機動戦士ガンダム 白と黒のエース<完結> 作:水冷山賊1250F
サイド3ズムシティ 総統府執務室
ギレン・ザビ
昼食を食べていると、秘書が慌てて部屋に飛び込んで来た。
「閣下!大変です!電波がジャックされました!これを御覧ください!」
凄く興奮している。落ち着け。秘書がテレビの電源を入れたところ、ティアンムがマイクで呼び掛けていた。
「落ち着け。こんな放送が何だと言うんだ?どうせ、パフォーマンスだろ?気にするな。」
「これは2回目の放送です。」
「何?では、ランバ・ラルは?」
「ランバ・ラル大尉を含む、北米方面軍殿軍全ての将兵は、敵軍の捕虜と成っています。例の蒼鬼と一騎討ちで敗れました。」
「そうか。」
ガルマを逃がすために殿軍を引き受けたとは聞いていたが。宇宙世紀のこの時代に一騎討ち・・・何の冗談だ。良く思い付いたな。レビルの入れ知恵か?年寄りの考える事は分からん。
「市民の反応はどうだ?」
「双方共に賞賛されているようですよ?しかもティアンムは、撤退する北米方面軍本隊を追撃すること無く、殿軍のみに対し対応したとして、公国民からも支持を受けてます。」
何と言うことだ。このままでは、戦意が低下してしまう。連邦には、汚い組織として有り続けて貰わねば成らんと言うのに。しかも、止めを刺さず投降を呼び掛けるとは!死んでくれれば、それを復讐の名分に出来たものを!
「午後からは、ドズル及びキシリアと秘匿回線で会議を行う。双方に連絡を入れてくれ。」
頭が痛い展開に成ってきた。
ソロモン近海宙域 ザンジバルブリッジ
ガルマ・ザビ
ソロモンへ進路を取り、移動中の事であった。連邦軍の放送が全チャンネルをジャックし、ながれだしたのだ。
「大佐、大変です!どのチャンネルも連邦にジャックされました!」
「あぁ、見ている。クランプ中尉、ハモン殿を呼び出せ。ラル大尉の事が分かるかも知れない。辛い現実にならない事を祈るが。」
「はっ!」
直ぐにハモン殿が呼び出された。
「大佐、いったい何が・・・」
そこには、メインスクリーンに、北米方面軍殿軍に対しなにかを言おうとしている敵将ティアンムの姿があった。そこから先は、歴史的一大イベントの始まりであった。両者共に余りにも高潔かつ時代がかった台詞のやり取り。蒼鬼との一騎討ちまで手に汗を握り、見入ってしまった。蒼鬼め、まるでサムライのような印象を与えている。
不意にハモン殿を見れば、涙を流しメインモニターを見つめていた。
「良かったですな、ハモン殿。ラル大尉は多くの将兵と共に生き残りましたぞ。」
優しくそう言葉を掛けると、えぇ、えぇ、と繰り返しこちらに体ごと向き直る。
「生き恥を晒す事になってしまいましたが、何とぞご容赦を。」
「何を言われる。彼の決断のお蔭で、多くの将兵の命が助かったのです。確かに一騎討ちには敗れました。しかし、それは些細な事ですよ。ジオン将兵の意地と心意気は示してくれました。今は命有ることを悦び、両者を称えましょう。」
「はい。」
ドズル兄上にも一言言っておかなくちゃ。ラル大尉は、死を覚悟して殿軍を務めた事を。
宇宙世紀というこの時代に、あのような素晴らしい一騎討ちを見ることが出来、少し興奮していた。もちろん、ティアンムが政治的な駆け引きの上でこのような事を仕掛けたのは分かっていた。しかし、思ってしまうのだ。このような人物が、連邦政府におり、連邦軍が今のように無能と思われる者を排除出来ていれば、このような戦争は起こらなかったのではないかと。
今更、仕方ない事を想像しため息を吐くガルマだった。
宇宙要塞ソロモン 司令官執務室
ドズル・ザビ
モニターに突然、ニューヤーク市街を取り囲む連邦軍の様子が映し出された。ガルマは大丈夫なのかと心配していると、数隻のザンジバルがロケットブースターを取り付け離脱していく様子が映る。ラル大尉の事だ、無事ガルマを逃がしてくれたのだなと安堵していた所、モニター一杯にティアンム中将が映し出された。
やはりティアンムであったかと苦々しく思いモニターを睨み付けていると、おもむろにマイクを握って語り出した。
そこからは、武人に相応しい言葉の応酬があり、見事な一騎討ちが繰り広げられた。ラル大尉が殿軍の将であったか。あの汚い作戦にただ一人胸を張り異を唱え、軍を抜けていった漢。あの男だからこそ、このような戦いが相応しい。連邦軍は、ニューヤークを殲滅し、逃げるガルマを追撃することも出来たのだ。敢えてガルマを逃がし、敵味方の将兵を一人も殺すこと無くニューヤークを奪還して見せた。
この戦いは歴史になる。そして、その中心人物は、気高い志を持った男達。悔しくて涙が出てくる。あの男を共犯者にしようとしていた己の浅慮さに腹が立つ。俺はもう、あの場所に立つことは叶わないだろう。しかし、ミネバのためにもこの命無駄にするわけにはいかん。俺に出来ることは、何としてもジオンに勝利をもたらし、スペースノイドの自治独立を勝ち取ることだ。そうでなければ、殺してしまった奴等に申し訳が立たん。
新たな決意を胸に、モニターを睨み付けるドズルだった。
ジオン軍ラゴス補給基地 マッドアングラー指揮所
シャア・アズナブル
ベルファスト基地をズゴックを含む4機のMSで攻めさせたが、まったく歯が立たず例の木馬はどこかへ飛んで行ってしまった。ただ一つ分かった事は、奴等は基地に寄港しても、まったく油断していないという事だった。
夜間の強襲にも関わらず、奴等はフル装備で出て来た。参った。一目散に逃げ去り、報告する。これ以上の威力偵察は、無意味であると。生半可な戦力では、瞬く内に墜とされてしまう事を事細かに説明した。
現在、ラゴスでズゴック等のMS及びパイロットを補充し、出航待ちであった。
突然モニターに映し出されたニューヤークの映像。そこから始まった、一連の一大イベント。そうか、ガルマはこのイベントの端役にしかなれなかったのだな。北米を遺憾無く治めた、侵略軍の悲劇の司令官は初めから相手にされて居なかった。わざと逃がしてやり、この一大イベントから外された。主役はティアンム中将とブリティッシュ作戦に反対し軍を逐われた信念の勇将、青い巨星ランバ・ラル大尉。それと、蒼鬼ユウ・カジマ中尉か。
役者が違ったなお坊ちゃん。奴の事だ、あの場に立てなかった事に、何とも思っていないのだろうな。
しかし、これでこの任務の重要度が増してきた。ラゴス基地に寄港して直ぐに変更された任務。
土竜の巣捜索。また、骨の折れそうな任務だ。宇宙世紀の一大イベントを見ながらため息が出た。
今回はジオン側からの視点です。名台詞「坊やだからさ。」は無くなりました。ガンダムファンとしてはモヤモヤした思いもありますが、これで良いのかなと思ってます。