追加戦士になりたくない黒騎士くん   作:クロカタ

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LINE形式を最初に作った人すごすぎる
仕組みを理解するのに結構な時間をかけました。

お待たせしました。
今回はアカネ視点です。


夢の中のアルファ

 最初に変身した時の私はとても弱かった。

 自分を助けてくれたカツミ君、黒騎士への憧れと、怪人の危険に晒されている人たちを助けたいという一心でジャスティスクルセイダーのレッドとなり、戦いに身を投じた。

 それでも怪人は強く、毎回ギリギリの戦いの連続だった。

 

「ハッ!!」

 

 真っ黒な空間に銀閃が走る。

 宇宙を思わせる際限のない空間で、私は生身のまま赤熱する剣を構えながら眼前の女剣士(・・・)へと一心不乱に向かっていく。

 腰にまで届くほどの艶のある黒髪に赤い紅葉模様で彩られた着物。

 袖で刀を持つ手元を隠すように構えた彼女は、ゆるやかな挙動から流れるようにこちらへ肉薄してくる。

 

「剣が乱れている」

「……!」

 

 私以上の技量で繰り出される刀の振り下ろしをギリギリで回避。

 身を起こすと同時に私も剣を強く握りしめ、接近と同時に連撃を見舞う彼女に剣を合わせ迎え撃つ。

 連続してつんざくような金属音が響き、服の袖が浅く切り裂かれてしまう。

 

「回避がおざなりだ。もっと動け」

「くぅっ」

 

 かぁん! と、鍔に近い刃に刀の切っ先がぶつかり甲高い音を響かせる。

 ッ、いや、これで終わりじゃない!!

 

「気を張れ、ちと技を繰り出すぞ」

 

 これは防がなきゃまた(・・)バラバラにされる!?

 意識を集中し、ほぼ同時に繰り出される七連撃をなんとか捌く。

 

「ッ、ふぅ!!」

 

 七つ目の斬撃を防ぎ、後ろに弾かれながら地面に剣を突き刺し足を止める。

 大きく空気を吸い、自身の五体があることを確認ン……ッ!?

 

「この斬撃、覚えたか?」

「ちょ、師匠! きゅ、休憩!!」

「ならん」

 

 息つく暇も与えないとはこのことか……!

 一つも息を乱していない彼女が、凄まじい踏み込みと共に迫る。

 

 ———ッ!? 避けられない!?

 

 眼前で首めがけて振るわれる剣閃。

 回避は無理だが、剣で防げば間に合う。

 しかし、この瞬間に相対する彼女にこちらの刃を届かせる隙が生じる。

 千載一遇の好機か堅実な防御! なら私が選ぶのは……!!

 

「……ッ」

 

 私は、首元にまで迫る刃に左腕(・・)を差し込んだ。

 

「———」

 

 刃が肉を裂く熱を感じても尚、私の心は揺るがない。

 目指すは眼前の敵の首。

 翻した刃を振るい、その首を落とそうとした次の瞬間———それよりも速く私の首は左腕ごと断ち切られ、宙を舞う。

 

「あぱぁ———ッ!?」

「……はぁ。相変わらず、わらわの適合者は猪武者よなぁ」

 

 今度は痛みはない。

 されど、くるくると宙を舞う私の頭をぽすんとキャッチした彼女———私のスーツの動力源であるエナジーコアに宿る“アルファ”。

 今日この日まで私たち、ジャスティスクルセイダーを『夢』という形で鍛えてくれている存在だ。

 

「おう、聞いているのか? アカネ」

「き、聞いてます聞いてます……!」

 

 その手に綺麗な着物と不釣り合いな太刀を緩く握りしめた彼女は呆れたため息と共に首だけになった私と目を合わせた。

 この夢空間の中で生首だけになることはそう珍しいことじゃない。

 というより、割と慣れるくらいにこうなっている。

 

「ぬしはいつになったら学ぶのだろうな。そのような身を削る戦いをするのをやめろ、と」

「え、えへへ、あの朝陽(あさひ)様? いえ、師匠? さ、さっきのは咄嗟に出ちゃって……あの、身体に戻してもらってもいいかな?」

 

 いくら夢でも首だけなのは色々ときついから。

 アサヒ様は私の声をさらっと無視し、掌を軽く翻す。

 瞬間、真っ暗だった空間が、青空と自然に包まれた景色に塗り替えられ、彼女の背後に古めかしい木造の屋敷が出現し———その縁側にゆっくりと腰を下ろした。

 

「いい加減、自らを省みない戦いをするのをやめろ。何度言えば分かる?」

「分かっているけど……」

「いいや、分かってなどいない。自身と敵の首を天秤にかけ、結果的に首を取りに行く阿呆がぬしだ。あれか? ぬしはそんなに首が好きなのか?」

「別に好きじゃないよっ!?」

「おうおう。わらわは分かっているぞ、本当に好きなのは刈り取った首に詰まっている血をじゅるじゅる吸うのが好きなのだろう? この血に飢えた化生めが!

「全然分かってない!?」

 

 ものすごい遊ばれているのが分かる。

 でもこれは何度も何度も夢の中で続けてきたやり取り。

 目覚めた時には全て忘れ、眠りと共に思い出すもの。

 

「ほれ、ころころー」

「わー!? 頭を投げないでー!?」

「まるで蹴鞠のようだ。よく跳ねるし鳴いてもくれる」

 

 はっきりいってこの師匠は性格最悪だ。

 教える力と実力は確かだけど、ドSだし死なない夢空間という理由でバンバン首とか斬ってくる。

 

「わらわはぬしたちの“すーつ”の“こあ”でしかない存在。適合者であるぬしらの願いを叶えるべく、夢という形でぬしを鍛えているのだ。むしろ? 逆に? その頭を地面に埋めるくらいに感謝してほしいくらいだ。ほれほれ」

「身体の方を蹴らないで!! あう!?」

 

 げしげし、と頭を失いあわあわとしている私の身体を足で小突くアサヒ様。

 勿論、衝撃と痛みは伝わってくるし、この師匠は執拗にお尻を蹴りまくるので屈辱でしかない。

 

「どーせ、目覚めれば覚えていないのだから別にいいだろう」

「覚えてなくても屈辱なことには変わらないよ!」

「ぴーちくぱーちくとうるさいのぉ」

 

 この夢の出来事は私もきららも葵も憶えてない。

 でも、ここで戦った経験は無意識に体に刻み込まれ、怪人との戦闘で真価を発揮する。

 ……自覚がないのに強くなっているのが地味に怖いんだけどね。

 

「まったく、お前と言うやつはとことん駄目だな」

「な、なにおう!」

「ようやく意中の男を家に連れてきたと思ったら、日和って普通に寝るなぞ。呆れを通り越して笑えるわ」

 

 ぐ、うぅ。

 多分、今自室で寝ている私とは別の部屋で寝ているカツミ君のことを言っているのだろう。

 急な話ということでお父さんの部屋に敷いた布団で彼は寝ることになったのだが、どうやらアサヒ様はそれが気にいらないようだ。

 

「好いてる男に夜這いもかけられんヘタレが」

「ぐっ……」

「まったく、ようやく好機を掴み取ったというのに。そういう時に怖気づくのがおぬしたちだ。きららもぬしも全く同じヘタレだ、このバカたれ」

 

 ヘタレとバカたれで韻を踏んで罵倒された……!!

 アサヒ様は私達ジャスティスクルセイダー三人のスーツのエナジーコアを共有する存在なので、当然私と葵ときららのことも知っているし、なんなら夢を通して私達の訓練をしてくれている。

 今は葵ときららのスーツには疑似エナジーコアが搭載されているけど、スーツの機能として繋がっていることは変わりない。

 

「この調子では葵も……いや、奴の思考はわらわにも理解できんからな。なにか恐ろしいことをしでかしてもおかしくはないかもしれん」

「葵はいったいなんなの……」

 

 友達ではあるが不思議ちゃんではある。

 妹ちゃんはあんなに分かりやすい性格しているのに。

 

「とにかく、だ」

 

 アサヒ様はまた私の頭を放り投げ、先ほどまで足蹴にしていた私の元の身体に返す。

 とりあえず頭を首にはめ込んだ私を愉快気に見る。

 

「わらわも多少なりとはあの男に興味がある」

「カツミ君に?」

「うむ。本音を言うならば双子のアルファではなく、あちらの適合者になれば今とは別に愉快なことになっていただろうが……」

 

 やっぱりアルファって少なからずカツミ君に興味を向けるのかな?

 私と最初に会った時なんて速攻で撫で斬りにして夢から目覚めさせるくらいに棘のある人だった気がするけど。

 

「ぬしとの違い? 単純にやつが男だからだ」

「俗物的すぎない!?」

 

 なんか、ほら、もっと重要な理由とかじゃないの!?

 

「湿気た煎餅とかすていらどちらがいいと言われたら、普通はかすていらを選ぶだろう? それと同じよ」

「湿気た煎餅扱いなの私達!?」

 

 色々と酷すぎる……!!

 いや、そりゃあ最初から強かったカツミ君と比べたら私達なんて雑魚同然だったんだろうけど。

 地味に落ち込んでいると、アサヒ様が物憂げな顔で膝に肘をつき遠くを見る。

 

「わらわの“おめが”はとんだ疫病神だったからなぁ。存在を知った時には我を忘れて(ぬえ)になんぞ化けよって、どれだけ無辜の民草が食い殺されたことか……」

「そ、そうなんだ……」

「気分はあれだぞ? 見合いにいったら、相手が自分そっちのけで街中で人間食い殺しまくっているようなものだぞ」

「すっごい嫌だねそれ……」

 

 なにそれ悪夢過ぎる……。

 アルファとオメガについて凡そどんな関係にあるか分かってきたけど、大抵は残酷な運命しかないのかな……。

 

「こあとして、この地球に舞い戻ることになったことはわらわにとっては奇縁とも言える。わらわの代から何度、地球という星が白紙化されているのかは知らんが……此度は明らかに違う」

「さらっと地球が一度白紙化されてるって言わなかった?」

「……ぬしは本当に頭があっぱらぱーだな。わらわの名前がえいりあんと同じに見えたのかぁー? 首切りしたい欲求のせいで知能が下がっているのかぁー?」

「ぐぅ」

 

 鞘に納められた刀で頭をぺしぺしと叩かれる。

 お人形さんみたいな顔を愉悦に歪めて猛烈な勢いで煽ってくる彼女に今すぐ剣を抜いて斬りかかりたい衝動に襲われるが、そもそも素の技量で負けているので我慢するしかない。

 

「で、でも一度白紙化されてるなら、文字とか同じっておかしくない……!?」

「それが侵略者のやり方よ。時を遡らせるか、その星そのものを最初に戻すか、またそのまま破壊するか。……わらわの代に起こった白紙化は、地球の歴史そのものを遡らせるもの。恐らく、わらわがあるふぁの因子を受ける前の時代にまで時を遡らせたのだろうな」

 

 原理はよく分からないけど、そういうことができる。

 とんでもない話だと思う。

 

「しかしまあ、わらわの代は真っ先に邪魔な“おめが”を叩っ斬ってから、空からの侵略者を切り捨て、その首を晒したものよ」

「うわぁ……」

「ぬしの所業もわらわとそう変わらんからな?」

 

 ドン引きする私を呆れた様子で見るアサヒ様。

 そ、そんなことはない……はず。

 そう自分に言い聞かせていると、不意に自分の両手が半透明になっていっていることに気づく。

 

「目覚めの時のようだな」

「なんかいつもより早いな。……ハッ!? これはもしかして……!? カツミ君が眠っている私を起こしにきてくれるパターンなのでは!?」

 

 なぜかアサヒ様にかわいそうな人を見る目で見られてしまった。

 しかし、きららがそうだったのだ。

 ならば相対的に私もそうなってもおかしくないのでは?

 すると、誰かが私の名前を呼ぶ声と、身体をゆすられている感覚がしてくる。

 

「きらら、貴女から話を聞いた時はどうしてくれようかこの淫乱イエローと思っていたけど撤回する。……今日から私もそっち側だから……」

「はよ起きてやれ」

「あいた!?」

 

 べしん、と鞘で頭を叩かれる。

 それに伴い、私の身体は完全にその空間から消失し———目覚めの時を迎える。

 


 

「アカネ、アカネ……」

「う、うーん」

 

 名前を呼ばれ目を開ける。

 いつも通りの朝……ではなく、肩をゆすられ名前を呼ばれている。

 もしやカツミ君!? と顔を声のする方に向ける。

 

「か、カツミ君!?」

「はい残念!! お姉ちゃんでしたァー!!」

「!!?」

 

 そこにいたのは二番目の姉、椿赤(チセ)姉であった。

 いつもはもっと雑な形で起こしてくる姉の姿に目を見開く。

 は? は? は?

 脳内で完結しない情報に唖然としていると、姉が開けたと思われる自室の扉の前に———カツミ君が顔を出してくる。

 彼の腕の中ではぐでーっと脱力している我が家のサモエド、きなこが抱かれている。

 

「チセさん。アカネ、起きましたか?」

「うん。今起こしたからもう大丈夫だよー」

「は?」

 

 呆気にとられる私に、カツミ君がこちらを見る。

 

「おう、おはよう。いやぁ、紫音さんに起こしてくれって頼まれたけど、君のお姉さんが代わりに起こしてくれたんだよ。いい姉さんじゃないか」

「……」

「朝食もできてるから早く降りて来いよな」

「じゃ、また後でねー。カツミ君」

 

 部屋から離れていくカツミ君をにこにことした顔で見送った姉を見る。

 次第にその笑顔は、してやったりといったものへと豹変する。

 

「フハハハ!! バカめが! 私の目が黒いうちでそんな甘々イベントを起こさせるはずがないじゃない!!」

「きょ、今日で姉妹の縁は終わりじゃァァァァ!!」

「なっ、やんのかこの愚妹!!」

「乙女の純情を踏み潰した報いを受けさせてやる!!」

 

 そのまま空前絶後の姉妹喧嘩へと発展。

 何事かと聞きつけてきたお母さんに、げんこつという名の制裁を加えられるまで続けられるのだった。

 ちなみに一番上の姉、紅桃姉はできる大人アピールをしたくて慣れない早起きをしたらしいが、肝心のカツミ君はそれよりも早く起床していたことから逆に敗北感に打ちのめされていたらしい。

 ……いや、バカじゃん。

 


 

 今日は土曜日なので普通に学校も休みだ。

 ジャスティスクルセイダーの新しい拠点も完成していないので、訓練もできない。

 なので私は現在カツミ君と共に普通に家にいるわけだが、正直どうしていいか分からなかった。

 どこかに出掛けようにもカツミ君の場合変装しなきゃいけないし、社長にも許可をもらわなきゃならないからなぁ。

 

「オカピって常時オイルまみれなの……? マジで……?」

「くぅーん」

 

 いや、当の本人は録画した動物番組見て唸っているけども。

 というよりだんだん彼の膝を独占しているきなこが恨めしくなってきた。

 自分ん家の犬にまで嫉妬してくる自分がちょっと悲しくなった。

 

「はぁ」

 

 そんな彼を横目でみながら今、微かに振動したスマホを開く。

 どうやら、きららと葵から連絡がきているようなので返信していく。

 

< ジャスクル

K

カツミ君、どうしてる? 10:32

(# ゚Д゚) 10:32

 
既読2

10:34

朝起こしに来てくれた

は? 許せん。

今家に突撃しにいく

お昼はスシでいい

10:35

 
既読2

10:36

…と思ったら姉が代わりに起こしてきた

 
既読2

10:36

本当に許せない。

末代まで祟ってやりたい

K

それあんたも呪われてるやん 10:38

10:38

+□

 

「なあ、アカネ」

「んっ?」

 

 返信の手を止め、声をかけてきてくれたカツミ君を見る。

 

「壊された本部って今はどうなってんだ?」

「封鎖中じゃないかな? 一応、本部のある地下は無事だけれど、肝心の場所が一般にバレちゃったし」

「……そう、か」

 

 ? 思案するように顎に手を当てる彼に首を傾げる。

 

「じゃあ、あの地下の独房って入れるか?」

「それは……社長に聞いてみないと分かんないかな。人の目もあるし……なにか取ってきたいものでもあるの?」

「いや、それは分からないけど。俺もあそこに世話になったからな」

 

 確かに、私達にとってもあそこは特別な場所でもある。

 黒騎士を倒し、彼を閉じ込めるという名目で保護したあの部屋。

 ……私はスマホ……ではなく、手首のチェンジャーを操作する。

 

「暇だし、いってみよっか」

「大丈夫なのか?」

「君は変装すれば大丈夫でしょ。社長のことだから秘密の裏口とか用意してそうだし」

 

 あの襲撃以来私も行ってなかったことだしこれもいい機会だ。

 社長に簡単なメッセージを送り返信を待つ。

 あの人も忙しいし、多少時間はかかるだろうけど……カツミ君のこととなれば異様なやる気を見せるはずなのでそれほど待つことはないだろう。

 

「それじゃあ、きららと葵も誘ったらどうだ?」

「……」

「アカネ?」

「ウン、今連絡スル……」

 

 二人で行く流れだと思ってたとは口が裂けても言わない。

 

< ジャスクル

K

それあんたも呪われてるやん 10:38

10:38

 
既読2

10:44

カツミ君が本部の独房に行きたいって

 
既読2

10:44

あ、用事があるなら

無理にこなくていいよ^^

何をしているブラッド

さっさと準備をしろ

10:44

K

用事があっても行くけど何か? 10:44

 
既読2

10:45

この欲深共が……

+□

 

 ほぼノータイムで同時に返ってきた返信にドン引きする。

 この時間帯ならお昼も一緒に食べてきちゃうことになるな。

 まあ、人数は増えれど出かけるのは楽しいことだ。

 カツミ君に二人も来ることを伝えた後、私は出かける準備をするべく一旦部屋に戻るのであった。

 




ドS剣豪な地球由来のエナジーコアさん。
夢という形でジャスクルを鍛えていたのが彼女でした。
なお、アカネの素質は元からかなり高かった模様。

彼女の時代設定の詳細についてはまだ決めていません。

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