うまく言葉で言い表せませんが、ディケイドって感じがして本当にイイ……。
お待たせしました。
今回はカツミ視点でお送りします。
アカネと葵が俺の居候先を決めるということで、二人が争うことになった。
居候先といっても一定期間で交代するという話に落ち着いたので、俺は最初はどちらかの家に世話になった後に、もう片方の家に移動することになった感じだ。
……いや、そこまでするなら普通にホテルとかでいいのでは、と思ったが二人の鬼気迫った表情がちょっと怖かったので何も言わないことにした。
俺としてはどちらが先でもいいし、別にこれまで通りきららの家に世話になってもよかったが、どうやらそれでは駄目な様で結局が決着がつくまで待つことになった。
『負けられない戦いが、ここにある! 行け、ドリュウズ!! モルペコにじしんだァー!!』
『残念ねこだましだペコ』
『くっ、タスキが……!? ならばもう一度じしんを繰り出せばいいだけのこと!!』
『残念こっちもタスキだペコ。所詮いじっぱりAS振りのドリュウズなどリベンジでワンパンだペコねぇ』
『ドリュウズゥゥ!?』
……いや、なんだか楽しそうにゲームで戦っていたけれども。
とにかく長引きそうだったこともあるが、俺としてもレイマに話しておかなければならないことがあったので、彼と共に別室の研究室へと移動する。
彼にはアルファの母を名乗る謎の女、アズについて話しておかなければならないと判断したからだ。
「アルファの母親が生きていて、しかも私が所属していた当時からしても謎だらけの存在だった星将序列六位だとぅ!?」
「ああ」
アルファの母親。
あいつが自分で母親はもう死んでいると自嘲気味に話しているのを聞いていたので、そのことは本人には隠していた。
……あのアズとかいう奴が本当の母親だとしても、そいつ本人はアルファにまるで興味をもっていない。
敵じゃないとは言っているが、俺にはそれがどうにも気にいらねぇ。
「それは、本当なのか?」
「ああ、新藤さんの店でアルファのフリをして俺を待っていたからな。口ではからかっただけとか抜かしていたが、あわよくばアルファと成り代わるつもりだった魂胆が見え見えだった」
「……新藤氏の喫茶店は特異点か何かなのか?」
「因みにいうと、三位のサニーってやつは常連だ。俺が白川克樹だった頃も結構な頻度で通ってきているし、なんなら連絡先も知っている。……ここだけの話……」
……いや、これは言っておくか。
後々誤解を生みそうだし。
「サニーは新藤さんに惚れている……!!」
「ほう、三位が新藤氏に。ならば彼には頑張ってもらって三位を味方に———」
「違うんだレイマ。サニーは男だ」
「……」
「……」
「さっきの言葉は忘れてくれ。さすがに私も鬼ではない」
気まずい沈黙の中で頷く。
どうして新藤さんがサニーに推しとまで言われているのかはまったく分からない。
いや、そういうことは宇宙人とか関係なしに詮索しちゃいけないんだろう、うん。
「で、そのサニーもシロと、コスモの相棒のレオみたいな変身できる動物がついてたんだよ」
「なんだって? カツミ君、その個体名は分かるか?」
「確か……ヴァルゴって名前だったな」
「ヴァッァ!?」
「レイマ!?」
椅子に座ったまま垂直に飛び上がり、そのままビターン!! と床に叩きつけられるレイマ。
その不自然な挙動に困惑するが、当の彼は痙攣するように驚きを露にさせている。
「ま、まさかコアの起動すら叶わず失敗作とばかり思っていたヴァルゴだとぉ!? く、むおおおおお、喜んでいいのか、危機感を抱いていいものか……!!」
「……ヴァルゴはレイマが作ったのか?」
レイマが宇宙人だということは知っている。
口ぶりからしてその星将序列と関わっているのも察した。
「説明していなかったな。コスモのレグルス、サニーのヴァルゴ、どちらも私の作品だ。……最後は自ら手放すことになってしまったがな」
「へぇ、それじゃあ、プロトはスーツ的には末っ子みたいなものなんだな」
『私が一番古くて強い』
『ガウ』
いや、それは知らなかったけれども。
なぜかシロまでもが反応した。
「は、話を最初に戻す。その六位についてだが……」
「今のところは何かしてくる気配はない、が……用心はしておいた方がいい。レイマ、このことはまだアルファには秘密にしてくれないか?」
「しかし、アズが認識改編を持っているとすれば、それに対応できるのもアルファだけではないか?」
「今のところはまだ何かしてはこないはずだ。それに……」
アズとアルファは会わせていけない気がする。
なによりアズはアルファのことには興味を抱いていない。
……あいつは精神的にはまだ子供みたいなところがあるからな……。
「……君にも考えがあるのだろう。ならばアルファにはまだ黙っておく」
「ありがとう」
「礼には及ばんさ。……これまではアルファがこの星のアルファ個体だと思っていたが……まさか母親が生きているというのなら、彼女はいったいなんなんだ……?」
「正確には、親子じゃなくて力を分けた分身のようなものらしい」
アルファと同じ力を持っているという点は同じ。
まだまだ謎が多い奴だが……また現れない限り、新しい情報は出ないだろう。
「新藤さんの店ってどうなるんだ?」
「……君の話を聞く限り、新藤氏も我々にとって重要な人物に違いない。白川君、君、グリーン、そして敵対しているはずの星将序列が関わっているとなれば……彼の安全のためにも、こちらの目の届く場所にいてもらった方がいい」
俺としてもかなり世話になっている人だ。
正体を知っても尚、白川克樹としての俺を雇ってくれたことは本当に感謝してもしきれない。
「君の正体が明かされた後は、新藤氏の店にも影響があってな。一時はアルファが認識改編でなんとかしていたようだがそれにも限度がある。……姉なる者は一人で十分だからな」
「ん?」
「んんッ!! いや、なんでもない。ともかく、彼の身の安全と店については任せてくれ」
「ああ、レイマなら安心して任せられるな」
新藤さんの店が壊されてサニーがどう動くのか予想できない。
「そういえば、記憶が戻ってから話すのはかなり久しぶりだな」
「うむ。最後に話したのは……セイヴァーズの襲撃以前だったはずだ。随分と時間がかかってしまったよ」
「……ああ」
それから記憶喪失になった。
レイマもそうだが、アカネ達にも心配をかけてしまった。
「本音を言うなら、白川克樹としての日常は悪くはなかった。ハクアが俺を弟だと吹き込んだことについては……まあ、あいつの身の上話と合わせて聞いたから、気にしてない」
ルインが地球に現れて落ち着いた時に、改めてハクア本人から事情を聴いたのだ。
彼女はアルファの妹に近い存在で、無意識に家族というものを求めていたから俺を弟にした、と。
『出来心だったんです』
『出来心で俺を弟にしたのかハクア姉さん』
『ひんっ』
『おう、どうしたハクア姉さん。顔が赤いぞ』
『あ、え、そのっ……』
『そういえば私生活ダメダメすぎて大変だったぞハクア姉さん』
『せ、責められてるぅ……!?』
と、挙動不審になりながらスライムのように震えるハクアをからかいはしたけども。
だがその時になってようやく、あの時の———彼女となし崩し的に映画を見たときの言葉を理解することができた。
探していた姉がアルファで、自分がクローンのような存在だったってことを。
「記憶を失ったことはルインの企てであろうとも、君と白川君の関係は奴が想定していなかったことだろうな」
「利用はされただろうけどな。あいつ、結構な頻度で俺に話しかけてきたからなぁ」
本当、お節介なくらいに日常的に話しかけてきやがって。
信用する俺も俺だが、なにがどうしてそこまでしてくるのか理解不能だ。
「今は大丈夫なのだな?」
「ああ。記憶を取り戻した時点で、俺と奴のつながりは切られてる。……いや、ルインが自分から切ったというべきか」
お守りはもう終わったか、それとも戦う上でフェアでやろうとしてんのか分からねぇが今度は絶対に勝つ。
二度も虚仮にされた借りはきっちりと返さなくちゃな。
「アカネ達に大分心配をかけちまったな。なにか詫びでもできればいいんだが……」
「気持ちだけでいいんだ」
「いや、でも……」
「気持ちだけでいいんだ、カツミ君。なにより君の身の安全のために……!!」
迫真の表情で言われてしまった。
なぜここで俺の身の安全が脅かされるんだ?
「……カツミ君、君に相談があるのだが、構わないかな?」
ん? レイマが相談?
少し意外にも思えてしまうが、外ならぬ彼の頼みだ。
「ああ、全然かまわないぞ?」
「感謝する。まず質問だが……君は、エナジーコアの声が聞こえるのか?」
エナジーコアの声?
……思い当たる節はあるが、俺の場合は声というより……。
「声じゃなくて感情……だと思う」
「ふむ?」
「俺もよく分かんねぇけど、時折敵とかエナジーコア……まあ、プロトとシロの気持ちが分かる時がよくあるんだ」
「完全適合者故の能力か、相手がアルファに限定したものかは定かではないが……。君ならば、サジタリウスの感情が分かるかもしれないな」
「サジタリウス?」
初めて聞く言葉に首を傾げると、おもむろに立ち上がったレイマが研究室の奥へと続く扉を開く。
彼に促されてついていくと、その研究室には金色のスマホ? のようなアイテムと、円形のポッドのようなものにいれられた金色のスーツが置かれていた。
スーツはまだ未完成なのか、いくつものプラグに繋がれている。
「確かこれは……俺が記憶を取り戻した時に敵が着てた……やつだよな?」
「ああ。私が星将序列だった頃に着用していたスーツ、タイプ・サジタリウス。今はジャスティスクルセイダーの強化装備の補助・制御、そして司令塔を担う“ジャスティスゴールド”だ」
「レイマも戦うのか!?」
「私もいつまでも司令室に引きこもっている場合ではなくなったからな」
彼自身も戦うことに驚く。
「といっても、過去に受けた古傷のせいで直接的な戦闘は困難なので、あくまでサポートに特化しているだけだ」
「そういうことか。……で、相談ってのはなんだ?」
するとレイマが室内のPCを操作すると、ポッドのカバーが開き金色のスーツが露になる。
近くで見るとなにやら波打つように動いている。
「カツミ君、君はサジタリウスが私に対してどのような感情を抱いているか調べてくれないか?」
「どうしてだ?」
不可思議な相談に首を傾げる。
「君も知っての通り、最近までサジタリウスは敵方に渡っていた代物。当然、スーツに搭載されているエナジーコアにもプロトやシロと同じ独自の意思があるのだが……」
おもむろにレイマがスーツを指先で触れる。
するとスーツを構成している粒子が彼の指へと這い上がるように上っていく。
すぐに手を引いたことで、粒子は彼から離れるがその表情からは若干の焦りがうかがえる。
「私に対して害意を持っている可能性があるのだ」
『この子に何かしたの?』
腕に巻いているプロトがそんな質問を投げかける。
「……組織を抜ける前に、ガウスにスーツを盗まれてな。これ以上星を滅ぼすためのスーツが量産されないように……スーツごと奴のラボを爆破したのだ」
『それって嫌われて当然じゃないの?』
「ぐぅ……!? 仕方がなかったとは言わんッ!!」
すると何を思ったのか突然床に仰向けになるレイマ。
彼の突然の行動に驚く。
「い、いや、なにやってんだよ! レイマ!!」
「サジタリウスが私に対して憎悪を募らせているのならばッ!! カツミ君!! 君が私にスーツを被せろ!!」
「意味が分からないんだが!? 死ぬ気か!?」
行動が極端すぎてなにがしたいのか分からん!!
さすがにそんな危険なことしないし、させないからな!?
「この命が欲しいというならくれてやる!! しかし、それはこの戦いが終わった後だ!! 私にはまだやらなければならないことがあるのだァ!!」
『大人が五体投地でばたばたしてる』
『
レイマ、そこまでの覚悟が……!?
「……分かった。このスーツの感情を調べればいいんだな」
「頼む……!!」
自分からエナジーコアの感情を感じるだなんてしたことはないが、友達がここまで思い悩んでいるなら協力しない選択肢はない。
金色のスーツへと向き合い、意識を集中させる。
『カツミ、本当にやるの?』
「ああ、これもレイマの、ひいてはアカネ達のためにもなるからな」
ジッと、スーツを見つめていると、なんとなくエナジーコアから感情の波のようなものが伝わってくる。
それは言葉で言い表せないような、漠然とした感覚。
ヴァルゴを見て感じたのが燃え滾るような怒りだとすれば……このサジタリウスは……寂しさ?
熱に浮かされたようなうわついた感情と、胸にぽっかりと空いたような悲しみ。
ん?
んんん?
「……レイマ、とりあえず立ってくれ」
「え、はい」
とりあえず、このエナジーコアがどのような感情を持っているかはなんとなく分かった。
きょとん、とした様子で立ち上がったレイマを見る。
「こいつは別にレイマのこと憎んでなんかいないぞ」
「エッ」
「むしろ寂しがってる。手に引っ付いたのも早く、あんたに変身してもらいたかったからじゃないのか?」
「そ、そうなのか? 勢いに鬼気迫ったものがあるからてっきり恨まれているものだと……」
……。
まあ、危険がないのは分かるし。
俺は金色のスーツに右の掌を押し付ける。
「カツミ君!?」
『カツミ!?』
スーツを構成する粒子が手首まで登り止まる。
そこで左手のチェンジャーを近づけ、プロトに話しかける。
「プロト、こいつの声を変換することってできるか?」
『え、で、できるけど』
「声さえ伝われば、安心するだろ?」
プロトを介してサジタリウスの声をレイマに伝える。
きっと色々と言いたいこともあるだろうし、ここでわだかまりを解消すればいい。
十秒ほどして、チェンジャーから発せられるプロトの音声にノイズが走り、次第にその声も変わっていく。
『ゴール、ディ』
「サジタリウス……」
それはどこか大人っぽさのある女性の声。
地球ではなく、宇宙での彼の名を呟いたサジタリウスに、レイマも呆気にとられた声を漏らす。
「これまですまなか———」
『ゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディ……スキ』
ブツッ、と電話が落ちるように声が切れる。
「「……」」
研究室は重々しい沈黙が支配したままだった。
確かに、嫌ってはなかったな。うん。
プロトもシロも気まずそうにしているあたり、サジタリウスは相当な状態にあるのは分かる。
とりあえず、粒子から手を離しながらレイマへと振り返る。
「よ、よかったじゃないか。レイマ、嫌われてなくて」
「カツミ君」
「これでスーツも無事に着れるな。じゃ、俺はそろそろアカネと葵の決着を確認しにいかなくちゃ———」
「カツミくぅん!」
流れるように研究室を後にしようとすると、がしりと手を掴まれる。
「無理だ、他を当たってくれ……!」
「助けてくれ……!」
「すまんッ!!」
「カツミくん!?」
鈍い俺でも分かる。
これはマジものだと。
そもそも話が通じる気がしない。
レイマの制止の声をスルーし、そのまま研究室から出る。
『気持ちは分からないこともないかも』
「サジタリウスのか?」
『ウン。巡り合った適合者に変身してもらえないのは、悲しいことだから』
……そういうものなのか。
「プロトはシロやレオ、ヴァルゴみたいにメカ動物みたいな姿にしてもらわなくていいのか?」
『ガオ!』
ふと、気になったことを尋ねてみる。
他の意思のあるエナジーコアと違ってプロトは依然としてチェンジャーのままだから不自由じゃないのか?
『そんな機能必要としてないし、いらない』
「いらないのか?」
『このままの方が、いつもカツミの傍にいれるし』
『ガオ!!?』
確かに、腕につけていればいつでも変身できるってことだからな。
いざという時に変身できないってことにもならないし、なんならこのチェンジャーそのものが多機能なので日常的にも便利だ。
……さて、と。
「そろそろ決着がついている頃だと思うんだが……」
正直、きららの家に住むことにも申し訳ないという意味で抵抗があったんだがなぁ。
俺のボロアパートはあの状況だし、今回は彼女たちの世話になるしかないか……。
そこまで考え、彼女たちが勝負を行っている部屋の扉を開く。
「な、なんだと……!? このブルーがシザリガーごときに負けるだとぉ……!?」
「いちげきひっさつ!!」
「うああああ!?」
アカネに指を突き付けられ崩れ落ちる葵の姿が視界に映り込む。
なにやってんだこいつら。
きららもコスモも呆れた様子で見ているし……。
「赤い鋏のギロチンブラッド、その名はシザリガーアカネ……!?」
「プロレスラーみたいな変な異名つけないでくれるかな!?」
どうやら最初はアカネの家の世話になるようだ。
なにが起こっているのかちっともよく分からないけれども。
「カツミ君っ、最初はうちに決まったよ!!」
「本当にいいのか? 親御さんに相談しなくても」
「……」
「おい、まさか伝え忘れたなんてことはないよな?」
「し、心配ご無用だよ……お姉ちゃん達も許してくれるはず……」
いや待て、“達”?
達ってことはきららと同じように姉妹がいるのか?
こいつの言う一般家庭とやらも気になるが、なんだか嫌な予感がするのだが?
アカネのシザリガーは主人公補正でハサミギロチンを当ててきます(理不尽)
最初は葵ではなくアカネの家に決まりました。
家は一般家庭でもその家族は……
次回『黒騎士くん、一般家庭を知る』
次話は明日の18時頃に更新する予定です。