前話の前書きで書き忘れてしまいましたが、
鎧武CSM発売&『鎧武外伝』新作おめでとうございます……!
箸休め回となります。
今回はちょっと新しい試みをしてみました。
今の俺の記憶はちぐはぐだ。
最後に鮮明に覚えているのは、マグマ怪人の野郎と戦った後くらいか。
意味不明なことを喋る機械人間を返り討ちにしたあたりで俺の記憶は、今へと繋がってしまった。
三年。
その間の記憶が全然ないわけではなく、途切れ途切れのアルバムを順番関係なく見せられているような断片的な映像を見せられているようなものなので逆に混乱してしまう。
「いったいいつになったら俺の記憶は元に戻るのやら……」
曜日的には休日にあたる日。
俺は天塚家のリビングで自分の記憶の断片を思い浮かべ、整理していた。
「……白川克樹、か」
到底信じられないが、記憶を失っている間の俺は人当たりのいい人間だったようだ。
いや、本当に信じられないことにだけど、記憶の断片を見る限り認めるしかない。
「カツミ兄ー」
「ん?」
一人考え込んでいるとリビングにきららの妹のななかと弟のこうたがやってくる。
今日は休日なので学校が休みなのだろう。
「ゲーム、やろ!」
「……そうだな。いいよ、やろうか」
考え込んでいるだけじゃなにも思い浮かばないからな。
それに、今買い物に行っているコヨミさんから二人のことを頼まれたし、ここは遊びに付き合ってやるのが大人というものだろう。
「ななか、こうた。俺は成長する男だ……! いつまでもやられっぱなしでいられるか……!」
「「わーい」」
あと個人的にこいつらにはゲームでの借りがあったのでリベンジしなくてはならない。
先日の屈辱、忘れたわけじゃないぞ……!!
喜ぶななかとこうたと共にリビングのテレビの前へと移動し、ゲームを開始する。
「俺のガノンドルフでなぁ……!」
「カツミ兄。ガノンド
んなことどうでもいい!
今日こそ雪辱を果たしてみせる……!
スマブラ、というゲームをするのは天塚家に来てから初めてのことだった。
持ち運べたりテレビにつなげてゲームができるなんてやべぇなと思いつつ、やってきたわけだが……正直、俺は一度もななかとこうたに勝ったことがない。
「ドンキーで煽るんじゃねぇ!! あ、くっ埋ま……あ、また埋まっ、煽るなぁ!?」
「ほらほらー」
ななかの操るドンキーコングに相変わらず翻弄されまくった俺はいつものように一つも残機を削れないままに終わってしまう。
なんでこいつらこんなに強いの……?
「きららには勝てるのに……」
「きらら姉はゲームあまり上手くないからねー」
きららは今、呼び出しを受けたといった塾? に行ってしまったらしいが……。
「ちょっと休憩するか」
「えー、まだ遊びたーい」
「休憩って言っただろ? やめたりしないから安心しろ」
ゲームというものにあまり触れてこなかったので、少し疲れてしまった。
ソファーに座りなおしながら、俺はふとポケットにいれている端末を取り出す。
「プロト」
『なに? カツミ』
プロトスーツにいた意思が喋るようになった存在、プロト。
彼女の存在を確かめつつ、俺はあることを彼女に尋ねる。
「これって動画とか見れるか?」
『普通に見れると思うよ』
そうか、なら……。
今の今まで無意識に避けていたことだけど、向き合うべきだよな。
「じゃあ、白騎士……についての情報を出してくれ。動画、ツムッターなんでもいい」
『……いいの?』
「ああ、避けては通れないからな」
『……うん、分かった』
短い沈黙の後に頷いたプロトが情報を探し始める。
すると、俺とプロトの会話を聞いていたななかが、端末を覗き込む。
「カツミ
「ん? 知ってんのか?」
「うん。みんな知ってるよ? 動画たくさん出てるし」
マジかよ。
え、それじゃあこんな子供が戦いのアレとか見てたってこと?
教育に悪いと思うんだけど。
「じゃ、白騎士兄のことが映ってる動画とか教えてあげるっ!」
「お、おう? プロト、それでいいか?」
『むぅ、別にいいけど……』
端末をななかに渡すと、手慣れた様子で検索を始めてくれる。
一分もかからないうちに見つけたのか、すぐに開いた動画を見せてくれる。
「はい。二ムニム動画の方」
「にむにむ……? なんだろう、聞き覚えがあるな……」
首を傾げつつ動画を見る。
なんだ……? 『白騎士必殺技&変身集』……?
「終わりに、する!!」
『
「セェェイ!!」
『
映し出されたのは赤い装甲を纏った戦士が剣で怪人を倒している姿。
怪人が爆発したすぐ後に、膨大な量の文字———コメントが画面を横切っていくのを見ながら、俺は呆気に取られてしまう。
「こいつは……」
「赤いカツミ兄は剣を使ってたんだよ?」
「他にもあるのか?」
「うん。あ、ほら、青い姿は銃なんだ」
画面に意識を戻せば、今度は青い姿と銃を持って怪人にとどめを刺している戦士の姿。
白騎士としての俺は相手によって姿を変えて戦っていたのか?
なにそれ、面倒すぎるだろ。
でもなにより、怖いのは……。
「このコメントだよ……」
なにやら白と黒の姿でトリケラトプスと戦っている時の場面に流れるコメント。
それを見て思わず頭を抱える。
白騎士百 穂村克己百 可能性の獣百 黒騎士百 四人目の戦士百 白騎士ちゃん百 なぜか悪堕ちしない男? 侵略者キラー ? もどらないで ?
「俺の名前普通に出てるじゃねぇか……」
「それはしょうがないと思うよ?」
「ああ、分かってる……」
ガウスとかいう野郎に俺の情報が広められちまったからな。
さすがにアルファに地球規模の認識改編をしろとも言えねえし、このままにするしかなかったが……やっぱり嫌だ。
「しかも白騎士ちゃんってなんだよ」
「白騎士兄が女の子になったやつだよ」
「……えっ?」
う、嘘だといってくれ……。
記憶を失っている間に俺になにがあったの……?
俺が女の子になるような異常事態があったの……?
こ、怖くて先が見れねぇじゃねぇかよ……!!
「ぷ、プロト、どういうことなんだ……?」
『えーっと、うーん、なんて言ったらいいんだろ……』
なんで言いよどむんだ?
もしかしたら本当に俺が女の子になって変身して戦ったのか!?
すると再生していた動画に、白騎士と同じ……いや、体格と身長そのものが変化した白騎士が現れる。
「な、なんで私が変身してるのぉ~!」
「待てやゴラァァ!! 白騎士ィィ!!」
「ンヒッ!? お、おおお追いかけてくるぅ!?」
「うわああああ!?」
『うひゃ!?』
思わずプロトを手放しながらソファーから転げ落ちそうになる。
幸い、プロトは床ではなくクッションに落ちて傷つくことはなかったが……なんだ今の恐ろしいコメント群は……!!
「わ、悪いプロト……ね、ネット怖い……」
『大丈夫。気にしないでっ!』
こいつは俺なのか……?
分からねぇ、俺には白騎士が分からねぇ……!!
でもコメントが怖いので、ななかに変えてもらうようにお願いする。
「べ、別の動画にしてくれ……!!」
「? 分かった。じゃあ、フーチューブのやつにしよっか」
さすがにそこまで見る勇気はなかったので変えてもらう。
先ほどと同じようにすぐに変えてくれたななかが、また端末を俺に見せてくれる。
「ハァァァァ!!」
『
「セェェイ!!」
『
「俺はお前を、許さない!」
『
「「「ハァァァァァァ!!」」」
『
「いや、色多すぎだろ」
さっきも思ったけれども。
しかもなんだろ、出てくる台詞が俺じゃない。
やっぱり俺じゃないっていいたいけれど、記憶の中に該当する部分が多すぎて認めるしかない。
「く、うぅ、おおお……!」
「だいじょーぶ、カツミ兄?」
今すぐその場でもんどりうちたい衝動にかられながらもなんとか耐える。
「これ一般人はなんて思ってんだ……?」
「下にスクロールするとコメントが見えるよ」
「……見てみるか」
ななかに言われたとおりに画面を下の方へ移動させていくと確かにコメントのようなものがあるのを見つける。
さっきの二ムニム動画とは違うな。
3426件のコメント ▽並び替え
通りすがりのルナドーパント 1か月前
イケメンなのね! 嫌いじゃないわ!!
まるでカツミちゃんみたいじゃないの!!
い21334 う 返信
▼1221件の返信を表示
後輩系巫女 1か月前
自分用
2:56 レッド必殺
4:14 ブルー必殺
5:13 イエロー必殺
7:33 ブラッド大地に立つ
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い465 う 返信
▼134件の返信を表示
ナマコ改めウミウシ 2か月前
謎というのが白騎士ちゃんの一番の魅力だと思うウシ
でも水(ネタ)がないと干からびちゃうので、また出てきてほしいでウミウシ
い334 う 返信
▼54件の返信を表示
一般怪人男性 1か月前
力に目覚めるというより、力を取り戻しているって解釈好き
早く黒騎士君に戻ってほしい
い135 う 返信
▼24件の返信を表示
レッドに斬られたい一般怪人 3日前
そもそも黒騎士くんが記憶失った理由ってなんなの?
そんな簡単に記憶って飛ぶものとも思えないし、戻り方が不自然すぎる。
人為的に記憶操作されてる可能性も高いと思う。
い54 う 返信
▼6件の返信を表示
NAMAKO魂 1週間前
本当に名前がカツミだとは……。
実質エターナルでは(゚д゚)?
い23 う 返信
▼4件の返信を表示
ほーじ茶 1日前
過去になにもなかった黒騎士くんの姿とか言われてるけど、間違いでもなさそうなのが辛い
い3 う 返信
使いやすいトラクローくん 二日前
京水姉貴がガチ予言して草
い1 う 返信
ゆっくりとコメントを読み進めていきながら、白騎士や自分がどう思われているのかを考える。
俺の過去に関することは正直どうでもいい。
自分の中で折り合いはついているし、特になにも思ってはいない。
だけど、白騎士として俺は何をしてきたのか。
どのような戦いをして、誰と関わってきたのか、それをよく知りたかった。
「ジャスティスクルセイダー、か」
俺と一緒に戦っていた三人の戦士。
俺は彼女たちを知っていた理由も一緒に戦っていたからだろうか?
「お姉ちゃんがどうしたの?」
「え、いや、ジャスティスクルセイダーって言ったから、きららじゃ……」
「あれ? カツミ兄知らないの?」
きょとんとした顔のななかが動画の端に映っている黄色い戦士———ジャスティスイエローを指さす。
「イエローがお姉ちゃんだよ?」
「……マジで?」
「だからカツミ兄と会えたんだし! ねえ、こうた!!」
「うん」
……マジかぁ。
衝撃的な事実ではあるが、自分でも納得している部分はあるので嘘ではないんだろう。
ということは俺を匿ってくれていたのか?
「はぁ……きららにも話をしなきゃな」
「もしかして、怒ってる?」
「いや、怒ってねぇよ。むしろ感謝してるくらいだ」
記憶を失っている俺をアルファと一緒に匿ってくれた時点で怒る理由はどこにもない。
そもそも、ここに俺たちを連れてきたのはななかだからな。
別にきららが何かをしたわけでもない。
「きららはどのくらいで戻ってくる?」
「んー、夕方くらい?」
「それまで待ってるか……いや、待て」
時間があるならあいつと話してみるか。
先日、遭遇した男、サニー。
もうすぐコヨミさんも帰ってくる頃だし、午後になったら奴に話を聞きに行ってみるか。
「アルファは……どうするか」
今、ななかの部屋で惰眠を貪っているアルファを連れていくべきか悩むが……アズのこともあるし、今日のところはこの家で留守番でもしてもらうか。
敵ではないとは言っていたが、あいつ怪しいってレベルじゃなかったし。
「カツミ兄? 大丈夫?」
「ん? ああ、大丈夫だ。……そろそろゲームの続きでもやるか?」
「! うん!」
まずはこいつらの機嫌を損ねないようにゲームに付き合ってやらんとな。
いや、別に負けたのが悔しいわけじゃなくて、一人の大人として面倒を見なきゃいかねぇからな、うん。
白騎士ちゃん登場時のコメント群でちょっとしたトラウマを刻み込まれた主人公でした。
きららは、仲間の自宅襲撃を防ぐために意気消沈のシロと共に自主的に本部に向かった感じです。