機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結>   作:水冷山賊1250F

36 / 120
 久々登場のガルマさんです。


第35話  ガルマ・ザビの撤退と殿の巨星

 ニューヤーク基地上空 ザンジバルブリッジ

 ガルマ・ザビ

 デトロイトが攻略されてから、ほんの一週間と少しでこれか。いつの間にかニューヤークを包囲し出した連邦軍。北米戦線は、じり貧と成り撤退することになった。

 「大佐、暗号通信です。」

 「読み上げろ。」

 「殿下の旅の無事を祈る。我等ジオン北米方面軍の殿とならん。以上です。」

 「そうか。クランプ中尉、済まなかった。もっと速く北米方面軍の撤退を決断出来ていれば。」

 「大佐、部下に軽々しく頭を下げてはいけません。将たるもの、勝敗は常です。次に活かせば良いのです。代償は高く付きましたが。」

 そうだな、高過ぎる。青い巨星のドムでどこまで戦い抜けるのか。絶望的な殿となったラル大尉に頭を下げることしか出来ない。

 ハモン殿はいつまでも窓際で北米大陸を見つめている。掛ける言葉が見付からなかった。

 

 ニューヤーク基地 ドムコックピット

 ランバ・ラル

 「アコース、コズン。無駄に命を落とすな!目的であるガルマ様は逃がしたのだ!折を見て降伏して良い。まぁ、暴れられるだけ暴れるがな。」

 「了解です、大尉。しかし、連邦軍は攻めてきませんね。ここまで来たらいつ攻め込んでも、勝てそうな戦力しか無いのに。」

 「そうだな。ここに来て投降の呼び掛けですかね?」

 そうかもな。カリフォルニアベースは基地機能を、ほぼ喪失しての勝利だったと聞く。ニューヤーク位はと思ってもおかしくない。

 「私は、北米攻略軍司令官ティアンム中将である。友軍を逃がすための命懸けの殿、その勇気と志に、まずお見事と言わせてもらう。」

 スピーカーから大音量で声が流れてくる。そうか、ティアンムか。俺の策を悉く潰してくれたのは。お蔭でここまでの劣勢か。たまらんな。

 「貴殿らのような武人を、大量の機動兵器で押し潰すと言うのは惜しい。ここは一つ、一騎討ちで決着を着けようではないか。貴殿等の代表者が勝利した曉には、貴殿等の撤退を見逃すことを約束する。もし此方が勝利した場合、貴殿等は全員投降してくれ!南極条約に基づく待遇を保証しよう!このような狂った戦争で、貴殿等のような志の高い武人を失うのは辛い。答えてくれ!」

 上手いな。これで此方が拒否して暴れまわれば、やはりジオンはただの乱暴者の集まりだったかと、連邦の将兵だけでなく、近くで逃げ遅れた住民も思うだろう。これだけの条件にも関わらず、ただ被害を大きくした愚か者ども。やはり、逃げられんか。

 「どうします?ラル大尉。」

 「受けるしか無かろうな。オープン回線及びスピーカーを繋いで渡せ。此方から返答する。」

 まるで、プロレスラーになった気分だ。

 「噂に名高いティアンム中将のご提案、痛み入る。その提案此方は受けることとする!此方の代表者はこの私ランバ・ラル大尉が受けて立とう!」

 「その心意気や良し。此方からは連邦軍のエース、ユウ・カジマ中尉だ。乗機はRX-78XXガンダムピクシー改だ。諸君等の言う蒼鬼だと分かりやすいか!」

 蒼鬼か・・・。どちらが青に相応しいか勝負と行くか。

 「あい分かった。相手にとって不足は無い。いつ始める?」

 「今から30分後、ニューヤーク市外の荒野でどうか!」

 「分かった、では30分後にそちらへ行く。戦争で、この台詞を言うのはどうかとも思うが正々堂々と戦おう!」

 「うむ、待っているぞ!」

 連邦軍が退いていくのが分かった。

 「連中、何を考えているのでしょう?」

 「同じスペースノイドを虐殺し、自らの大地を地球に墜とした野蛮人どもにも紳士的に戦ったと言う記録映像でも作るんだろうな。プロパガンダの為に。おそらく、俺達が勝ったら約束通りに撤退させてくれるだろう。まぁ、勝てる可能性は低いが。何、意地でも勝って見せる。」

 此方にも意地がある。この勝負勝たせて貰う!

 

 ニューヤーク市外荒野 ピクシー改コックピット

 ユウ・カジマ

 何故こうなった?ティアンム中将に呼び出されたのが今日の0900時。いつの時代の話だと思ったのは悪くないはずだ。武人同士の一騎討ち・・・。いかん、頭が痛くなってきた。こんな事相手が受ける訳が無い。そう思っていた頃が俺にもあった。アンドー少尉など、

 「俺で無くて良かった~。中尉、頑張ってください。」

 と良い笑顔で宣った。フィリップは笑い転げて話にならん。サマナだけだ、心配してくれたのは。本当に良い仲間に恵まれたよ、やれやれだ。

 「貴殿が蒼鬼殿か。」

 「地球連邦軍第11独立機械化混成部隊隊長、ユウ・カジマ中尉だ。ジオン公国北米方面軍殿軍指揮官ランバ・ラル大尉殿。」

 言っていて恥ずかしい。早く終わらせよう。

 「それでは、開始の合図はこのティアンムが取る。双方準備は良いか?」

 「おう!」

 「準備良し。」

 「では、このピストルの銃声を合図とする。用意、」

 パーンと鳴り響くピストルの銃声。

 同時に動き出す。ホバーを使い接近戦を仕掛けてくる青い巨星。此方もマシンガンを一斉射し、回り込みながら接近する。奴の正面は隠し武器がある。正面からは、戦ってやらん。ジャイアントバズーカを撃って来るが弾速が遅い。その隙は命取りだ。一気にブーストし、マシンガンを捨てビームサーベルを抜く。奴もヒートサーベルを抜くが甘い。左手に隠していたビームダガーを擲つ。

 奴はヒートサーベルで切り払うが、それは悪手だ。カシマ流の剣術モーションでは、奴はもう死に体だ。延び切った右手を切り裂き、ターンしながら両下肢を切断。転がって仰向けになったドムのコックピットにビームサーベルを突き付ける。

 「降参してくれ。勝負有りだ。」

 「分かった、降参だ。見ていたな!全軍武装を解除しろ!要らぬトラップ等を作ることは許さん!!直ちにニューヤーク市外に出て整列だ!」

 ニューヤーク基地から白旗を立てたザク、グフ及びドムが出て来た。その後ろから十台余りの4WD車が続く。

 ティアンム中将から通信が入った。

 「良くやってくれた、カジマ中尉。一時間後の1400時に此方の指令部へ来てくれ。今後の指令を伝える。」

 「了解です。」

 「あぁ、後この映像、恐らく地球圏全てに放映されるからそのつもりでいてくれ。インタビューを受けることになると思う。以上だ。」

 「え?ちょ?中将?」

 話しかけても既に通信は切れていた。フィリップの更なるバカ笑いと、マサキの笑い声が聞こえたような気がする・・・。どうしてこうなった・・・。思わず天を仰いでしまった。

 

 

 

 

 蒼い稲妻と青い巨星の決闘

 宇宙世紀始まって最初で最後と言われる、MSによる公式の一騎討ちの事である。一年戦争末期、ニューヤーク基地に立て籠るジオン公国北米方面軍殿軍にティアンム中将が呼び掛け、殿軍の将ランバ・ラル大尉が受けて立った事により成立する。

 無駄に、敵味方を含む将兵の命を落とさせないための行為として、敵味方を含む市民から双方共に賞賛される事になる。

 当時、一騎討ちが行われた映像がその日の内に全宇宙に放映され、一大センセーションを巻き起こすことになった。その機動は圧巻の一言で、とても第1世代のMSが行う機動ではないと現代のパイロット達からも賞賛を受けている。

 また、ユウ・カジマ中尉(当時)が「蒼い稲妻」の異名で呼ばれる事となる決定的な事案でもある。

 

 カイ・シデン著 宇宙世紀100年史より抜粋

 

 

 

 

 

 




 隠れた副題は、「アオ」を継ぐ者若しくは、ユウ・カジマの苦悩です。
 この世界線では、ガルマ・ザビの国葬映像ではなく、この映像(ティアンムの呼び掛けを含む)が全世界に流れることに為りました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。