇよ。今度は奥に逃げ出すんじゃないぞ?」

「わ、分かってる」

 

 さっきのはまさかの最初の客が黒騎士だったからだ。

 それ以外ならきっと大丈夫だ。

 ……今度こそ、今度こそちゃんと応対してみせる……!

 すると丁度良く、背後の扉が開き鈴の音が鳴る。

 その音に即座に反応し、振り向くと同時に来客を出迎える。

 

「い、いらっしゃいませ! 喫茶店サーサナスです!」

 

 しかし———振り返った先にいたのは、橙色のシャツという派手な装いを身にまとった大柄な男、サニーと、つい先ほどまで戦っていた黒騎士、穂村克己であった。

 驚きに目を丸くする二人に、ボクは再び顔に熱がこもるのを感じる。 

 

「あ、おかえりー、克己」

「ッ!?」

 

 ホムラとアルファがそんな暢気なやり取りを交わすと、サニーが楽しそうな笑みを浮かべて親指を立てる。

 

「一皮剥けたわね……! その初々しさと照れの入った所作……嫌いじゃないわ!!」

「あ……え、あ……う、ぁぁ……」

 

 ボクは叫んだ。

 ついでに、シンドウも怪物に遭遇したように狼狽えた。

 

「テメェ、早速来やがったな、化物!!」

「久しぶりの開店だから来ちゃった。いつものお願いね」

 

 いや待て、シンドウはこいつと知り合いなのか!?

 割と親しそうな仲に見えるが、いったい……。

 

「なんでお前、ここ知っているんだ……?」

「なんでって、ここが私の推しのいるお店よ?」

 

 ……推し?

 思わずシンドウを見る。

 この店の推しといったら一人しかいないわけで……。

 

「シンドウ!? お前、こいつとデキてたのか!?」

「なんて悍ましいことを口にしやがんだ!? ねぇよ! そんな事実は存在しねぇ!!」

 

 まさかの事実に普通に引く。

 というより星将序列一桁に普通に好かれてるシンドウは何者なんだ?

 ある意味、最強の味方を手に入れていると同じなんだけど。

 

「ねえねえ、克己。これ美味しいよ?」

「……」

「なんで無視するの? ねえ、ねえってばー」

 

 無言で席に座ったホムラにアルファは必死に話しかけている。

 ……なんでこいつらこの状況でイチャついてんだ?

 なんかすっげぇ腹立たしいんだが。

 

「おい、カツキ……じゃなくて、カツミか。さっきから静かだがどうした? なんか飯でも作るか?」

「ああ、いえ、大丈夫です。その、新藤さん……」

「なんだよ?」

 

 どこか気まずい様子で視線を落としたホムラ。

 

「人の好みとか、そういうのは人それぞれなのは分かってますから……」

「おいオカマ野郎。どうやら俺はお前を葬らなければならないようだ……!」

 

 正体を隠しているとはいえ、宇宙でも上位に位置する実力者相手によく喧嘩を売りにいけるな……。

 当のサニーはそのやり取りさえ楽しそうにしている。

 

「恋する乙女は無敵で不滅、これは宇宙の共通認識なの。……やだこれ、割とシャレにならないくらい事実過ぎだったわ……」

 

 なんで自分で口にして狼狽えるという謎の反応を見せるんだ……?

 ……そもそもここにいるメンツが危なすぎる。

 黒騎士に、序列一桁の化物。

 変身したボクでさえ容易く一蹴できる怪物が揃っている。

 

「おい、コスモ。お前このオカマの話し相手になってくれ」

「え、嫌だよ。悍ましいし

「ねえ? 今、すっごい自然に私のこと悍ましいって言った?」

「それは同感だが、俺も注文を作らなきゃならねぇしな」

「流れるように同意もされたわ……!?」

 

 サニーにコーヒーを差し出した後に、厨房に引っ込むシンドウ。

 くっ、仕方ないか……ボクが恩返しのために自分から言い出したことだ。

 やるしかない。

 覚悟を決めてサニーと会話しようとすると、無言でホムラが立ち上がる。

 

「どうした? 帰るのか?」

「ソラ、少し離れてくれないか?」

「……ん? はぁ?」

 

 一瞬、自分が名乗った偽名で呼ばれたことに気づくが、離れろってなんでだ?

 言われたとおりにカウンターから離れると、元々悪い目つきをさらに鋭くさせた彼が———突然、隣に座っていた黒髪のアルファの首を掴んだ。

 

「あ、うぐ、か、克己……な、なにするの?」

「……」

 

 ……はい!?

 こ、こいついきなりなにやってんだ!?

 ボクが言うのはなんだけど、地球の常識的にもこれは駄目なんじゃないか!?

 

「お、おい、何やってんだよ!? サニー、止めろよ!」

「止める必要ないでしょ」

「はぁ!?」

 

 暢気にコーヒーを口にしているサニーに慌てた様子は見られない。

 なんでこっちは落ち着いているんだ!?

 さらに混乱するボクに、サニーは首を捕まれているアルファを指さし呆れたため息をついた。

 

「自業自得よ、自業自得。彼の逆鱗にわざわざ触れようとする方が悪いに決まってるわ」

「……悪い、オカマの星の言葉は分からないんだ。地球の言葉を喋ってくれないか?」

「オカマの星ってなによ!? 行けるなら行ってみたいわねぇ!?」

 

 それ言外に自分がオカマって認めているんじゃ……。

 いや、それよりもどうしてホムラが自分のアルファの首を掴んでいるんだ!?

 

「……どうして、こんなこと、するの?」

「お前、アルファをどこにやった……?」

 

 苦し気に、顔を赤らめたアルファ。

 僅かに引いた様子のホムラの言葉に、ボクも首を傾げる。

 

「私が、君のアルファだよ? ずっと一緒にいたのに、忘れたの?」

「違うだろ。見てくれだけ似せたくらいで俺があいつを間違うことは絶対にない」

 

 偽物……?

 苦し気に呻くが何も口にしないアルファに、業を煮やしたのか彼は服の袖を捲り変身用チェンジャーに指をかける。

 

「言わねぇなら、力づくで吐かせる。それが嫌なら本物のアルファの居場所を吐け」

「ふふふ……分かった。降参よ、こーさん!」

 

 口調を変え、明るい声で降参するように両手を掲げるアルファの姿を真似た誰かは、そのまま軽く指を鳴らすと何もない空間にワームホールを開き本物のアルファを出現させる。

 眠らされていたのか、そのまま床へ倒れかけた彼女をホムラが支える。

 

「アルファ、無事か? なにかされなかったか?」

「すぅ……すぅ……」

「心配しないで。ただ眠っているだけだからさ」

 

 解放され自由になったアルファに化けていた誰かは、変わらず無抵抗を強調するように両腕を上げている。

 しかしそれでもホムラの目には怒りが満ちている。

 

「信じられないかもしれないけど、私は敵じゃないわ」

「御託はいい。さっさと正体を現しやがれ」

「……ふふ」

 

 何者かの身体にノイズのようなものが走り、その姿が一瞬で変わる。

 黒髪のアルファを、そのまま成長させたような姿の女。

 唯一違う点を言えば、髪を後ろで結っているところだが、それ以外はほぼアルファとそっくりであった。

 

「本当に誰だ。お前、アルファみてぇな姿しやがって」

「当然よ」

 

 そいつは椅子にもう一度座る。

 そのままアルファを抱きしめるように支えているホムラに指を向けた。

 

「だってその子、私の娘みたいなものだもの」

「……は?」

「あ、でも正確にはもう一人の私? ようは成長する分裂体って感じね」

 

 目に見えて困惑するホムラ。

 にっこりと微笑んだ女はさらに言葉を投げかける。

 

「私は星将序列六位、アズっていうの」

「ぶっ!?」

 

 ろ、ろろろ、六位!?

 格上どころじゃない! 最早次元が違いすぎるほどに上位の存在がもう一人目の前にいた事実に、気絶しそうになる。

 しかも六位って誰も正体を知らないって噂のやつじゃないの!?

 

「そう構えないで、私は貴方の味方よ?」

「……」

「警戒されちゃったわねー。ま、無理もないか」

 

 依然として警戒を解かないホムラに肩を竦めるアズ。

 そんな彼らを見てため息をついたサニーは、仲裁するように間に割って入る。

 

「カツミちゃん。話は後にしない?」

「……あんたには聞きたいことがある」

「この胡散臭い女がいるところじゃ話もできないでしょ? ほら、これ私の連絡先、いつでも連絡していいからね♪」

 

 あらかじめ用意していたのか連絡先の記されたメモ用紙をホムラに手渡すサニー。

 アルファをおぶりながらそれを受け取った彼は、訝し気な様子でサニーを見る。

 

「あんたは、何がしたいんだ?」

「少なくとも貴方と敵対しようとは思っていないわ。一つの理由としては、そうね……この星とマスターのことが気に入っちゃったから?」

「……はぁ……今までぶん殴ってきた怪人とは違うのは分かった」

「今はその認識でいいわ」

 

 複雑そうな表情で頬を掻いたホムラはため息と共にボクへと振り返る。

 

「新藤さんに先に帰るって伝えてくれ」

「え、あ、ああ」

「それと……」

 

 じろり、とホムラが胡乱な目を向ける。

 

「お前の名前ってコスモなのか?」

「え!?」

「こいつとも顔見知りらしいし、なんか関係あんのか?」

 

 疑われている……!?

 別にバレても問題ないんだろうが……いや、白川克樹としての記憶が戻ったら色々面倒どころじゃない。

 少なくともあの恐ろしい赤い奴が襲い掛かってくる可能性があるのも怖い。

 

「コ、コスモはあだ名でこのオカマとは腐れ縁のようなもんだよ……!」

「……そうなのか? 疑って悪かったな」

 

 ボクが言うのもなんだけど騙されやすくないかこいつ。

 いや、第六位の変装を見破る時点で単純に騙されやすいというわけではないだろうが……天然なのか?

 

「じゃあねー、克己くん♪」

「……」

「やだ、無視されちゃった」

 

 アズを無視し、そのまま店を出ていくホムラ。

 そんな彼の後ろ姿を見送っていると、呆れた様子のサニーが未だに手を振っているアズの脳天にげんこつを叩きこんだ。

 

「いったぁーい!? なぁにするのよ!?」

「貴女の気まぐれもいい加減にしなさい」

 

 頭を押さえて涙目になるアズを見下ろしたサニーは、ため息をつきながら元居た席に戻る。

 

「だって話したかったんだもの」

「話すなら娘にでしょ」

「いえ、別にあの子に話すことはないんだけど? 私は死んだって思っているだろうし?」

「母親失格ね」

 

 サニーの棘のある言葉にアズは笑みを返しながら、組んだ手に顎を乗せる。

 

「母親というのはあくまで一番近い表現なだけよ。私は別に愛情を注いだわけでもないし、……強いて言うなら彼を支える存在を傍に置いておきたかっただけね」

「どこまで裏で手を引いているの?」

「それ以外は特に何もしてないわよ?」

 

 あっけらかんとした様子で首を横に振る彼女。

 

「あの子が克己という存在に引き寄せられたのも、オメガと見定めたのも、全てはあの子の意思。そこに私の力の一切が関与していないわ。その前は……そうね……」

 

 アズが明るい笑顔でサニーに振り返る。

 その無邪気な笑顔とは裏腹に、サニーの表情が険しさを増す。

 

「この地球のオメガを利用して、ルインを殺すための戦力を作ろうとしたくらいね」

「!?」

 

 ルイン様を殺す!?

 なんなんだこいつは!? 星将序列じゃないのか!?

 意味不明なアズの言動に驚くボクを他所に、サニーはもう一度彼女の頭にげんこつが叩きこまれる。

 頭を押さえて呻く彼女にサニーは、拳を鳴らす。

 

「それでも十分大それたことよ」

「だって、それが一番いいかなって思って。実際、序列上位レベルの怪人は沢山いたのよー? みーんな、克己に倒されちゃったけどっ!」

「もう一発、いっとく?」

「うげっ、さすがに痛いから逃げるわっ!」

 

 さすがにもうげんこつは食らいたくないのか、涙目になったアズがその場から一瞬で消える。

 いつの間にかボクとサニーの二人だけになってしまった店内だが、不意にサニーが肩を落とす。

 

「全く、あの女狐、見破られなかったら成り代わるつもりでいたわね……。油断も隙もあったものじゃないわ」

「……」

「ごめんね。コスモちゃん、こっちだけの話しちゃって」

 

 こいつらが分からない。

 ルイン様の敵なのか? いったい何がしたいんだ?

 返事を返せないボクにサニーは続けて話しかけてくる。

 

「それで、どうなのよ?」

「どうなのって……なんだよ」

「やりたいことは見つかったのかって」

 

 やりたいこと?

 そんなもの簡単に見つかるはずがない

 

「ボクはルイン様に期待すらされてなかった……」

「そうね。厳しい言い方だけど、失望もされていたと思うわ」

「……」

 

 ボクは間違っていた……のだろう。

 ルイン様がボクに求めていたものを、絶対の忠誠だと思い込んでいた。

 それが間違いだと気づかずに、ただ命令されるままに白騎士と戦おうとしていたボクは、捨て駒として利用されたのだ。

 

「戦う力はまだあるんでしょ?」

「あるけど、誰と戦うんだよ。戦って、どうするんだよ」

 

 またルイン様のために戦えっていうのか?

 あの方への憧れはまだ胸の内にあるがそれだけだ。

 今の腑抜けた負け犬になり下がったボクに、いったい何ができるというんだ。

 

『随分とウジウジした奴だな! これじゃあレグルスも苦労するぜ!』

「!?」

 

 不意にサニーのポケットからレオと同じタイプの鳥型のメカが飛び出す。

 ぱたぱたと機械の翼をはためかせたオレンジ色のそいつは、ぺしぺしとボクの頬を翼で叩くと乱暴な口調で話しかけてきた。

 

「こいつは、レオと同じ……」

「私の相棒のヴァルゴよ。貴女と同じ、ゴールディの残した強化スーツの一つね」

『オレの説明はどーでもいいんだよ!』

 

 レオと違ってすっごい粗暴なやつだな……!? 可愛い声からしてもギャップがすごい……。

 しかも普通に喋っていることにびっくりした。

 ヴァルゴの物言いに怒ってくれたのか、物陰に隠れていたレオがテーブルの上に飛び乗り、吠える。

 

『ガオ!! ガオォ!』

『ケッ、なーにがそこがいいだよ! お前が甘やかすから間違った成長をしかけたんだろ!』

『ガオ!! ガウ!! ガオォ!!』

『駄目な子ほど可愛いって……お前、その愛情は歪んでると思うぞ……?』

 

 ボク、レオに駄目な子って思われてたの……?

 今日一番の衝撃の事実に打ちひしがれそうになる。

 確かにボクは思い返してみてもダメダメだし、そう思われていてもおかしくないけど……。

 

「これからの貴女を決めるのはルインちゃんでも私でもなく、貴女よ」

「ボク?」

「そ。今までずっと誰かの言う通りに生きてきたでしょ? ヴァースもきっと貴女が自分で考えて戦う理由を見つけることを望んでいるはずよ」

 

 父上が……。

 

「いっそのこと、自分を虚仮にしたルインちゃんに目にもの見せるって気概も見せるといいかも」

「無理に決まってるだろ!」

「それは誰が決めたの?」

 

 間髪入れない指摘に言葉が詰まる。

 そんなもの、誰が決める必要もなく不可能だ。

 

「カツミちゃんは戦ったわよ。本気でルインちゃんを倒すつもりで」

「嘘、だろ?」

 

 ボクに同じことができるだろうか。

 ルイン様を前にしてその膝を屈することなく立ち向かえるか。

 

「ここで戦いとは無縁の生活をするのもいいでしょう。立ち上がって戦う意味を見つけるのも自由よ。貴女の選択の結果に、私は何も言わない」

 

 コーヒーを飲み干し、カウンターにお金を置いて立ち上がったサニーがそのまま扉へと歩き、こちらを振り返る。

 

「ただ一つ言えることは、自分に嘘をつくことだけはしないでね?」

「……」

「それじゃ、次に会う時まで答えが出ているといいわね♪」

 

 鈴の音色を鳴らしながら扉が閉まり、店内を静寂が支配する。

 ボクが戦う理由。

 最早、星将序列すらにすらも意味を見出せなくなったボクが今更なにを———、

 

「あれ!? 全員帰ったのか!?」

「シンドウ……」

 

 振り返れば両手に料理がよそられたお皿を持ったシンドウがいた。

 彼は肩を落としながらボクの前にお皿を差し出してくる。

 

「仕方ねぇ。勿体ねぇから食っていいぞ」

「……お前、ボクのことを食いしん坊か何かと勘違いしてないか?」

「いらねぇなら別にいいけど」

「誰がいらないっていった! 食べるに決まってるだろ!!」

「そういうところだと思うぞ……」

 

 戦う理由はまだ思いつけない。

 だけれど、不思議とここで生活していくうちにこの穏やかな日常がずっと続いてほしいなと思ってしまうのだった。




カツミが気づかなかったら、そのまま成り代わる気満々だったアズでした。

コスモの駄目な子ってところが可愛いと思っていたレオ。
設定上のコア達の性格が大体イロモノすぎる……。



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