解釈違いの方々は読まないことをオススメするよ
人間の社会的関係において実現されるべき究極的な価値。
―――――――――”正義“という単語に対する意味合い。
荒野。
その血に突き立てられたものは無限に等しい数の剣や槍。
大地にはクリスタルや灯籠のような魔術具も打ち捨てられている。
これは、何だ。
「――――――魔術による”固有結界“。
私の『
「………心象、風景。
こんな荒れ果てた、武器だらけの荒野が、お前の心の内だと?」
「………」
「…まあ、答えるつもりがないならそれでも結構だがな。
お前が結界を出そうが結局こっちのやることは…」
その時、何かしら、ほんの僅かだが。
酷い違和感を覚えた。
少ない。あまりにも。
先程に比べ、操れる砂が。
…いや、違う。
少ないのは、
「そもそもの砂の量が減ってやがる…」
「当然でしょう。ここは私の作り出した結界の中。
さっきみたいにいくらでも
「!」
ギドラの魔術の仕組みを、きららは既に看破していた。
それは、先程の戦闘での砂の違い。
きららの『魔装“牙狼”』は、自身に害するあらゆる魔力を無力化し、鎧に触れたそれらを瞬く間に燃やし尽くすという特性を持っている。
しかし、先程きららは魔装を纏っていたにも関わらず、砂に押されていた。
そこから彼女はその仕組みを予想した。
そして、それらの違いに気づく。
(…燃やせる方の砂はなんの動きもせずに、どんな場所からも現れて操っていた。
でも…
男は杖をついていた。
そして、燃やせない方の砂は
そうして少女は仮定した。
「魔装を押しのけられる砂は
あなたの魔法で砂に変えられた物理的なものだった…」
「……………」
「黙っていても答えないことにはなりませんよ。
私に嘘と黙秘は意味を成さない」
そう。きららは人の繋がりを見ることができる。
そこから、その人物の心境を読み取ることなど容易い。
「…グッ!?」
「そして…この空間は私の魔力に満ちている。
魔力を砂に変換するよりも、その身体を砂に変えるよりも、私の方が疾く動ける。
お前が何をしようと、私が全てにおいて一手先を行く!!」
ギドラの回避方法。
それを事前の情報合わせできららは看破していた。
「固有結界の中なら…貴方は砂になることも、逃げることも叶わない。
そして…お前を殺すまで、この結界が解除されることもない」
「………」
殺意。
眼の前の少女から感じるのは、それだった。
これまで殺し屋として生きてきた自分たちと同等、いやそれ以上の…
「―――――躱せるか」
剣が、槍が、斧が、あるいは魔法が。
その一声とともに複数、前から、後ろから、左右から、上空から………
「行け」
…ギドラの身体に突き立てられた。
――――――
・・・・・・・
倒した。
眼の前の男を、私が倒した。
でも、まだだ。
例え『パス』が消えていても、油断してはいけない。
もっと、確実に。
この男が死んだのを確認するまで…………
死んだ。
違う。
殺したんだ。
私が、この男を。
自分の、て、で…
「…………ッ!!ッ……!!」
咄嗟に口元を手で抑える。
そうしないと、胃の中に収まっていたものが、そのまま口から出てきてしまいそうだったから。
もし吐き出してしまったら、余りに気持ち悪くて、心が平静でいられないから。
この景色が、途端に消えてしまうから。
『――――――スタークさん、話を聞いてもらってもいいですか』
『ん?』
『私…考えたんです。クリエメイトの皆さんだけじゃなくて…私自身がもっと、敵と戦えるようにするにはどうするかって』
『………その為に”魔装“を習得したんだろうが。
他にどうするって?』
『………私の力を…『コール』を応用して、また違う力を出せないかって考えたんです。
…クリエメイトの皆さんに直接協力してもらうんじゃなくって、
『……………』
『それで、私、一つ考えたんです。まず『その前に聞いておくことができた』…え?』
『きらら。お前、自分で何言ってるか分かってるか?
お前の『
…力だけを借りて良いように使うなんざ、それとは正反対の使い方だぞ』
『…っ』
聞かれると思ってはいた。
その通りだ。私のやろうとしていることは、ある意味『コール』の力を侮辱するに等しいやり方だ。
…でも。
それでも。
『それでも、クリエメイトの皆さんが傷つくことはなくなります』
『―――――――』
『戦いで傷つくのは、責任を負うのは…私だけで済みます。
あんなことには、もう…』
「………っ、げほ、うぇ………!!」
吐いた。
胃の中のものが、物ですらない液体が、体の外に吐き散らかされた。
「………なに、が」
思い出した、自分の発言が、あまりにも気持ち悪くて。
「なにが…責任を、わたしだけ、だ………」
敵を殺すために使ったのは誰のものだ。
例えそれが力による複製、あるいは模造品であろうとも。
それは、間違いなく。
「………げ、ふ、ぇあ…!」
また、吐いた。
一度、堰が切れてしまったら、もう止まらない。
後悔が、恐怖が、言い表せないそれらが、次々、身体の内からも外からも襲ってくる。
『何を泣いているの?』
…え?
『その程度で、皆を守れると思ってるの?』
…これ、私の、…声?
『泣いて、辛いって、立ち止まって、うずくまって。
そうしてまた、都合好くシグレに、ヤナギに、コノハに。
誰かに助けてもらおうと思ってるんでしょ?』
…違う。
『違わない。
貴方はまた、誰かに助けてもらえばいいと思ってる。
たとえ手を汚しても、そんな自分を欲しがってくれる人が居ると、そう思おうとしてる』
違う
『自分で背負うなんて、虫の良いことを言っておきながら、結局誰かに助けてもらうことを期待してる。
…本当に、心底気持ち悪い』
…っ!
『顔を上げて、見てみなさいよ。
そんな甘さが招く結末を』
…顔を上げた。
それは、燃え盛る廃墟の山々。
そこに、見覚えのある人々の屍が、山のように、絨毯のように、転がって…
…その頂上には。
「…シグ、レ?わたしと…?」
項垂れる愛しい人。
その側にいる私が、剣を振り上げて
「ぁ…や…!」
咄嗟に駆け寄ろうとする。
しかし…何かに足を縛られたように、掴まれたように、動けない。
『これが…結末。
誰かに縋ろうとする、愚かな救世主が招く…』
「やめ、て―――――――!!」
その叫びも虚しく。
少女の振り上げた剣は、無慈悲にも振り下ろされ…
「おい」
声が聞こえた。
そこには、黒いコートを羽織った、杖をついた、顔に傷のある男。
…私が、たった今殺したはずの…
「なん、で」
「…主人からの貰いもんでな。
一度や二度なら、俺は『死』からも戻ってこられるように作られてるんだと」
そんな。
なら、私のやったことは…
「ハァ…とはいえ、これには大分力を取られるんでな。
もう、逃げることしかできねぇよ
…これは俺の失態だな」
男が、砂になって消える。
いつの間にか空いていた大穴に、吸い込まれて消えた。
…それを見て、また吐いた。
『自分は殺していなかった』と、そう思って安心した自分がいたことを自覚してしまったから。
・・・・・・・
屋敷の最上階。
大広間にて対峙する二人の人物。
片やかつてこの街でその怪腕を振るい、頂点に君臨していた女、ミツネ。
片や神殿の者として、あるいは一人の戦士として大切な物を守る為戦おうとする男、シグレ。
シグレが乗り込んでから暫しの間の沈黙。
しかして。
「……………お前達」
「「くー!!」」
「クリエメイト達を連れて離れていろ。
…この屋敷からもだ。
時期ここも安全ではなくなる」
「「くー!!」」
そうして何匹かのクロモン達が、クリエメイト二人…
「……………」
「連中をどうこうするのは、お前たちを片付けた後だ。
今私が何より倒さなければならないのは…お前だ
ツヅリ殿を率先して助けることを提案したお前を殺し、その上でお前に協力しようとする神殿の連中も召喚士の一行も殺す。
孫娘殿も少しばかり痛い目を見てもらう。
それであの人も罪を認めようとはしないだろう」
「…何で邪魔をしようとする。
ツヅリのオッサンは…罪の意識に耐えきれずに居た。
でもそれだけじゃない。
それを家族に背負わせることが嫌で…だから自分で」
「そんな事は分かってるさ。
…そう言ってこの街から逃げようとしたツヅリ殿の息子を私が殺したからな」
「何…?」
「そもそも私が殺し屋になったのなんて成り行きも良いところだ。
この街の秘密を明かそうとするもの、探ろうとするもの。
そんな連中を始末する日々のうち、噂を聞きつけたリーダーが私を雇いに来た
だがあの人は何も言おうとしなかった。
私がこの街を守るための行いを、肯定も否定もしなかった
それを急に掌を返して『すべてを打ち明ける』なんて、虫がいいと思わないか?」
「…それでもあの人は…すべてを背負ってこれからの全てを捧げるつもりだ」
「……………」
「自分の間違いを間違いだって認めて…これから訪れるかも知れない幸福も、隠し通せば得られるものも全て投げ出して生きていく覚悟があの人にはある。
並大抵の覚悟でそんなコトできると思うか?
…その意志から目ぇそらして自分の言いたいことだけ押し通そうってのか?」
「何とでも言え。
それがあの人の覚悟だと言うなら、この街の秘密を隠し続けるために手を汚すのが私の覚悟ってやつさ」
「その覚悟の結果が自分以外にも罪を背負わせることか…?
なんの関わりのないクリエメイトまで巻き込むことか?
それが本気で自分の正しさだって通そうと言うんなら…なんの関係もない人間を踏み台にしてんじゃねぇ!!」
「………お前が最初にこの街に来た理由は…『オーダー』で呼び出されたクリエメイトを保護して元の世界に帰すためだろ?
元々私達もそのつもりの餌として呼び出したからな
だがそのやり方も所詮他人のやり方の真似事に過ぎない。
筆頭神官アルシーヴ…あの女が何を考えて『オーダー』に踏み切ったのかは知らない。
なにか目的があるにしても、賢いあの女なら他のやり方を模索することもできたはずだ。
それに不特定多数の、なんの関係もないクリエメイトをわざわざ巻き込んだのは、結局のところ…
「…何が言いてぇ」
「元々クリエメイトをこの世界に呼び出すこと自体、世界のバランスを乱す行為だ。
その上でクリエメイトからクリエを貰うなんて、聖典の世界がどうなるか分かったものではない。
つまりアルシーヴだって、自分の目的を果たすために
クリエメイト達が犠牲になる可能性を『割り切って』事に及んだんだろう」
「……………」
「他人を犠牲や踏み台にして目的を果たすのは、人の性のようなものだ。
だからお前も、お前の仲間も…私の目的のための犠牲になってもらう」
そうして女は背を向ける。
着物の肩を掴み、一息に脱ぎ捨てた。
…サラシで隠れてはいたが。
その背には
「私も聖典に詳しい訳では無いが…一つ聞いた話がある。
そちらの世界で『最強』を謳われた男は…その背に龍を彫っていた、と。
ここでお前を倒し、お前の仲間も全て打ち倒し…私は龍に成る。
この街の守護者たる龍に」
「僕はそんな肩書にも、龍にも興味はない。
だが…お前が勝つことは認められない」
「ああ、そうだろうな。
なら…」
「付き合ってやるよ。…そのくだらねぇ戦いに!!」
男もまたその服を脱ぎ捨てた。
その背には何も彫られてはいない…が。
その気迫には、女と同じく龍を連想させた。
両雄は睨み合う。
そして、どちらともなく駆け出し。
「オオオオオオ…!!」
「ああああああッ!!」
衝突し、戦いの火蓋を切って落とした。
次回『誓いの場所』
お楽しみに