「オオオオオオ…!!」
「ああああああッ!!」
眼の前の女と真正面から衝突する。
両腕と肩、頭部が勢いよくぶつかりあい、ほんの一瞬景色が白く瞬いた。
「ぐッ…!」
さすがの衝撃から思わず後ずさる。
眼の前の白が晴れていくと、そこにはこちらに向かってまっすぐに膝が飛んできていた。
「…!」
間一髪、膝蹴りとその勢いのまま振り上げられた脚を躱す。
着地した敵は体制を崩すこともなく、こちらに向けて拳を突き出してくる。
それを躱す。こちらもやられっぱなしで居られない。
左のジャブ、右フック、左フック、右手のアッパー。
更に左手で追撃のアッパーカット。
だが、敵は曲がりなりにもこの街で頂点に立ったものなのだ。
こんな素人同然の拳など、たやすく捌かれる。
「く…」
「フン」
所詮はこの程度、とでも言わんばかりに鼻を鳴らす。
だが、人間はなにも拳だけで戦っているのではない。
「…っ!」
横から振り抜かれた右足。
それを敵は間一髪、腕で防いだ。
隙など作り出さない。休む暇など与えない。
更に左足のハイキック。やはり防がれた。
…正面から顎に向けてまっすぐに蹴りを放つ。
それすらも防がれる。
いくら格闘において向こうが上手とは言え、こうまで通じないと流石に嫌になってくる。
…だが、敵はそんな弱音すら吐かせてはくれない。
「フッ!」
「…ぐ!」
右拳のストレートが顔面に向けてまっすぐに飛んでくる。
状態を反らし、更に左に避けることで拳を躱し…逆にこちらの右拳を勢いよく叩き込む。
…が、それはあっけなく敵の左手に受け止められ。
その上、
「ぐっ!が、あ…!」
戻っていた敵の右腕が脇腹に、顔面に裏拳、あるいはフックで叩き込まれた。
勢いそのままに足払いの蹴りをくらい、あっけなく地面に倒れ込む。
「ぐぁ…っ!」
痛みで少々歪んだ視界で見上げた先には、こちらの頭を踏み潰さんと足を上げていた
身体を転がしどうにか避け、体制を立て直す…暇もなく。
再び正拳突きがやって来た。
まともに打ち合っても勝ち目はない。
…ならば。
「…シッ!」
「っ、何…!」
やって来た右腕を掴み、こちらの後方へと引き込み投げる。
倒すまでは行かずとも、体制を崩すことは叶った。
そのままガラ空きの背中に数発、拳を打ち込む。
しかしそんなこちらの精一杯の奇策からでも、敵はどうやら抜け出すすべを持っているようで。
「ハッ!!」
「…っあ…!」
身体を回転させ、裏拳を振るってきた。
間一髪、顎に拳を掠められたが、どうにか躱す。
しかしほんの一瞬、確かな隙が出来た。
それを逃すことなく、顔面めがけて拳をまっすぐ突き出す。
一撃。
防がれた。
しかし体制を崩し、膝をつかせた。
二撃、蹴りを放つ。
それすらも防がれる。
しかし腕の防御は解かれ、むき出しの顔面が晒される。
敵に向かって勢いよく駆け出し。
…遂に拳が顔面を捉えた。
「ぐ…!」
「ぁ、アアア――――――!!」
そのまま、後方にある階段まで。
プロレスかアメフトのタックルの要領で敵を持ち上げ、手すりに衝突させる。
「ぐ、は…!」
衝撃で油断したところに、容赦なく拳を打ち込む。
右、左。正面…の拳は受け止められた。
そして…
「…っ!?」
「図に乗るな…落ちろ…!」
そのまま掴まれた腕を引っ張られ、後方の階段に…だが、ただ落ちるものか。
逆に敵の腕を掴み、道連れに引きずり下ろす…!!
「がっ!?」
「ぐぅ…!」
階段から落下し、下の階の広間へと落ちた。
流石にこちらも向こうも、負傷からかすぐには動けない。
「やるな…なら、これはどうだ?」
ミツネは日本刀…のような刀を壁から一本取り、勢いよく振り抜いて鞘を何処かへと投げ飛ばした。
いや、問題はそうではない。
肉弾戦であれほどの力量を持つ敵が、更に武器まで手にした。
こんなに恐ろしいことがあるものか。
武器を手元に呼び出す暇など、与えてもらえるわけがない。
同じように壁から刀を取り…
「ハッ!!」
…振り下ろされた刀を鞘のまま受け止めた。
しかし、鞘とは案外脆いものなのか、はたまた敵の力が圧倒的すぎるのか。
一撃受け止めたそれは、ピシリ、とヒビを入れ…砕けた。
「…んな、バカな…!」
悪態を思わず付きながらも、敵を蹴り飛ばし距離を取る。
振るってくる刀を受け止め、あるいは流し、あるいは鍔迫り。
「ぬぅ…!」
「ぐ、ぅ…!」
押し込まれそうになる。
どうにか体制を安定させ誤魔化して入るが、最悪このまま力で押し切られるのがオチだ。
なら…武器を取り上げる他無い。
「く、あ…あっ!!」
「何…!」
鍔迫りあっていた刀を力任せに、或いは敵を流すようにぐるりと大きく回す。
相手の腕が伸び、力が緩められ…更にもう一度大きく振り回す。
刀が絡め取られ、明後日の方向へと飛んでいった。
「ぐ!?」
しかし、敵を丸腰にできたと油断したのか、こちらの刀を持った腕を蹴られ、手放してしまった。
そして宙を舞う刀をミツネが奪い、落下の勢いそのままにこちらに向け振り下ろしてくる。
…!
「これで…っ!!」
ガギン、と音を立てて刀がへし折れた。
横目で見つけた、石造りの熊の置物。
一か八かだったが、相手の刀を打ち壊すことに成功した。
そのまま熊の置物を鈍器の容量で振るう。
「らぁっ!!」
「…ぐ、ぅお…!」
咄嗟に出された腕により直撃こそしなかったが、腕に確かな負傷を与えた。
そのまま斜めに一回転に大きく振りかぶり、敵めがけて思い切り振り下ろす。
「フン!」
図に乗るな、と言わんばかりに後ろ回し蹴りで弾かれた。
そのままもう片方の足がこちらにやってきて…身体に衝突する。
「ぐ…!
捕まえた!」
「なッッ」
身体に直撃した左足を掴み、そのまま敵を床めがけ振り回し叩きつける。
鈍い悲鳴をあげた敵に更に蹴りを撃ち込んだ。
一撃叩き込むことには成功したが、すぐさま体制を立て直すついでに足払いが放たれる。
とっさに上に飛びそれを避けると、続けざまに踵落としを落とす。
「………」
「……フゥ」
それすらも躱された。
互いに距離を取り、お互いを見やる。
―――――――静寂。
睨み合い、ほんの一瞬の油断も見せない。
そんなものをこの状況で見せるなどよほどの能天気か後先考えぬ間抜けぐらいだろう。
…どちらともなく、横に一歩、踏み出す。
そのまま勢いを増し、しかしお互いを視線からはずすこと無く、横並びで走る。
…そのとき、神はこちらに微笑んだようだ。
「ハァっ!!」
「っ、何…!」
先程ミツネが捨てていた、刀の鞘。
それはこちらの足元に転がっていたのだ。
サッカーボールを蹴り飛ばすごとく鞘を蹴る。
まっすぐ飛んでいくそれを防ごうと、ミツネは反射的に顔の前で腕を交差させた。
「ああああああああアアアアっ!!」
「!?」
鞘は防がれた。
だが、おかげで敵の視界は塞がったままだ。
敵に勢いよくタックルし、その上で先程のように壁まで持っていき勢いよく衝突させる。
痛みで「が…」と溢した敵の顔面に、容赦なく両の拳を撃ち込んでいく。
「…っあア!!」
「がっ…!」
頭突き。
頭部に打撃を加えられながら、ミツネはそれを選択してきた。
視界が一瞬瞬き、またミツネが拳を突き出してくるのが見えた。
それを受け止め…階段に投げつけた。
「がはァ」
「行くぞこのヤロぉ!!」
膝蹴り。
防がれた。
「負けられねぇんだよ!!」
頭を掴まれ、手すりに叩きつけられた。
だが、そんなものがどうした。
負けられない?それが自分だけだと思っているのか。
「クソがァァァ!!」
ミツネを掴み、階段を駆け上る。
上の階の壁に叩きつけ、拳を、蹴りを叩き込む。
「図に乗るなッ!!」
「うお…!」
蹴りを加えていた足を掴まれ、諸共に投げ飛ばされた。
両者ともに投げ出され、倒れる。
「勝つのは私だ」
「負けるつもりねぇよ」
互いに啖呵を切る。
再び叫び、駆け出し、拳が交差する。
互いの拳が、顔に、身体に、或いは腕に防がれ。
畳は飛び散った血で汚れ、染みていく。
「ハァ、はぁ…」
「どうした…この程度か!!」
ミツネが拳を、顔面に撃ち込んだ。
不思議と、体制は崩れない。
「クソがァァァ!!!」
「が―――――――!?」
勢いよく殴り返す。
体制を崩したミツネは、そのまま力が抜けたかのように壁にもたれかかった。
だが、容赦はない。
そのまま肩を掴み、残った手で拳を撃ち込んでいく。
一撃、二撃、三撃。
膝蹴りを撃ち込んだ。
更に拳を撃ち込もうとして。
「グゥ、ぬ゛ぅう…!!
ァァあ!!」
「く…!」
それを受け止められ、一発殴り返された。
…だがそれだけだ。
まだ、自分は立てている。
拳だって握れる。
また拳を撃ち込んでいく。
一撃、二撃。
…三で止められた。
また殴り返そうとして…
「く…!?」
「大人しく…してろ!!」
裏拳で逆に殴り返した。
肩を握る手に力を込め、後ろに投げ飛ばす。
「アアアアあああ―――――――――!!!」
「…!」
ふらつく敵。
右の拳を強く握り。
真っ直ぐに、拳を…
「がはァ――――――――――!!」
命中した。
ありったけの力を込めた拳。
もはや、敵は満身創痍だった。
「はぁ、あ…ま、だ…まだだ、まだ…」
ふらつく足取り。おぼつかない目元。
しかし、それでも拳を握り。
…顔の横を、力なく通り過ぎた。
「まだ、終わって……ねぇ…………」
シグレvsミツネ
勝利者:シグレ
次回『決着、そして…』お楽しみに