追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

中盤までレッド視点、後半からは主人公視点となります。


全てが揃う時 3

 ジャスティスクルセイダー本部の襲撃。

 正直、想定しなかった話じゃなかった。

 相手は異星の技術を持つ存在。

 私たちの拠点を探し当てることなんて造作もないはずだ。

 驚きこそすれど、そこまでの動揺はなかった。

 

「ジャスティスクルセイダー! お前達と戦ってみたかった!!」

「……」

 

 首を狙い薙いだ剣を、同じく剣で防ぐモータルレッド。

 身の丈ほどに長い私の武器とは異なり、重厚かつ幅の広い剣を用いる奴は喜色の声を上げる。

 

「レッドに近づくなっ!」

 

 横からモータルピンクによるチェーンソー型の武器から、丸鋸のようなエネルギー波が迫る。

 一旦後ろに下がり斬撃を飛ばし、迎撃。

 後ろにいる白騎士に変身している白川ちゃんの傍にまで下がる。

 

「ッ」

 

 さっきから、なにか視界が一瞬止まるような感覚が……。

 敵の能力かなにかかな……?

 それともチェンジャーの故障……?

 

「レッド……」

「白騎士ちゃん。よく頑張ったね。君がいなくちゃ避難が間に合わなかった」

 

 問答無用で放たれた上空からの攻撃は、間違いなく本部を壊滅させるに足る威力を持っていたと社長は語っていた。

 地下のスタッフたちは無事だとしても建物とその周囲にいる人々の命を危険に晒していたはずだ。

 

「あとは私と黒騎士くんに任せて。タイミングを見て、君を逃がすから」

 

 今の状況で彼女が逃げようとすれば間違いなくこいつらは、それを狙う。

 元正義の味方だとかは知らないけど、外道に落ちたこいつらは確実にそういうことをしでかすに違いない。

 すると、モータルグリーン、モータルブルー、モータルイエローと戦っていた葵ときららも、私の居る場所にまで下がってくる。

 

「あっちはまだまだ力を温存しているようだね」

「嘗められてるなぁ。でも、今んところ厄介そうなのはモータルイエローやね」

「どこらへんが?」

「アレだけ生身や。他と違って戦い方が私たちに近い」

 

 なぜ生身なのか。

 不死身の敵はそれほど怖くはない。

 経験上、完全な不死身の怪物にはなにかしらの弱点があるからだ。

 こいつらの場合は、頭上の剣型の衛星がそうだろう。

 

「モータルブルーはそもそも戦意すらない。モータルグリーンは物質を腐食させる毒を使って来るけど、煽り耐性が低いから簡単に隙を見せる」

 

 私たちが取る戦略が固まってきたな。

 白川ちゃんを逃がして、なおかつあの船を沈める最適な方法は……。

 

「肉体を交換するインターバルを利用して、あの船を壊す」

「だね」

「おっし、やったるで」

「まずはあの五人……モータルイエローを除いた四人を同時に仕留めよう」

 

 私たちと同じように星界戦隊もビルの上に集まる。

 こちらにとってもあちらにとってもさっきのは小手調べのようなもののはず。

 

「あれを見なよ」

「……?」

 

 モータルレッドから意識を逸らさずに、屋上から離れた場所で争っているカツミ君とあちら側の黒騎士の戦いを見る。

 雷が轟き、雨が降り注ぐ、そんな天候すらも変えかねない相手に拳で拮抗状態にまで持ち込んでいる彼の姿を目にしていると、モータルレッドがどこか喜悦の混じった笑みをこぼす。

 

「黒騎士と呼ばれた者同士の戦いだ。序列一桁、我々の領分を超えた別次元の闘争があそこで行われている」

「私たちの黒騎士君が勝つ」

「それはどうかな。彼の声はあらゆる空想を実現させる“武器”だ。彼が本気になれば一瞬すらも意識を保つことはできないだろう」

 

 その時、カツミ君と敵の黒騎士が戦っている空間が、白い繭のような何かに包まれていく。

 敵の能力で彼が閉じ込められた……?

 

「俺たちはアレにやられたんだ。世界が閉じられた直後に、俺たちは意味も分からずに蹂躙された。今頃、あの中は別世界が広がっているはずだ」

「……」

 

 ……今、あっちのイエローがなにか言いたげな様子だったな。

 なんだろう、私の直感があの空間にカツミ君と黒騎士を一緒にしてはいけないと囁いている。

 別に彼の身が危険といった感じではないのに……。

 

「それで、いつになったら黒騎士くんは出てくるの?」

「……さあね」

 

 葵の問いかけをモータルレッドははぐらかす。

 あの白い繭は依然として出現し続けている。

 

「黒騎士君が負けるって? 彼は勝つよ。勝つまで立ち上がって、戦うのが彼だ」

 

 そもそも勝手に分かった気になること自体が腹立たしい。

 お前たちは心が折れて負けた、それだけのことなのに話をややこしくして本当に面倒な奴らだ。

 

「お前たちがどんな負け方をしたかなんてどうでもいい。興味もない」

 

 元は正義の味方だった?

 宇宙の平和を守るための五人だった?

 へえ、それはすごいね。

 

「でも星を侵略してる悪人のお前達は絶対に始末する」

「……俺たちの頂点にいるお方を知っていての宣言かな?」

「そのルインとかいう黒騎士君を好き勝手にしている度し難いストーカーも同じだ」

「……もしかして、君、イカれているのかな……?」

 

 どう思おうが好きにすればいい。

 腰を落とし、長剣を抜刀する構えに入る。

 

「星を繋ぎ、力を成す!! それが俺達、星界の戦士———」

 

 話を無視して、抜刀と同時に斬撃を前へと放つ。

 ———手ごたえは無し、なら次はイエローだ。

 

「イエロー、電撃」

「あいよ」

 

 イエローが電撃を纏った斧を勢いのまま振り下ろす。

 直後に雷と見間違うほどの電撃が星界戦隊へと降り注ぐ。

 

「ブルー」

「見えてる」

 

 ライフル型の武器を構えたブルーが狙いを定め、その引き金を六度引く。

 放たれる六つの閃光は、雷撃の中から飛び出そうとするブルーとピンクの腹部と両足を同時に貫いた。

 

「倒しても無駄だから特殊弾で手傷だけ負わせた」

「即死させなかったの?」

「味方に庇わせたら上々。ボディをチェンジするなら他と戦う時間を稼げる。どうせ不死身だしいちいち倒す方が損。なら、半死半生で放置した方がお得」

 

 銃のレバーを引き、空になった薬莢を排出させるブルー。

 相手は不死身に任せただけの集団。

 当然、防御に対する認識も甘い。

 

「……」

「身体の内側から凍結する……!? さ、寒い……レッド……どこ……? どこにいるの……?」

 

 そして葵の攻撃により、相手は機能しているが動けない状態まで陥った。

 ……いや、むしろこの場合は活動できるか肉体を捨てるか、判断しにくいギリギリのラインまで追いつめさせたというべきか。

 

「さすがはえげつない、ド外道ブルーだね……!」

「そういう貴女は血に溺れたクリムゾンブラッド」

「「……」」

「二人とも喧嘩しないで敵に集中せーや!! ッ!!」

 

 前触れもなくイエローの頭がのけぞる。

 なにかしらの攻撃を受けた彼女はすぐに頭を前に戻すと、ややいらだったような声を上げる。

 彼女のマスクのこめかみには、寸前で止められた弾丸が磁石で弾かれたように浮遊していた。

 

「ああ、もうっ! これ当たるまで気づけへんから鬱陶しいなぁ!!」

「地球人って化物しかいないの!?」

 

 やっぱり、モータルイエローの方は厄介だ。

 さっきの攻撃を一人だけ避けきったし、なによりあの弾は当たるまで気づけない。

 

「同じ銃使いだから、私が相手をする」

「ええの?」

「必ず当たる弾と、必ず当てる弾。どっちが強いのか試してやる」

 

 拳銃型の武器をくるくると回しながら両手に持つブルーが、モータルイエローへと歩み出る。

 なら私ときららはモータルレッドとグリーンを倒せばいいんだね。

 

「イエロー、油断しないようにね」

「分かってる」

「この後、私達から大事な話があるんだから」

「えっ」

 

 どうして黒騎士君と同じタイミングで到着したのかを、社長と一緒に問い詰めなくちゃね……?

 イエローの反応を待たずに前方へと飛び出し、長剣での刺突をモータルレッドへと叩き込む。

 

「鋭い攻撃だなぁ!!」

「……」

 

 大剣を盾のようにさせて防御されたか。

 軽く跳躍し、首を薙ぐ斬撃へと切り替える。

 

「そしてすべてが急所狙い。殺意の塊のような戦士だ」

「!」

 

 それも攻撃の軌道が分かっていた(・・・・・・)かのように防がれる。

 少しだけ驚きながら、攻撃の手を緩めずに連撃を叩きこもうとした瞬間———奴の手にしている大剣の柄部分の宝玉から光が放たれる。

 

「星を繋げ、星界エナジー!!」

 

 奴らの色が混ぜ合わさった五色の光。

 透明感のある光だったそれは、一瞬で黒く濁り強烈な衝撃波を伴って私へ叩きつけられた。

 ……ッ!

 

「ぐっ……」

 

 衝撃を堪えながら、地面に剣を突き刺し吹き飛ばされるのを防ぐ。

 ……今のはただの衝撃波じゃないね。

 

「言っただろう? 星を繋ぐと」

「斥力……?」

 

 呼吸を整えると奴の大剣の中心から不思議な力の流れが生じていることに気づく。

 ……さっきの重心が揺さぶられる感覚は、ただ吹き飛ばされた感じじゃない。

 多分、モータルレッドは重力を操ることのできる固有の能力を有している。

 

「因みにいうなら、俺たちはお前たちの動きと技を全て知っている。対処法もね」

「……」

「その問答無用の飛ぶ斬撃も予測済み。なにより、スーツそのものの性能がこちらの方が上なんだよ」

 

 私たちの戦闘データで対策を取られていた、ということね。

 今更その程度のことで驚くことでもないけど、この調子に乗った言動と素振りに静かに苛立ちが募る。

 

「……お前達、本部を破壊しようとしたんだよね……」

「? そうだよ。君たちをおびき寄せるためにね。まあ、多少は地球人には死んでもらった方が———」

「あそこには、彼の帰る場所があったんだ」

 

 彼との思い出があった。

 彼が黒騎士から人に戻ろうとしていた場所でもあった。

 だから、彼が記憶を失っている間も私たちはその場所を守って、待っていたんだ。

 それを、こいつらは破壊しようとした。

 

「楽に死ねると思わないでね……?」

「ッ」

 

 許していいことじゃない。

 地面に剣を突き立て、チェンジャーから飛び出した“柄”を握りしめる。

 “強化装備”はまだ完成していないけれど、別に剣だけが私の戦いじゃない。

 なにかを察知したモータルレッドが大剣から、また強力な斥力を放つ。

 

「あまりこういう武器は使わないんだけど」

 

 大きく引き抜いたのは身の丈を大きく超える柄と、先端に取り付けられた十字の刃。

 十文字槍と呼ばれる、刃が赤く赤熱した十字の槍を左手に持ち大きく構えた私は———勢いに任せて、眼前の空間を薙ぐ。

 一振りで、斥力の波を消し去ったソレにモータルレッドは動揺を見せる。

 

「なんだ、その槍は……」

「ただの槍だよ。この剣より重いだけの、ただの槍」

 

 引き抜いた長剣を右手に握りしめ、肩に担ぐようにして十字槍を手にしながら脱力しながら相手を見据える。

 

「レッドは剣しか使わないはず……!!」

「別に剣にこだわっている訳じゃないし、振りやすいから使っていただけで斬れれば槍でも変わらないよ」

 

 使いやすいのは剣だということもあるけれど、相手を斬れれば何を使っても変わらないと漠然とは思っていた。

 演習場で使ってみればその通りだったし、こういう“覚える”敵相手への対処にも繋がるので丁度いいとも思っていたけれど……まさか、こんな状況でそれが活きるとは思いもしなかった。

 

「切り裂き魔かなにかか君は!!」

 

 右の剣を下から振り上げ斬撃を飛ばし、さらに追撃するように大振りの槍を突き出す。

 一生懸命に斥力で弾こうとしているけど……。

 

「斬れば関係ないよね」

「ッ、星界エナジーにより生じた現象をただの技術で切り裂く……!? んな、バカなことがあってたまるか!!」

 

 斬れると確信していたから斬った。

 特に理由なんてないし、理論もなにも全く考えてない。

 空間の歪みを切り払い、槍を上からモータルレッドの大剣に叩きつける。

 

「ぐっ」

「それは悪手だよ」

 

 槍を引き寄せ、十字の刃をひっかけるように奴の肩を切り裂く。

 その上で長剣を振るいその胴体に斬撃を放つ、が直前でそれは消し去られる。

 

「この程度で!!」

「……」

 

 そうか、そもそもが仮初の肉体だから痛みを感じる必要もない相手には意味がないんだ。

 

「なら、徹底的に壊す」

 

 大剣に斥力を纏わせ、叩きつけようとするモータルレッドの動きを直感で予測し、刃を放り投げる。

 まっすぐに奴の右腕を刺し貫いた剣は、あっさりと大剣を持つその腕を切り離しした。

 

「———は?」

 

 振り下ろすはずの大剣が握りしめられた右腕が消え去り動きを止めるモータルレッド。

 その隙を見逃すはずがなく、私は十文字槍を奴の胴体へ叩きつける。

 

「工夫がない」

「がぁ!?」

「特殊能力に頼りすぎ」

「ぐばっ!」

 

 横に吹き飛んだモータルレッドのわき腹に投擲した十字槍の刃を突き刺し、壁にはりつけにさせる。

 右腕を斬り飛ばすと同時に空に舞い上がり、落下してくるモータルレッドの大剣を掴み取りながら、その切っ先を奴へと向ける。

 

「不死身と力押しだけ。対策も動きを予測してくるだけでしょぼすぎる」

「な、んだと?」

「地球の怪人以下だよ。なにより、あいつらの方がずっと悪意に満ちていて怖かった」

 

 地球の怪人は悪意をそのまま形にしたような奴らばかりだった。

 弱い人間を優先的にぬいぐるみにし、抵抗できないままにいたぶるぬいぐるみ怪人。

 斬撃も打撃も無効化する汚泥怪人ドロドロ。

 こちらの動き・剣術を見切り、技術を盗むテクニカなんていう怪人もいた。

 それと比べれば、たかが攻撃予測。

 いくらでもやりようはある。

 

「……イエローの方は」

『腐ってるのはおどれの性根や、こんのアホンダラ!! 叩いて直したるわ!! くぉらぁ!!』

『がっ、おっ、ばっ!? ぐへぇ!?』

「……さすがパワータイプ」

 

 斧を軽々と振り回しながら腐食するエネルギーを散らし、モータルグリーンをボコボコにしている。

 いいタイミングだね。

 ……ん?

 

「ッ、がああ!! こうなればこちらの強化装備を———」

「遅い」

 

 なにかを転送させようとしたモータルレッドの首を跳ね飛ばす。

 強化装備があるなら出し惜しみもせずに使えばいいものを……。

 こちらを嘗めてかかるから、なにもできずに倒されることになる。

 

「イエロー!! ビークルで船を落としに行く!!」

「了解!! ぬん!!」

「おばっ!?」

 

 雷を纏った一撃でグリーンを粉砕したイエローは近くに待機させていたビークルに乗り込む。

 目標はあの五機の船!! 最低リーダーのレッドの船さえ壊せば星界戦隊は瓦解するはず!!

 

「よし、行くよ!!」

 

 赤と黄、二つのビークルが空高く上昇する。

 このまま船まで一直せ……ッ!!

 

「イエロー!!」

「何か来る!!」

 

 空中で方向を転換した瞬間、私ときららの目の前を光を放つなにかが横切る。

 流星を思わせるその姿に目を丸くするが、なにより驚いたのは光の中に人型のなにかがいたことだ。

 

「人!? ッ、黒騎士君!!」

 

 光はまっすぐに黒騎士君と敵が戦っている白い繭に激突。

 大規模な電撃をまき散らしながら、その中へと無理やり入り込む。

 

「まさか、ここに来て新しい敵……!!」

「レッド、あの丸い卵みたいなやつの様子がおかしい!!」

 

 カツミ君と敵を覆う白い繭の内側から光が漏れだす。

 それと同時に響くのは何重にも折り重なる雷が鳴り響く音と、なにかがぶつかりあう激突音。

 

「! イエロー!」

「分かっとる!! これはまずい!!」

 

 次第にその表面に亀裂が入っていき、その次の瞬間には白い繭は爆発を伴って破裂した。

 


 

 戦闘開始からどれくらい経ったか分からない。

 一時間、あるいは数時間か……その間、俺はイレーネの歌により出現する怪物、現象と戦い続けていた。

 時間が引き延ばされている。

 確証はないが、外の時間とこの内側とでは時間の流れが大きく異なっている。

 なにより、俺はこれに近い感覚を何度か経験しているような気がしていた。

 

yasasii(優しい) anata(あなた)…… douka watasiwo(どうか 私を) wasurenaide(忘れないで)……

 

 ただただ悲しみだけを綴ってきたその歌は、いつしか明るく奴自身も楽し気な歌へ。

 相変わらず言葉の意味は分からない。

 だが歌により塗り替えられた現実が、奴の心情を表すかのように彩りに満ちていく。

 

「——もう、満足だ」

 

 気づけばこの小さな空間の中には嵐でも、巨人が踏み荒らした大地ではなく、生命に溢れた大自然が広がっていた。

 大草原に咲く花畑の真ん中で膝をつくように座り込んだイレーネは、微笑みながらこちらを見上げる。

 

「最後は、いつでも私を殺せただろう。なぜ、そうしなかった」

「さあな。俺にも分からねぇ」

「……本当は分かってる癖に。素直じゃない」

 

 最初のうちは始末するつもりだった。

 だが、自分でも分からない心の根っこの部分がそうさせなかった。

 

「俺は、弱くなったのかもしれないな」

「……冗談が巧いな。黒騎士」

 

 なぜか冗談扱いされたけれども。

 人に仇なす怪人を倒してきた。

 奴らは人間にとっての絶対の敵だったし、邪悪な奴らだったからだ。

 だがこの星将序列の連中は違う。

 俺達と似た人間性が、奴らにはある。

 

「黒騎士……私のことを、忘れないでくれるか?」

「……待て。俺の考えが纏まる前に勝手に殺されようとすんな!?」

「捕虜にするのか? 別に構わないが」

「そこは構えよ!?」

 

 もっと自分を大切にしろよ!!

 ……なんで俺はさっきまで殺し合いをしてきた奴に気を遣っているんだ!?

 意味が分からねぇし、いったい俺はどうしちまったんだ!?

 

「おい!」

「なんだ?」

 

 素直に顔を上げるイレーネに指を向ける。

 

「もう地球にちょっかいだすんじゃねぇぞ!!」

「地球には出さない」

「お、おう……嘘ついたら次は問答無用に始末するからな? 覚悟しておけよ?」

「分かった」

 

 なんだか犬みてぇだなこいつ……。

 驚くほどの従順さを見せるイレーネにちょっと引く。

 

「とりあえず、この空間を解除しろ。時間はそんなに経ってないんだろ?」

「その通りだ」

 

 なんかぐだぐだになってしまったが、とりあえずはこいつは無力化したも同然。

 ここを出たら、星界戦隊の船をぶっ壊して———ッ!!

 

「ッ」

「どうした?」

 

 頭上を見上げると同時に拳を突き出す。

 それと同時に、頭上の空間を外から突き破ったなにかと、拳が激突する。

 

「ここに来て新手か……!!」

 

 相手は、光る人間……?

 とりあえず距離を取ると、俺とイレーネの丁度間に位置するようにふわふわと浮かんでいる人型の“電気”がそこにいた。

 そいつは、電撃をあふれ出しながら座り込んでいるイレーネへと振り返る。

 

「なーに死にそうになってんのよ八位!! 選手交代よ!! 次は私の番!!」

 

 喋った、ということは意思のある何かってことか?

 少なくとも異星人であることは確定だろう。

 で、イレーネの仲間のように見えるが、当の本人はなぜか不機嫌そうだ。

 

「……チッ」

「え? 今、助けたのに舌打ちされた? ……私の電気が迸る音の間違いね!」

 

 ッ、いきなり攻撃を仕掛けてきた電撃女の攻撃を右こぶしで弾く。

 周囲に電撃が散り、歌により形作られた世界が崩れていくのを目にし、微かな苛立ちが沸き上がる。

 

「星将序列第七位 双星のレアム!! さあ、私を殺してみなさい!!」

 

 ……。

 ……、……。

 

「テメェ、いきなりやってきてどういう了見じゃこのボケがァ!!」

 

 俺が飛び出すと、奴も俺と同等の速度で動き出す。

 互いの拳が激突し、赤と金色の電撃が周囲へとまき散らしながら———お互いに弾かれる。

 

「……ッ!!」

「……ッ!? あ、はは!! ジェムのいう通りじゃない!! やっば、最高じゃん!!」

 

 拳に手ごたえがない。

 いや、正確には当たっている感じがするのだが、効いてる気がしないと言った方が正しいか。

 

「殴っても消えない!! 本気の私に近づいてもぴんぴんしてる!! なんなの貴方本当に生き物なの!? 本当にびっくり人間過ぎる!!」

「喧しい奴だな死ね!!」

「あははは!! 殴り返されるなんていつぶりかしら!! ジェムの見立ては間違ってなかったってことねぇ!!」

 

 本当に良く喋る奴だ。

 黙らせたいところだが、こいつもこいつで強い。

 

「でも、ここって狭いわよね!!」

「ビリビリうるせぇ!!」

「そうよね!! 戦うのに全然適してないわよね!!」

「オラァ、食らえ!!」

「なら、広くしましょう!!」

 

 交わす気のない言葉を吐き出したレアムとかいう電気女はそのまま空高く浮遊する。

 その両手の中に作り出された電撃を目にし、即座に抑え込むための拳を構える。

 

「さあ、爆発っ!」

 

 空間に光が満ちた———次の瞬間、夥しい電撃が空間を呑み込み空間を包み込む殻を破壊する。

 あまりある破壊の雷は外へと零れ落ちるが、それを俺は拳から放つ赤い閃光で消し去る。

 地上へ落ちようとするソレも止めようと拳を構えると、それよりも先に飛ばされた斬撃が雷を散らす。

 

「ッ、レッド達か!!」

 

 彼女たちも対処してくれるなら大丈夫だろう!!

 それなら、俺はあの電気女を——、

 

『カツミ!! 本部の屋上が!!』

「!!」

 

 目を向けた時には既に電撃が直撃し、本部の上方の一部が粉砕される。

 それと同時に俺の視界に、屋上から地上へ落下していく白い仮面の戦士の姿を目にする。

 白騎士。

 白川克樹としての俺が変身していたはずの白騎士に変身している謎の誰か。

 足を踏み外したのか、衝撃で吹き飛ばされたのかは分からないが、その姿を目にした俺はかつてない焦燥に身を包んだ。

 

「ッ!!」

 

 気づけば体が勝手に動いていた。

 こちらに迫るレアムを蹴り、空中で加速した俺は破壊された足場から地上へ落ちようとする白騎士へと手を伸ばす。

 今でも白騎士が誰だか分からない。

 でも、俺にとって大切だった誰かだった。

 

「繰り返させて、たまるかよ!!」

 

 俺は、死にゆく両親に手を届かせることができなかった臆病者だ。

 例え拒まれていたとしても、俺はあの時手を伸ばすべきだったんだ。

 ……俺にとっての家族はもういない。

 そんな機会は二度と訪れないと、そう思い込んでいた。

 

「姉さん……!!」

「かっつ……ん……」

 

 白騎士の手を掴んだその瞬間——心の奥底から記憶があふれ出した。

 

「だって君、いいやつじゃん」

なんでそんなこというんだよ……

 

 少し強引だが底抜けに明るいやつがいた。

 

「優しくて、天然で……変な人」

「くそっ! 俺は一般人にも舐められているのか……!」

 

 物静かなようで変わった性格をしているやつがいた。

 

「舐められているというか、同情されてるだけだと私は思うんやけど」

「く、おぉぉぉぉ……」

 

 下手な関西弁を使うやつもいた。

 三人が、俺という人間を変えてくれた。

 

「君の、姉だよ……」

 

 でも、どうしてあいつが俺の姉を名乗ったのか不明なのが地味に怖い。

 

 しかし、弟としての白川克樹としての人生はそれほど悪くはなかった。

 繰り返される戦いに巻き込まれはしたけれど、それでも以前の俺では考えられない明るさに満ちた生活をすることができたのだ。

 また、アカネ達とレイマに助けられながら、俺という人間は形作られていったんだ。

 

「……」

 

 穂村克己として失われた記憶と、白川克樹としての記憶が蘇り混ざりあう。

 そして最後に脳裏に浮かぶのは———、

 

「カツミ、早く、早く私のところに来い」

 

「あまり、私を焦らしてくれるな」

 

 俺が戦うべき敵の姿。

 ようやく……すべてをようやく思い出した。

 空中の瓦礫を蹴り地上に着地した俺は、腕の中にいる白騎士に声をかける。

 

「まったく、本当に世話がかかる奴だな」

「……かっつん……」

 

 白騎士の変身が解け、変身していたハクアが現れる。

 彼女は瞳を揺らしながら不安げに俺を見上げる。

 

「俺の記憶がない間に好き勝手にしてくれたな。なぁ、ハクア」

「かっつん、全部、思い出したの……?」

「ああ、全部(・・)思い出した。まったく、いつの間にか姉ができてびっくりしたけど、まさかのお前かよ」

「……騙してて、ごめん」

 

 なんで申し訳なさそうにするんだよ。

 まあ、なんで姉を名乗ったのかは普通にビビるけど、その理由を聞くのは後にしてやろう。

 

「謝ることはなにもねぇよ。……いい夢を見させてもらった」

 

 ハクアを地面に下ろし空を見上げる。

 まだ戦いは続いているし、なによりあっち(・・・)も俺を待っている。

 

「プロト、変身を解除してくれ」

『え、で、でも』

「大丈夫、心配すんな」

 

 言われるがままにプロトが変身を解除すると、俺は足元にいるシロを拾い上げる。

 掌に乗った機械の狼———シロは、どこか落ち込んだようにうなだれている。

 

「シロ、今まで忘れててごめんな」

「ガウ……」

 

 思い出せなかったことは全面的に俺が悪い。

 だが、こいつはプロトと同じ俺を支えてくれた相棒という事実は変わらない。

 

「また力を貸してくれるか?」

「……ガウ!!」

 

 こくりと頷いてくれるシロに俺も笑みを浮かべる。

 思い出した今なら、あのことも聞いておくか。

 

「シロ。あの時の屈辱、覚えているか?」

「! ガウ!!」

「そうか……そりゃ一緒に戦ったわけだし覚えているよな。よし、なら一泡吹かせてやろうぜ!!」

 

 右手を掲げ、手の中に黄金色の長方形型のアタッチメントを出現させる。

 

TRUTH(トゥルース) GRIP(グリップ)!!』

 手元でシロを変形させ、手の中に現れたグリップを側面から合体させる。

 それはオオカミの顔へと変形したシロの口にあたる部分と連結し、押し込むと同時にカバーがシロを覆うように開き———バックルそのものを黄金色へと塗り替える。

 

TRUTH(トゥルース) DRIVER(ドライバー)!!】

 

「やるぞ、シロ」

 

 バックルをベルトに差し込み、上のボタンを弾く。

 同時に軽快な音楽と同時に、音声が鳴り響く。

 

ARE YOU READY?(いつでもいいよっ!)

 

NO ONE CAN STOP ME!!(誰にも君の邪魔はさせないから!!)

 

 プロトより幼い誰かの声。

 それが誰の声なんて考えるまでもなく、俺はその言葉を口ずさむ。

 

「変身……!」

TRUTHFORM! ACCELERATION!!(今こそ! 全てを一つに!!)

 

 その言葉と同時にベルトから光が溢れる。

 全ての記憶を取り戻し、俺はまたあの時と同じ姿に変わる。

 




穂村克己、完全復活。

そして、ようやくシロ側の最終フォームへの変身。
ここまで本当に長かった……。

※※※
本日、本作のスピンオフ?のようなものを投稿いたしました。

『となりの黒騎士くん』

本編で描写できなかった部分や、黒騎士の過去戦った怪人、一人で戦っていた時の彼の状況などを別のキャラの視点などで掘り下げたいなと思っています。

第一話は、はじめて現れた地球産怪人と主人公の戦いを別視点でお送りいたします。

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