今回はコスモ視点となります。
恐らく、2020年最後の更新となります。
ルイン様の御心は黒騎士しか見ていなかった。
正直、取り乱すと思っていた。
嘘だ、と喚き散らして顔を涙で濡らして悲しみに暮れるかと思っていた。
だけれど、その事実をボクは思っていた以上にすんなりと受け入れてしまった。
きっと分かっていたんだろう。
ホムラは特別だ。
これまで戦ってきたどの生物とも異なる、力を持つやつだ。
そんなあいつに完膚なきまでに敗北したボクは、あいつのことを認めてしまっていたのだ。
「……おい、おいコスモ」
「どうした、シンドウ。今は客がいないから休憩中だろう」
カウンターに座り、物思いに耽っていると世話になっている喫茶店のマスター、シンドウに声をかけられる。
「いや、特に用はねぇけど、大丈夫かって思ってな」
「なにが?」
「なにがってお前。あの事件から黄昏てばっかじゃねぇか」
ルイン様が現れた時から、か。
ショックは受けてはいないけれど、影響は受けているということか。
「ボクの正体は話したよな」
「おう、性質の悪いファンだったって話だよな」
「その例え次出したらぶっ殺すからな?」
もっと言い方があるだろ!
事実だけど!
「ボクが忠誠を誓っていたルイン様は、ボクのことを見てなかった。見てたのは、黒騎士だった」
「……お前もそうだが、あいつも難儀な人生を送ってるな」
「知ってる」
ホムラの過去はボクも知った。
少し、ボクと似ていた。
違うのは家族を失ったボクを父上……ヴァースが救ってくれたということだったけれど。
あいつにはそんな存在も現れなかった。
「ボクの星は、死の運命を辿っていた」
「突然どうした?」
「いいから聞け」
脈絡もなく、自分の生い立ちを話す。
自分でも突然だと思うが、こういう気分でなきゃ絶対に話さないだろう。
「誰がやったわけでもなく、終わろうとしていた星の中で死を待つだけだった私は……今の父上にあたる人物に救われ、今に至るわけだ」
「星が終わるとか、スケールがついていけねぇな……。だが、実際に起こっていたことなんだよな」
父上の気紛れかもしれない。
なにか見出されたのかもしれない。
しかし、その日救われたことについては感謝している。
それから先の、不器用なりに父としての役割を果たそうとする父上と、序列一位として厳しく指導してくださった父上にも同じ感謝の気持ちを抱いている。
「だからこそ、今悩んでる」
「何を?」
「ボクはこのままで、いいのかなって」
ルイン様には期待すらもしてもらえていなかった。
きっと、父上にも失望されてしまったことだろう。
その上でボクはこのままでいいのだろうか。
ここで折れて、地球という星を舞台にした戦いを蚊帳の外で眺めているだけで、本当にいいのだろうか。
「この星は……いい場所だ」
食べ物が美味しい。
機械が前時代的で扱いにくい部分はあるが、合一化されたものではない多種多様な文化が組み合わされ、地球という星に凝縮されている。
「ボクには戦える力があるのに、見て見ぬふりをしていていいのか」
「……その答えは、俺は出してやれねぇな」
「うん。決めるのはボクだろ?」
「分かってるじゃねぇか」
ボクは今まで生き方を自分ではない誰かに依存させてきた。
だから、なにをするにしてもボクはいなかった。
それを挫折を繰り返してようやく学習したわけだ。
我ながら、愚かにもほどがありすぎるな……。
「とりあえず、カツミを呼び出すか」
「なんでだ!?」
突然、ホムラを呼び出すとかどういう了見だ!!
あれと今戦うとか無理とかそういうレベルじゃないぞ!?
「因縁があんだろ? 記憶を全部思い出したんなら、あいつも話くらい聞いてくれんだろ」
「今のあいつは大丈夫なのか!? 黒騎士時代の問答無用な部分があるんじゃないか!?」
「それこそ心配いらねーよ」
通信端末を取り出したシンドウはにやりと笑みを浮かべる。
「黒騎士も白騎士も根本は同じだよ。口調は違うけどな、あいつが人を思いやれる人間なのは記憶を失っても変わってないんだ。……それは近くで見てきた俺が一番よく知ってる」
「……」
「お前もそれは分かってんだろ?」
今、あいつと話してボクの答えが出るのだろうか。
殺しかけた相手だし、こっちの命を救ったりするような変な人間だ。
でも、ボクがこれからのことを決めるのに、必要なことかもしれない。
「分かった。ホムラと話を——」
「ガオ!!」
「ッ」
その時、傍らにいたレオが危険を察知する。
それを認識したボクは反射的にベルトを出現させ、バックルへと変形したレオで変身を行う。
『
青いアーマーがボクを包んだその瞬間、ボクとシンドウのいる喫茶店に外から放たれたエネルギー弾が直撃した。
エネルギー弾が爆発を引き起こす前に銃剣を手にしたボクは、破片を切り払いながらシンドウを庇う。
「……ッ」
放たれたエネルギー弾は一つのみ。
しかしそれでも喫茶店を半壊状態にさせたそれに、怒りをこみ上げさせながら庇ったシンドウの安否を確認する。
「生きてるか! シンドウ!!」
「お、おおお俺の店がァァ!? コーヒーがァァ!!」
「謎のプロ意識発揮させてないで自分の心配してろ!」
とにかく大丈夫そうだな。
木片を払いながら立ち上がったボクは、武器を手にしながらシンドウを見下ろす。
「ホムラを呼べ! ボクは外で敵の足止めをする!!」
「ッ、待て! お前が行く必要ねぇだろ!!」
「相手の狙いはボクだ! 次が来る前にボクが出る!!」
「あ、おいッ、クソ!!」
シンドウの制止を聞かずに壊れた店の窓から飛び出す。
全力で通りを走り、人気のない広い場所へと相手を引き付ける。
「……あっちもそれがお望みみたいだ」
後ろから何者かがついてくる気配を感じ取りながら、広い場所———公園へと向かう。
裏切者を始末に来た誰かか?
いや、ボクは敗北こそしたが裏切ったわけじゃない。
……地球人に絆されたことを気に入らないと思う輩なら仕方がないけど、それは黒騎士やジャスティスクルセイダーに狙われる危険を冒すほどか?
「まさか……!」
そんな酔狂なことをする奴をボクは一人だけ知っている。
相手を嘲笑いながら、自分自身すらも顧みない、イカレタ奴。
「ヒラルダ!! 隠れてないで出てこい!!」
公園に人気がないことを確認しつつ、立ち止まったボクは声を張り上げる。
すると、空間から溶け出すようにきついピンク色の装甲を纏った戦士が現れる。
「やっぱり分かっちゃうかぁ。まあ、知らない仲でもないしね」
「いったい、どういうつもりだ」
正直、店を破壊されたことに頭にきている。
居候先がなくなったこともそうだが、こんな表立って攻撃してくるなんて思いもしなかったからだ。
「そうねぇ。簡潔に言うにはスカウトしにきたの」
「……さっきの後で受けてもらえるとでも思ってんのか?」
「思わないわねー。でもさっきのは挨拶みたいなものじゃない」
気持ち悪い。
生物に寄生し変身を行うベルトであるヒラルダの纏う雰囲気は不気味だ。
その気味の悪さは実力を悟らせない厄介さを秘めている。
「仲間に引き入れるって、どういうことだよ」
「この人たちのよ」
その時、頭上から二つの柱が降り注ぐ。
覚えのあるその光から現れたのは、赤と、緑の戦士。
ジャスティスクルセイダーに近い姿をしたそいつら、星界戦隊のモータルレッドとモータルグリーンのその姿にボクは動揺を露にする。
「あれ、イエローは?」
「あいつは来ないらしいぞ」
「……ふーん、まあ、今回は彼女がいなくても問題ないか」
なんで、こいつらが……!?
まさかスカウトってボクをこいつらの仲間に引き入れようとしているのか……!?
「はじめまして、会うのは二度目かな? コスモくん」
「本当にこいつかぁ? 新入り、こいつ使い物になんのか?」
「いやいやぁ、潜在能力はそれなりのを備えていますよぉ」
ヒラルダの奴が教えたのか!?
いや、そもそもどうしてこの女が奴らの仲間になってんだ。
ボクの困惑を察したのか、ヒラルダがこちらを見る。
「あ、私、先日星界戦隊のピンク枠になったのー。ほらっ、チェンジャーもこの通り!」
これみよがしに手首につけているチェンジャーを見せるヒラルダ。
「前のピンクさんには眠ってもらって、今度から私がモータルピンクとして皆さんと活動しまーす!!」
「と、いうわけだ。しかし、黒騎士とジャスティスクルセイダーに敗北を喫してから、我々も戦力の増強が必要だと思ってね」
モータルレッドがボクを指さす。
「使えないブルーの代わりに君を僕たちの仲間に引き入れようって決めたんだ」
「断る!! 誰がお前らのようなクズ共の仲間になるか!!」
ボクが言えた義理ではない。
だけれど、こいつらのような残虐非道を絵にかいたような連中の仲間になるのは絶対に御免だった。
「拒否権はないよ。君、ちょうど色が青いしブルーの代わりも十分に果たせるだろう?」
「ッ」
「大丈夫! 一緒に戦えば君もすぐに俺達の仲間になれるからさ!! 共に星界の悪と戦おうじゃないか!!」
モータルレッドとグリーンがその手に武器を出現させる。
相手はクズでも序列二桁上位。
ボクでは太刀打ちできるか怪しいけれど、ここでむざむざこいつらの仲間になってやるつもりはない。
銃剣を構え、バックルから斜めに突き出したレバーを押し込み、必殺技を発動させる。
『
「悪者はお前らの方だろ!!」
『
銃口から刺々しいエネルギー弾が放たれる。
それらは獅子の頭の形へと変わり、奴らを呑み込もうとするが———それは一瞬にしてモータルレッドが振るった大剣で消し去られる。
「ッ」
「んー、やっぱりジャスティスレッドがおかしいんだね。俺はやっぱり強い」
モータルレッドは星界エネルギーという謎の力で引力と斥力を操る。
その噂が事実だと再確認していると、地面に亀裂が入るほどの踏み込みで突っ込んできたモータルグリーンが両手それぞれに握りしめた戦斧を振るってくる。
「オラァ!!」
「……ぐっ」
銃剣で斧を受けるが、それは一瞬にして腐食し金属そのものが崩れ落ちていく。
……ッ、武器も侵食する毒!? いや、腐らされている!?
銃剣を手放し、もう片方の斧を避けると続けてモータルレッドが放った斥力が直撃する。
「う、ぐ! ま、まだだ!!」
宙を飛びながらベルトに装備している“グリムキー”を取り出し、バックルへと差し込む。
『
周囲にアーマーが浮き上がり、金属音と共に装着され頭をフードが覆う。
同時に手の中に現れた大鎌を握りしめながら、幻影を用いた高速移動を行う。
「遅いよ、コスモちゃん」
「!」
レッドを狙った鎌の切っ先は、間に割って入ったヒラルダが掲げたチェーンソー型の剣により防がれる。
見切られた……!?
『
「おそーい!」
「あぐっ……!?」
近距離からの必殺技を放つ前にヒラルダがすれ違いざまにボクの胴体を薙ぎ、斬撃を叩きこまれた。
痛みが全身を襲い、グリムアーマーが解除される。
「……ッ!!」
『
「へぇ、まだ諦めないんだ」
対集団戦に適したエビルアーマーを纏い。
空中にいくつもの大型の銃を出現させ、一斉射撃を行う。
「うん。いいね、多彩だね」
「でしょー。まだ奥の手を隠しているんですよ」
……ッ、防がれる。
やっぱり今のボクじゃあいつらに適わないのか!?
この状況をなんとかするにはジョーカーフォームじゃなくちゃ……。
「駄目に、決まっているだろ!!」
あれは間違った力だ!!
力だけを追い求めていたせいで、ボクは大事な相棒の心を無視していた!!
そんな力に頼って、またレオの心を失わせるような真似をするくらいなら死んだ方がマシだ!!
「そらそらァ!! もっと戦って見せろよ!!」
「言われなくても!!」
モータルグリーンの腐食の攻撃を銃で迎撃し、寸でで斧を避けたところにマスケット銃の銃口を向ける。
「くたばれ似非戦隊!!」
「ぬぐお!!?」
そのマスクに弾丸を叩きつける。
衝撃と共に後ろへ飛んだグリーンに追撃を食らわせようとすると、それをカバーするようにヒラルダが腕から伸ばした機械的な尾のようなものが迫る。
「っ」
「よそ見はしちゃ駄目だぞー?」
銃で先端から毒液が滴る尾を受け止める。
実力的にも劣っているのに、それが三対一とかどうしようもない……!!
尾に弾かれ地面に着地すると同時に、こちらに斥力を纏わせた剣を振り上げたモータルレッドの姿が視界に映り込む。
「そらっ!!」
「ぐ、うぅ……!!」
真正面から大剣を受けとめると同時に上から降り注ぐような斥力に襲われる。
スーツそのものが軋む音に耐えていると、モータルレッドが耳障りな声を囁いてくる。
「噂の姿にはならないのかな?」
「う、るさい……!!」
「出し惜しみしているのかな? まあ、俺たちの仲間にしたら思う存分に使ってもらうように教育するだけだけれど」
「……ッ」
「安心するといい。星界エナジーは君の全てを受け入れてくれるはずさ。だって、俺たちがそうだったんだから!」
反吐が出る……!!
なにが教育だ。勝手に人の頭をいじくって洗脳しようとしているだけじゃないか!
ボクは震える手で、バックルを叩き必殺技を発動させる。
『
「あ、ああああ!!」
こいつらに負けたらボクは、きっとボクじゃなくなる。
そうなったとき、ボクは地球の敵になる。
あの喫茶店にいるおっさんと、その客も、ホムラもボクの敵になってしまう。
力を求めていた前なら、それでもいいと思えた。
だけど———、今はそれが心底嫌になるくらいボクという存在は変わっていたんだ。
「力を出し惜しむのはバカのすることだと思うんだよねー」
こちらを見下ろすヒラルダの声に、歯をかみしめる。
今のボクでは、こいつらには敵わなかった。
どれだけ力を振りしぼっても、正面から打ち崩され……今はこうやって生身のまま地面を転がっている。
「さて、連れて行こうか」
「中々に見どころがあるかもなー。こいつは強くなるかもな」
傍らには傷だらけのレオがおり、ボク自身も傷だらけだ。
それでも立ち上がろうとするけど、近くにしゃがんだヒラルダがボクの目を覗き込む。
「ルイン様に裏切られたとき、どうだった?」
「な、に?」
「正直、あの時の貴女は本当に笑えるくらいに滑稽だったよ。まるで昔の私を見ているみたいで、見ていて痛々しくてねー」
晴れやかな様子で口にするヒラルダを睨みつける。
「でもそういう健気なところって正直、好き。だから仲間にしてもっとそういうところを見ようって思ったの」
「……悪いが、期待には添えられそうにないな」
「?」
地面に膝をつき体を起こしながら、ルイン様の本心に気づいた時のことを思い出す。
今でもルイン様のことは尊敬している。
一度たりともボクのことを見ていなかったとしても、ボクが憧れたその強さに一切の陰りはないからだ。
「ボクは、弱かった! ただそれだけだ!」
身体が動かない……はずだけど、これまで感じたことのなかった力に突き動かされる。
傷ついたレオを握りしめ、ふらつきながらも上半身を起こしたボクは訝し気に見下ろしてくるヒラルダに啖呵を切る。
「大体、お前なんかにいちいち言われなくても、ボクがどれだけ無様だったかなんて一番自分が分かってるんだよ!!」
「……えっ、自虐?」
「うるさい!!」
立ち上がる勢いで拳を振るう。
傷ついた体から打ち出された拳は、突如として金色の光を伴いながらヒラルダへと迫る。
「!」
奴には避けられてしまったが、大きく距離をとったヒラルダの姿にボクは声を張り上げる。
「ああ、そうさ。今までのボクは愚かで、恥知らずで……駄目な奴だった!!」
ルイン様に勝手な理想を押し付けて、失望されたバカなやつ。
それがボクだ!!
自分というものがなくて、誰かに言われるがままあの時を生きていたからあんな末路を辿りかけた!!
「でも、それでもボクはここにいる!! この星の人々に助けられて今ここにいるんだ!!」
ホムラとシンドウの言葉と行動に救われた。
慣れない喫茶店で働いた時は、初めて他人と関わることを学んだ。
「その事実は誰にも、お前たちにも否定できない!!」
もしかするなら、ボクは戦いとは別の道を選べていたかもしれない。
だけれど、今決意したことは違う。
「自分の生き方は、ボクが定める!!」
拳に炎のように灯った黄金色の輝きをレオへと流し込む。
瞬間、ひび割れたレオの装甲がはじけ飛び、金と“緑”の新しい姿へと変わる。
『
「お前らなんぞに決められるまでもなく、ボクは既に見つけたんだよ!!」
バックルをベルトへと差し込み、側面のボタンを左右同時に押し込む。
「変身!」
高らかな咆哮と共に変身が開始される。
それと同時にモータルレッドとグリーンが攻撃を仕掛けてくるが、それはバックルから飛び出した半透明の黄金色の獅子が食い破る。
「決意の咆哮を轟かせろ!! キングレオ!!」
『ガオォォォォォォ!!!!』
獅子はボクの周囲を旋回するように駆ける。
金色の粒子が舞い、獅子が背後からボクの身体を呑み込むことでアーマーが展開されていく。
『
『
纏われるように装着されていく“緑色”の装甲。
獅子を模した籠手、脚部、頭部の装着が完了するごとにこれまで感じることのなかった力が溢れ出てくる。
いや、これはボクが無意識に引き出すことができなかった、レオの力だ。
「だけど、これからは違う!!」
戦う理由は見つけた。
なら、後は僕一人だけではなく一緒に戦おう!!
『
『
黄金色の装飾が最後に施され、変身が完了する。
“キングレグルス”
それが、これまでのボクが引き出せなかったレオの真の力だ……!!
セイバーの二号ライダーとキング被りして本気で焦りましたが、別にいいかなと思い続行。
キングレオの語感がなんとなく好きです。
今話と同じタイミングで、『【外伝】となりの黒騎士くん』の方を更新させていただきました。
第三話 ナマコの見た悪夢(VSナメクジ怪人)
第四話 となりのホムラくん(他キャラ視点から見た学生黒騎士くん)
以上、昨日の更新と合わせて二話追加いたしました。