機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結>   作:水冷山賊1250F

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 アクシズ強襲偵察隊の最期が近付きました。


第99話 追い詰められたザビ家継承者

 ルナツー宙域 サダラーン艦橋

 グレミー・トト

 「やはり、連邦軍は大したことが無いな。ここまで我々を追尾できないとは。」

 「それは違います閣下。我々の隠蔽技術もですが、此方から仕掛けなかったからです。敵を甘く見てはいけません。」

 ハスラー少将が、態々私に釘を刺してくる。

 「分かっているさそれぐらい。しかし、此方もプルシリーズを集結させた。プルツーには新型も与えてある。たとえ見つかっても、切り抜けてアクシズに戻れるさ。私が信用できないか、少将?」

 プルシリーズの話が出ると、途端に顔をしかめるハスラー少将。軍に所属して今更ヒューマニズムも無い。我々は敵を殺してなんぼだ。この御仁は覚悟が足らない。地球等、核攻撃で潰せば良いのだ。全くもって茶番だ。その為のアクシズ落としだ。その後、数基のコロニーを見せしめに核で潰せば我々が天下を取れる。連邦の奴等の警戒がどれぐらいの物かは、だいたい把握した。後は、アクシズを落とすだけだ。

 「少将の懸念は分かる。しかし、デラーズを潰して安心している連邦はやはり弱体化している。奴等を潰すなら、今しかないだろう。地球にしがみついている奴等は一掃するに限る。予定通り、我々はルナツー方面に向かい、ルナツーに奇襲を掛ける。11機のサイコミュ兵器による奇襲作戦だ。上手く行けば、ルナツーを無力化出来るぞ!」

 フフフフ、連邦め。スペースノイドを懐柔しているようだが、我々は騙されん!そしてジオン共和国を名乗る敗北主義者共の目を覚まさせて見せる。ダイクンの遺児か何かは知らんが、あのような腑抜け共に人類の未来は担えん。

 人類を導くのは、ギレン総帥の忘れ形見である私だ!

 

 同場所

 ユーリー・ハスラー

 ギレン総帥の忘れ形見と言われているこの小僧、楽天的に過ぎる。本当にあの方のご子息で有るのか疑わしい限りだ。それに、今まで連邦の艦隊に見付からなかったのは、やはりおかしい。我々は泳がされて居るのでは無いか?

 「進路ルナツー。周囲の警戒を厳とせよ!敵を見付け、又は見付かり次第、先手必勝でMS隊で急襲する。艦隊はルナツーまで隠密行動だ!少々時間は懸かるが、確実にルナツーにダメージを与えたい。」

 矢継ぎ早に、艦長に指示を出す。

 「慎重過ぎないか、少将?」

 「連邦軍を見くびってはいけません。戦場では、臆病なくらいで丁度良いのです。必要な事は、確実な作戦の遂行です。それに御身を悪戯に危険に晒すものでは有りません。出来れば、貴方にはアクシズに合流して貰いたかったのだが。」

 「皆まで言うな。私も御飾りの御輿には成りたく無いのでな。初戦で武勲を挙げさせて貰う。なに、貴方の指示には従うさ。ハスラー少将。」

 「はっ。」

 何が武勲だ。あのような少女達に隠れて戦う等、それを武勲だとは。いつから我が軍は、このような腑抜けに成り下がったのか。死んでデラーズに顔を向けることも出来ん。

 「デブリ帯外側の後方から、連邦軍の艦が接近中!数は三隻です!」

 「各艦エンジン停止!奴等をやり過ごす。奴等が気付かなければ、後方から一気に叩く!デブリに紛れてやり過ごすぞ!MS要員はコックピットで待機だ!総員急げ!!」

 慌ただしく動き出す艦内。それにしても、妙なタイミングで現れたな。見つかっていなければ良いのだが、可能性は半々だな。

 「敵艦、3隻とも慣性航行から制動を掛けました!」

 これは、見付かって居るかな?だが何故MS隊を出さない?

 この近くに、寄港できそうなコロニーや宇宙港は有るか?いや、ルナツー近海のこの宙域でそのような場所は無かった筈だ。ルナツーからの艦隊と合流するつもりか?偶々、この宙域が合流ポイントだとすれば・・。

 「ルナツー方面に動きは有るか?」

 「最大望遠でも動きは有りません。いや!ルナツー周辺に出ている艦が多い気がします!出港準備に入っているのかも知れません!」

 不味い、時間は奴等の味方だな。何もしなければ、我々は数に踏み潰される。しかし、奴等がアクシズ方面に動いた後ならば、手薄なルナツーを墜とせるか?いや、自分達に都合の良すぎる考えだ。

 「今ここで、数の優位が有る内に、奴等を叩く!その後アクシズ方面に撤退!作戦は中止だ!」

 「少将!何をバカな事を!奴等をやり過ごしたら、ルナツーを墜とせるのだぞ!私は断固反対だ!この程度で脅えてどうする!?」

 「御言葉ですが閣下、兵の命をそのようなギャンブルで磨り潰す訳にはいきません。これまでで、連邦の警戒体制は掴んだのです。情報を持って帰るだけでも、この作戦は成功です。」

 「ならん!我等が精強なるアクシズ軍は、何時からそのような怠惰で臆病者に成ったのだ?大戦果が約束されているのだぞ!?ここで勝負をかけなくてどうする!」

 「そのような戦果は約束されていません。貴方が言っているのは、只の賭け事です。私の事を信用しては頂けませんか?」

 「信用出来んな。臆病風に吹かれたのでは無いのか?ここは賭け時だ少将、何故分かってくれぬ!」

 どうやら、私の命もここまでのようだな。やはりこの若造、ギレン総帥には程遠い。このようなガキを閣下と呼ばなくてはならぬとは・・・・・。いったいどうなったんだ、我が軍は!?連邦に対する焦りからか、年々組織として狂いだしている気がする。

 「どうあっても、ご理解頂けませんか?」

 「理解出来んな。」

 ダメだ。言葉では何を言っても理解しては貰えないか。ならば、私の命ではどうか。腰のホルスターから拳銃を取りだし、迷わずにこめかみに当てる。

 「では、閣下を守れなかった事に成りますので、お先に黄泉でお待ちしております。どうか、お考え直されて、こちらにはごゆるりと来て頂ければ幸いです。」

 「ま、待て!!」

 「閣下、御武運を。」

 もう、何も聞きたく無かった。我々の独立戦争は、何時からこのような茶番に成ったのか。今まで必死になってきた自分が馬鹿馬鹿しくなり、笑えてくる。このような形で私の戦争は終わるとはな。あの世でデラーズに謝らなければ。しかし、もう疲れた。何の迷いもなく引き金を引き、私の意識は永遠に無くなった。

 

 同場所

 グレミー・トト

 「閣下、御武運を。」

 言うが早いか、奴め、引き金を引きやがった。最後にはこちらを馬鹿にするかのように、笑ってやがった。忌々しい臆病者の敗北主義者め!

 「艦長!この臆病者の遺体をどけろ!」

 「グレミー閣下!少将の命を懸けた諫言を、聞き入れる気は無いのですか!?」

 ちっ、こいつも慎重派か!全く年寄りは腰が重くなっていかんな。

 「どうした艦長?君も命懸けで私に意見をするのかね?君は、この臆病者とは違うと信じているのだが?」

 「少将を臆病者ですと!?一年戦争も戦い抜き、アクシズの蜂起にも起ったこの方を、貴方は臆病者だと!」

 「ふん、過去の経歴など問題ではない。問題は今だ!今、命を賭けてルナツーを壊滅出来るのかだ!?何故分からぬ?今はチャンスなのだぞ?」

 「やはり分かって頂けませんか。」

 「くどいぞ!君の考えは分かる。だが今は私を信じてくれ。」

 何故分かってくれぬのだ。新型のMSをも開発出来ている我々の方が優秀で有ることを。やはり、一年戦争の敗北で、負け犬根性が染み着いたのか?

 「敵艦、相対速度的にこちらとほぼ同程度です。どうしますか。」

 「このまま、奴等がルナツー艦隊と合流して、アクシズに向かうのを待つ!」

 「分かりました。」

 ふん、この雑兵共に、私が勝利とはどのような物か教えてやらねばなるまい。仕方の無い事だ。軽くため息を吐いてブリッジを見渡した。全員負け犬の顔だ。これでは勝てるものも勝てないな、やれやれ。

 

 




 なお、本人は追い詰められた事に気付いていません。

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